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アザレア
アザレア6
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学院主催の合宿旅行も終わり翌日、そろそろ冷たい風が色を変えはじめる。
授業が終わり、乙は教室から出ると鞄を左手に持ったまま肩にかけ廊下を歩き始めた。
途端に一人の声が此方に向けられた。
「き…乙!!」
そちらを見たがそれは他人を見る時と変わらない、いつものクールな面持ちだった。
「あの…会いに来ても良いって…だから…あの、一緒に…帰ろう」
「!!…輝李?」
おずおずと遠慮がちに女生徒が話しかけると乙は一瞬目を見開き、聞き覚えのある声に初めてそれが輝李だと認識した。
今までの輝李はストレートなショートにパンツスタイルの制服を着ていた。
しかし今、目の前に飛び込んできたのは、スラリと伸びたスマートな脚線にスカートの制服、ストレートでフワリと靡く長い髪…。
鞄を両手で前に持ち、俯き加減に微かな上目遣い。
仮にも双子の妹である輝李に乙が気づかなかったのはそのためだ。
驚きの隠せない乙の表情に輝李が少し恥ずかしそうに訪ねた。
「やっぱり似合わない…かな?」
「いや…別に…」
乙が少し目を反らすと輝李は、また少し俯いた。
「か、帰るんだろ?」
乙が少し不器用に言うと輝李は顔を上げて、やっと嬉しそうに一、 二歩駆け寄ってきた。
「うん!!」
帰り際、特に会話もなく輝李の変わりようにチラチラと見ると輝李も同じだったらしく目が合う。
途端に乙は目をそらすと輝李は少し俯きながら口を開いた。
「やっぱり変…だよね」
「…そんな事ない、ただ…」
「ただ?」
輝李が不安そうに小首をかしげると乙は少し照れながら口をついた。
「長い髪の輝李は、子供の頃以来だなと思っただけで…」
「約束…したから…」
「え?」
「長い髪…好きでしょ?
乙が切るなって言ったのに〔私〕切っちゃったし…」
「…あんな約束、まだ覚えてたのか?」
「…うん、迷惑だった?」
「別に…」
乙が目をそらすと輝李は少し俯いて、乙のブレザーの裾をちょこんと掴み、小さな上目遣いに口を開いた。
「手…繋ぎたい…」
「な、何言ってんだよ。
姉妹なのに手なんか繋いだら変に思われるだろ」
「…そうだね…」
輝李が俯きシュンとすると、暫くして乙の手が差し出された。
「…ほら」
乙は少し照れながら目をそらし、手を差し出すと、輝李の顔はパァと明るくなり嬉しさのあまり乙の腕にしがみつく。
「お、おい!!
誰が腕を組めと言ったんだよ!」
「ダメとも言ってないもん♪」
「……」
一瞬慌てた乙だったが、輝李の笑顔はそれを否定させなかった。
こんな笑顔すら何年ぶりだったからだった。
『そう言えば、コイツの笑顔はこんな顔だったな…』
この日から輝李が自分の寮にいることは少なくなった。
それは勿論、瀾がいるマンションではなく、寮の乙の部屋に行っているからだ。
学院の寮には当然、消灯の見回りがある。
しかし、学院に多額の寄付をしている輝李にとって消灯の時間に乙の部屋にいる事についての処罰は暗黙の了解とでも言うように何もおとがめはない。
「おい、輝李…
いくら母さんの代から学院に多額の寄付しているからって俺の部屋に入り浸っていていいのか?」
「だって、何も言われないし」
「それはそうかもしれないが…」
「…それとも、やっぱりずっと居たら乙は迷惑?」
「そういう意味じゃない」
「うん…」
あれから輝李は、やはり乙の一言に過敏に反応をする。
しかし、乙はその度に輝李にクールながらもフォローを入れる。
輝李の容姿が変わってから1週間もしない内に学院内では、
《乙と共にいる謎の美女と合宿旅行帰宅直後の輝李の失踪》という噂は、たちまち広まった。
あれから毎日のように輝李は乙の教室の前まで迎えに来て、一緒に登下校をしている。
瀾とはたまに廊下ですれ違う事があったが、その度に乙は瀾から軽蔑と威嚇の視線を浴びる。
授業が終わり、乙は教室から出ると鞄を左手に持ったまま肩にかけ廊下を歩き始めた。
途端に一人の声が此方に向けられた。
「き…乙!!」
そちらを見たがそれは他人を見る時と変わらない、いつものクールな面持ちだった。
「あの…会いに来ても良いって…だから…あの、一緒に…帰ろう」
「!!…輝李?」
おずおずと遠慮がちに女生徒が話しかけると乙は一瞬目を見開き、聞き覚えのある声に初めてそれが輝李だと認識した。
今までの輝李はストレートなショートにパンツスタイルの制服を着ていた。
しかし今、目の前に飛び込んできたのは、スラリと伸びたスマートな脚線にスカートの制服、ストレートでフワリと靡く長い髪…。
鞄を両手で前に持ち、俯き加減に微かな上目遣い。
仮にも双子の妹である輝李に乙が気づかなかったのはそのためだ。
驚きの隠せない乙の表情に輝李が少し恥ずかしそうに訪ねた。
「やっぱり似合わない…かな?」
「いや…別に…」
乙が少し目を反らすと輝李は、また少し俯いた。
「か、帰るんだろ?」
乙が少し不器用に言うと輝李は顔を上げて、やっと嬉しそうに一、 二歩駆け寄ってきた。
「うん!!」
帰り際、特に会話もなく輝李の変わりようにチラチラと見ると輝李も同じだったらしく目が合う。
途端に乙は目をそらすと輝李は少し俯きながら口を開いた。
「やっぱり変…だよね」
「…そんな事ない、ただ…」
「ただ?」
輝李が不安そうに小首をかしげると乙は少し照れながら口をついた。
「長い髪の輝李は、子供の頃以来だなと思っただけで…」
「約束…したから…」
「え?」
「長い髪…好きでしょ?
乙が切るなって言ったのに〔私〕切っちゃったし…」
「…あんな約束、まだ覚えてたのか?」
「…うん、迷惑だった?」
「別に…」
乙が目をそらすと輝李は少し俯いて、乙のブレザーの裾をちょこんと掴み、小さな上目遣いに口を開いた。
「手…繋ぎたい…」
「な、何言ってんだよ。
姉妹なのに手なんか繋いだら変に思われるだろ」
「…そうだね…」
輝李が俯きシュンとすると、暫くして乙の手が差し出された。
「…ほら」
乙は少し照れながら目をそらし、手を差し出すと、輝李の顔はパァと明るくなり嬉しさのあまり乙の腕にしがみつく。
「お、おい!!
誰が腕を組めと言ったんだよ!」
「ダメとも言ってないもん♪」
「……」
一瞬慌てた乙だったが、輝李の笑顔はそれを否定させなかった。
こんな笑顔すら何年ぶりだったからだった。
『そう言えば、コイツの笑顔はこんな顔だったな…』
この日から輝李が自分の寮にいることは少なくなった。
それは勿論、瀾がいるマンションではなく、寮の乙の部屋に行っているからだ。
学院の寮には当然、消灯の見回りがある。
しかし、学院に多額の寄付をしている輝李にとって消灯の時間に乙の部屋にいる事についての処罰は暗黙の了解とでも言うように何もおとがめはない。
「おい、輝李…
いくら母さんの代から学院に多額の寄付しているからって俺の部屋に入り浸っていていいのか?」
「だって、何も言われないし」
「それはそうかもしれないが…」
「…それとも、やっぱりずっと居たら乙は迷惑?」
「そういう意味じゃない」
「うん…」
あれから輝李は、やはり乙の一言に過敏に反応をする。
しかし、乙はその度に輝李にクールながらもフォローを入れる。
輝李の容姿が変わってから1週間もしない内に学院内では、
《乙と共にいる謎の美女と合宿旅行帰宅直後の輝李の失踪》という噂は、たちまち広まった。
あれから毎日のように輝李は乙の教室の前まで迎えに来て、一緒に登下校をしている。
瀾とはたまに廊下ですれ違う事があったが、その度に乙は瀾から軽蔑と威嚇の視線を浴びる。
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