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トリプルゲーム
トリプルゲーム2
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やがて瀾が落ち着きを取り戻すと、乙は静かにアプリコットを瀾に差し入れた。
「落ち着くぞ」
「…ありがとうございます。
これ、アプリコットティー…」
「ああ、野中に合うと思って選んだんだが、口に合わないか?」
「いえ…これ私の好きな味なので、なんで解ったのか不思議で」
「……。何となくだ」
乙は、それが瀾の好きな紅茶だと知っていた。
幾度となく瀾と共に交わした自宅でのティータイム…。
不意にあの時の瀾の笑顔が浮かぶと、乙は目を伏せた。
「…先輩?」
瀾の声にハッとすると、またクールな笑みを送った。
「…ん?どうした?」
「あ…いえ…」
「野中、少し聞いていいか?」
「はい、何でしょうか?」
「授業の事なんだが…」
その言葉に瀾はまた、微かに顔色を曇らせ答える。
「…はぃ…」
「成績表を見る限りでは、授業に着いていけていないのも、楽しくないのも解った」
「…すみません」
「いや、責めているわけじゃないんだ。
ただ、野中の今の環境を知らないと、俺も何処から教えたら良いか解らないから。
だから、怖がらずに正直に教えてくれないか?
さっき〔何処が解らないか〕と聞いた時に困惑していただろう。
野中、もしかして何が解らないかが解らないんじゃないのか?」
ずっと瀾の中でモヤモヤと渦巻いていた蟠りが、霧が晴れるように溶けていく。
考えた事もなかった。
ずっと理解力が足りないのだと、思っていた。
しかし、その根本的な所に問題があった事を。
乙の言葉に瀾は静かに頷いた。
「…やっぱりな」
パタリと教科書を閉じると、乙はその基礎を教える事から始める。
数時間たった頃、一生懸命に問題に向かうが困惑の色は瀾の顔から消えては居なかった。
「フゥ、野中…今日は終わりにしよう」
「…すみません…」
「いや、気にしなくていい」
罪悪感に俯くと乙の言葉が続いた。
「今日はダンスパーティーが有るだろう。
支度をしなければいけないし、詰め込みすぎも良くない。
それに正直言えば俺も勉強は、そんなに好きじゃないだ」
ニッコリと笑顔を向けると、乙の意外な言葉に瀾もつられて笑顔になった。
「さて…」
ソファーから立ち上がると、乙は続けた。
「野中は、何を着ていくんだ?」
「…え?」
考えても居なかった。
乙の言葉に、やっと着ていくものがない事に気が付く。
「わ、私…」
「もしかして、用意していないのか?」
「は、はい…」
乙は自分のウォークインクローゼットを開けたが、やはりドレス関係は置いては居なかった。
「困ったな…」
ふと、ひとこと零した時だった。
部屋にノックが響く。
ドアを開けると、由佳が立っていた。
「…由佳」
佐伯 由佳。
生前の母の専属メイドで乙達にとっては、姉のような存在だった。
しかし、前回会った由佳は、あの8-#__エイトアンダー__#[エイトアンダー]に出入りしている組織の人間だった。
由佳は家に居た時と変わらないメイドの顔をしていた。
「失礼致します。
こちらを野中様にと、輝李様からお預かり致しました」
「…そうか。おい、野中」
乙の声にドアに来ると、ドレス一式の箱達を受け取った。
「わぁ!!輝李さんが私に?」
嬉しそうな瀾の顔。
瀾がドレスの箱に目をとられている隙に、由佳はもう一つの箱を乙に渡した。
「乙様…これを」
「ッ!!」
それは、あのパーティーの日、乙が瀾にあげたジュエリーケースだった。
由佳の配慮に少し目を伏せると、由佳に言葉を返した。
「…由佳、彼女にドレスアップの手配をしてあげてくれないか…」
「かしこまりました」
静かに答えると、その由佳の瞳は幼い頃見た、あの姉のような眼差しだった。
「落ち着くぞ」
「…ありがとうございます。
これ、アプリコットティー…」
「ああ、野中に合うと思って選んだんだが、口に合わないか?」
「いえ…これ私の好きな味なので、なんで解ったのか不思議で」
「……。何となくだ」
乙は、それが瀾の好きな紅茶だと知っていた。
幾度となく瀾と共に交わした自宅でのティータイム…。
不意にあの時の瀾の笑顔が浮かぶと、乙は目を伏せた。
「…先輩?」
瀾の声にハッとすると、またクールな笑みを送った。
「…ん?どうした?」
「あ…いえ…」
「野中、少し聞いていいか?」
「はい、何でしょうか?」
「授業の事なんだが…」
その言葉に瀾はまた、微かに顔色を曇らせ答える。
「…はぃ…」
「成績表を見る限りでは、授業に着いていけていないのも、楽しくないのも解った」
「…すみません」
「いや、責めているわけじゃないんだ。
ただ、野中の今の環境を知らないと、俺も何処から教えたら良いか解らないから。
だから、怖がらずに正直に教えてくれないか?
さっき〔何処が解らないか〕と聞いた時に困惑していただろう。
野中、もしかして何が解らないかが解らないんじゃないのか?」
ずっと瀾の中でモヤモヤと渦巻いていた蟠りが、霧が晴れるように溶けていく。
考えた事もなかった。
ずっと理解力が足りないのだと、思っていた。
しかし、その根本的な所に問題があった事を。
乙の言葉に瀾は静かに頷いた。
「…やっぱりな」
パタリと教科書を閉じると、乙はその基礎を教える事から始める。
数時間たった頃、一生懸命に問題に向かうが困惑の色は瀾の顔から消えては居なかった。
「フゥ、野中…今日は終わりにしよう」
「…すみません…」
「いや、気にしなくていい」
罪悪感に俯くと乙の言葉が続いた。
「今日はダンスパーティーが有るだろう。
支度をしなければいけないし、詰め込みすぎも良くない。
それに正直言えば俺も勉強は、そんなに好きじゃないだ」
ニッコリと笑顔を向けると、乙の意外な言葉に瀾もつられて笑顔になった。
「さて…」
ソファーから立ち上がると、乙は続けた。
「野中は、何を着ていくんだ?」
「…え?」
考えても居なかった。
乙の言葉に、やっと着ていくものがない事に気が付く。
「わ、私…」
「もしかして、用意していないのか?」
「は、はい…」
乙は自分のウォークインクローゼットを開けたが、やはりドレス関係は置いては居なかった。
「困ったな…」
ふと、ひとこと零した時だった。
部屋にノックが響く。
ドアを開けると、由佳が立っていた。
「…由佳」
佐伯 由佳。
生前の母の専属メイドで乙達にとっては、姉のような存在だった。
しかし、前回会った由佳は、あの8-#__エイトアンダー__#[エイトアンダー]に出入りしている組織の人間だった。
由佳は家に居た時と変わらないメイドの顔をしていた。
「失礼致します。
こちらを野中様にと、輝李様からお預かり致しました」
「…そうか。おい、野中」
乙の声にドアに来ると、ドレス一式の箱達を受け取った。
「わぁ!!輝李さんが私に?」
嬉しそうな瀾の顔。
瀾がドレスの箱に目をとられている隙に、由佳はもう一つの箱を乙に渡した。
「乙様…これを」
「ッ!!」
それは、あのパーティーの日、乙が瀾にあげたジュエリーケースだった。
由佳の配慮に少し目を伏せると、由佳に言葉を返した。
「…由佳、彼女にドレスアップの手配をしてあげてくれないか…」
「かしこまりました」
静かに答えると、その由佳の瞳は幼い頃見た、あの姉のような眼差しだった。
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