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四章
二百九十五話 打ち上げ?Ⅰ
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街に帰還した俺たちを待っていたのは、作戦成功を祝した宴会……というか会議に使った一角を使った打上会だった。
正直参加する義理はないんだが、格下の俺達が今回はそれなりに目立ってしまったし、出ないと角が立ちそうなんで出席することにした。夕飯代が浮くと考えれば、まぁアリだろう。
で、話がそれで終わるかと言えばそういう訳もない。
「おう、コッチだお二人さん!」
作戦後の打ち上げ会場で、例のレイドのリーダー格であるエルマーというこの男から唐突に二次会という名の密談のお誘いを受けた。帰り道に俺たちに打ち上げ参加の打診を掛けてきたのは、どうやらこっちが本命だったらしい。
正直まともに話したのは作戦中一度きりだったはずだ。確かに今回の戦闘で俺とイブリスの二人で魔物の足止めをやったから、目立っていた自覚はあるが……何故打ち合わせの後にわざわざ? と思う所もある。
「それで、わざわざ河岸を変えてまで俺達を呼んだのは?」
「性急だな。だがまぁ、気持ちはわかる。それにテメェのその態度から俺のことを全く覚えてない事は判った」
「うん? いや、作戦中にアンタに話は通したでしょ? ちゃんと覚えているぞ?」
「いいや? 俺達は以前に一度、別の場所で会っているぞ。そっちの姉ちゃんとは初対面だがな」
「え?」
以前に? それにこの国に来てからは常に俺とイブリスは一緒に行動していた。そのイブリスとは初対面ってことは、この国に来る前……シア達の所に飛ばされる前って事になるよな。
「あるじ様の記憶を少々覗いてみましたけど、記憶にはないようですわね。本当にお会いしたことがございますの?」
「まぁ、会った……と言っても奇襲を受けてあっと言う間に縛り上げられたからな。嘘偽り無く、俺の事なんざ覚えてないんだろうさ。俺だって驚いたんだぜ? ひと仕事終えて古巣へもどってくるなり、こんな離れた場所でまたテメェの面ァ拝むことになるなんてよ」
「奇襲? そんな状況ってなると……」
俺が先制で仕掛ける状況なんてそうあったことじゃない。
野盗の類は何度か撃退したことはあるが、どれも食い詰めた村人とか兵士崩れくらいだったはずだ。少なくともこいつのような組織をきっちり率いることが出来るような奴には出会った覚えがない。
となると、他に思い当たるのは……
「王都アルヴァスト攻防戦」
「……って事になるよな。アンタ等も参加していたのか? あの戦は緋爪単独での参加だったはずだけど」
「あそこはデケェが国との喧嘩なんて独力でやれるほどじゃねぇからな。よくあるんだよ、でかい戦場では付き合いのある傭兵団から隊長格の人員借り入れってやつが。そんで俺もその出向組の一人ってわけで小隊長として戦場とは別に動いてたんだ。月狼の捕獲任務でな」
「あぁ……市街地戦は俺達のほうが夜襲を受けた側だったから、となると森の中で潰したやつの中に居たのか」
「正解」
城へ向かう時、森を突破するために包囲網の間を抜けずにゲリラ戦仕掛けた時だな。
あの時は確かに相手の顔なんぞ覚えてる余裕はなかった……というか、真夜中の森の中、明かりなしでの襲撃戦だったからな。夜目の効かない俺じゃ注意してても相手の顔なんて見れやしなかったろうが。
「出向組ねぇ」
「まぁ昔なじみの誘いでな。だが、参加した価値はあった」
「負け戦でもか?」
「負けではないな。俺達の任務は確かに失敗したが、本命の国崩しの方は元のクライアントの契約不履行で契約相手が急遽変わっただけさ。それに、主戦場の話は後になって耳にしたが、乱入者による痛み分けの形で終わったそうじゃないか」
「あ~……アレか」
今思い出しても、アイツと対峙した時のことを思い出すと背筋が凍る思いだ。
キルシュやシア、イブリスといった俺が直接面識のある圧倒的強者達と比べても、あのバケモノのプレッシャーは常識の埒外だった。ゲームだと頭は理解していても、ビビらざるを得ないほどの迫力が確かにあった。
「ま、俺の部隊に関してはテメェ等を捕まえるどころか、逆に拘束されてたわけだから、言い逃れできないくらいにハッキリと負けだったがな」
「なんだそりゃ、負けを認めねぇかと思ったら、あっさり認めたりして……」
「別に、中立的な目線で見た結果の、率直な意見だよ」
「ふぅん」
結果だけで言えば、確かに緋爪は作戦自体は失敗しているけど、負けては居ないか。俺が城にたどり着いた時点でも戦況は拮抗していた筈だ。言ってることは確かに間違っちゃいないんだが、クーデター支援にハティの捕獲、両作戦ともに失敗してる時点で負けたようなもんだろと言いたくもある……が、まぁその辺は立ち位置の差か。
「で、そんな敵だった男が、俺達に何の用だ?」
「他意はねぇよ。ただ単純に話をしてみたかっただけだ。戦場で敵対した相手と生きて再開することも、こうして同じ側として戦うなんてこともそうそうある事じゃねぇからな」
「そりゃまぁ、確かに」
傭兵団が戦場で敵として出逢えば、それは殺し合い以外にありえない。無線技術等で戦場の状況が把握しやすくなった現代戦では3割の損耗で全滅だと何かで見た覚えがあるが、ここはファンタジーな世界だ。負けた側が生き残る確率はそう高くはないだろう。
「で、何が聞きたいんだ?」
「別に、本当に何かを聞き出そうと思ってたわけではないんだがな。だが答えてくれるというのなら聞かせてもらおうか」
おや、わざわざ呼び出しておいて用もないなんてこと無いだろと思ってつついてみたが、こりゃやぶ蛇だったか? 面倒くさい事を聞いてこなけりゃ良いが。
「まず何故こんな国で傭兵を? 他でもない、世界でも有数の傭兵団と直接ひと悶着起こしたおテメェだ。この国の傭兵の質の低さには気づいている筈だ」
「それか……」
まぁ、この国の内と外を両方知ってるこいつから見れば、確かにおかしく見えるかもしれないな。とはいえ、特別深い理由はねぇんだよなぁ
「俺は田舎の出身で、あまり外のことを知らなくてな。この国に迷い込んだ時に、この国は傭兵の国だから傭兵登録しておいたほうが何かと有利だとアドバイスを貰ったんだよ。俺達の旅は武者修行が目的で、日銭を稼ぐために協会には所属していたが傭兵登録なんてしてなかったからな」
「なるほど、それでか。実力とランクが見合わないんで何を考えてるのかと思ったぜ」
「別に傭兵を続けるつもりは特に無いからな。さっさと旅の資金を稼いで、アルヴァストへ帰るつもりだ」
「あの月狼達とは別行動中なのか? 元はと言えばあの戦いの一端は月狼に関しての物だったし、アレだけの狼をそう簡単に手放すとは思えねぇが……」
……言うべきか?
いや、一瞬でも迷った時点で何となく察されちまってるか。それに特に敵対する訳でもないし、隠すほどのことでもないか。
「まぁな。少々理由があって今は別々に行動しているが、合流するためにもすぐに戻るつもりだ」
「そうか、それを聞けただけでもこの場を作ったかいがあった。コッチとしてはテメェ等が敵に回る心配が無さそうだと言うだけでも朗報だからな」
「どんだけ俺等みたいな小物をを警戒してるんだよ」
確かに以前会った時よりも強くなってる自覚はある。恐らくだけど、レベルも4に届いてる予感がある。
とはいえ、それでも今の俺とキルシュが戦えば、勝つのは多分キルシュだろう。そこまで大きな団ではないと言っていたが、あのレベルの使い手が最前線に投入されるような傭兵団があるって事だろう。
こいつが一緒に行動していた緋爪の主戦場組だってキルシュほどじゃないにしろバケモノ揃いだった。俺をそこまで警戒する理由がよくわからんのだがなぁ。
「その小物に、主戦場から離れた場所だとはいえ緋爪が作戦を引っ掻き回されたんだ。そりゃ警戒するなって方が無理だろ」
「まぁ、アレは俺の力というか、ハティ頼りって面がかなりあったと思うがな」
「あの月狼か。まぁ、俺も最初はそう思ってたがな……まぁ良い」
いや、その思わせぶりな沈黙の先は結構気になるんだが?
「聞きたかった事なんての大体はその程度だな。元々何かを聞き出すつもりもなかったし」
「と言っても、何か話すような共通の話題なんてあるか?」
「そうだな……テメェはこの国と傭兵を見てどう思った?」
ふむ、この国の外を知る俺に本当に率直な意見を聞きたいだけ……って事か?
「そうだな。国のことは良くわからんが、あんたがさっき自分で言った通り傭兵の質はかなり低いと思うぞ。俺の知る傭兵関係者なんて数えるほどしか居ないが、ぶっちゃけ比べるのもおこがましいほど弱い」
ま、これが俺の嘘偽らざる感想だな。ハッキリ言ってそんな強さで傭兵やって大丈夫かと問いたい。
少なくとも今回の魔物対峙に参加した傭兵全部、今のまま戦場に出たら一方的に蹂躙されて終わるぞ。
「まぁ、国外を知ってるテメェならそう言うわな。アンタはどうだ? 契約者以外と意思疎通の出来る精霊ってのは初めてお目にかかるしな。良ければヒト以外の意見ってのも聞いてみたいんだが」
「まぁ、概ねあるじ様と同じ意見ですわね。ハッキリ言ってお話になりませんわ。今回参加した全員……いえ、この街に居る傭兵全員がかりだとしても、私相手に傷一つ負わせられませんわよ」
流石にこの大言には二の句が告げられないのか、一瞬固まったぞ。思いっきり顔がひきつってるし。
まぁ、精霊使いの精霊ってそこまで強力なわけでもないのが普通っぽいし、いくら弱いと自虐していても精霊からこうもはっきりと弱いと断言されるとは思ってなかった……って感じか。
「言うねぇ……それはつまり、コイツが命令すればアンタはこの街を制圧してみせると?」
「まぁ、それが可か不可かと問われれば、可と答えますわね。もちろん、あるじ様の命令があればの話ですけれど」
「しねぇよそんな命令。面倒くさいことになるのが目に見えてるじゃねぇか」
「面倒かもしれんが、街を手に入れるということはそれなりの利益も手に入る。金を要らないという奴はそうはいないと思うが?」
「そこまで金に執着はねぇよ。面倒と金を天秤に乗せれば面倒ごとの方に傾くっつの」
これが製品版で、ガッツリハマってプレイしてる状態なら、金策やクエスト報酬アイテム目当てに心が動いたかもしれないってのはあるけどな。
ここはテストサーバで、いくら金を稼いでも、自慢できる相手なんてチェリーさんくらいしか居ない。他のテスターともほとんど遭遇しないしな。正直ネトゲで金を貯めるのって最終的には競い合いのためなのよな。金額そのものだったり、自力入手困難なレアアイテムをマネーパワーで競り落としたり。でもテストサーバとなるとそういった要素がほぼ無いからそこまで金に執着は湧かねぇんだよなぁ。金策に時間使うのがなんか勿体ない感があって、旅費や食費と言った最低限と多少の蓄えがあればそれで良いって考えになっちまう。
「正直、傭兵で身を立てようって考えの奴としては異質だな。命を担保にしてんだから、取れる金は少しでも多くって考えるのが普通だろうに」
「言わんとしてることは俺も理解できるがな、金を稼いでる暇があれば強くなるために時間をかけたいし、今現在で言えば、さっさと仲間と合流するために手っ取り早く稼ごうと傭兵やってるだけなんだよ」
「あ~……金や名声よりも力を求めるタイプか。そういう事なら理解できる。何度かそういったやつを見たことあるしな」
いや、そこまでバトルジャンキーってわけでもないんだけどな?
……あれ、第一目標が強くなることって考えると、実はあながち間違ってないのか?
ヤバい、端から見たら確かにコイツが言うように見えるかもとか冷静に考えちまった。
正直参加する義理はないんだが、格下の俺達が今回はそれなりに目立ってしまったし、出ないと角が立ちそうなんで出席することにした。夕飯代が浮くと考えれば、まぁアリだろう。
で、話がそれで終わるかと言えばそういう訳もない。
「おう、コッチだお二人さん!」
作戦後の打ち上げ会場で、例のレイドのリーダー格であるエルマーというこの男から唐突に二次会という名の密談のお誘いを受けた。帰り道に俺たちに打ち上げ参加の打診を掛けてきたのは、どうやらこっちが本命だったらしい。
正直まともに話したのは作戦中一度きりだったはずだ。確かに今回の戦闘で俺とイブリスの二人で魔物の足止めをやったから、目立っていた自覚はあるが……何故打ち合わせの後にわざわざ? と思う所もある。
「それで、わざわざ河岸を変えてまで俺達を呼んだのは?」
「性急だな。だがまぁ、気持ちはわかる。それにテメェのその態度から俺のことを全く覚えてない事は判った」
「うん? いや、作戦中にアンタに話は通したでしょ? ちゃんと覚えているぞ?」
「いいや? 俺達は以前に一度、別の場所で会っているぞ。そっちの姉ちゃんとは初対面だがな」
「え?」
以前に? それにこの国に来てからは常に俺とイブリスは一緒に行動していた。そのイブリスとは初対面ってことは、この国に来る前……シア達の所に飛ばされる前って事になるよな。
「あるじ様の記憶を少々覗いてみましたけど、記憶にはないようですわね。本当にお会いしたことがございますの?」
「まぁ、会った……と言っても奇襲を受けてあっと言う間に縛り上げられたからな。嘘偽り無く、俺の事なんざ覚えてないんだろうさ。俺だって驚いたんだぜ? ひと仕事終えて古巣へもどってくるなり、こんな離れた場所でまたテメェの面ァ拝むことになるなんてよ」
「奇襲? そんな状況ってなると……」
俺が先制で仕掛ける状況なんてそうあったことじゃない。
野盗の類は何度か撃退したことはあるが、どれも食い詰めた村人とか兵士崩れくらいだったはずだ。少なくともこいつのような組織をきっちり率いることが出来るような奴には出会った覚えがない。
となると、他に思い当たるのは……
「王都アルヴァスト攻防戦」
「……って事になるよな。アンタ等も参加していたのか? あの戦は緋爪単独での参加だったはずだけど」
「あそこはデケェが国との喧嘩なんて独力でやれるほどじゃねぇからな。よくあるんだよ、でかい戦場では付き合いのある傭兵団から隊長格の人員借り入れってやつが。そんで俺もその出向組の一人ってわけで小隊長として戦場とは別に動いてたんだ。月狼の捕獲任務でな」
「あぁ……市街地戦は俺達のほうが夜襲を受けた側だったから、となると森の中で潰したやつの中に居たのか」
「正解」
城へ向かう時、森を突破するために包囲網の間を抜けずにゲリラ戦仕掛けた時だな。
あの時は確かに相手の顔なんぞ覚えてる余裕はなかった……というか、真夜中の森の中、明かりなしでの襲撃戦だったからな。夜目の効かない俺じゃ注意してても相手の顔なんて見れやしなかったろうが。
「出向組ねぇ」
「まぁ昔なじみの誘いでな。だが、参加した価値はあった」
「負け戦でもか?」
「負けではないな。俺達の任務は確かに失敗したが、本命の国崩しの方は元のクライアントの契約不履行で契約相手が急遽変わっただけさ。それに、主戦場の話は後になって耳にしたが、乱入者による痛み分けの形で終わったそうじゃないか」
「あ~……アレか」
今思い出しても、アイツと対峙した時のことを思い出すと背筋が凍る思いだ。
キルシュやシア、イブリスといった俺が直接面識のある圧倒的強者達と比べても、あのバケモノのプレッシャーは常識の埒外だった。ゲームだと頭は理解していても、ビビらざるを得ないほどの迫力が確かにあった。
「ま、俺の部隊に関してはテメェ等を捕まえるどころか、逆に拘束されてたわけだから、言い逃れできないくらいにハッキリと負けだったがな」
「なんだそりゃ、負けを認めねぇかと思ったら、あっさり認めたりして……」
「別に、中立的な目線で見た結果の、率直な意見だよ」
「ふぅん」
結果だけで言えば、確かに緋爪は作戦自体は失敗しているけど、負けては居ないか。俺が城にたどり着いた時点でも戦況は拮抗していた筈だ。言ってることは確かに間違っちゃいないんだが、クーデター支援にハティの捕獲、両作戦ともに失敗してる時点で負けたようなもんだろと言いたくもある……が、まぁその辺は立ち位置の差か。
「で、そんな敵だった男が、俺達に何の用だ?」
「他意はねぇよ。ただ単純に話をしてみたかっただけだ。戦場で敵対した相手と生きて再開することも、こうして同じ側として戦うなんてこともそうそうある事じゃねぇからな」
「そりゃまぁ、確かに」
傭兵団が戦場で敵として出逢えば、それは殺し合い以外にありえない。無線技術等で戦場の状況が把握しやすくなった現代戦では3割の損耗で全滅だと何かで見た覚えがあるが、ここはファンタジーな世界だ。負けた側が生き残る確率はそう高くはないだろう。
「で、何が聞きたいんだ?」
「別に、本当に何かを聞き出そうと思ってたわけではないんだがな。だが答えてくれるというのなら聞かせてもらおうか」
おや、わざわざ呼び出しておいて用もないなんてこと無いだろと思ってつついてみたが、こりゃやぶ蛇だったか? 面倒くさい事を聞いてこなけりゃ良いが。
「まず何故こんな国で傭兵を? 他でもない、世界でも有数の傭兵団と直接ひと悶着起こしたおテメェだ。この国の傭兵の質の低さには気づいている筈だ」
「それか……」
まぁ、この国の内と外を両方知ってるこいつから見れば、確かにおかしく見えるかもしれないな。とはいえ、特別深い理由はねぇんだよなぁ
「俺は田舎の出身で、あまり外のことを知らなくてな。この国に迷い込んだ時に、この国は傭兵の国だから傭兵登録しておいたほうが何かと有利だとアドバイスを貰ったんだよ。俺達の旅は武者修行が目的で、日銭を稼ぐために協会には所属していたが傭兵登録なんてしてなかったからな」
「なるほど、それでか。実力とランクが見合わないんで何を考えてるのかと思ったぜ」
「別に傭兵を続けるつもりは特に無いからな。さっさと旅の資金を稼いで、アルヴァストへ帰るつもりだ」
「あの月狼達とは別行動中なのか? 元はと言えばあの戦いの一端は月狼に関しての物だったし、アレだけの狼をそう簡単に手放すとは思えねぇが……」
……言うべきか?
いや、一瞬でも迷った時点で何となく察されちまってるか。それに特に敵対する訳でもないし、隠すほどのことでもないか。
「まぁな。少々理由があって今は別々に行動しているが、合流するためにもすぐに戻るつもりだ」
「そうか、それを聞けただけでもこの場を作ったかいがあった。コッチとしてはテメェ等が敵に回る心配が無さそうだと言うだけでも朗報だからな」
「どんだけ俺等みたいな小物をを警戒してるんだよ」
確かに以前会った時よりも強くなってる自覚はある。恐らくだけど、レベルも4に届いてる予感がある。
とはいえ、それでも今の俺とキルシュが戦えば、勝つのは多分キルシュだろう。そこまで大きな団ではないと言っていたが、あのレベルの使い手が最前線に投入されるような傭兵団があるって事だろう。
こいつが一緒に行動していた緋爪の主戦場組だってキルシュほどじゃないにしろバケモノ揃いだった。俺をそこまで警戒する理由がよくわからんのだがなぁ。
「その小物に、主戦場から離れた場所だとはいえ緋爪が作戦を引っ掻き回されたんだ。そりゃ警戒するなって方が無理だろ」
「まぁ、アレは俺の力というか、ハティ頼りって面がかなりあったと思うがな」
「あの月狼か。まぁ、俺も最初はそう思ってたがな……まぁ良い」
いや、その思わせぶりな沈黙の先は結構気になるんだが?
「聞きたかった事なんての大体はその程度だな。元々何かを聞き出すつもりもなかったし」
「と言っても、何か話すような共通の話題なんてあるか?」
「そうだな……テメェはこの国と傭兵を見てどう思った?」
ふむ、この国の外を知る俺に本当に率直な意見を聞きたいだけ……って事か?
「そうだな。国のことは良くわからんが、あんたがさっき自分で言った通り傭兵の質はかなり低いと思うぞ。俺の知る傭兵関係者なんて数えるほどしか居ないが、ぶっちゃけ比べるのもおこがましいほど弱い」
ま、これが俺の嘘偽らざる感想だな。ハッキリ言ってそんな強さで傭兵やって大丈夫かと問いたい。
少なくとも今回の魔物対峙に参加した傭兵全部、今のまま戦場に出たら一方的に蹂躙されて終わるぞ。
「まぁ、国外を知ってるテメェならそう言うわな。アンタはどうだ? 契約者以外と意思疎通の出来る精霊ってのは初めてお目にかかるしな。良ければヒト以外の意見ってのも聞いてみたいんだが」
「まぁ、概ねあるじ様と同じ意見ですわね。ハッキリ言ってお話になりませんわ。今回参加した全員……いえ、この街に居る傭兵全員がかりだとしても、私相手に傷一つ負わせられませんわよ」
流石にこの大言には二の句が告げられないのか、一瞬固まったぞ。思いっきり顔がひきつってるし。
まぁ、精霊使いの精霊ってそこまで強力なわけでもないのが普通っぽいし、いくら弱いと自虐していても精霊からこうもはっきりと弱いと断言されるとは思ってなかった……って感じか。
「言うねぇ……それはつまり、コイツが命令すればアンタはこの街を制圧してみせると?」
「まぁ、それが可か不可かと問われれば、可と答えますわね。もちろん、あるじ様の命令があればの話ですけれど」
「しねぇよそんな命令。面倒くさいことになるのが目に見えてるじゃねぇか」
「面倒かもしれんが、街を手に入れるということはそれなりの利益も手に入る。金を要らないという奴はそうはいないと思うが?」
「そこまで金に執着はねぇよ。面倒と金を天秤に乗せれば面倒ごとの方に傾くっつの」
これが製品版で、ガッツリハマってプレイしてる状態なら、金策やクエスト報酬アイテム目当てに心が動いたかもしれないってのはあるけどな。
ここはテストサーバで、いくら金を稼いでも、自慢できる相手なんてチェリーさんくらいしか居ない。他のテスターともほとんど遭遇しないしな。正直ネトゲで金を貯めるのって最終的には競い合いのためなのよな。金額そのものだったり、自力入手困難なレアアイテムをマネーパワーで競り落としたり。でもテストサーバとなるとそういった要素がほぼ無いからそこまで金に執着は湧かねぇんだよなぁ。金策に時間使うのがなんか勿体ない感があって、旅費や食費と言った最低限と多少の蓄えがあればそれで良いって考えになっちまう。
「正直、傭兵で身を立てようって考えの奴としては異質だな。命を担保にしてんだから、取れる金は少しでも多くって考えるのが普通だろうに」
「言わんとしてることは俺も理解できるがな、金を稼いでる暇があれば強くなるために時間をかけたいし、今現在で言えば、さっさと仲間と合流するために手っ取り早く稼ごうと傭兵やってるだけなんだよ」
「あ~……金や名声よりも力を求めるタイプか。そういう事なら理解できる。何度かそういったやつを見たことあるしな」
いや、そこまでバトルジャンキーってわけでもないんだけどな?
……あれ、第一目標が強くなることって考えると、実はあながち間違ってないのか?
ヤバい、端から見たら確かにコイツが言うように見えるかもとか冷静に考えちまった。
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父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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