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4.檻の中のカーニバル
41 春の祝祭④
しおりを挟む界導の隣に音もなく現れた和装の者。その者はダークグレーとチャコールグレーのストライプ生地の着物に、墨のように黒い帯、クリーム色の帯締めを巻いていた。てっぺんの黒い菅笠の紐には、うさぎのチャームがぶら下がっているのに郁は気づいた。
「失礼ですが、あなたは?」
「出遅れましたが、御剣大和と申します。いやあ、卯咲はうさぎちゃんの誘惑で、なっかなかこちらに辿りつけなくて」
菅笠が外されると、結っていた髪が解け、暗い緑色の髪が胸の高さまでバサリと落ちた。界導は目を見張り、「それは……」と一瞬言葉に詰まった。
「道中たいへんお疲れ様でした、御剣様」
御剣の目には、まじないの印が記された白い布がかけられており、見えているのか怪しかったが、界導に向かってお辞儀をした。かけられた布をじっと見つめている界導に、御剣は「なにか、ついてますか?」と首をゆるりと傾けた。「い、いいえ」と界導はすぐ正面に向き直る。御剣は咳払い一つして、「それで」と続けた。
「それで、私はしがない物書きをしておりまして、心の通じ合いといったものがよく見えるのです」
「それではどちらがより、心が通じ合っていると、お考えですか?」
「断然、このかわいらしいお二方ですね。あちらの仮面の男性は、うさぎちゃんが彼を一方的に好きなだけで、彼自身は苦手なようだ」
一瞬身を引いた男に、うさぎは目を輝かせてすり寄っていった。
「パフォーマンスの面で、華はありゃしませんが、たいへん好ましい異生物愛を拝見できました。というのが、私の総評です」
「より対等な愛という観点から見れば、彼らの方が良かったと私も考えます」
「もるる!!」
突然、最前列にやってきた女性が大きな声を上げた。御剣はあごに手を当てて、「なーるほど」と言う。
「迷子のもるるちゃんの飼い主を探すためにコンテストに出られたのですね、ふむふむ」
なにも言わず、リードの手を離した男の方をふり返り、もるるは名残惜しそうに飼い主の元に飛び跳ねていった。
男は審査員席に片手を振り、無言で壇上から下りて去っていく。パラパラと鳴り出した拍手が大きくなっていったが、男は振り返らず、風のような速さで行ってしまった。
「そういうことで、某君と小さなうさぎちゃん。優勝おめでとう」
「や、やったね、もち丸!」
もち丸は当然だと言わんばかりに得意気に鼻を鳴らす。
「では私から、商品券だっけね、未来をひっくりかえして、なんて読むのか、さっぱりだけど」
「来未通りと読みます、御剣さん。お菓子で有名な商店街なんです」
「くるみね、ほほう。君は博識だね」
お菓子券を贈呈された郁は、ステージ上から陽惟の姿を探した。
「では、私から。このあとのステージ発表の前に、優勝した君たちに一足先に、こちらをお渡ししましょう」
人が多くて陽惟の姿を確認できず、内心しょげていた郁は、界導から受け取ったもう一つの景品を見て驚愕の声を上げた。
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