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陰陽の鏡
陰陽の鏡9
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合宿から4日目の朝、その変化は現実となった。
乙が纏めていたノートを顔を洗って戻ってきた瀾に渡すと、最初は驚いて躊躇いぎみに受け取り中身をパラパラと見ていたが、その解りやすい予習と復習の説明と公式の使い方…
瀾が疑問に思うでだろう困惑のワンポイントに至るまできちんと書かれており、これから学ぶ所まで纏められていた。
そしてそのノートは全教科揃っていたのだ。
興奮ぎみに喜ぶ瀾の笑顔は、今の乙にとって最高の贈り物だった。
少しでも予習がしたいとノートに食い入る瀾の要望に乙は、先に食堂で待つことを約束した。
「じゃあ、先に行ってるから根積める前に後で来いよ?
勉強なら朝食の後でも出来るんだからな」
「はい!パッと読んだら、すぐに行きますから」
「OK、じゃあ食堂でな」
「はい!ありがとうございます」
瀾が笑顔で答えると、乙の表情も思わず柔らかくなる。
乙が食堂に向かい空いているテーブル席に座り、紅茶を飲みながら書物を読んでいる時だった。
「お姉様、おはようございます♪」
その明るく屈託のない聞き覚えのある声に顔をあげた。
「…早希、おはよう」
乙の座る席に立ち、参考書を抱きしめニッコリと笑う少女は、乙に常に付きまとい学院裏で拒みのキスをされたにも関わらず、未だに根負けしない後輩の谷川 早希だった。
「どうしたんだ?」
「今日はお一人なんですか?」
「いや、先に来ただけだが…」
乙の答えに早希は、少し上目遣いに口を開いた。
「なんだ、つまんないの。
折角、お姉様とお食事出来ると思ったのに…」
「悪いな」
「じゃあ、一つだけお願い聞いてくれませんか?」
「お願い?」
「はい、お姉様にお勉強教えてほしいんです」
「…ランクインしたんだから必要ないだろ?
…それに…」
そこまで言うと乙は、瀾の事を考えながら言葉を濁した。
すると、すかさず早希はテーブルに手を付き乙に詰め寄った。
「少しの間でいいんです!!
せめて、あの子が来るまで!!
どうしても解らない所があるんです!!」
そんな早希に乙は、微かな溜め息混じりに了承した。
瀾が来るまでの微かな間という約束で半ば強引に乙の了承を獲ると早希は、いそいそと乙の隣に座り嬉しそうに笑った。
本当は解らない所などなかった。
口実が欲しかっただけなのだ。
しかし、乙の教える勉強は思いの外、解りやすかった。
そして、間近にある乙の横顔につい見とれてしまう。
「聞いてるか?」
「は、はい!聞いてますよぉ」
冷や汗混じりに早希が答えると、乙は早希の先に視線を向け、一瞬表情を変えた。
「お姉様?」
早希の声にパタリと参考書を閉じると、乙が口を開く。
「今日はここまでだ」
「ええ!!どうしてですかぁ?」
「…約束しただろ」
「え?」
その言葉に小首を傾げたが、何気なく後ろを振り向くと、そこには場違いそうな遠慮がちに瀾が立っていた。
「はぁい、解りましたぁ。
行きますよぉだ!
その代わり、いい子いい子してください♪」
またしても無茶な条件を告げる早希に溜め息をつくと、乙は少女の頭をポフポフと撫でた。
それに満足したのか、仕方なくも席を離れ乙に手を振り、その場を後にした。
瀾とすれ違い様に小さな言葉と、刺すような視線を捨てて…。
「ずっと来なきゃ良かったのに…」
去り際に吐き捨てられた早希の言葉に瀾は、思わず俯いた。
「野中?どうかしたか?」
気が付くとすぐ側だというのに、乙が瀾のもとまで来て心配そうに見つめていた。
「あ、いえ、何でもないんです」
「…そうか、もしかして部屋で食事をとった方が楽か?」
「いえ、そんな事ないんで…ッ」
そこまで言うと瀾は、急な頭痛が走り、こめかみに手を添えた。
「大丈夫か?野中、やっぱり部屋に戻ろう」
乙は、心配そうに瀾に付き添うと自室へと連れて行った。
その後、ルームサービスで朝食を取ったが、瀾の頭痛は良くなるどころか酷くなっていた。
乙は、瀾を連れ医務室に行くと、そこに居たのは白衣を纏った由佳がいた。
さすがにこれには乙も驚きを隠せなかった。
「由佳!!何で…」
乙の言葉に由佳は静かに答える。
「私は医療班に所属していましたから…
奥様のお側にいたのもそのためです。
どうかされましたか?」
「ああ、野中が…」
事情を話すと、瀾は暫くベッドで眠る事になった。
「野中、夕方になったら迎えに来るから…」
乙は傍にいることを望んだが、安静に眠るために、それは由佳に却下されてしまった。
乙が纏めていたノートを顔を洗って戻ってきた瀾に渡すと、最初は驚いて躊躇いぎみに受け取り中身をパラパラと見ていたが、その解りやすい予習と復習の説明と公式の使い方…
瀾が疑問に思うでだろう困惑のワンポイントに至るまできちんと書かれており、これから学ぶ所まで纏められていた。
そしてそのノートは全教科揃っていたのだ。
興奮ぎみに喜ぶ瀾の笑顔は、今の乙にとって最高の贈り物だった。
少しでも予習がしたいとノートに食い入る瀾の要望に乙は、先に食堂で待つことを約束した。
「じゃあ、先に行ってるから根積める前に後で来いよ?
勉強なら朝食の後でも出来るんだからな」
「はい!パッと読んだら、すぐに行きますから」
「OK、じゃあ食堂でな」
「はい!ありがとうございます」
瀾が笑顔で答えると、乙の表情も思わず柔らかくなる。
乙が食堂に向かい空いているテーブル席に座り、紅茶を飲みながら書物を読んでいる時だった。
「お姉様、おはようございます♪」
その明るく屈託のない聞き覚えのある声に顔をあげた。
「…早希、おはよう」
乙の座る席に立ち、参考書を抱きしめニッコリと笑う少女は、乙に常に付きまとい学院裏で拒みのキスをされたにも関わらず、未だに根負けしない後輩の谷川 早希だった。
「どうしたんだ?」
「今日はお一人なんですか?」
「いや、先に来ただけだが…」
乙の答えに早希は、少し上目遣いに口を開いた。
「なんだ、つまんないの。
折角、お姉様とお食事出来ると思ったのに…」
「悪いな」
「じゃあ、一つだけお願い聞いてくれませんか?」
「お願い?」
「はい、お姉様にお勉強教えてほしいんです」
「…ランクインしたんだから必要ないだろ?
…それに…」
そこまで言うと乙は、瀾の事を考えながら言葉を濁した。
すると、すかさず早希はテーブルに手を付き乙に詰め寄った。
「少しの間でいいんです!!
せめて、あの子が来るまで!!
どうしても解らない所があるんです!!」
そんな早希に乙は、微かな溜め息混じりに了承した。
瀾が来るまでの微かな間という約束で半ば強引に乙の了承を獲ると早希は、いそいそと乙の隣に座り嬉しそうに笑った。
本当は解らない所などなかった。
口実が欲しかっただけなのだ。
しかし、乙の教える勉強は思いの外、解りやすかった。
そして、間近にある乙の横顔につい見とれてしまう。
「聞いてるか?」
「は、はい!聞いてますよぉ」
冷や汗混じりに早希が答えると、乙は早希の先に視線を向け、一瞬表情を変えた。
「お姉様?」
早希の声にパタリと参考書を閉じると、乙が口を開く。
「今日はここまでだ」
「ええ!!どうしてですかぁ?」
「…約束しただろ」
「え?」
その言葉に小首を傾げたが、何気なく後ろを振り向くと、そこには場違いそうな遠慮がちに瀾が立っていた。
「はぁい、解りましたぁ。
行きますよぉだ!
その代わり、いい子いい子してください♪」
またしても無茶な条件を告げる早希に溜め息をつくと、乙は少女の頭をポフポフと撫でた。
それに満足したのか、仕方なくも席を離れ乙に手を振り、その場を後にした。
瀾とすれ違い様に小さな言葉と、刺すような視線を捨てて…。
「ずっと来なきゃ良かったのに…」
去り際に吐き捨てられた早希の言葉に瀾は、思わず俯いた。
「野中?どうかしたか?」
気が付くとすぐ側だというのに、乙が瀾のもとまで来て心配そうに見つめていた。
「あ、いえ、何でもないんです」
「…そうか、もしかして部屋で食事をとった方が楽か?」
「いえ、そんな事ないんで…ッ」
そこまで言うと瀾は、急な頭痛が走り、こめかみに手を添えた。
「大丈夫か?野中、やっぱり部屋に戻ろう」
乙は、心配そうに瀾に付き添うと自室へと連れて行った。
その後、ルームサービスで朝食を取ったが、瀾の頭痛は良くなるどころか酷くなっていた。
乙は、瀾を連れ医務室に行くと、そこに居たのは白衣を纏った由佳がいた。
さすがにこれには乙も驚きを隠せなかった。
「由佳!!何で…」
乙の言葉に由佳は静かに答える。
「私は医療班に所属していましたから…
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どうかされましたか?」
「ああ、野中が…」
事情を話すと、瀾は暫くベッドで眠る事になった。
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