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4.檻の中のカーニバル
40 春の祝祭③
しおりを挟む郁はパチリと目を開き、彼のうさぎのヘアピンに気づいたあと、横に立つ男に目を見張った。隣の彼は無理やりさせられたのか、うさ耳フードつきの短いパーカーを頭に巻きつけられ、仏頂面だったのだ。
「新山先生と水戸先生!」
もち丸は郁の前で飛び跳ね、新山恵と水戸佳也に近寄るなと言わんばかりに威嚇していた。
「まだ先生じゃないってばー」
「もうっ」と恵はしゃがみこんだ。活きのいいもち丸に、持っていた飴細工を差し出して釣る。郁は陽惟の方を向いて、彼らを紹介した。
「師走大学で教師を目指している方々です」
「まあ、それは素晴らしい志ですね!」
左右上下に動く飴と戯れているもち丸に陽惟が視線を落とすと、あきれた表情に気づいたのか、もち丸は急に郁の足元に座りこんで背を正した。
「つきみんもその髪飾り、もらったの? かわいいー!」
「はい。へへ」
「うさぎちゃんも一緒なんだ。よく動くけど、ちゃんとおとなしくできる子なんだね」
郁の足元にもち丸は行儀よく、ピッタリ寄り添いながらも、目が恵の飴細工を追っていた。
「つきみんってモテモテだよね」
「おい、恵。もうそろそろ警護の準備だぞ」
佳也に腕を引っ張られ、振り向きざまに恵は「あ」と小さく叫んだ。
「せっかくだから、コンテストに出場してみなよ。そんじゃ、またねー」
ブンブンと手を振りながら、恵は佳也に引きずられるようにして、去っていった。
「コンテストがあるのですか?」
「ええ。お祭りのフィナーレに、うさぎさんとコンビを組んで競う祭典があります。優勝者には素敵な景品があるそうですよ」
もち丸は足元で得意気に主張していたが、郁は陽惟の方に気を取られていた。
「今年の景品は……来未通り商品券、はひいい」
「お菓子専門店街の商品券……これはすごい戦いになりそうですね」
「郁くん。挑戦してみますか?」
もち丸と目が合う郁。手を伸ばすと、もち丸も伸び上がった。
「陽惟さんのために頑張ってみようか、もち丸」
まるで返事をしたように、その小さな白い手で、郁の指をきゅっと掴んだ。
祝祭のステージ広場では、コンテストにエントリーした二十組ほどのペアが予選に挑戦していた。観客はロープの外でワイワイガヤガヤと見守っており、人の多さに気圧されて、一部のうさぎは固まって動かなくなってしまっていた。
予選は簡単なマルバツクイズ。ただし、連続で十二問正解しなくてはならず、ペアで息を合わせなければならなかったのだが……。
人間が思うとおりに、うさぎたちは動かなかった。自由に跳ね回ったり、ご機嫌うかがいのためのエサに飽きてしまい寝てしまったり、ストレスが溜まったのか飼い主の脛に体当たりしたりと、両者で回答や足並みが揃わず、混迷極め、迎えた最終戦。残ったのは、二組だけだった。
一組は、うさぎのお面をつけた男と元気な女の子で茶色の毛色のネザーランドドワーフ。もう一組は、郁ともち丸だった。
「とてもにぎやかな予選でしたね。では決勝のお題は、コンビネーションです。どちらがより皆さんの心に響くパフォーマンスを披露できるかが勝敗の鍵になります」
うさぎの仮面をつけた男はなにも言わなかったが、目配せをしただけで、うさぎは動き出した。活きが良すぎて三回転してから下りてくる茶色いふわふわのうさぎが、男の手のひらにすっぽりと収まる。技が決まると、拍手と歓声が湧き起こった。
「すごいね、もち丸。じゃあ僕たちは、みんなに、『こんばんは』をしようか」
会場が静まっていく。もち丸は毛づくろいをしてから、しゃんと背筋を正した。もち丸と郁はそろって頭を下げた。
「こんばんは~」
お辞儀のあとに手を振ると、もち丸も真似して手をクシクシする要領で、短い手を懸命にフリフリする。
「すごい。僕たち、できたね、もち丸!」
屈んでハイタッチした勢いでもち丸は郁の腕に抱きついて乗り上げた。会場からはかわいいの声がたくさん上がる。声や拍手が収まるタイミングを見計らって、司会がマイクをオンにした。
「息の合ったコンビ芸に、仲睦まじいコンビ愛。いやあ、どちらも素敵で甲乙つけがたい。最終票は審査員の方にお願いしましょう。界導教育長、ジャッジをお願いします」
ステージ広場から、また歓声が上がる。深い焦げ茶色の髪に色白の肌を持つ、整った顔立ちの界導は、女性たちの注目を集めていた。
「これは判断に迷いますね。どちらの反応も大変良かった」
愁いを帯びたその表情で発せられる、威厳がありつつも、色めきを含む彼の声が観客たちの心を掴んで離さない。界導の纏う雰囲気に当てられた者たちがその魅力に溺れそうになる直前、カラコロと乾いた声色が陶酔を打ち砕いた。
「それでしたら、私が決めましょう」
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