黒き荊の檻

兎守 優

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4.刺激

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 それから毎日、日が経っている感覚さえつかめなくなっていたが、意識が戻ると、俺は檻の中、鎖に拘束され、南場先輩と気持ちのいいことをしていた。
 でも、先輩は絶対に正面からはシてくれない。いつも後ろから、揺さぶるばかり。
 先輩と正面からつながりたい。顔をちゃんと見ながらセックスがしたい。

「そろそろ新しい刺激が必要だろう」
 暗がりの向こうから、楠城くすのきの愉快めいた声がした。ステージライトのように照らされるのは、俺たちが交わる檻だけだったが、珍しく、観客側に明かりが灯った。

「コイツはここへ近づきたくてうずうずしていたようだったから、お望みどおり招いてやったんだ」
 先輩に後ろから硬いモノを出し入れされながら、暴力的な快楽に喘いでいた俺は、なんとか顔を上げてそちらを見た。
 椅子に座っている人に、スポットライトが当たっている。

「特等席で鑑賞させてやろう。だが、タダとはいかない」
 檻の向こうから、目と目が合った。スーツを着た若い見た目の男。俺と目が合ったのは一瞬で、彼の目線は別の人に移っていた。

「なん、ば……さん?」
 彼は先輩を呼んだ。だが、先輩は俺との行為をやめようとはしなかった。ちがう。止められないんだ。楠城くすのきがやめていいと言わないから。
「そう。貴様が行方を追っていた南場なんば 綾史あやふみだ。俺の眷属にしたが、コイツがどうしても刑事を忘れられないようだから、偽名で特殊捜査員にもしてある」

 椅子に縛りつけられている男は憤った。
「刑事を二人も不当に監禁しておいて、タダで済むと思っているのか!」
「貴様こそ、拳銃一丁のみで乗り込もうなどと余程、物を知らないと見える」
 拳銃がひとりでに宙を舞う。
「貴様はすべて俺の犯行だと勘違いしているようだが、実際にホシはいた。南場も助けてやった。願いも律儀に聞いてやったぞ。だが、そもそも俺が自分の配下にした者をどう扱おうと構わないんだ」
「ゲス野郎が……」
 背後から低い声がうなる。南場先輩が発したのだと分かるまで時間がかかった。

「おいおい。真のところで人間嫌いな貴様を 慮 おもんぱかって、俺がどれだけ温情をかけてやったと思っている。まぁ、俺は篠垣ささがきに持ちかけられた取引の方が面白いと思ったのでな。そちらを呑むことにしたが」
 銃声が一発、響いた。鮮血が飛び散って、顔に跳ねる。先輩がうめく。俺の目が覚めた。

「『自分はどうなってもいいから、もう・・みんなには手を出さないでくれ』。篠垣ささがき。今までの分も含めないからこうなっても仕方ないんだぞ?」
 楠城くすのきは高笑いをした。俺は動けずにいる。

 「南場さんッ!」と男が叫んで、椅子を揺らした。
「この外道が! 眷属とか言って、仲間を撃ちやがって。あの日、仲間をやったのはてめぇなんだな!」
「あぁ、彼ね。邪魔だったから、消したよ。『補佐役が吸血鬼に殺害された』。俺は嘘の証言はしていない。考えもせず鵜呑みにしたのが悪い」
 「お前は悪党だ、有罪だ」と男は暴れるが、楠城くすのきは暗がりの向こうで笑っているだけだ。

篠垣ささがき。願いは具体的であるべきだ。身に刻むといい。『自分はどうなってもいいから、もうみんなには手を出さないでくれ』。俺が・・直接手を下さなければ、願いに背いたことにはならないとも取れる」
 暗闇からにゅるりと得体の知れないツタが現れた。
「これは俺の使い魔だったが、使役関係を放棄する。コイツは精気を吸う生物でな」
 支配を解かれたツタは身近なものに絡みついていく。椅子に拘束された男にまとわりつき、服のすき間からそのツタを侵入させていった。
「なんだよ、これ!」
 男から悲鳴が上がる。ツタの動きは止まらない。

「おい。いつまで傷を癒やしているつもりだ、南場。お前の大切な後輩が手持ち無沙汰だぞ? かわいがれ」
 途端、先輩が律動をはじめた。彼の手が俺のモノを扱くから、快楽で頭が溶けそうになる。
 向こうからは悲鳴がずっとしている。見ればツタは男のスラックスを剥ぎ、ぬらぬらとテカる分泌液を出しながら、男のモノに絡みつき、ゆっくりと這い回っていた。
 男のソレに刺激を与えて屹立させると、濡れたツタの動きが止まった。ツタの一部が蕾のように大きく膨れ上がり、割けていく。

「その使い魔──おっと、元・使い魔だが、本体は花で、その花は中心に管を持っており、その管を相手に刺して、精気を吸い取るんだ」
 花開いたツタから、細い管が伸びていく。男のモノは他のツタに扱かれ、質量を増していく。
「ヒッ、やめろ、やだ、いやだぁ!」
 つぷりと管が竿のてっぺんを突けば、絶叫がこだました。そのまま細い管は、濡れた音を立てながら、男のモノに侵入していく。

「分かるか? 花の管が貴様の尿道を通っているんだ」
 口の端から垂れていくよだれにツタが吸いつき、男の口内にツタが飲み込まれるように入っていった。
 男の足がわなわなと震えだす。男のモノに入りこんだ花の管はにゅるりと伸び続け、やがて止まる。

「確か、貴様は赤矢あかや 隆次りゅうじだったかな。赤矢。貴様はこれから二度と経験することのない絶頂を味わうだろう」
 尿道に管を突き立てたまま、花が男のモノに覆いかぶさる。「この花は精気を吸うのに長けている。花自体も吸引を行うんだ」。その声のあとに、花弁が収縮をはじめた。艶めかしい悲鳴が上がる。
 俺の脳内は真っ白になった。見れば俺の白濁が先輩の手を汚していた。

「実に愉快だ。こんな美しい宴に立ち会えようとは」
「分かってんのか、お前」
 背をしならせ、のけ反って喘いでいた男がふいにしゃべった。
「あの吸血鬼野郎と同じことしてんだって、ことによ」
 「みにく、い」と男が吐き捨てた。熱に浮かされた場が一瞬で凍りついた。

「醜いだと?」
 寒い。本当に周囲が冷えていく。吸血鬼に襲われたあの夜もひどく寒かった。この熱を冷ましたら、またあの夜と同じ、惨劇が起きてしまう。
「なあ、楠城くすのき。俺はもう、南場先輩と楠城くすのきがいないと生きていけない。そろそろ俺のことも構ってくれ」
 赤矢は花に吸いつかれ、悲鳴を上げ続けている。このままでは彼が死んでしまう。どうにかしなければと必死に思考を回して、口を開く。

楠城くすのきにされるのも好き、なんだ。だから」
 突然、悲鳴が止んだ。男はうなだれ、動きを止めた。「主従契約を放棄すると歯止めが利かなくなるのも考えものだな」とくつくつと闇が笑った。
「残念だったな。もう赤矢の精魂は尽き果ててしまったようだ」
 ニヤリと笑いながら、楠城くすのきは暗がりから姿を現し、こちらへ来る。

「だがそうだな。コイツはもういい。篠垣ささがき。お前を南場の目の前でたっぷりかわいがってやる」
 楠城くすのきが手を伸ばせば檻が溶ける。鎖も消え去った。そして、赤矢という男も。
 広く冷たい台の上。俺が楠城くすのきに血を差し出し、彼に犯された場所だった。
 「この上で南場に幾度も、吸血と性行為を命じた余興は見物だったが」と楠城くすのきは赤い目を光らせる。
「これは南場の寝床もとい、棺でな。この上でお前と交わったときはひどく興奮した」

 南場先輩が強い力で俺の両腕をつかまえて、離さない。楠城くすのきが前をくつろげる。
「さあ、宴の続きを楽しもう」
 先輩との行為でグズグズになったそこへ、ためらう間もなく、楠城くすのきのモノが突き入れられた。
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