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黄昏の古時計

黄昏の古時計5

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次の日、きのとが寮の玄関を出ると門の横に少女がポツリと立っていた。
後輩の早希さきだ。
早希は、少し遠慮がちに挨拶をする。

「お姉様、お早うございます…」
「…・・・。何してるんだ、こんな所で」
「…あ、あの…、学院に一緒に行きたくって…。
ご、ご迷惑ですよね…
約束もないのに、こんな勝手に待たれてても…」

それは、いつもの早希ではなく、出会った頃の早希だった。
乙は小さなため息をつくと、乙は口を開く。

「…フゥ、好きにしろ」

その言葉を聞くと早希はハニカミながら答えた。

「…はい///」

並んで歩く二人は言葉をかわすでもなく淡々と歩いていた。
乙は、自分より遥かに小さい早希の歩幅に合わせて歩きながら静かに沈黙を破った。

「…珍しいな、お前が静かなんて」
「…///」
「今朝の事といい、何かの心境の変化か?」
「…そんな事ないです///」
「ふーん」

特に気にするでもなくきのとは素っ気なく答えた。
それから学院に着くまで、沈黙のまま二人は歩いていった。
学院の校門が近づくと早希さきは、遠慮がちに口を開いた。

「あの…お姉様…」
「…何だ」
「お姉様にとって私はどう写っているんでしょうか…」
「どういう意味だ?」
「…何で、あの時、助けてくれたのか知りたくて…。
皆、見てみぬふりで誰も助けてはくれなかったのに…。
何でかなって…」
「…別に、理由なんかない。
俺は、ああいうのが嫌いなだけだ」
「そう…ですか…」

学園に着くと、乙の取り巻きが早速待っている。
乙はスッと早希から離れようとした。

「じゃあな」

とっさに早希は、乙のブレザーの裾を掴んだ。
乙はチラリとクールに早希に視線を落とす。

「私、お姉様の傍にいちゃいけませんか!?
私、もっとお姉様の事、知りたいんです!!
お姉様の事…愛してるんです!!」

乙の中で、ある言葉が響いた。

《…乙の事を解ってくれる人が、いつか…きっと》

『…ッ!!』

目を伏せ、乙の眉間にシワが寄る。
乙は冷たく口を開いた。

「愛してる…だって?
…そんなに俺の事が好きか?
なら、来いよ!!教えてやるよ!!」

早希の手を引くと校舎裏へと引っ張っていった。

「あれは…乙?」

登校した輝李きりが見かけたのは、そのすぐ後だった。



校舎裏には小さな森に繋がっており、手を引いたまま、その大きな樹木の一本に早希さきを追い詰め、早希の顔もとで両手を付き静かに口を開いた。

「…で?俺の何が知りたいんだって?」
「あ…、お姉様…ン!!」

困惑する早希さきが言葉を言い終える前にきのとは、その唇を荒々しく塞いだ。
唇が離れると、早希は瞳をシットリと潤ませながら乙を見つめた。

「…これが俺だよ!!俺は、その場の気分で女を決める」
「わ、私…私!!お姉様のためなら、お姉様が望むなら!!
私…」

必死に訴え俯く早希に、乙は冷たい視線を送り言葉を吐いた。

「…震えてるぞ」
「──ッ!!!」

見透かされた事に俯いたまま、早希はハッと目を見開いた。

「俺は、遊べないタイプの人間とは付き合わない。
諦めるんだな、俺は早希が思ってるほど優しくもないし、純粋に本気にはなれない。
恋人なら他を当たってくれ。
じゃあな」
「お姉様!!」

早希さきの言葉にも振り返る事なく、きのとはその場を去った。
早希はストンと腰を落とし、両手で顔を覆うと泣き崩れた。

「…フン!!」

二人の死角の樹木の片隅に栗色のショートカットを風に揺らし輝李きりは一瞬目を伏せ、その場を後にした。



乙が教室に戻ると、沈黙したまま席につく。
するといつものように神流の声が響いた。

「何だ?今日はご機嫌ななめだな」
神流かんな…。別にそんなんじゃない」
「…そっか。なぁ、そういえばさ、レポートの課題きまったか?」
「いや、まだだ」
「なら、一緒にやらないか?」
「別に構わないが」
「良かった」

昨日のシリアスな場面など嘘のように、神流は楽しそうに明るく笑顔をみせた。


──そんな時、輝李きりの教室に一人の少女が向っていた。
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