月負いの縁士

兎守 優

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10.継承のシャドウ

102 禁秘の継承②

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「それって、忌子きこなんじゃねーすか?」
 血の浄化を引き起こす災厄をもたらすとされる存在は、裏月では忌子きこと呼ばれる。彼らは裏月の歴史の中で、一門を良い方に導いた記録は残ってはいない。忌子きこが生まれた一門は、破滅に傾いていってしまうのが常だった。

「ええ。五月雨色葉は不義の忌子きこと記されていました。何らかの方法により、肉体を乗り換えて、生きながらえているのではと私は考えています」
 成清もその場に座りこむ。自ら教え請うたとはいえ、新たな厄介ごとがこうも手に負えないほどの事態を孕んでいるとは、彼は真に覚悟していなかったからだ。

 忌子という災いの芽は葬っても、また裏月に巡って産まれてくる存在だ。地の奥深くまで張った根のようにこびりつき、その穢れを完全に濯ぎ落とすことはかなわない。
 しかし、肉体を乗り換えているとなれば話は別だ。何らかの意図があって、死を回避し、穢れた魂を持ったまま、生きながらえているに違いない。

「イロハの目的はなんだ?」
 「わかりません」と陽惟はまたため息をついた。成清はもう掘り起こしたくはなかったが、聞いておかねばと口を開く。
「あと、忌子きこは二つありますよね?」
「ええ。不浄、不死。不浄の忌子きこは一度だけ、出現し、闇縫やみぬいの刀によって討ち払われたと記録にありました。不死の忌子きこは誰もその姿を知らないようです」
「知らないのにいるって、どういうことなんだよ……」

 「裏月の最古の記録に記されていましたので、私にもわからないのです~」と陽惟がうしろに倒れこんだ。彼が自棄になってきたので、成清は察した。
「わかった。これからスーパーに行って買ってきますよ」
 甘味が切れてしまったのだ。甘味中毒の彼は、なくなると手がつけられないほど、子どもっぽい振る舞いをするようになる。その上、話を全く聞かなくなってしまう。しかし、いつ帰るかわからない陽惟のために、足の早い甘味を買いためておくのは無駄に思えて、成清は手土産を持っていなかった。

「いえ、大丈夫です」
 あれがいい、こういうのが欲しいとわんわん鳴きはじめるのかと思いきや、成清は思わぬ肩透かしを食らった。
「さて、私は戻りますね。成清くんも、早くお家に帰ってくださいね」
 鼻歌を歌いながら、陽惟は丘を下りていってしまう。月見草がぽんっと顔を出して、立ち尽くす成清をじーっと見上げている。

「陽惟さんが甘味を断る……んな日が来るなんて思ったことなかったわな」
 甘味と言うと月見草は、成清の周りを取り囲んでねだるように花弁を振った。足元がかゆいのを妙に感じた彼は、驚いて跳ね上がった。

「月見団子はまた今度だ! 全く誰かさんに似てこいつらも食い意地がすげぇじゃねえか!」
 怒号が響くと月見草はたちまちに引っこんでしまった。真っ暗になった野を生暖かい風だけが吹き通り、月明かりが淡く、成清の姿を照らし、色濃く影を作り出していた。
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