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文化祭
文化祭1
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学院の紅葉が色ずく頃、院内は慌ただしく多数の生徒達が遅くまで残っていた。
学院祭だ。
各クラスや部活で準備に慌ただしいらしい。
学院祭にはダンスパーティーも行われるという。
乙は、合宿のパーティーを思い出さずにはいられなかった。
あの日から続いた微かな甘い夢…
幸せだった。
それが自分を見ていなくとも、瀾の瞳が時間が自分に与えられていたことが…。
教室の壁にもたれ空を見上げているとき神流が声をかける。
「乙♪学院祭だぞ!!
去年は上手く逃げられたけど今年こそ付き合ってもらうからな!!」
「何を…」
「演劇だよ!!」
「…断」
「ダメだ!!
拒否は認めないからな!!
台本も出来てるんだからな!!」
「……」
間髪いれず神流に押しきられ、乙が言葉を失っていると演劇部の生徒達が教室を訪ねてきた。
「神流お姉様、乙お姉様捕まりましたか?」
「バッチリ♪」
ニッコリ微笑みながらジロリとほくそ笑む神流に乙は嫌な予感が走った。
「神流…お前なにで買収されさんだ?」
「買収なんて人聞きが悪いな」
「何もなく神流が動くとは考えにくい」
「何の話かな?」
ニッコリと笑う神流の顔は更に怪しさを誘う。
学院祭も間近になってくる頃、神流に押しきられ、半ば無理矢理演劇に参加することになった乙。
今日は、衣装の寸法を図るため演劇部の部室にやって来た。
部室に入るとメジャーを手に持った縫製係の女生徒が待ち構えていた。
「乙お姉様、それでは早速脱いで下さい!」
「……」
何故だろうか…
気のせいか、この部室の室温が高い気がする。
乙は、少し躊躇いながら口を開いた。
「…脱ぐのは構わないんだが」
「どうかされましたか?」
「……、ここにいる全員が衣装係なのか?」
「はい!!勿論です」
室温が高いはずだ。
部室には、明らかに違うであろう生徒が混ざっている。
体のサイズを計るのにここまでの人数がいるだろうか?
乙は、少し溜め息をつくとジャケットを脱ぐ。
たった一枚脱いだだけで、たちまち女生徒達のざわめきが起きる。
「……」
「さぁ!お姉様、そのワイシャツも脱いで下さい!!」
メジャーを持った生徒の呼吸が心無しか荒い気がする。
ズズイと迫る生徒に乙は、若干の躊躇いすら覚えた。
外野は乙が、ネクタイを緩めただけでも大騒ぎする始末。
その様子に小さなため息をついたが、それに動じるわけでもなくYシャツのボタンを外し、その肌を露わにした。
外見には似合わず意外にも大きな胸が姿を表すと、たちまち悲鳴が上がる。
採寸係の一人が顔を赤面し、覆いながら上ずった声で聞いた。
「おおおおお姉さま!!
ブ、ブラはしていらっしゃらないのですか!?」
「……していない」
「いいいい、いつからです!!」
「いつもだ」
「ぶっ……!!」
突然、その女生徒は反対を向き何やらうめいている。
しばらくするとハンカチで顔を抑え、鼻声交じりに質問を投げる。
「い・・いづも・・ぞんなけじがらん格好を・・じでらっじゃるんでずか・・」
「……けしからん?」
きょとんとしていると女生徒は、ハンカチを握りしめ、思い切り振り向いた。
「お姉さまのワイシャツの中は、いつもそのように美味しそうな!!
いえ、もとい、大胆な恰好をなさっているのですか!!」
「普段はタンクトップを着ているが、今日は体育の授業で汗をかいて、気持ち悪かったから脱いでいただけだ」
「……ぞ、ぞうずですか……」
「…そんなことより……鼻血が出ているようだが大丈夫か?」
それを見て神流は大爆笑している。
「あはははは!!!良かったな、メイ!
乙の生で見れて、はははは!あ~お腹痛い!」
「ど…どりあえず…さいずんを……」
メイと呼ばれる女生徒は、ひたすら何かのスケッチをし、他の数名がありとあらゆるサイズを測っていく。
すべてを測り終わると乙は、神流に向け口を開いた。
「おい、神流!
言っとくが俺は、劇に出るなんて承諾したわけじゃない」
「知ってるよ?劇に出るのは私だ♪」
「……は?なら何で俺を連れてきたんだ?」
「いやぁ、腐女子の方々に頼まれちゃってさ♪」
「……婦女子?」
どうやら乙は腐女子の意味が分かっていないらしい。
神流は、ここぞとばかりにそれを見逃さない。
「そう!!腐女子!!
ジェンダーレスの乙のことをもっと理解したいと頼まれたのさ!!」
「……まぁ、ならいいけど…」
上手く誤魔化した神流と買収した創作同好会の女生徒たちが、その裏でガッツポーズをしたことは乙にバレることはなかった。
その後、乙と誰かしらと良からぬことをするという薄い本的なものが、同好会の部員達の手で作られ、学園の裏側で密かに出回ったのは言うまでもない。
学院祭だ。
各クラスや部活で準備に慌ただしいらしい。
学院祭にはダンスパーティーも行われるという。
乙は、合宿のパーティーを思い出さずにはいられなかった。
あの日から続いた微かな甘い夢…
幸せだった。
それが自分を見ていなくとも、瀾の瞳が時間が自分に与えられていたことが…。
教室の壁にもたれ空を見上げているとき神流が声をかける。
「乙♪学院祭だぞ!!
去年は上手く逃げられたけど今年こそ付き合ってもらうからな!!」
「何を…」
「演劇だよ!!」
「…断」
「ダメだ!!
拒否は認めないからな!!
台本も出来てるんだからな!!」
「……」
間髪いれず神流に押しきられ、乙が言葉を失っていると演劇部の生徒達が教室を訪ねてきた。
「神流お姉様、乙お姉様捕まりましたか?」
「バッチリ♪」
ニッコリ微笑みながらジロリとほくそ笑む神流に乙は嫌な予感が走った。
「神流…お前なにで買収されさんだ?」
「買収なんて人聞きが悪いな」
「何もなく神流が動くとは考えにくい」
「何の話かな?」
ニッコリと笑う神流の顔は更に怪しさを誘う。
学院祭も間近になってくる頃、神流に押しきられ、半ば無理矢理演劇に参加することになった乙。
今日は、衣装の寸法を図るため演劇部の部室にやって来た。
部室に入るとメジャーを手に持った縫製係の女生徒が待ち構えていた。
「乙お姉様、それでは早速脱いで下さい!」
「……」
何故だろうか…
気のせいか、この部室の室温が高い気がする。
乙は、少し躊躇いながら口を開いた。
「…脱ぐのは構わないんだが」
「どうかされましたか?」
「……、ここにいる全員が衣装係なのか?」
「はい!!勿論です」
室温が高いはずだ。
部室には、明らかに違うであろう生徒が混ざっている。
体のサイズを計るのにここまでの人数がいるだろうか?
乙は、少し溜め息をつくとジャケットを脱ぐ。
たった一枚脱いだだけで、たちまち女生徒達のざわめきが起きる。
「……」
「さぁ!お姉様、そのワイシャツも脱いで下さい!!」
メジャーを持った生徒の呼吸が心無しか荒い気がする。
ズズイと迫る生徒に乙は、若干の躊躇いすら覚えた。
外野は乙が、ネクタイを緩めただけでも大騒ぎする始末。
その様子に小さなため息をついたが、それに動じるわけでもなくYシャツのボタンを外し、その肌を露わにした。
外見には似合わず意外にも大きな胸が姿を表すと、たちまち悲鳴が上がる。
採寸係の一人が顔を赤面し、覆いながら上ずった声で聞いた。
「おおおおお姉さま!!
ブ、ブラはしていらっしゃらないのですか!?」
「……していない」
「いいいい、いつからです!!」
「いつもだ」
「ぶっ……!!」
突然、その女生徒は反対を向き何やらうめいている。
しばらくするとハンカチで顔を抑え、鼻声交じりに質問を投げる。
「い・・いづも・・ぞんなけじがらん格好を・・じでらっじゃるんでずか・・」
「……けしからん?」
きょとんとしていると女生徒は、ハンカチを握りしめ、思い切り振り向いた。
「お姉さまのワイシャツの中は、いつもそのように美味しそうな!!
いえ、もとい、大胆な恰好をなさっているのですか!!」
「普段はタンクトップを着ているが、今日は体育の授業で汗をかいて、気持ち悪かったから脱いでいただけだ」
「……ぞ、ぞうずですか……」
「…そんなことより……鼻血が出ているようだが大丈夫か?」
それを見て神流は大爆笑している。
「あはははは!!!良かったな、メイ!
乙の生で見れて、はははは!あ~お腹痛い!」
「ど…どりあえず…さいずんを……」
メイと呼ばれる女生徒は、ひたすら何かのスケッチをし、他の数名がありとあらゆるサイズを測っていく。
すべてを測り終わると乙は、神流に向け口を開いた。
「おい、神流!
言っとくが俺は、劇に出るなんて承諾したわけじゃない」
「知ってるよ?劇に出るのは私だ♪」
「……は?なら何で俺を連れてきたんだ?」
「いやぁ、腐女子の方々に頼まれちゃってさ♪」
「……婦女子?」
どうやら乙は腐女子の意味が分かっていないらしい。
神流は、ここぞとばかりにそれを見逃さない。
「そう!!腐女子!!
ジェンダーレスの乙のことをもっと理解したいと頼まれたのさ!!」
「……まぁ、ならいいけど…」
上手く誤魔化した神流と買収した創作同好会の女生徒たちが、その裏でガッツポーズをしたことは乙にバレることはなかった。
その後、乙と誰かしらと良からぬことをするという薄い本的なものが、同好会の部員達の手で作られ、学園の裏側で密かに出回ったのは言うまでもない。
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