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五章
三百四話 街道は治安が悪いⅣ
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予想外だったな。イブリスって割と他人がどうなろうと知ったこっちゃないった感じだと思ってたんだが、こんなに真剣に意見を出すとは思わなかった。
「まぁ、私も以前は王に仕えた過去もありますので、少々気になった……それだけですわ」
「あ、そういやそんな事も言ってたな」
その王様と全盛期のシアに挑んだんだっけか。
「まさか、アンタ王佐の精霊だったのか!?」
「実際そうですけど、そんな大層なものではありませんわよ?」
「いや、十分大したものではあると思うんだがな。それで、その王佐の精霊の気になることというのは?」
「別に難しい話ではありません。新しい王が旧来の王を倒して国を盗るのは、別に珍しい話ではありませんわ。ですが、旧来の王が何も考えずに国を滅ぼすような者だらけというわけではありません。愚王とて、王の座は国なくしては有り得ないことくらいは理解するでしょうし、己の権勢が国力によって支えられている事は理解しているでしょう。ごく一部を除いて」
……そんな一言を付け加えるってことは、本当に居たんだろうな。そのごく一部って奴。
「そこを理解しないで国盗りを行った末に、国を滅ぼすというのもまた良くある話なんですの。不自然とも言える他国との関係に疑問を持つなら良いです。ですが、そうなった経緯を理解しようともせずに事を起こせば、その不自然な外国によって国民の預かり知らぬ裏で保たれてきた平和が崩れる……そういうのままた良くある話なのですわ」
「なるほどなぁ」
「国を盗れば、盗った者には国を自由に出来る権利と共に、国をを活かし国民を生かす義務が生まれます。その時に、そんな事も理解できない者が王となるとしたら、それは国民にとってとんでもない悲劇となるでしょう」
そういう話ならまぁ分からんでもない。表では憎しみ合ってる国のTOP同士が裏では手を結んで第三国を牽制している……なんてのは戦記物のノベルなんかでは良くある展開だ。
政治についてはあまり詳しくないが、ニュースでも似たような話を見たような記憶がある。
「つまり、今この国が何故このような状況に陥っているのか、その裏を知れと?」
「えぇ。たとえそれが良案であれ愚策であれ、革命じみた形で王位簒奪が為されるほど国が傾いていたというのなら、その原因となった事象を知ることは次代の王にとっては必須でしょう。でなければ、同じ過ちを繰り返す恐れもあるのですから。そもそも、貴方の国の場合、外国との関係も絡んできますから、既にかわされている国家間の取り決めから全て把握する必要がありますわ」
「まぁ、原因云々は兎も角それは必須だろうな」
「何故だ? 前王が結んだ協定は一度破棄して、新しく協定を結び直すのがフェアだろう?」
「エルマー、アンタそれ本気で言ってるのか?」
「もし、真面目にそのような事を言っているのなら国取りなど考えないほうがよろしいでしょうね」
「……待ってくれ。俺はそこまでおかしなことを言っているのか?」
団長として、傭兵団の運営をしているから、こういう外交的な基礎知識みたいなのは持っていると思ってたんだが……
いや、そもそも基礎学力が現代日本人とは違うんだから、政権に一度も関わってなければ知りようもないのかもしれんが。
「じゃあ聞くが、コレまでアルタヤに対して優位な条件で取引していた周辺国が、王が変わったからこれからは割高で取引しろなどと言われて納得すると思うか?」
「不正な取引を是正するだけだろう? まかり通っていた邪道を正道へ正すだけだ。そりゃ、交渉するためにある程度は手土産が必要なのは理解しているが……」
「そうじゃないだろう。交渉のテーブルに着く必要性が無いんだよ、アルタヤ相手に優位な立場を捨てる交渉にのテーブルに座るような奴がいるとしたら、それは更に優位な条件を引き出せると確信を持っている相手くらいだろうよ」
「そもそも、外交に正道が有るとすれば、それはいかに自国へ優位な条件を勝ち取るかですわ。自国も相手国も共に富めるというなら、それこそベストでしょう。利益とともに心証も手に入れられますから」
「そうだろう。利益は大事かもしれないが、信用関係だって国家間の関係構築には欠かせない要素のはずだ。だからこそ……」
まぁ、win-winの関係を築けるならそれに越したことはねぇわな。信頼取引程安定した関係はないのだから。
……ただまぁ、そう簡単にはいかないわなぁ。
「ですが最も重要視すべきは自国を優位にする事。そして基本的に一人が富めばその分誰かが損をするのがこの世の常。その天秤を如何に自国側へ傾かせるか、その為の戦いこそが外交ですわ。アルタヤ相手に不平等な取引を成立させるために、表の交渉だけでなく裏の暗闘も含めて、一体相手の国がどれだけの出費や出血を強いられたのでしょうね?」
「ぐ……」
そう、利権を手にするために、相手国がどれほどの投資を行っているのかは、調べなければ解らない。アルタヤ相手とは限らない。周辺国同士でも、少しでも自国がアルタヤを食い荒らすために暗闘を行っていたかも知れない。だからその投資度合いによっては相手は絶対に交渉のテーブルに着かない、そういった事もありえる。
「外交というのはそういう物ですわ。表向き優位に見えても裏で出血を強いられていることもあれば、その逆もまた然り」
国家間の取り決めは、王が変わったから今までの約束は無効……なんて都合のいい話にはならない。そんな事が許容されていては、一時的に国難を凌ぐために、仕方なく結んだ不平等条約なんかも、自国が安定し次第王をすげ替えていつでも無かった事に出来てしまうからだ。
王が変わったからと、周辺国との約束を保護になんてしたら、それこそ宣戦布告に他ならない。
「たとえ国民を納得させることが出来る大義名分をもって国盗りが成功したとしても、周辺国を納得させられなければ、周辺国から袋叩きにあい、最悪国が滅びますわよ」
「……それが、さっきのアンタの言葉の意味か。今のこの国の現状ですら、まだマシだった……となる可能性があると?」
「そこは詳しく調べてみないと判りませんわ。事実、なにか弱みを握られて他国の財布になっているだけという可能性だってありますもの。ですが……」
「そうではない可能性を認識しないと、国を滅ぼしかねないと」
「ま、そうなる可能性はそれなりにあるでしょう。守るものが大きくなるほどリスクの管理は重要ですわ」
言いたいことは言ったのか、それ以降イブリスは口も瞼も閉じて大人しくなった。これ以上はエルマーへのアドバイスは口にするつもりはないようだな。
……ただ、話の流れでちょっと気になることもあった。
「イブリスが仕えてた奴はどういう王様だったんだ?」
別にエルマーに助け船を出すつもりはないが、参考意見くらいにはなるかも知れないと、わざと口に出してイブリスに聞いてみた。
「……そうですわね、参考にはならないと思いますが、まぁ良いでしょう。彼女は彼女で特殊でしたわ。元々本人は王になどなる気は微塵もありませんでしたから。白の魔女と呼ばれた彼女は、実際己の知識と力を蓄えることにしか興味を持たない娘でした」
彼女……って事は女王だったのか。
「彼女は異端でした。学派や宗派などどうでもよく、ただ己の知識欲を満たすためだけに何でもやった。そんなだから故に命を狙われることも多かったですわ。ただ基本的には温厚で、他人に興味を持たない人でしたわね。だから、例え刺客を送り込まれたとしても、排除すれば特に自分を狙った相手を調べもせず、研究に没頭していましたわ。まぁ、あまりにしつこい相手には、これ以上ちょっかい掛けられるのは面倒だからと直接乗り込んで黙らせるほどの過激な一面もありましが」
なんというか……普段はおとなしくて引っ込み思案だけど、キレると手がつけられないとか現代の若者的な奴か?
「そんな事を繰り返している内に、その力を恐れた周囲が勝手に彼女を崇拝し下っていったのですわ。そして、そうした者達が表舞台に全く興味を示さない白の魔女の名を使い、勝手にその威を借りて勢力を拡大していった結果、いつの間にか巨大国家となっていました」
「それで王様になっちまうのは、たしかに異端だなぁ」
祭り上げられて神輿にされる王ってのは、ファンタジー系のストーリーではかなりよく聞く話だが、そういうのともまた少し毛色が違うらしい。
「本人にその気は欠片もなかったのに、気がつけば大国の王になっているのですからね。気がついたときには彼女にはどうにもならない流れが出来ていました。ですが、意外にもその国は安定していました。権力を握る人間が皆白の魔女を心の底から畏れていたからですわ」
「本人が無自覚のまま成立する恐怖政治かよ」
「まさにソレそのものでしたわ。そして彼女も流石に王である以上国のことをなんとかしなければと思うようになっていきました。しかし政治に詳しくなかった。研究にしか興味がなかった分、スレていなかった。でもそれが珍しく良い方に機能したんでしょう。彼女は基本的に国民を虐げる事を嫌いました。物語に出てくるような『良い王様』のイメージで国を動かすように周囲に言い含めました。そして、その周囲……つまり勝手に国を大きくした重鎮たちは、その白の魔女の言葉を全力で叶えていった。結果、実に平和な国となりましたわ」
「一番あくどい連中が、最も魔女の恐怖に囚われていたおかげで成立した平和国家か。本人が異端なら、国のあり方まで異端とか中々にぶっ飛んでるな」
権力を求めて勝手してきた連中が白の魔女の怖さを一番知ってるからこそ、ある意味で絶対的な忠臣になってたのか。
権益はほしい、でも白の魔女には逆らえない。そしてその魔女は平和をご所望だ。だから、本来マフィアのボスとか悪徳貴族になるような連中が、平和な国家運営で何とか自分達の利益を生み出したいと必死になる。結果、社会の闇の部分からの圧力によって小悪党共が締め付けられて、クリーンで富のある国の出来上がると。
正義のマフィアってなんなんだ……たまにニュースで見かけた、表で地域貢献活動するヤクザ的なもんか?
「まぁ、経緯は兎も角、結果的にその白の魔女は歴史に名を残すような偉大な王になっちまったわけだ。本人の意志とは無関係に」
「……そう上手くいかないのが、国の歴史という物なのですけどね」
「うん?」
「まぁ、彼女の話は兎も角として、そういう敬意があったので、私も少々国盗りの話に敏感になっていたのかもしれませんわ」
「確かに、一度王に仕えたことがあるなら、気になっても仕方ねぇわな」
俺だって、腕を壊してからはゲーセンとか行かなくなったが、格ゲーの話を小耳に挟むとどうしようもなく気になっちまうしな。
昔はどうだったとか、今のシステムは~とか、ついジジくさい話をしたくなっちまう。特に自分がその分野で一家言ある程度に知識があるなら尚の事。有識者……いや、オタクとは好きな事については多弁且つ早口に知識マウント取ってしまう生き物なのだ。
……まぁ、本当に重要な情報は武器としてこっそり隠しておくんだけどな。
「まぁ、私も以前は王に仕えた過去もありますので、少々気になった……それだけですわ」
「あ、そういやそんな事も言ってたな」
その王様と全盛期のシアに挑んだんだっけか。
「まさか、アンタ王佐の精霊だったのか!?」
「実際そうですけど、そんな大層なものではありませんわよ?」
「いや、十分大したものではあると思うんだがな。それで、その王佐の精霊の気になることというのは?」
「別に難しい話ではありません。新しい王が旧来の王を倒して国を盗るのは、別に珍しい話ではありませんわ。ですが、旧来の王が何も考えずに国を滅ぼすような者だらけというわけではありません。愚王とて、王の座は国なくしては有り得ないことくらいは理解するでしょうし、己の権勢が国力によって支えられている事は理解しているでしょう。ごく一部を除いて」
……そんな一言を付け加えるってことは、本当に居たんだろうな。そのごく一部って奴。
「そこを理解しないで国盗りを行った末に、国を滅ぼすというのもまた良くある話なんですの。不自然とも言える他国との関係に疑問を持つなら良いです。ですが、そうなった経緯を理解しようともせずに事を起こせば、その不自然な外国によって国民の預かり知らぬ裏で保たれてきた平和が崩れる……そういうのままた良くある話なのですわ」
「なるほどなぁ」
「国を盗れば、盗った者には国を自由に出来る権利と共に、国をを活かし国民を生かす義務が生まれます。その時に、そんな事も理解できない者が王となるとしたら、それは国民にとってとんでもない悲劇となるでしょう」
そういう話ならまぁ分からんでもない。表では憎しみ合ってる国のTOP同士が裏では手を結んで第三国を牽制している……なんてのは戦記物のノベルなんかでは良くある展開だ。
政治についてはあまり詳しくないが、ニュースでも似たような話を見たような記憶がある。
「つまり、今この国が何故このような状況に陥っているのか、その裏を知れと?」
「えぇ。たとえそれが良案であれ愚策であれ、革命じみた形で王位簒奪が為されるほど国が傾いていたというのなら、その原因となった事象を知ることは次代の王にとっては必須でしょう。でなければ、同じ過ちを繰り返す恐れもあるのですから。そもそも、貴方の国の場合、外国との関係も絡んできますから、既にかわされている国家間の取り決めから全て把握する必要がありますわ」
「まぁ、原因云々は兎も角それは必須だろうな」
「何故だ? 前王が結んだ協定は一度破棄して、新しく協定を結び直すのがフェアだろう?」
「エルマー、アンタそれ本気で言ってるのか?」
「もし、真面目にそのような事を言っているのなら国取りなど考えないほうがよろしいでしょうね」
「……待ってくれ。俺はそこまでおかしなことを言っているのか?」
団長として、傭兵団の運営をしているから、こういう外交的な基礎知識みたいなのは持っていると思ってたんだが……
いや、そもそも基礎学力が現代日本人とは違うんだから、政権に一度も関わってなければ知りようもないのかもしれんが。
「じゃあ聞くが、コレまでアルタヤに対して優位な条件で取引していた周辺国が、王が変わったからこれからは割高で取引しろなどと言われて納得すると思うか?」
「不正な取引を是正するだけだろう? まかり通っていた邪道を正道へ正すだけだ。そりゃ、交渉するためにある程度は手土産が必要なのは理解しているが……」
「そうじゃないだろう。交渉のテーブルに着く必要性が無いんだよ、アルタヤ相手に優位な立場を捨てる交渉にのテーブルに座るような奴がいるとしたら、それは更に優位な条件を引き出せると確信を持っている相手くらいだろうよ」
「そもそも、外交に正道が有るとすれば、それはいかに自国へ優位な条件を勝ち取るかですわ。自国も相手国も共に富めるというなら、それこそベストでしょう。利益とともに心証も手に入れられますから」
「そうだろう。利益は大事かもしれないが、信用関係だって国家間の関係構築には欠かせない要素のはずだ。だからこそ……」
まぁ、win-winの関係を築けるならそれに越したことはねぇわな。信頼取引程安定した関係はないのだから。
……ただまぁ、そう簡単にはいかないわなぁ。
「ですが最も重要視すべきは自国を優位にする事。そして基本的に一人が富めばその分誰かが損をするのがこの世の常。その天秤を如何に自国側へ傾かせるか、その為の戦いこそが外交ですわ。アルタヤ相手に不平等な取引を成立させるために、表の交渉だけでなく裏の暗闘も含めて、一体相手の国がどれだけの出費や出血を強いられたのでしょうね?」
「ぐ……」
そう、利権を手にするために、相手国がどれほどの投資を行っているのかは、調べなければ解らない。アルタヤ相手とは限らない。周辺国同士でも、少しでも自国がアルタヤを食い荒らすために暗闘を行っていたかも知れない。だからその投資度合いによっては相手は絶対に交渉のテーブルに着かない、そういった事もありえる。
「外交というのはそういう物ですわ。表向き優位に見えても裏で出血を強いられていることもあれば、その逆もまた然り」
国家間の取り決めは、王が変わったから今までの約束は無効……なんて都合のいい話にはならない。そんな事が許容されていては、一時的に国難を凌ぐために、仕方なく結んだ不平等条約なんかも、自国が安定し次第王をすげ替えていつでも無かった事に出来てしまうからだ。
王が変わったからと、周辺国との約束を保護になんてしたら、それこそ宣戦布告に他ならない。
「たとえ国民を納得させることが出来る大義名分をもって国盗りが成功したとしても、周辺国を納得させられなければ、周辺国から袋叩きにあい、最悪国が滅びますわよ」
「……それが、さっきのアンタの言葉の意味か。今のこの国の現状ですら、まだマシだった……となる可能性があると?」
「そこは詳しく調べてみないと判りませんわ。事実、なにか弱みを握られて他国の財布になっているだけという可能性だってありますもの。ですが……」
「そうではない可能性を認識しないと、国を滅ぼしかねないと」
「ま、そうなる可能性はそれなりにあるでしょう。守るものが大きくなるほどリスクの管理は重要ですわ」
言いたいことは言ったのか、それ以降イブリスは口も瞼も閉じて大人しくなった。これ以上はエルマーへのアドバイスは口にするつもりはないようだな。
……ただ、話の流れでちょっと気になることもあった。
「イブリスが仕えてた奴はどういう王様だったんだ?」
別にエルマーに助け船を出すつもりはないが、参考意見くらいにはなるかも知れないと、わざと口に出してイブリスに聞いてみた。
「……そうですわね、参考にはならないと思いますが、まぁ良いでしょう。彼女は彼女で特殊でしたわ。元々本人は王になどなる気は微塵もありませんでしたから。白の魔女と呼ばれた彼女は、実際己の知識と力を蓄えることにしか興味を持たない娘でした」
彼女……って事は女王だったのか。
「彼女は異端でした。学派や宗派などどうでもよく、ただ己の知識欲を満たすためだけに何でもやった。そんなだから故に命を狙われることも多かったですわ。ただ基本的には温厚で、他人に興味を持たない人でしたわね。だから、例え刺客を送り込まれたとしても、排除すれば特に自分を狙った相手を調べもせず、研究に没頭していましたわ。まぁ、あまりにしつこい相手には、これ以上ちょっかい掛けられるのは面倒だからと直接乗り込んで黙らせるほどの過激な一面もありましが」
なんというか……普段はおとなしくて引っ込み思案だけど、キレると手がつけられないとか現代の若者的な奴か?
「そんな事を繰り返している内に、その力を恐れた周囲が勝手に彼女を崇拝し下っていったのですわ。そして、そうした者達が表舞台に全く興味を示さない白の魔女の名を使い、勝手にその威を借りて勢力を拡大していった結果、いつの間にか巨大国家となっていました」
「それで王様になっちまうのは、たしかに異端だなぁ」
祭り上げられて神輿にされる王ってのは、ファンタジー系のストーリーではかなりよく聞く話だが、そういうのともまた少し毛色が違うらしい。
「本人にその気は欠片もなかったのに、気がつけば大国の王になっているのですからね。気がついたときには彼女にはどうにもならない流れが出来ていました。ですが、意外にもその国は安定していました。権力を握る人間が皆白の魔女を心の底から畏れていたからですわ」
「本人が無自覚のまま成立する恐怖政治かよ」
「まさにソレそのものでしたわ。そして彼女も流石に王である以上国のことをなんとかしなければと思うようになっていきました。しかし政治に詳しくなかった。研究にしか興味がなかった分、スレていなかった。でもそれが珍しく良い方に機能したんでしょう。彼女は基本的に国民を虐げる事を嫌いました。物語に出てくるような『良い王様』のイメージで国を動かすように周囲に言い含めました。そして、その周囲……つまり勝手に国を大きくした重鎮たちは、その白の魔女の言葉を全力で叶えていった。結果、実に平和な国となりましたわ」
「一番あくどい連中が、最も魔女の恐怖に囚われていたおかげで成立した平和国家か。本人が異端なら、国のあり方まで異端とか中々にぶっ飛んでるな」
権力を求めて勝手してきた連中が白の魔女の怖さを一番知ってるからこそ、ある意味で絶対的な忠臣になってたのか。
権益はほしい、でも白の魔女には逆らえない。そしてその魔女は平和をご所望だ。だから、本来マフィアのボスとか悪徳貴族になるような連中が、平和な国家運営で何とか自分達の利益を生み出したいと必死になる。結果、社会の闇の部分からの圧力によって小悪党共が締め付けられて、クリーンで富のある国の出来上がると。
正義のマフィアってなんなんだ……たまにニュースで見かけた、表で地域貢献活動するヤクザ的なもんか?
「まぁ、経緯は兎も角、結果的にその白の魔女は歴史に名を残すような偉大な王になっちまったわけだ。本人の意志とは無関係に」
「……そう上手くいかないのが、国の歴史という物なのですけどね」
「うん?」
「まぁ、彼女の話は兎も角として、そういう敬意があったので、私も少々国盗りの話に敏感になっていたのかもしれませんわ」
「確かに、一度王に仕えたことがあるなら、気になっても仕方ねぇわな」
俺だって、腕を壊してからはゲーセンとか行かなくなったが、格ゲーの話を小耳に挟むとどうしようもなく気になっちまうしな。
昔はどうだったとか、今のシステムは~とか、ついジジくさい話をしたくなっちまう。特に自分がその分野で一家言ある程度に知識があるなら尚の事。有識者……いや、オタクとは好きな事については多弁且つ早口に知識マウント取ってしまう生き物なのだ。
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