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三 なりふり
八行
しおりを挟む早朝の騒音。イラッとしながら意識を浮上させると、いきなり腕を引かれて引き戻され、深く口付けられる。
ジタバタ無言の抵抗を続けて解放された僕の唇をなぞりながら、夜一さんは眉をピクピク動かす。
「うるせぇ」
ジクジクした熱が集まり始めたので、慌てて彼の下から抜け出して逃げるようにリビングに向かった。
「ありえねぇ、まだ朝の四時じゃん」
のそりのそり下りてきた彼の頭は寝癖が跳ねまくっていた。
「神田さん、何時出勤ですか? 僕は八時に出ます」
たくましく長い手足が気だるげに揺れて、ドキドキしてしまう。
「十時からだからー、うーん、と、ひまの家を八時に出て……」
くぁーとあくびをかきながら、大きく背伸びをして、台所に近づいてきた。
「お礼に何か作るよ?」
気の抜けたセクシーさがにじみ出る声色に、僕の腰がヘナヘナになりそうだった。
「いいえっ、僕が作りますから、くつろいでいてください」
調理に取りかかろうと踵を返すと、反転させられて引き寄せられる。よろめいた拍子に腰に手が回された。耳元でささやかれる。
「次はもっと、エロいこと、するから」
するりと離れていく手と彼の体温。ほおが紅潮してきっとりんごみたいだろう。脳内も沸騰して、パンクしそうだ。
火にかけた鉄瓶が沸く。今度彼の家に行くようなことがあれば、覚悟しなければならない。心臓が保つか今から心配でたまらなかった。
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