ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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五章

三百十話 サルマーレの鍛冶屋?Ⅲ

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「よし、サビや汚れは取れた。普通の武器なら油掛けする所だけど、こいつには不要だね」
「おっ、仕上がったのか」

 話しながらの作業だったが、仕上がって手渡されたミアリギスは確かにキレイなもんだった。さっきの傭兵の武器と違って随分豪快に研ぎを入れてたように見えたが、サビが落ちた刃には傷一つ見当たらない。コレが不壊の特性ってやつなのか。

「また手入れが必要なことになれば、そこらの武器屋に持ち込まずにウチに持ってきなよ。その方が確実だ」
「それもそう……と言いたい所だけど、その機会は無いだろうな」
「そうなのかい?」
「俺らは旅の途中でさ。この街も立ち寄っただけですぐに出ていくことになるからな」
「なる程、そういう……そりゃ確かにまたここに持ち込む事は無さそうだ」

 何事もなく足が見つかれば明日には発つ予定だしな。

「そういえば、何か移動の足になるような手軽なものって知ったたりしないか? ちょっと先を急いでるんだがこの国の乗合馬車はリスクがでかすぎるって話だし、とはいえ自前で馬車を買うにも金が足らん。ちょっと稼ぐというには値が張りすぎてるし、その稼ぎ時間で歩いたほうが良いんじゃないかって思うし、良案が思い浮かばんのだよな」
「速度と体力考えると、この辺りで手に入れられる足となるとやっぱり馬車になるだろうな。帝国へ行けば竜車、北方なんかだと牛車なんかもあるが、どっちもこの辺りでは手に入らないし、入ったとしても馬車以上に値が張るだろうね」
「やっぱそうか」

 そうそう都合よく見つかるようなもんじゃねぇって訳だな。まぁ。元からそこまで期待していたわけじゃない。ダメ元で聞いて見たらやっぱり駄目でしたって感じだ。

「見つからなかったらどうするつもりなんだ?」
「そりゃ、歩くだけさ。まぁコレでも人並み以上には旅はしてきたから、歩きでもソコソコの速度は出せるからな」

 シアに散々つきあわされたからな。旅のための歩き方は体に染み付いている。

「歩きなんて、それこそ乗合馬車よりも危険なんじゃないか?」
「歩きでも乗合馬車でも狙われるっていうなら、人質に取られたりするような客が居ない歩き旅のほうがまだやりやすいだろうさ。まぁ、歩きよりは馬車を使ったほうが早いだろうし、疲労度合いが段違いだから休憩の時間も短縮できるかもって思ったんだが、無いならないで無理してまで欲しいってものでもないからな」
「ふむ……」

 結局は楽できりゃ楽するに越したことはないって程度の話だからな。楽はしたくてもそれで時間を使うことだけは避けなきゃならん。手段と目的を取り違えるのだけは駄目だ。グダグダになる。

「まぁ、なるようになるさ。修理ありがとさん。代金はコレで良いのか?」

 取り敢えずさっきの傭兵が渡していたのと同じだけ出してみせる。魔剣だなんだと言っていたが、実際には錆落とししただけだし余分な金額は取られんだろ。

「ん……あぁ、コレで問題ない」
「世話になったな。それじゃ」

 それにしても耐久値無限武器とはなぁ。それが知れただけでもここに来た甲斐はあったな。武器のメンテナンスに時間と金を割かなくて良いってのは地味に財布に関わってくるし、何よりいざという時に破損の心配がないってのは戦場ではかなりの安心材料だ。
 まさかこの頑丈さだけが取り柄のミアリギスが魔剣だったとは本当に驚きだな。
 チェリーさんの槍とかエリスが買った短剣みたいなスタンダードな魔剣が身近にあったせいもあって、魔剣というのはああいう派手なものだって完全に思い込んでた。実際ミアリギスが魔剣だなんて全く想定もしてなかった。まぁ、実際魔剣だからなんだと言われると、特に何が変わるというわけでもないんだがな。
 まぁ魔剣っつっても壊れてるみたいだから、今まで通り頑丈な武器だと思って使えばいいだけか。

「おっ、アンタの整備も終わったか」
「うん? アンタはさっきの……」

 俺の前に武器の手入れをしてもらっていた傭兵か。わざわざ待ってたのか?

「何か俺に用があるのか?」
「あぁ、暇潰しにお前らの話を聞いてたんだが、足を探してるんだろう? だが、馬車を買うほどの金のないと」
「……まぁ、そうだが」
「なら、物は相談だが、共同購入する気はないか?」
「共同……?」

 なんかいきなり胡散臭い話になってきたな。

「別に難しい話じゃねぇ。馬車の代金の一部を俺も出すから、俺も乗せて行ってもらいてぇって話だ。出すのは折半だが、アンタと違って俺は馬車が欲しいわけじゃなくて、足が欲しいだけだからどうせ買っても目的地についたら売りに出すことになる。大体2割で売れると考えてその半額の1割分かれる時に返してもらいたい……って事だが、どうだ?」

 5割出して1割回収……実質4割か。まぁ計算上は妥当な提案ではあるな。2割で売り抜けるかどうかはまた別の話として、言ってることにそこまでおかしなところは見受けられない。
 まぁ有りか無しかで言われると、有り寄りの有りなんだが……

「そういう理由ならまぁ、考えても良いのかもしれんが、まだ何ともいえんな。この街の馬車の値段が分からんことには、こちらの手持ちで足りるかどうかも分からん。話を聞いてたなら把握してると思うが、金を稼ぐ時間が必要になるなら、その時間で歩こうって考えてるからな」
「目的地の距離次第ではあるが、急ぐというならならどう考えても数日掛けてでも、移動の足を確保するべきだと思うが……」
「馬車で街道を行くと襲われる怖いご時世だからな。いちいち盗賊相手に絡まれるのもどうかと思ってなぁ。それくらいなら武器引っさげて歩いてたほうが、襲う側も躊躇する可能性もあると思ってな」
「そりゃ考えすぎだ。そんな賢い連中が兵士や傭兵にならずに野盗なんてやってると思うか? 連中、自分たちより数が少ない相手なら深く考えず襲いかかってくるぞ? 徒歩で居ようもんなら、逃げ足がないとか考えて喜んで襲ってくるだろうよ」
「む……そこまでアホなのか?」

 ソレは流石に、想定してなかった。ヤバそうな相手には手を出さず隠れるくらいの知恵はあると思ったんだが……馬鹿すぎて相手がやばい相手なのかも理解できない輩か……

「まぁこの辺りの野盗くらいなら俺と相方の二人なら問題なくやれるとは思うが、馬鹿に絡まれ続けるのはゴメンだな……」
「うん……? 相方がいるのか?」
「まぁな。二人旅ってやつだ」
「ならば、尚の事馬車は有用だろうよ。速度と襲撃リスクを考えて天秤にかけていたか?」
「馬の体力もな。その上で、馬車で稼げる速度と、馬車を買うための金策の時間を考えて……」
「そこまで思いついてるのに見落とすか? 二人旅なんだろう? 交互に御者をやるだけで移動時間も稼げて休眠も取れるだろ。野宿とどっちが安全だと思う?」
「あ」

 そうか、俺達と馬が一緒に休む必要がない。交互に休憩を取りながら御者をしつつ、馬が疲れたら休憩するって方法で行けば確かにかなり距離が稼げそうだな……
 なんでこんな単純な事に気が付かなかったんだ? ゲーム脳に毒されすぎて、何でもシステムや効率で考えすぎたか。

「徒歩での旅と馬車での移動を比べれば、倍とまでは行かずともそれに近い距離を稼げる。一月の旅だとすれば、その半分。馬車を買うための金策が効率悪いと考えるか?」

 2倍から1.5倍計算か。確かにこの街に来るまでの旅からして、その速度感は間違っていないと思う。正直あの速度には驚かされたからな。
 乗馬と違ってパカラッパカラッと走るわけではなく、荷台を引いての旅だからノシノシと歩く程度の速度だ。だが馬のノシノシは人の歩く速さに比べれば遥かに早いし体力もある。
 現実の馬車であればそこまで速度が出るようなものではないと思うが、馬力が違うのかこの世界の馬車が移動手段としては中々侮れないのは、実体験として既に経験済みだ。

「長期的に見れば足を止めてでも買うだけの価値はあると」

 急がば回れ、か。

「国境をまたぐような旅をするつもりなら素直に足を見つけるべきだ。その方が体力的にも速度的にも理にかなってる。少なくとも俺はこうやって初対面の傭兵相手に相乗り提案するくらいにはそう思ってる」
「そこまで言ってくれるのは有り難いがね。兎にも角にもまずは値段の確認だ。払えんものはどうにもならん。あとは金額と稼ぎの時間が釣り合ったらだな」
「それはそうだな。まずは確認と行こう。そもそも俺らが買うべき馬車が売れ残っているとも限らない」
「あぁ、それもあるな。取らぬ狸の……というやつか」

 いや、自動翻訳は使ってねぇぞ? そんなことわざまであんのか。 というか狸居るのかよ。

「何にせよまずは馬車を売ってるところに行かなきゃ話にならんな。今日は相方に宿の確保を頼んでるから一度戻らなきゃならん」
「今からすぐに押さえたい所なんだが……ま、相方がいるなら仕方ないか」
「店を回るとしたら明日だな。その場合、待ち合わせの場所を決める必要があるか」
「そうだな。だったら鍛冶屋の通りの入口で良いだろう。職人通りの看板があるからすぐに分かるだろう?」
「あぁ、あそこか。たしかに分かりやすくはある」

 西部劇でみるようなアーチの看板が通りの入口にかかってて、めっちゃ目立つ。確かに待ち合わせには丁度いい場所だ。

「なら、そこに昼過ぎに、だな。飯を済ませたら合流だ」
「あぁ、わかった。それで行こう。……所で、アンタの名前は?」
「おっと、コイツは失礼。俺はランド。ランド・クルーガーだ」

 一瞬、ごっつい車を思い浮かべてしまった。

「俺はキョウ。名字はない。……という訳で明日は頼む」
「ああ、それじゃあな」


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