44 / 166
距離感
距離感5
しおりを挟む
車の中から怪しげな黒服の男達、2・3人が降りてくる。
一人が静かに口を開いた。
「野中 瀾さんですね?」
「!!!」
ただならぬ雰囲気に身の危険を感じ、後退る。
一人が合図をすると、黒服の男達は一斉に瀾を押さえ付ける。
ガサ…ドスン!!
手に持っていた荷物が地面に落ち、買い物の中身が散乱している。
「いや!!離して!!だ、誰か!!」
「叫んでも無駄ですよ」
「!!」
ニヤリと薄気味悪く笑うと車に引きずり込もうとする。
抵抗しながらも周りを見渡すと、誰も通りがかる様子もない。
先程すれ違った女の子達は、いつのまにか遠くの方で楽しそうに話ながら、こちらには気が付く気配すらなかった。
「いやぁ!!きゃあぁ!!!」
「少し静かにして頂きましょうか」
黒服の男は胸ポケットから小さなシルバーのケースを開け、瀾は不意に口元にハンカチが押しあてられる。
「んんっ!!」
ツンと頭痛を誘う激臭に意識が段々と薄れる中、小さく助けを求めるように精一杯、言葉を口にする。
「…乙…さ・・ま…」
完全に意識がなくなると黒服の男は瀾を車に押し込め、携帯を発信した。
「完了致しました」
「……」
「かしこまりました。
直ちにそちらに運びます」
車は静かに発進し屋敷から遠ざかっていく。
「…っ、…み…」
微かに耳を擽るような小さな声とペチペチとさほど痛くない衝撃が頬に伝わる。
「…ぅ…ん…」
ゆっくりと薄らと目を明けると、目の前には背後の光に包まれた白いベースに小さな紺色のリボンが霞んで見える。
少しずつ視界が定まってくると、それが蝶ネクタイだということが解った。
そして、ここが車の中だということも。
「気が付いたか?」
静かな聞き覚えのある声。
顔を上げ、声の主の顔を瞳に入れる。
サラリと揺れる髪。
光に包まれて瀾を覗き込んでいたのは、紺色のタキシードを纏った乙だった。
「乙…様…?」
慌てて起き上がると、頭にズキンと痛みが走る。
まだクロロホルムの余韻が残っているのか、頭の中がクラクラと揺れる。
「…痛…」
頭を押さえると肌ではない感触が額をなでる。
ふと自分を見ると、綺麗なドレスを身にまとい、シルクの手袋をしている。
「これは!!」
「さ、行くぞ」
不意に乙は瀾の手を取る。
「あの!!乙様!!」
「何だ?そのドレスが気に入らなかったのか?
ならこっちを…」
何事もなかったように、当然のようにクールに静かに口を開くと他のドレスを手に取る。
「あ・あの…そういう事では…なくて…」
「何だ?他に何かあるのか?」
自分の今おかれている状況を全く理解できず、困惑しながら不安そうに質問を投げる。
「あの…ここは…?」
「伯父の社交界に招待を受けて、その会場だ。」
淡々と質問に答える乙。
瀾は俯きながら、さらに質問を投げた。
「…ど、どうして…私を…」
「シングルで行くと色々とうるさく面倒なんでな。
適当な相手も居なかったから俺の専属のSPに頼んで、お前を連れてきたまでだ。
まぁ…、連れてくる際に少し手荒に扱われたらしいが」
チラリと乙は運転手を見ると、あの時にいた黒服の男が顔を覗かせ静かに口を開く。
「申し訳ありません。
丁重に伺う予定でしたが、いたく抵抗されてしまいまして・・・
手段は選ばないと聞いておりましたので致し方なく…」
また瀾に視線を向けると、
「…だ、そうだ」
少し困ったように俯くと乙に向け口を開く。
「あの、でも…私…」
「心配するな。
何故、俺を避けてるのかは知らないが、俺といるのが嫌だろうが関係ない。
今夜は俺に付き合え。
お前は今日の俺にとってアクセサリーみたいなものだ。
黙って俺に付いてくれば良い」
アクセサリー…。
所詮、乙にとって自分はその程度なのか…。
一人が静かに口を開いた。
「野中 瀾さんですね?」
「!!!」
ただならぬ雰囲気に身の危険を感じ、後退る。
一人が合図をすると、黒服の男達は一斉に瀾を押さえ付ける。
ガサ…ドスン!!
手に持っていた荷物が地面に落ち、買い物の中身が散乱している。
「いや!!離して!!だ、誰か!!」
「叫んでも無駄ですよ」
「!!」
ニヤリと薄気味悪く笑うと車に引きずり込もうとする。
抵抗しながらも周りを見渡すと、誰も通りがかる様子もない。
先程すれ違った女の子達は、いつのまにか遠くの方で楽しそうに話ながら、こちらには気が付く気配すらなかった。
「いやぁ!!きゃあぁ!!!」
「少し静かにして頂きましょうか」
黒服の男は胸ポケットから小さなシルバーのケースを開け、瀾は不意に口元にハンカチが押しあてられる。
「んんっ!!」
ツンと頭痛を誘う激臭に意識が段々と薄れる中、小さく助けを求めるように精一杯、言葉を口にする。
「…乙…さ・・ま…」
完全に意識がなくなると黒服の男は瀾を車に押し込め、携帯を発信した。
「完了致しました」
「……」
「かしこまりました。
直ちにそちらに運びます」
車は静かに発進し屋敷から遠ざかっていく。
「…っ、…み…」
微かに耳を擽るような小さな声とペチペチとさほど痛くない衝撃が頬に伝わる。
「…ぅ…ん…」
ゆっくりと薄らと目を明けると、目の前には背後の光に包まれた白いベースに小さな紺色のリボンが霞んで見える。
少しずつ視界が定まってくると、それが蝶ネクタイだということが解った。
そして、ここが車の中だということも。
「気が付いたか?」
静かな聞き覚えのある声。
顔を上げ、声の主の顔を瞳に入れる。
サラリと揺れる髪。
光に包まれて瀾を覗き込んでいたのは、紺色のタキシードを纏った乙だった。
「乙…様…?」
慌てて起き上がると、頭にズキンと痛みが走る。
まだクロロホルムの余韻が残っているのか、頭の中がクラクラと揺れる。
「…痛…」
頭を押さえると肌ではない感触が額をなでる。
ふと自分を見ると、綺麗なドレスを身にまとい、シルクの手袋をしている。
「これは!!」
「さ、行くぞ」
不意に乙は瀾の手を取る。
「あの!!乙様!!」
「何だ?そのドレスが気に入らなかったのか?
ならこっちを…」
何事もなかったように、当然のようにクールに静かに口を開くと他のドレスを手に取る。
「あ・あの…そういう事では…なくて…」
「何だ?他に何かあるのか?」
自分の今おかれている状況を全く理解できず、困惑しながら不安そうに質問を投げる。
「あの…ここは…?」
「伯父の社交界に招待を受けて、その会場だ。」
淡々と質問に答える乙。
瀾は俯きながら、さらに質問を投げた。
「…ど、どうして…私を…」
「シングルで行くと色々とうるさく面倒なんでな。
適当な相手も居なかったから俺の専属のSPに頼んで、お前を連れてきたまでだ。
まぁ…、連れてくる際に少し手荒に扱われたらしいが」
チラリと乙は運転手を見ると、あの時にいた黒服の男が顔を覗かせ静かに口を開く。
「申し訳ありません。
丁重に伺う予定でしたが、いたく抵抗されてしまいまして・・・
手段は選ばないと聞いておりましたので致し方なく…」
また瀾に視線を向けると、
「…だ、そうだ」
少し困ったように俯くと乙に向け口を開く。
「あの、でも…私…」
「心配するな。
何故、俺を避けてるのかは知らないが、俺といるのが嫌だろうが関係ない。
今夜は俺に付き合え。
お前は今日の俺にとってアクセサリーみたいなものだ。
黙って俺に付いてくれば良い」
アクセサリー…。
所詮、乙にとって自分はその程度なのか…。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる