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5.待宵のフィースト
62 待ち焦がれた君のさえずり④
しおりを挟む「いやぁ、旦那。そんなに睨まないでくださいよ」
「どういうつもりだ。面が割れたじゃないか」
「えー、大丈夫だって、ほら」と男はくるっと回って、白い着物を着た人物の肩にもたれかかる。耳元で愉快そうにささやいた。
「騎士が守ってくれるでしょ?」
うっとうしそうに息を詰めたが、その者は払い除けることはしない。
「刑士が本格的に動き出せば限界がある」
「でもさぁ、あの様子だと、多分、次が最期だと思うよ?」
投げ出された礼門を指して、男は笑う。
「それにこの子を使えば、割とゴリ押しでイケるって」
「そういうトコですよ、まったく」
「雑なんですから」と小さくつぶやく声。
「でも、旦那はそれでいいって顔してますけど?」
灯が大きく揺らめいた。
「主がそう申すのであれば、従います」
白い着物を纏った者は、御前にひざまずく。
「顔下げたら口元、読めないじゃん。なになに、『やみぬいをとれ』って。はーい」
「仰せのままに」
「ほらー、俺は休むから、お世話してあげて」
急に倒れこむ男をさっと支えたのは、白い着物の守護者。礼門を担ぎ、軽く一礼して、薄明かりの灯った部屋から退室した。
「選択肢などない」
戸を閉めると途端にため息がこぼれる。待ってましたとばかりに、向かって飛んでくる一羽の鳥。肩口に乗っかるも小さいため、頭がほおに届かず、首筋にスリスリし始めた。
「ふっ、ふ。さすがにくすぐったいぞ」
首を傾けると頭をグリグリとほおに押しつけ始める。
「今ご飯をあげるから下りなさい」
『ご飯』の一言に反応して、それはそれはすごいよろこびようで羽を広げる。止まり木に戻って体を揺らしていた。
両手に抱き抱えていた脱け殻を布団の上に寝かせると、男は竹包みからおむすびを取り出して呼んだ。
「さあ、お上がり」
三角の天辺を摘まんで、指に米粒を載せる。小鳥は手のひらにふんわりと着地した。ぽすんと乗っかり、くちばしで摘まんで、パクパクと食べ始めた。
「急がないで、ゆっくり」
忙しなく動いていた小鳥はだんだん動きが鈍くなった。
「食べてすぐは寝ない」
首から背にかけて優しく撫でるとツグミは気持ちよさそうに、体を擦りつける。しばらくスリスリしているうちに、のっそりした動きになり、手のひらで丸くなった。
そっと止まり木の布団に、小鳥は戻される。
「君の声が聞ける日を心待ちにしているよ」
吊された籠の紐を指がなぞる。麻紐は朽ちて細くなっていた。「君は選べない運命をねじ曲げられるんだから」と虚空に、愉快さを含んだ声が落ちる。咲いた場所に縛られ、朽ちていくことしかできないこの身に余る祝福をと包帯を巻いた腕が籠に伸びる。
「早く落ちてきてくれないか」
闇野に蛍火のごとく、点々と咲き誇る白い花。弥生堂から道を一本道で指し示すように、並んでいた。暗闇の道の先が、あるべき場所へ繋がることを月見草はよろこんで舞っている。
五 待宵の 祝宴 ―完―
六章へつづく
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