【R18】アールグレイの昼下がり ー双子の姉・乙編ー

Silence

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アザレア

アザレア5

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部屋での朝食が終わり、乙がソファーで紅茶を飲んでいると、輝李がおずおずとソファーに近付いてきた。

「と、隣…座ってもいい?」
「…ああ」

乙の許可を得てソファーに座ったものの、輝李は俯いたままだ。
不意に乙が、目をそらしたまま口を開く。

「…そこの雑誌取ってくれよ」
「あ…ぅん…」

輝李は目の前の雑誌を取ると乙に手渡そうとしたが、その手は微かに震えていた。
乙は紅茶を置き、横目でチラリと見ると輝李ごと抱き寄せた。

「わっ!!!き、乙?」
「…そのまま持ってろよ。
片手しか使えないから」
「う、うん…」

輝李を抱き寄せたまま、紅茶を口して輝李越しに雑誌を眺める。
しばらくして輝李が、ぎこちなく乙に質問を投げた。

「き…乙、こういうファッション誌読むんだ…」
「…ああ。輝李はどんなの読むんだ?」
「ぼ、僕は雑貨…とか…」
「ふぅん…」

しばらくすると、またしても気まずい沈黙が流れる。
無口な乙が口を開くわけもなく、輝李がまた、ぎこちなく気まずいながらも口を開いた。

「こ、これ!!乙に似合いそうだね」
「……」


振り向いた輝李を乙が無言で見つめると、また俯いた。


「…ごめん、こんなの…
着ないよね…ごめんね…」
 「…輝李がそう言うなら」

乙は輝李の言葉に不器用なりにも、そう答えたのだった。 


雑誌を読んでいる間、特に会話があるわけでもなく読み終わった後も二人の体制は変わらなかった。
そんな時、輝李がポツリと寂しそうに口をついた。

「明日には、この旅行も終わっちゃうんだね…」
「…1週間だしな」
「また…離れちゃうね…
クラスも違うし…
でも乙にとっては、その方が良いのか」
「………。…会いに来ればいいだろ」
「え?」


意外な言葉に輝李は思わず、乙の方に振り向いた。


「聞こえなかったのか?」
「ぼ、僕…乙に会いに…行っても…いいの?」
「誰が会いに来ちゃいけないなんて決めたんだよ
俺は、そんなことを言った覚えはない」

その言葉に輝李の瞳には涙がたまっていく。
乙は、輝李の頭を自分に引き寄せその精一杯を伝えた。

「傍に居たきゃ居ればいい…」
「本当に?乙、迷惑じゃない?」
「…ああ、迷惑なら自分から言ったりしない」
「昔みたいに傍に居たいって言っても…ウッ…迷惑じゃない?」
「…ああ」
「…ありが…ヒック…とう…」

その日、輝李は乙の胸の中で静かになき続けた。

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