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五章
三百九話 サルマーレの鍛冶屋?Ⅱ
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「さて、アンタの剣はこれで終いだ。切れ味は取り戻したはずだけど、もう剣自体に結構ガタが来ているし、もう一本新しいのを用意するのをおすすめするぞ」
そう言って、傭兵へ手渡された武器はなる程、錆は落ちて鏡のような……とは流石にいかないが、新品の包丁のように金属的な光沢を取り戻している。これでガタが来ているとはひと目では解らないな。
「ああ。助かった。しかし、やっぱりもう駄目か。長いこと使ってきたからな……」
「まぁ武器ってのは消耗品だ。どれだけ丁寧に使っても戦場で相手に叩きつける道具なんだから寿命は短いもんだよ」
「確かにな。そこは割り切るしか無いか……そら、金額はコレで間違ってないか?」
「ああ、問題ない」
さて、傭兵分の武器は剣だけのようだし、終わったと言うことはやっと俺の番か。
まぁ、二人の会話を聞いてるだけでいい時間つぶしになってたし、あんま待たされたって気はしなかったけどな。
「さて、次はアンタのだが……また随分とイロモノを使ってるな」
「これが一番頑丈みたいだったんでな」
「へぇ? ……む……こいつは」
背負ったミアリギスを渡してみせると、途端に目の色が変わった。
「アンタ、偶然だろうけどうちに来たのは正解だったな」
「ん? どういう事だ?」
「コイツ、分かりやすい効果は無いが、間違いなく魔道具、魔剣の類だ」
「魔剣……? コイツがか?」
「間違いない。機構の大半は機能してないようだが、不壊の術式は正常に稼働しているみたいだ」
あ、ミアリギスが頑丈なのって、特殊な素材を使ってるとかじゃなくて、そういう術がかけられてるからなのか。
チェリーさんの槍やエリスの短剣みたいに目に見えた魔法っぽい効果が無かったから、てっきり特殊で頑丈な作りの普通の武器だと思ってたわ。妙に重いのも、中にガッツリ芯が詰まってて、だから頑丈なんだとばっかり。
「コレを普通の鍛冶屋に頼んでも手に負えなかっただろうね。術式で強化されてるが造り自体は中々に複雑だ。うっかりバラそうものなら新たに組み直すことは出来ないと思うよ」
「マジで?」
「ああ。この手の武具を見慣れた俺でも、事前に詳細に調べなければバラしてしまうのは躊躇われる。幸い、このまま研ぎを入れても問題ない作りになっているようだから手入れする分には問題ないが、何も知らん三流武器屋に渡せば下手すると武器を失うことになりかねないよ」
「そいつは流石に困るんだが……」
長年……というほど長くはないが、それでも一緒ににやってきた武器だ。勝手に壊されるのは堪らない。
「この武器自体は複雑な機構で組み上げられてはいるけど、さっき言ったように機能の大半は死んでいる。だからただ頑丈になる術式が掛かっている武器として扱えば問題はない。素人知識でバラそうとしなければね」
「……つまり?」
「あえて魔道具だと見ず、ただ頑丈な武器として扱えば問題ないって話だよ」
「そりゃ分かりやすくていい」
今更、丁寧に扱えとか言われても困るところだった。なんせ頑丈だって理由でこの武器を選んだわけだからな。
魔道具として考えなくて良いなら、メンテナンスに余計な金が掛かるようなこともないだろうしな。
「機構は全て武器の内側に組まれているみたいだから、普通の武器のように手入れしてやれば問題ない。不壊のおかげで刃こぼれの心配もないし、定期的に研いで脂や錆びを落としてやるだけで良いからアンタでも問題なくやれるだろうよ。なんせ特性のおかげで『やりすぎて』武器を痛めるなんて心配もないからな」
「そうか。壊れないんだもんな。なら確かに俺でもやれそうな気がする」
「そもそも、このサビに見えてるものも、表層に付着した血や油のカスが変色しているだけで、武器自体は一切の腐食がない。武器機能的には問題ないから見た目の汚さに目を瞑れば手入れ自体も要らない武器だねこれは」
「いや、流石に血糊や汚れでガビガビになった武器を振り回すのは嫌だから研ぎくらいは覚えてみるさ」
素人が触って一番怖いのは、治すつもりでぶっ壊してしまうことだ。その心配がないどころか、どう扱っても壊れないってならむしろ安心して触ることが出来るってもんだ。
変にニワカ知識で手を出されると、壊されるかも知れないだなんて聞かされたなら尚のことだ。
「しかし惜しいな。もう少し時間があればこの武器の事を色々調べてみたかった。死んでいるとは言っても、中々興味をそそられる機構だよ。ここまで複雑な機構を盛り込んだ武器、しかも強度を兼ね備えているとなるとそう目にお目にかかれるものじゃない。本来なら素材と術式ですべて解決すべき魔剣の性能や強度の問題点を、意地になって否定しているような……きっと製作者はかなりの偏屈者だろうね」
「そんなに特殊なのか?」
「特殊だとも。普通、魔剣というのは通常の武器では到達できない性能を実現するために作られる物だよ。例えば斬るだけではなく、傷口を焼き切る炎の魔剣だとか、風を纏い、本来届かない所まで切り裂く風の魔剣といった感じでね」
「確かにに魔剣と言われると、大体そういうのを思い浮かべるな」
「基本的に魔剣は攻撃性を高めるのが普通だからね。武器の本質が破壊なのだから、持ち味を伸ばすのは当然の話という訳だね」
ま、武器としてはそれが正しいよな。現実でもゲームでも、武器を買い換える理由は基本的に今使ってる武器よりも攻撃力が高いからだ。今使ってる武器に比べて攻撃力は変わらないけど少し頑丈だから……という理由で普通の武器と比べて何倍も高い金を払って魔剣を買う人はそうそう居ない……と思う。
まぁ、見た目目的で買い換える人もいるが、あれは武器としてと言うよりも美術品的な意味合いが強いだろう。
「魔剣と言う物が、そこらの鉄で作られてる訳じゃないという事くらいは解るよね?」
「そりゃまぁ、そうだろうな」
「今さっきも少し話したけれど、魔剣が特殊な素材や高価な金属を使うのは術式付与によって限界を超える性能を引き出すための耐久性を確保するためさ。炎を宿す剣がただの鉄じゃ、溶けて使い物にならないだろう? 通常の武器にはない性能を付加する代償に、武器へ掛かる負担に耐える素材でなきゃならないのさ」
「……? まぁ、そうだな。確かにそんな事を言ってたのは聞いていたよ」
「本当に判ってる? ソレはつまり、魔剣という武器に使われる素材はあくまで付与される術式に適応するための物で、魔剣という武器の価値のほぼ全ては付与される術式にあるという事だよ。決して武器としての性能を上げる為に高価な素材を使うわけじゃない」
んん……?
魔剣としての力を引き出すための素材であって魔剣の性能を上げるためじゃない……? あ、いや違うな。
剣としての性能……切れ味や耐久性のために使われるわけではなく、あくまで付与術の仕様に耐えるための素材だと言いたいんだな。そして魔剣は攻撃性を高めるのが常識だというのなら、それはつまり……
「つまりこう言いたいのか。そもそも魔剣に必要な攻撃力を付与せずに、その余地を使ってわざわざ高価な素材を消費して耐久力を付与するという行為自体が魔剣としては普通じゃないと。しかもその耐久付与の目的が別の機構のためというのが……」
「そういう事。セオリーを捨てて、武器の耐久性を必要以上に高めるとしても、それは術式によってすべて解決するのが普通という話だよ。複雑な機構なんて必要ない。不壊の術式に耐えられる素材で武器を作って、後は術式発動で事足りる訳だ。耐久の付与、複雑な機構の組み込みどちらもとてもじゃないが正道とは言い難い」
そう言われると確かに、ひと手間余分なことをしてる気がするな。効率性が攻撃力に直結する武器にしては、その『無駄』は確かに違和感を感じるかも知れない。言われてみれば、ってレベルだが。
っていうかめっちゃ語るな。
「だけど、現実にこの武器は不壊の術式をかけた上で何らかの複雑な機構を組み込んでいる。継ぎ目からしておそらく衝撃を逃がすだとかそういった機構ではない。それに穂先に集中していることから……恐らくだが変形するための機構だね。パーツを継ぎ直して武器の重心を変えるためのものだと思うんだけど……」
変形機構とはまた中々ロマンに溢れる響き……だが、話から推察するに、多分ミアリギスの逆反り刃の部分の形状が微妙に変わって武器の使い勝手が多少変わるくらいなんだろうな。それっぽい継ぎ目、本当に先端の方にしかないし。あまり過度な期待はしないに限るな、今回の場合は。
「つまり変形武器を実現するために頑丈さを高めてるって事か?」
「僕の推察ではそう言うことになるんだが、そうなるとわざわざ変形機構を用意した理由が解らないんだよ。武器に関して言えば頑丈さと複雑な機構というのは水と油だ。絶対に相容れない。機構が増えれば増えるだけ、武器は重くなり損耗率も故障率も跳ね上がっていくからね。それに、いくらパーツ自体が『不壊』であっても、それを繋げるパーツとパーツの継ぎ目が壊れてしまえば当然バラバラになってしまう。そんなリスクを抱えるくらいなら別の重心の武器を二本揃えたほうが安上がりだし安定する。そんな事はこの武器を作った職人だって判ってたはずだ」
そうか、ミアリギスが妙に重いのは複雑な機構を組み込まれてる分か。となれば、確かに普通の重さ、普通の性能で継ぎ目のない単純な『不壊』の武器を二本用意したほうがリスク管理的にも経済的にも良いはずだ。重さのアドバンテージもないとなると、嵩張るかどうかくらいの違いしか残っていない。
「にもかかわらず、攻撃性を捨てて術式を防御に振ってまで武器の重心を変える事に拘るなんて、普通の魔剣職人ならまず絶対やろうとしないハズ」
「相当にこの武器はイロモノって事か。まぁ、使ってる俺が魔剣だなんて全く気付かないくらいに質実剛健な武器だったしなぁ」
「そう。正道からは大きくハズレた、言い方は悪いがゲテモノの類だ。今までの僕であれば議論に値しないような代物だったんだが……この武器を見て、少し考えが変わった」
「……というと?」
ゲテモノと言ってのけるくらいに正道の魔剣とは外れた武器だと認めた上で、魔具の研究者が見方を変えるなにかがあるってことか? この泥臭いくらいにガチガチな実用本位な武器にか?
「この武器は残念ながら、故障してしまったんだろう。変形機構は死んでしまっているが、それでもこれだけ複雑な機構を内包した武器が、コレほど手荒く扱われて武器としては全く死んでいない。つまり少なくとも変形機構の内の一形態と不壊は問題なく共存できているという証明だ。それはつまり、2種の能力を武器に無理なく付与しているという事になるじゃないか。一般的な魔剣としての攻撃力は持たないかも知れないが、複数の特性を武器の性能を落とさないまま付与させるというこの試みを試そうとした発想にこそ、僕は惹かれるね」
スキルスロット付き武器を連想した俺は根っからのゲーマーなんだろうか。
普通の魔剣は攻撃スキルを一つ付与できるスロットを持ったモノが一般的。でもこの武器は『変形』や『不壊』といった防御寄りのスキルスロットが2つついた武器という訳だ。どっちの性能が高いかは置いておいて、武器としての可能性は確かにあると思う。
で、コイツはテンプレ化している最強ビルドとは外れているが、性能的な限界値は既存のものより高い物を作る偏屈な魔剣職人(仮)の考えに研究者的なアンテナがなんか反応しちまったって訳か。
……まぁ、昔からネトゲとかでテンプレから外れた奇天烈なスキルビルド組むヤツって一定数いるから、この武器の製作者はその手の人種だってことなんだろうな。
「まさか俺の使ってた武器がそんな偏屈な武器だったとはなぁ」
というか壊れない武器とか、俺なら多少火力が高い武器なんかよりも遥かに欲しい性能だと思うんだが、一般的じゃねぇのか……? MMOのエンドコンテンツみたいに、0.1%でも火力を上げるために装備を整えるような場合ならともかく、普段遣いの武器で破損しないとか最強だと思うんだが……
そう言って、傭兵へ手渡された武器はなる程、錆は落ちて鏡のような……とは流石にいかないが、新品の包丁のように金属的な光沢を取り戻している。これでガタが来ているとはひと目では解らないな。
「ああ。助かった。しかし、やっぱりもう駄目か。長いこと使ってきたからな……」
「まぁ武器ってのは消耗品だ。どれだけ丁寧に使っても戦場で相手に叩きつける道具なんだから寿命は短いもんだよ」
「確かにな。そこは割り切るしか無いか……そら、金額はコレで間違ってないか?」
「ああ、問題ない」
さて、傭兵分の武器は剣だけのようだし、終わったと言うことはやっと俺の番か。
まぁ、二人の会話を聞いてるだけでいい時間つぶしになってたし、あんま待たされたって気はしなかったけどな。
「さて、次はアンタのだが……また随分とイロモノを使ってるな」
「これが一番頑丈みたいだったんでな」
「へぇ? ……む……こいつは」
背負ったミアリギスを渡してみせると、途端に目の色が変わった。
「アンタ、偶然だろうけどうちに来たのは正解だったな」
「ん? どういう事だ?」
「コイツ、分かりやすい効果は無いが、間違いなく魔道具、魔剣の類だ」
「魔剣……? コイツがか?」
「間違いない。機構の大半は機能してないようだが、不壊の術式は正常に稼働しているみたいだ」
あ、ミアリギスが頑丈なのって、特殊な素材を使ってるとかじゃなくて、そういう術がかけられてるからなのか。
チェリーさんの槍やエリスの短剣みたいに目に見えた魔法っぽい効果が無かったから、てっきり特殊で頑丈な作りの普通の武器だと思ってたわ。妙に重いのも、中にガッツリ芯が詰まってて、だから頑丈なんだとばっかり。
「コレを普通の鍛冶屋に頼んでも手に負えなかっただろうね。術式で強化されてるが造り自体は中々に複雑だ。うっかりバラそうものなら新たに組み直すことは出来ないと思うよ」
「マジで?」
「ああ。この手の武具を見慣れた俺でも、事前に詳細に調べなければバラしてしまうのは躊躇われる。幸い、このまま研ぎを入れても問題ない作りになっているようだから手入れする分には問題ないが、何も知らん三流武器屋に渡せば下手すると武器を失うことになりかねないよ」
「そいつは流石に困るんだが……」
長年……というほど長くはないが、それでも一緒ににやってきた武器だ。勝手に壊されるのは堪らない。
「この武器自体は複雑な機構で組み上げられてはいるけど、さっき言ったように機能の大半は死んでいる。だからただ頑丈になる術式が掛かっている武器として扱えば問題はない。素人知識でバラそうとしなければね」
「……つまり?」
「あえて魔道具だと見ず、ただ頑丈な武器として扱えば問題ないって話だよ」
「そりゃ分かりやすくていい」
今更、丁寧に扱えとか言われても困るところだった。なんせ頑丈だって理由でこの武器を選んだわけだからな。
魔道具として考えなくて良いなら、メンテナンスに余計な金が掛かるようなこともないだろうしな。
「機構は全て武器の内側に組まれているみたいだから、普通の武器のように手入れしてやれば問題ない。不壊のおかげで刃こぼれの心配もないし、定期的に研いで脂や錆びを落としてやるだけで良いからアンタでも問題なくやれるだろうよ。なんせ特性のおかげで『やりすぎて』武器を痛めるなんて心配もないからな」
「そうか。壊れないんだもんな。なら確かに俺でもやれそうな気がする」
「そもそも、このサビに見えてるものも、表層に付着した血や油のカスが変色しているだけで、武器自体は一切の腐食がない。武器機能的には問題ないから見た目の汚さに目を瞑れば手入れ自体も要らない武器だねこれは」
「いや、流石に血糊や汚れでガビガビになった武器を振り回すのは嫌だから研ぎくらいは覚えてみるさ」
素人が触って一番怖いのは、治すつもりでぶっ壊してしまうことだ。その心配がないどころか、どう扱っても壊れないってならむしろ安心して触ることが出来るってもんだ。
変にニワカ知識で手を出されると、壊されるかも知れないだなんて聞かされたなら尚のことだ。
「しかし惜しいな。もう少し時間があればこの武器の事を色々調べてみたかった。死んでいるとは言っても、中々興味をそそられる機構だよ。ここまで複雑な機構を盛り込んだ武器、しかも強度を兼ね備えているとなるとそう目にお目にかかれるものじゃない。本来なら素材と術式ですべて解決すべき魔剣の性能や強度の問題点を、意地になって否定しているような……きっと製作者はかなりの偏屈者だろうね」
「そんなに特殊なのか?」
「特殊だとも。普通、魔剣というのは通常の武器では到達できない性能を実現するために作られる物だよ。例えば斬るだけではなく、傷口を焼き切る炎の魔剣だとか、風を纏い、本来届かない所まで切り裂く風の魔剣といった感じでね」
「確かにに魔剣と言われると、大体そういうのを思い浮かべるな」
「基本的に魔剣は攻撃性を高めるのが普通だからね。武器の本質が破壊なのだから、持ち味を伸ばすのは当然の話という訳だね」
ま、武器としてはそれが正しいよな。現実でもゲームでも、武器を買い換える理由は基本的に今使ってる武器よりも攻撃力が高いからだ。今使ってる武器に比べて攻撃力は変わらないけど少し頑丈だから……という理由で普通の武器と比べて何倍も高い金を払って魔剣を買う人はそうそう居ない……と思う。
まぁ、見た目目的で買い換える人もいるが、あれは武器としてと言うよりも美術品的な意味合いが強いだろう。
「魔剣と言う物が、そこらの鉄で作られてる訳じゃないという事くらいは解るよね?」
「そりゃまぁ、そうだろうな」
「今さっきも少し話したけれど、魔剣が特殊な素材や高価な金属を使うのは術式付与によって限界を超える性能を引き出すための耐久性を確保するためさ。炎を宿す剣がただの鉄じゃ、溶けて使い物にならないだろう? 通常の武器にはない性能を付加する代償に、武器へ掛かる負担に耐える素材でなきゃならないのさ」
「……? まぁ、そうだな。確かにそんな事を言ってたのは聞いていたよ」
「本当に判ってる? ソレはつまり、魔剣という武器に使われる素材はあくまで付与される術式に適応するための物で、魔剣という武器の価値のほぼ全ては付与される術式にあるという事だよ。決して武器としての性能を上げる為に高価な素材を使うわけじゃない」
んん……?
魔剣としての力を引き出すための素材であって魔剣の性能を上げるためじゃない……? あ、いや違うな。
剣としての性能……切れ味や耐久性のために使われるわけではなく、あくまで付与術の仕様に耐えるための素材だと言いたいんだな。そして魔剣は攻撃性を高めるのが常識だというのなら、それはつまり……
「つまりこう言いたいのか。そもそも魔剣に必要な攻撃力を付与せずに、その余地を使ってわざわざ高価な素材を消費して耐久力を付与するという行為自体が魔剣としては普通じゃないと。しかもその耐久付与の目的が別の機構のためというのが……」
「そういう事。セオリーを捨てて、武器の耐久性を必要以上に高めるとしても、それは術式によってすべて解決するのが普通という話だよ。複雑な機構なんて必要ない。不壊の術式に耐えられる素材で武器を作って、後は術式発動で事足りる訳だ。耐久の付与、複雑な機構の組み込みどちらもとてもじゃないが正道とは言い難い」
そう言われると確かに、ひと手間余分なことをしてる気がするな。効率性が攻撃力に直結する武器にしては、その『無駄』は確かに違和感を感じるかも知れない。言われてみれば、ってレベルだが。
っていうかめっちゃ語るな。
「だけど、現実にこの武器は不壊の術式をかけた上で何らかの複雑な機構を組み込んでいる。継ぎ目からしておそらく衝撃を逃がすだとかそういった機構ではない。それに穂先に集中していることから……恐らくだが変形するための機構だね。パーツを継ぎ直して武器の重心を変えるためのものだと思うんだけど……」
変形機構とはまた中々ロマンに溢れる響き……だが、話から推察するに、多分ミアリギスの逆反り刃の部分の形状が微妙に変わって武器の使い勝手が多少変わるくらいなんだろうな。それっぽい継ぎ目、本当に先端の方にしかないし。あまり過度な期待はしないに限るな、今回の場合は。
「つまり変形武器を実現するために頑丈さを高めてるって事か?」
「僕の推察ではそう言うことになるんだが、そうなるとわざわざ変形機構を用意した理由が解らないんだよ。武器に関して言えば頑丈さと複雑な機構というのは水と油だ。絶対に相容れない。機構が増えれば増えるだけ、武器は重くなり損耗率も故障率も跳ね上がっていくからね。それに、いくらパーツ自体が『不壊』であっても、それを繋げるパーツとパーツの継ぎ目が壊れてしまえば当然バラバラになってしまう。そんなリスクを抱えるくらいなら別の重心の武器を二本揃えたほうが安上がりだし安定する。そんな事はこの武器を作った職人だって判ってたはずだ」
そうか、ミアリギスが妙に重いのは複雑な機構を組み込まれてる分か。となれば、確かに普通の重さ、普通の性能で継ぎ目のない単純な『不壊』の武器を二本用意したほうがリスク管理的にも経済的にも良いはずだ。重さのアドバンテージもないとなると、嵩張るかどうかくらいの違いしか残っていない。
「にもかかわらず、攻撃性を捨てて術式を防御に振ってまで武器の重心を変える事に拘るなんて、普通の魔剣職人ならまず絶対やろうとしないハズ」
「相当にこの武器はイロモノって事か。まぁ、使ってる俺が魔剣だなんて全く気付かないくらいに質実剛健な武器だったしなぁ」
「そう。正道からは大きくハズレた、言い方は悪いがゲテモノの類だ。今までの僕であれば議論に値しないような代物だったんだが……この武器を見て、少し考えが変わった」
「……というと?」
ゲテモノと言ってのけるくらいに正道の魔剣とは外れた武器だと認めた上で、魔具の研究者が見方を変えるなにかがあるってことか? この泥臭いくらいにガチガチな実用本位な武器にか?
「この武器は残念ながら、故障してしまったんだろう。変形機構は死んでしまっているが、それでもこれだけ複雑な機構を内包した武器が、コレほど手荒く扱われて武器としては全く死んでいない。つまり少なくとも変形機構の内の一形態と不壊は問題なく共存できているという証明だ。それはつまり、2種の能力を武器に無理なく付与しているという事になるじゃないか。一般的な魔剣としての攻撃力は持たないかも知れないが、複数の特性を武器の性能を落とさないまま付与させるというこの試みを試そうとした発想にこそ、僕は惹かれるね」
スキルスロット付き武器を連想した俺は根っからのゲーマーなんだろうか。
普通の魔剣は攻撃スキルを一つ付与できるスロットを持ったモノが一般的。でもこの武器は『変形』や『不壊』といった防御寄りのスキルスロットが2つついた武器という訳だ。どっちの性能が高いかは置いておいて、武器としての可能性は確かにあると思う。
で、コイツはテンプレ化している最強ビルドとは外れているが、性能的な限界値は既存のものより高い物を作る偏屈な魔剣職人(仮)の考えに研究者的なアンテナがなんか反応しちまったって訳か。
……まぁ、昔からネトゲとかでテンプレから外れた奇天烈なスキルビルド組むヤツって一定数いるから、この武器の製作者はその手の人種だってことなんだろうな。
「まさか俺の使ってた武器がそんな偏屈な武器だったとはなぁ」
というか壊れない武器とか、俺なら多少火力が高い武器なんかよりも遥かに欲しい性能だと思うんだが、一般的じゃねぇのか……? MMOのエンドコンテンツみたいに、0.1%でも火力を上げるために装備を整えるような場合ならともかく、普段遣いの武器で破損しないとか最強だと思うんだが……
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