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それぞれの想い
それぞれの想い2
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屋上のドアを静かに開けると案の定、乙がいた。
「フゥ…解りやすい奴」
静かに乙の横に近づくと口を開いた。
「授業さぼって何やってんだ?」
「!! 神流…。
お前こそ、こんな所に何か用なのか…?」
「天気が良いからさ、空を見に」
「そうか…」
顔色の曇っている乙を見れば、何かあった事くらいは一目瞭然だった。
「じゃあ…邪魔するといけないから俺はこれで…」
その場を立ち去ろうとする乙に、神流は呼び止めるように口を開いた。
「腫れてたぞ!!輝李ちゃん…」
「…ッ」
「乙なんだろ…?」
振り向いた乙の瞳は少し哀しげだった。
二人の見上げる空の雲はゆっくりと流れ、屋上には神流と乙の二人しか居なかった。
乙は、少し辛そうに顔を歪めると自分の手を見つめ、小さく口を開いた。
「…初めて、輝李に手をあげた…」
「…そっか」
「…理由を・・聞かないのか?」
「聞いてどうするんだよ。
聞いたって、答えないだろ?
それに…」
チラリと乙に視線を向けると、目を細め静かに神流は続けた。
「そうしなきゃいけない理由があったんだろう?」
「…ああ」
神流の眼差しは、同じタチ(俗に言う男役)の眼差しだった。
乙も、あのぶつかった時の輝李と同じ眼差しをしていた。
まるで今にも泣きそうな…。
辛く、深い何かを背負った眼だった。
重苦しい空気が流れる中、フゥと息を付くと空を見上げ、何かを吹っ切るようにわざと少し明るく神流が口を開く。
「フゥ。乙でも、そんな顔する時があるんだな」
「え?」
「いっつもムスッと仏頂面してるからさ」
「わ、悪かったな」
「クス…もっと笑ったらモテるぞ?」
そう言うと、乙の両頬をグニッと引っ張った。
「…ひゃめんか!!」
「はははは…」
「ったく、こんな事して何が楽しいんだ…」
頬を擦る乙に優しく微笑むと一言、神流は言葉にした。
「やっぱ、そっちの顔の方が似合ってるよ」
「…フッ。サンキュ、神流」
フッと乙が笑顔を見せる。
神流は、一瞬息をのんだ。
それは今まで、神流が見たことがない程の優しさに満ちた柔かい笑顔だったからだ。
神流は、すかさず口を開く。
「……。あ!!今、乙笑った!!
なぁ、もう一回!!」
「し、知らん!!」
また、いつもの表情でプイッっと外方を向く乙に神流は、微かに笑顔を見せた。
『こいつも、こんな風に笑う事が出来るんだな…』
その夜、乙はシャワーを浴びて、寮の部屋の窓際にたたずんでいた。
ふと、帰国する寸前に乙に放った、あの時のフォレストの言葉が胸を突いた。
(『アールグレイの月夜』参照)
〔「クッ!!自分が輝李を守るだなんて大層な事を言ったわりには、守られてるのはお前じゃないか!!」〕
「…ッ。守られているのは…俺…?」
月の光が乙の部屋の窓を照らし、その柔かなクリーム色は乙を通り抜け床に落ちる。
『あの時、輝李は何をしようとした?
ナイフを持って…』
〔「一つだけ…教えといてやるよ。
輝李は、 8-についたぜ…」〕
『8-《エイトアンダー》…』
スッと目を閉じ、悲しそうに目を開くと目を細め、その場を離れた。
「フゥ…解りやすい奴」
静かに乙の横に近づくと口を開いた。
「授業さぼって何やってんだ?」
「!! 神流…。
お前こそ、こんな所に何か用なのか…?」
「天気が良いからさ、空を見に」
「そうか…」
顔色の曇っている乙を見れば、何かあった事くらいは一目瞭然だった。
「じゃあ…邪魔するといけないから俺はこれで…」
その場を立ち去ろうとする乙に、神流は呼び止めるように口を開いた。
「腫れてたぞ!!輝李ちゃん…」
「…ッ」
「乙なんだろ…?」
振り向いた乙の瞳は少し哀しげだった。
二人の見上げる空の雲はゆっくりと流れ、屋上には神流と乙の二人しか居なかった。
乙は、少し辛そうに顔を歪めると自分の手を見つめ、小さく口を開いた。
「…初めて、輝李に手をあげた…」
「…そっか」
「…理由を・・聞かないのか?」
「聞いてどうするんだよ。
聞いたって、答えないだろ?
それに…」
チラリと乙に視線を向けると、目を細め静かに神流は続けた。
「そうしなきゃいけない理由があったんだろう?」
「…ああ」
神流の眼差しは、同じタチ(俗に言う男役)の眼差しだった。
乙も、あのぶつかった時の輝李と同じ眼差しをしていた。
まるで今にも泣きそうな…。
辛く、深い何かを背負った眼だった。
重苦しい空気が流れる中、フゥと息を付くと空を見上げ、何かを吹っ切るようにわざと少し明るく神流が口を開く。
「フゥ。乙でも、そんな顔する時があるんだな」
「え?」
「いっつもムスッと仏頂面してるからさ」
「わ、悪かったな」
「クス…もっと笑ったらモテるぞ?」
そう言うと、乙の両頬をグニッと引っ張った。
「…ひゃめんか!!」
「はははは…」
「ったく、こんな事して何が楽しいんだ…」
頬を擦る乙に優しく微笑むと一言、神流は言葉にした。
「やっぱ、そっちの顔の方が似合ってるよ」
「…フッ。サンキュ、神流」
フッと乙が笑顔を見せる。
神流は、一瞬息をのんだ。
それは今まで、神流が見たことがない程の優しさに満ちた柔かい笑顔だったからだ。
神流は、すかさず口を開く。
「……。あ!!今、乙笑った!!
なぁ、もう一回!!」
「し、知らん!!」
また、いつもの表情でプイッっと外方を向く乙に神流は、微かに笑顔を見せた。
『こいつも、こんな風に笑う事が出来るんだな…』
その夜、乙はシャワーを浴びて、寮の部屋の窓際にたたずんでいた。
ふと、帰国する寸前に乙に放った、あの時のフォレストの言葉が胸を突いた。
(『アールグレイの月夜』参照)
〔「クッ!!自分が輝李を守るだなんて大層な事を言ったわりには、守られてるのはお前じゃないか!!」〕
「…ッ。守られているのは…俺…?」
月の光が乙の部屋の窓を照らし、その柔かなクリーム色は乙を通り抜け床に落ちる。
『あの時、輝李は何をしようとした?
ナイフを持って…』
〔「一つだけ…教えといてやるよ。
輝李は、 8-についたぜ…」〕
『8-《エイトアンダー》…』
スッと目を閉じ、悲しそうに目を開くと目を細め、その場を離れた。
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