月負いの縁士

兎守 優

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終章 蒼月のデスパレード

117 光の化身

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「縁を断ち斬るッ」
 闇縫やみぬいの刀身がホーリ-ヘアに押しこまれる。が、壁は分厚く、固くて刃が通らない。吐き出された郁は駆け寄り、加勢し、界人の手ごと刀の柄を握りこむ。成清も加わって、闇縫やみぬいの刀を力で押しこむ。
 闇縫やみぬいの刀が変形し、真っ黒な竜巻が起こり出した。

「だめだ、郁! 離れて!」
 暴発してしまった闇縫やみぬいの刀から、白き光が立ち上る。守護の印が浮かび上がり、花弁の盾で人々を包みこんだ。周囲の月喰いは、どこからともなく伸びてきた発光するイバラで拘束され、影が次々と浄化されていく。

「ワタシノ カワイイ コドモタチ」
 ホーリーヘアから呼びかける声に、「かぁ、さま……」と界人は苦痛に顔を歪めて嘆く。母の苦しみは終わらせてやらねば。取りこまれた色葉──永槻ながつき志希しきごとフルムーンイーターは浄化される。はずだったが。
 闇が噴き出す。影斬りたちは皆、倒れ、地に伏せった。

「あんなもんじゃ殺せないか、こいつは特別だからね」
 すぐに立ち上がった丹那になが、怨嗟えんさを噴き出し続けるホーリーヘアと対峙する。どんな思いをこめても、鋼の強さをもってしても、影斬刀かげきりとう一本では、ホーリーヘアに一撃も与えられないのだが。
「やめろ、梅見うめみ! もう闇縫やみぬいの刀でしか、そいつは斬れねえ!」
「くっ……ぁ」
 界人はうめいた。刀を握る手に力が入らず、振るえないことに気づく。

「兄さま……」
 「郁……」と力なく呼び返して、それでもなお、闇縫やみぬいの刀を手に立ち上がろうとする界人に、陽惟が叫んだ。
「ダメです、腕が折れていますよ!」
「それでも、僕がやらなきゃ」
 倒さねば、郁を失う。やっと会えたのに。守れなかった約束をようやく果たせるときが来たのに。
 痛みに歯を食いしばって耐え、界人がよろめきながらも走り出そうとしたとき、ホーリーヘアになにかがぶつかった。ホーリーヘアのなぎ払いを受けきり、向かっていく化身は、ホーリーヘアと取っ組み合いになる。

こうき! やめ……」
 肥大化したうさぎの耳が生えた姿の者は、花景かけいこうきだ。叫び呼んで、彼に近づこうとする丹那にな栞奈かんなが抑えた。
「ニナは俺が守る。結人ゆいとと約束した」
 こうきは獣化した手でホーリーヘアを押さえつけ、ついに捕らえた。
「俺はずっとこのために生き続けてきたんだ」
 おぞましい断末魔が響く。兎化うかして裂けた口に、ホーリーヘアは食われていく。

「もう、丹那になと結人の人生から消えてくれ」
「あれは日和見刀ひよりみとう……!」
 成清はこうきの体内で発光する刀の形を見つける。日和見刀ひよりみとうがひときわ強く光り、闇色の影を食らい、呑みこんでいく。
 光が収束すると、こうきは人の姿に戻り、その場にバタリと倒れた。丹那にな栞奈かんなを強く振り払って、駆け寄った。

「凡人が……」
「ハネル、気がついたか」
 その身のほとんどが兎化うかしてしまっているハネルに、宇津木正吾は呼びかけた。
「貴様、凡人のまま、ダナ。凡人にくれてやル魂などない」
永槻ながつき! 早く、縁を」
 利き手の折れている界人は体を引きずり、力の入らない右手で辛うじて刀を握る。しかし、‪睦樹むつきはじめがそれを制した。

「宇津木、彼女はもう無理だ」
「そんなはずない、ハネルはまだ生きてる」
「イツまで凡人に、甘んじてルつもりダ!」
 ハネルはぐわりと大きな牙を向ける。
「貴様は何者ダ。貴様の役目ハなんだ」
「君を守ることだ、ハネル。私は君のために」
「凡人ハ、持たざる者ハ退しりぞけ!」
 襲いかかるハネルに、正吾は刀を向け、彼女の体を貫く。

「ソレデいい、正吾」
「なぜだ、ハネル……!」
「お前はお前のために生きろ、しょうご……」
 傷口が塞がらず、弱っていくハネルは最期に友の名を呼んだ。
「ね、い……」
「あぁ、友よ。私もともに」
 ‪睦樹むつきはじめ──寧は日和見刀ひよりみとうを掲げた。月喰いと融合して侵蝕されたハネルの魂を清める。陽惟は息を切らして、二人の友を呼んだ。

「ハネル、寧!」
「また会おう、立華たちばな
 寧は寿命を使い果たし、息絶えた。ハネルの魂とともに天高く、彼もまたともに昇っていった。
 ボロボロになったハネルの亡きがらが消えゆくまで正吾は腕に彼女を抱いて、天を仰いだ。
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