ほおつきよ

二 すれ違い

六片

　数時間後には元通りのピンピン元気な斎藤くんに戻った。なぜ一緒に付いてくるのかと思ったら、大学も同じだった。
　時間割を訊ねられ、空きコマと斎藤くんの講義がバッティングしている時間の同行を頼み込まれた。

　聞き取るのが難しくてノートが取れないだって？　彼は補聴器を考えるか講義を録音してあとで思う存分、自分だけで大音量で聞き直してほしい。
　迷うことなく一番前の席に座ってしまうので、僕も普段なら絶対に行かない場所に大人しく落ち着かざるを得なかった。

　マイクの雑音が耳をつんざいて不快だった。マーク付きのヘッドホンをしているとはいえ、真ん前でこのスタイルは注目を集めること間違いなしだった。
　斎藤くんの注目は講師の口元や身振り手振りの挙動に注がれている。僕は居心地の悪さを感じながら、ノートにペンを走らせていた。

「マジで助かったっうおっ！」
　段差につまづいて転けそうになる斎藤くんの腕を僕は引いた。
「もう帰って休んだ方がいいんじゃないの？」
　僕はもう一コマある。彼の講義は全て終わったが待ち合わせがあるらしく、残ると言うのだ。

「大丈夫。食堂で落ち合うだけだから」
　あまり強くこれ以上は引き留めない。彼の自由だ。倒れることがあれば、僕ではない他の誰かが助けてくれるだろう。

「そう。気をつけて」
「おう！　またな！」
　大げさに手を振ってすたすたと食堂に行ってしまう。
　僕もゼミに遅れちゃう。少し離れた棟まで小走りしていった。