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五 呪縛
蜜約
しおりを挟む「高城さんがまさか引退するなんてね」
驚きだわと早苗は真柴にもらした。
「そうですね……、それで新しいトップが今日来るわけで、皆そわそわしてるんですよね……」
「残念そうね。高城さんの代わりはあなたじゃ厳しそうだから安心したでしょう?」
「いやぁ、魔王の代わりはさすがに」と真柴は頭をかいた。
「ハル坊、どこ行っちまったんだかな、全く」
「そのうち帰ってくるでしょう。あの子を捕まえておく方がかわいそうよ」
早苗はふふと笑みをこぼした。
「もうすぐじゃないですか? 新魔王のお出ましは」
川面が真柴に耳打ちすると、彼は皆に呼びかけて着席を促した。
バンッとドアにぶつかる音がして会議室が静まりかえった。
真柴が何だ? ともらして、ドアを開けると、反動で人が倒れ込んできた。
「あっ、大丈夫です……」
「か」と聞こうとして、眠そうな目と目が合って、真柴は眉をひそめてから、見開いた。
「東雲透捜査官!?」
「は、い。悠を探しにきました」
「すみませんが、どっかほっつき歩いて帰ってきてなくて……」
真柴は透に手を差し伸べて起こした。
「ついでに、高城さんから夜警を頼まれまして……」
「ええ!?」
早苗以外全員が驚きの声を上げた。彼女は眼鏡を押し上げて、目を見張っていた。
「ここに居れば必ず悠に会えるからって言われて来ました」
「ふっ、あはは。高城さん、おもしろいわ。そういうことね」
早苗はおかしそうに笑い出した。
「はぁー、なんじゃそりゃあぁ、高城さん、一体何してんだぁ」
真柴は呆れかえって川面に助けを求めていた。
柊がチラリと透を見ると、彼は人差し指を口に当てて返した。
「!」
柊はぎゅっと口を噤んで視線を逸らした。
*
「レイ、そんなに走り回ると」
「わっ」
盛大に転ぶ音がして、やれやれと高城は立ち上がった。
「吉時さんー!」
「それだけ派手に転んで、お茶はこぼさないのか」
「死守しました!」
レイは目を輝かせて、耳をぴくぴく、しっぽをふりふりとさせた。
高城はレイを立ち上がらせて、お盆を手に廊下を歩く。片方の手の先は小さな手に繋がれていた。
「吉時さん」
「なんだ?」
「助けてくれてありがとうございます!」
「今さら改まらなくても」
「転んだのに怒らなかったから!」
「誰が転んで叱り飛ばすんだ?」
「……白い服を着た人たち。僕は無能だって」
「そうかな。転んでもただで転ぶな、お茶を掴んでいた。すごいな」
分かりやすいくらいに耳としっぽが動いていた。
「そ、そう?」
「そうだ。それに礼を言うのはこっちだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、やっと静かに受け入れられる気がする」
「やったー、僕も吉時さんの恩人!」
「そうだな、これからもよろしく、レイ」
*
「くはぁーーー、つれないぜ、透。夜警に異動なんてよぉ」
「志島。そんなんにうつつを抜かしてるヒマじゃないぞ? 新人が入ってくんだから、気を抜かず教育に励め」
「俺、教えるの苦手ーー、透は例外ですよー、だってあいつ人間味なさすぎて、一般人の振る舞いから教えなきゃなんなくて、骨が折れたなぁ」
「それに比べたらマシだろう、じゃあ楽勝だな、新人教育」
「骨のある方がやる気でますーー」
餞別だと言って透から渡された包みにチラリと目線を投げる。
『お守りだ。中身を見ると不幸が起きる、肌身離さず持っていてくれ。誰にも渡すなよ?』
「何が『お守りだ』だよ。どう見たって」
固めのうすい本。しかも呪われてる。俺は包みの外からしげしげと眺めてみたが、やがて興味を失って天井を仰いだ。
*
悠は妙に浮き足立っていた。久しぶりに外に出られるということもあるんだと思う。
「子どもっぽい?」
俺が見つくろった、姿を隠すための黒いローブ。ぴょんぴょんと跳ねて確かめるので、黒い布から白くて細い手足が見え隠れしていて、うっと俺は額を押さえた。
「大丈夫。裾を踏まないようにすれば脱げないし、それに、要はバレなきゃいいんだって」
なんて魅惑のチラリズムだとか、もうそんなことを考えるのはきっと先輩の影響だ。
「うーん、何歳に見える?」
悠はくるっと回ってこちらに期待の眼差しを向けられる。そんな顔をされても困ってしまうのだが。
「えーと、十八には」
「柊だって、これぐらいで二十歳なんだから、僕もいけるよね?」
彼に遮られて口ごもってしまう。
「どうしたら大人になれるかなあ」
悠はパタパタと腕を振り回している。
「悠、こっち来て」
彼を手招くとすぐにうれしそうに駆け寄ってくる。
「今日はどこ行くの?」
まるで遠足でも行くみたいにはしゃいでいる彼に俺は今からすることに気後れを感じた。
俺は悠の黒目がちな瞳をのぞき込んで捕まえる。
「大人になるにはまず、交換し合わなきゃね」
悠は何を? といったように首を傾げて、のぞき返してくる。なんてまん丸で可愛いんだろう。俺はぐっと近づいて、唇を奪った。
「んっ、ふぅ??」
なんて声を出すんだろう。我慢できなくなっちゃうじゃないか。
「大人になるって、こういうコト」
俺は唇をふにっと押して教えた。まだ大人になりきれていない彼にこれ以上教えてはいけない気がした。
「行こうか」
「待って!」
悠はぐいっと俺を引き寄せて、唇を重ねてきた。
「帰ったら、続きを……お、教えて……!」
彼は耳まで真っ赤に染めて、ふいっとそっぽを向いてしまった。
「約束するよ」
俺は愛しい人の背を見て微笑んだ。
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