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死合わせな邂逅
トゲトゲ
しおりを挟むまた会えた。とてもうれしくて。でも、シノはうれしくなさそうだった。ぼくがひどいことを言ったから、シノは悲しいを抱えたままなんだと思った。
「シノさまあ、すき。すき、すき!」
うそつきって言った、ひどい言葉よりもいっぱいの"好き"を伝えて、シノの悲しいをなくしたかった。
シノはなにも言わないで、ぼくをギュッとした。澄んだ水のにおいがした。
どうしたらいいのかわからなくて、じっとしているとシノは「さあ」と肩を押してくる。
「冷えただろう。風呂へお行き」
シノにどうぞと言われて行ったところは、もやもやした水のにおいがする。白いものがゆらゆらしている水。冷たいお水だと思って被ったら、温かくて不思議とふわふわする気持ちになった。そうだ、これはお湯で、お風呂だった。
あたたかいシノにぎゅっとされているみたいでお湯の中で思わず、ふふっと体ごと笑ってしまった。今の変な声を聞かれていないか、急に心配になって耳を澄ませる。お風呂の扉の向こうで、シノとササガキの声がちょっと聞こえた。よくない感じの言い合う、トゲドケした響きだ。
「協力者がいるはずだ。それもかなり、こちらの事情を知っている。口を割らせろ」
口を割る、どうやるんだろう。でも、今のは勝手に聞いちゃったから、ササガキに聞くわけにもいかない。
色々考えていたら、お風呂からいつ出たらいいのか分からなくて、だんだん頭がぼーっとしてくる。まだシノとササガキはお風呂の前にいる気がするから、出られない。
「む~シノさまぁ……」
聞こえるかわからないけど呼んでみる。戸の向こうで音がふっと消えた。
「坊ちゃん。なんか、風呂場から声が」
体が重くなった。息ができない。お湯が口から鼻から目から、入ってきてなにもできなくなった。
「溺れているじゃないか!」
「いや、のぼせてるんでは……」
ガボガボと口から変な音が出る。体の色んなところが痛かった。
「ったく、柔 いなあ、今回のは」
苦しいのに、不思議と怖くはなかった。目が合う、なにかと。僕をじっと見つめる誰か。暗がりからぬっと現れた白い手がほっぺをつかんだ。
「おわっ! 生きてる!?」
目が大きくて、声も大きい誰かだ。びっくりした顔をしていたのに、もうニコニコ顔になって僕を見ていた。
「へへ~ごめん。勝手に触っちゃった」
ほっぺに変なムズムズする感じがした。なにか取られちゃったのかもしれない。
「ねえねえ、なんで地面で寝てたの!」
ほっぺを触って考えている間に、ポンポンと言葉が飛び出てきて、僕は困った。
「あの……はやい。待って」
「あー! 話すの速いか! 癖なんだよ、ごめんな」
すぐに言葉が返ってくる。声も大きくて、頭がちょっと痛かった。おなかも痛いと同じく鳴く。
「おなか、空いた……」
「そうか! そうだよな。はらがへっちゃらナントカカントカ。待ってろ、なんか持ってくるから」
僕は待ってと言ったのに、また一人で急いで話して、いなくなってしまった。
「待った? ごめんな~」
「わあ!」
消えてから現れるまでが速くて、びっくりして、ひっくり返った。床に頭をぶつけて痛いし、「はい、これ。これ、これ!」と次々差し出されて口に押し込んでいたら、お腹いっぱいを通り越して、苦しくなる。
「もうたへれなひぃ……」
「サクマ、今なんて?」
居るはずのないシノの声がして目が覚めた。夢だったみたい。ひどい夢だった、みたいだ。
「シノさまぁ……」
シノと一緒じゃない夢から起きて、目の前のシノで胸がいっぱいになった。目から熱いお湯が出てくる。
「なぜ泣くんだ」
泣く……なぜ。わからない。シノのことを考えると、胸のまん中がきゅっとなって苦しくなるのだ。
「ボク、シノさま、すき。おつとめがんばる」
ポンッと手がボクの頭に乗せられた。手のひらからじんわりと、温かさが広がっていく。シノはなにも言わないで、ボクのことをじっと見ている。きゅっと痛くなった心がふわふわしてきて笑ったら、「子どもっぽいな」と言ったあとに、シノが小さな声でなにかを言った。
「あの頃に戻れたら……」
なにかお話をしてくれる。お話をしてくれるシノは好き。お話が終わるまでいなくならないから。
そう思ってワクワクしてたのに。足音がした。白い扉に、動いている人の姿が黒く映っている。イヤな感じがした。きっと、ササガキだ。シノとの楽しい時間を取られちゃうと思った。
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