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四 吐く愛の時間
吐く愛の時間 四幻
しおりを挟む冬休みに入ろうかというその頃、俺に呼び出しがかかった。そして俺は警棒を持った門番がビシッと立っている入り口の前にいた。
その姿がなるべく目に映らないようにしながら、中に入っていく。受付で用件を告げると、扉がスーッと開いて誰かが入ってきた。
「あれ、悠斗?」
「あっ、う」
先輩の声だ。でも、俺は舌がもつれて上手く返せない。振り返ったらきっと先輩に迷惑をかけてしまう。だから、「悠斗……?」と心配そうな声色に、「だ、いじょうぶ」と片言に、自分に言い聞かせるように答えた。
先輩に肩にそっと触れられると、反射的にパシンっと振り払ってしまった。俺の怯えた情けない姿が先輩の瞳に映っていた。
「おい悠斗。真っ青」
「堤くん、どうぞ」
「……は、い」
俺は震える口で返事をしてその人の後をついていく。先輩が後ろで抗議している声が聞こえたが、彼らの前では通用しないだろう。ここはそういう場所なのだから。
「堤……悠斗くんだね?」
「は、い……」
ここは尋問室だ。取調室なんて名前だけだ。詰るだけ畳みかけて、なるだけ踏み荒らす。それが彼らの習性なんだと、そう言い聞かせざるを得なかった。
「ナギについて研究してるんだとか」
「え?」
俺は思わず顔を上げて、その人を見た。柔和な笑みを浮かべているが、その奥に宿す眼光は鋭い。底知れないおぞましさにじわじわと侵蝕されて、縮み上がってしまう。
「なんでナギに興味を持ったのかな」
「と、としょ、図書館で、みつけて」
「いつから?」
目の前がグラグラしてきて、空間が捩れているみたいだった。
「……どうしてそんなこと、?」
「行方不明の三冊のこと、遊間教授から聞いたね?」
「え、はっ、はい」
「どう思った、その時?」
「え、?」
「行方不明のそれらを探したいと思った?」
「……あの、それを聞きたくて、呼ん」
「アレはヒトをヒト成らざるものに変える、魔書なんだ。ナギは……人間ではない」
「え」
「あのただ一冊だけは、どうしても排除できなかった。これはしょうがない。我々は失踪したうちの二冊を握っている。そして、後の一つは手の届かない場所にある」
「ナギの同胞の元だ」
その人はすうっと俺を見つめた。
「それで本題だが、君ともう一人、遊間教授が最期に会った人物で、唯一アリバイがない」
「きょ、うじゅは、辞めて……」
「彼は殺害された」
「!」
俺はガタガタと震え始めた。怖い。怖い、怖い。
「遊間教授と会ったその日はどうしていた?」
「その日は先輩と行くつもり、で、先輩が行けなくなって……あきらめて……?」
その先の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。次に思い出したのは熱にうなされて起きた日のことだ。
「遊間教授に何をされた?」
「なに、を」
「どんな風にされたんだ?」
「……」
「……ダメか。まぁ、もう一人に聞けば分かることだ。今日ははるばるありがとう。私は高城吉時。以後お見知りおきを」
ヒヤッとしたものを感じて、自分がたらりと汗をかいていたことに気づいた。フラフラと立ち上がる俺の背に言葉が刺さった。
「もうナギに足を突っ込むのは辞めなさい。教授のように死ぬぞ」
「悠斗! 震えてるじゃないかっ! 俺が終わるまでここで待ってろ」
取調室から出てきた俺を見るなり、先輩が駆け寄ってきて、ロビーのイスを促した。
「さき、かえります」
ここには一秒たりとも長く居たくはない。例えそこに愛しい人が居たとしても。この体に染みついた、足がすくむ恐怖は何事にも代えられなかった。
先輩に背を向けてトボトボと歩き出す。
ナギは人ではなくて、ナギの書いた著作は魔書で、ナギの研究をしていた教授は死んで……。
高城という男の言う通りなら、俺はどうしたらいいんだ。もう足を突っ込んでしまっているし、それに先輩と出会わせてくれた大事なきっかけでもあるのに。
それにそれに、探究に没頭すれば辛い過去も追いやれるのに、今度こそ救われる糸口が見えるかもしれないのに。
「悠斗?」
俺がフラフラと歩いていると誰かが俺の名前を呼んだ。しかし、振り向く気が起きなかった。
「悠斗」
今度は腕を掴まれた。ピタリと俺は足を止めた。
「可哀想に、散々イジメられたんだね」
どこかのベンチに座らされて、ずっと下を向く俺に彼はそう声をかけてくる。
「大丈夫。俺が全部壊してあげるから、警察も、杉並先輩のことも」
「せんぱい、も?」
「お前、ヒドく壊して欲しいんだろ? だから全部俺がめちゃくちゃに破壊してやるよ」
「そんな、コト……」
「ケータイ、鳴ってるけど?」
俺は慌てて受話すると、藤馬にそれを奪われた。
『悠斗、今どこ』
「僕と一緒ですよ、杉並先輩」
『何するつもりだ』
「そんな警戒しないでくださいよ。僕は彼の望みを叶えてあげようとしてるんですから」
『悠斗に代われ』
「どうぞ」
「せ、せんぱい?」
『悠斗! そこはどこだ。今行くから』
「わ、わかんない、藤馬?」
「愛の力とやらで見つけてもらいなよ。そこを動けるもんなら、自分から掴みに行ってもいいんだぜ?」
「あ、待って、藤馬! ここどこ」
俺はケータイを握りしめながら、去っていく彼を追いかけようとしたが、ベンチから離れられない。足に力が入らなくて、立ち上がれなかった。
「せんぱい、立てない」
『悠斗、落ち着け。何が見える? 他に誰かいるか?』
「木がいっぱいで、人はいない。ほんと、どこ、ここ」
『他に何かあるか?』
「白いベンチ。土……」
『音は聞こえる?』
「すごく静かで何も」
『このまま切るな。いいな?』
「はい……」
自分が迷子になった上に、足腰が立たないことを思い知って、悲しくなった。
「ふっ、ふ……ぇ、ぐっ、ふっ」
『悠斗?』
「だい、じょ、うぶです」
『だいじょ、ばないな。今すぐ行くから泣くな』
「は、いっ……」
俺はぐすんと鼻をすすり、涙を拭きながらずっと片耳を押し当てていた。
先輩の息づかい。励ます声。足音。
「だから、一人で泣くなって」
「ふ、ふぇ、くっ」
「帰るぞ、タクシー呼ぶから」
そう言って先輩は俺との通話を切って、タクシーを呼んだ。
「辛かったな。ごめんな」
ぎゅっと先輩が俺の体を強く抱きしめる。俺は先輩の胸に頭を預けて、おずおずとその背に手を回してしがみつく。
「ん、せんぱい……」
タクシーまで抱っこされてこの上なく恥ずかしかったが、そのまま眠ってしまったようだった。
いつの間にか、あの安心する先輩の匂いに包まれたベッドに寝かされていた。
心が落ち着くと思って、もっと布団に顔を埋めたくて、うーんと寝返りを打つと、先輩の胸がすぐ近くにあって、ドキリとする。先輩はすやすやと眠っていて、今ならと思ってその寝顔を覗き見てみた。
意外と睫毛、長いな。鼻筋も通ってるし、やんちゃしてそうなのに肌も白くて陶器のように透き通ってる。唇もきちんと手入れをされているのか、それとも元々なのか、皮がめくれてカサカサな状態ではない。
今ならしても許されるかな。
俺はぎゅっと目を瞑って、そっと唇を重ねた。ふ、と頬が緩んでまた微睡もうとすると、先輩がもぞり動いた。
「いいの……? それだけで」
「起きてたんですかっ」
「悠斗が起きる前からずっと」
「先輩、ずっと起きていたなんて!」と恥ずかしくて顔から火を噴きそうで、とっさにまた寝返りを打った。
「なぁ、もっと悠斗のこと、知りたい」
先輩はふぅーと耳元に息を吹きかけてきた。
「んっ……!」
一気に顔に熱が集まった。
「今日は悠斗の中に入りたい……」
耳元でそうささやかれて、バク、バク、と心音がうるさい。多分、耳が真っ赤だ。
「ダメ……?」
もう限界だった。先輩に触れて欲しい。ヒドくされたい。
「俺も、せんぱいがほしいです」
「やるよ、お望み通り」
耳たぶを食んだり、ピチャピチャと音を立てて舐めたりされて、聴覚から犯されていった。
シャツのボタンが数個、いつの間にか外されていて、先輩の手が俺の肌を滑る。
「んー、ん、あっ」
俺は唇を噛んでその刺激に耐えたが、漏れる悦の声を止められなかった。自分でも分かるくらいに、すぐ濡れてしまって、下はすでにだいぶ、ぐちゃぐちゃになっていた。
俺は切なげに内股を擦りながら、自分のソレを刺激した。先輩に首筋に吸い付かれたり、胸の尖りをいじられて、柔く啼きながら、片手をズボンに突っ込んで自身に指を滑らせた。
「悠斗、エロすぎだろ」
俺の自慰に気づいた先輩はぐっと、俺の体を引き寄せて、片腕で俺のあごを引き上げて、項に噛みつき、もう片方の手は俺の腕とともに中にねじ込んできた。
先輩がファスナーを下ろしてくれたけど、下着の中で自分の指と一緒に扱かれて、もうパンパンになって窮屈だった。混ざり合う中は熱くてとろとろになっていた。
気持ち良くて、艶めかしい声を抑えられないし、快楽がせり上がってきて揺れる腰を止められない。
先輩は突然、起き上がって俺を横に引いて押し倒した。片手は突っ込んだまま、ゆるゆると愛撫を続け、もう片方で今度はシャツのボタンを器用に全部外してしまった。
目が熱くて、潤んで視界がぼやける。
はだけた胸に口づけ、キスを落とす。胸の飾りを舌で転がされ、舐められ、吸われた。
「あっ、ん、ぁ、ぁ」
先輩の指に責め立てられて、下肢も限界が近い。先輩が下着をむくように少し下げていくと、ぶるんと勢いよく跳ねて、腹に反り返るほど勃っていた。
「イクとこ、見たい」
先輩はそう言って、揺れる俺の理性を焼き切ってくる。
先端に先走り液が塗りつけられ、ヌリヌリと弄られて、俺は堪らずシーツを握りしめて、仰け反ってイッた。
びゅくびゅくとこぼれ続けるソレを緩く上下に扱きながら先輩は、ゴクリとのどを鳴らした。
「めっちゃエロかった……」
「せん、らい、うしろ、ほぐすからぁ……」
「まてまて、これ以上はヤバい」
「理性が」と先輩はつぶやくのもお構いなしに、俺は放った白濁を窄まりに塗りつけ始めた。
「んん、んふっ、……う、ぅ、う、……ふっ」
「分かった。分かった。ジェル持ってくるからッ」
先輩は慌ててガチャガチャと探しに行って、飛んで戻ってきた。
「ままま、悠斗。俺がやるから、っ!」
先輩が焦ってる姿が面白くて、ついふっと笑ってしまう。
「せんぱい、すき」
「ほんとかわいいヤツだな。俺も好きだ、悠斗」
先輩の優しい指遣いとたっぷりと塗りたくられたジェルのおかげで、十分ほぐれて、押し広げられるようになった。俺は我慢できなくなって、先輩の膨らみを足の指でなぞった。
「ゆうとッ……!」
先輩は苦しそうに顔を歪ませて、俺の足を退けて、下着ごとズボンを脱ぎ去る。
俺の脚を掴んで窄まりに先端を当てた。ヌルリと滑る感覚に下肢が疼いて、ヒクヒクとさせてしまう。
先輩は伸び上がってささやく。
「挿れるぞ」
俺がうんうんと頷いたのを確認すると、ほぐした蕾に、先輩のソレがゆっくりと押し入ってきた。散々犯されても、それだけはいつまで経っても慣れぬ苦しみだった。
俺が無意識で指を噛んでいると、先輩が俺の指をそっと奪って代わりに、唇を宛がって、手は背中に回すように言った。
「もうちょっと、だから……っ」
目の前がチカチカして、とうに崩壊した理性がより深い快楽を求めて、腰を揺らして咥え込もうとする。
「ゆ、ゆうとっ、!」
先輩はハァハァと荒く息を吐きながら、いやらしく欲する俺の体にぐっと堪えながら、努めてゆっくりと埋めてくる。
先輩の動きが止まって、先輩の肌が入り口に触った。
「ぜんぶ、はいっ、た」
そう告げられて背に回す片手を導いて腹に滑らせる。
「ンッ、!」
先輩は苦しそうに息を詰めたけど、俺は充足感でいっぱいで、するりとなぞって笑う。
「いっぱい……」
そう思うだけで、とろとろ溢れてきて、腹を汚した。俺の手をさらに下にずっと持っていって、腹に反り返ったソレにピトリと這わせて握らせてくる。
「おれ、このまま動かないからっ。悠斗のこと、傷つけたくないから……っ」
先輩はまるで懇願するように、自分自身に言い聞かせるようにそう言って、ゆるゆると俺の手ごと上下させてくる。
同時に食べられるような深い深い口づけを交わして、意識が蕩けてしまいそうだった。
「あっ、あん、あっ! ぁ、んっ、あ、、」
「悠斗、愛してる」
「ん、せんぱい、かおるせんぱい。すき、すきっ」
「ゆうと、ゆうと……っ」
息継ぎの合間に愛の言葉が零れてくる。
彼のささやく愛に濡れて溺れていく自分が恥ずかしくてたまらなかった。と同時に、満たされる気持ちだった。
その愛はとても心地よかった。
感じた痛みは、これまで受けたどのそれよりも優しく体を貫いて俺を疼かせた。
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