ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
上 下
299 / 330
四章

二百八十七話 討伐隊Ⅰ

しおりを挟む
 という訳で、今日も元気に金稼ぎに行きましょうかね……と組合へ足を運んだ訳だが

「あるじ様、組合の方からお仕事の依頼が来てるのですけど……」
「組合の方から? 珍しいな」

 別途依頼を受けに行っていたイブリスが戻ってきたと思ったら、唐突にそんな話が。
 そろそろ仕事を初めて一週間。結構金がたまって来たし、そろそろ仕事の量を絞って旅の準備を……と思ってたんだが、このタイミングで組合側からの依頼とは。
 協会の仕事と違って、傭兵稼業では基本的に組合は仲介者でしかなく、実際の仕事は紹介された依頼者と直接交渉というのが普通だ。だから、組合からの直接依頼というのは今回が初めての話だな。

「うーん? どういう仕事か知らんけど、金ランクは参加義務とかは無いんだよな?」
「はい、なので参加要請ではなく仕事の斡旋という形ですわね。白金を中心とした討伐隊への参加が同行という話だった筈ですわ」

 斡旋か。
 正直な話、現状で既に最低限の金は稼ぎ終わっていると言っていい。わざわざ今このタイミングでリスクを負ってまで上のランクにまで手を伸ばして金を稼ぐ必要は無い。
 だけど、白金ランクの傭兵の実力や仕事の難易度を自分の目で見られるってのはちょっと惹かれるな。色々参考にできそうだ。

「ですわね。ここは受けてみるのが良いのではないですか?」
「そうだな。せっかくだから社会勉強って形で一つ受けてみようか」

 最近は金ランクの合同依頼では、何故か経歴も短く一番規模の小さい俺やイブリスが仕切り役を任されることが多かったから、もうワンランク上の大手の仕切りの手際とかも見てみたいとは思ってたんだよな。
 一応、本来のパーティでも何故か俺がリーダーって扱いになってるからな。パーティリーダーとしての勉強に少しは役立つかもしれない。
 ……正直、一番レベルが高いチェリーさんがリーダーやるべきだと思うんだがなぁ。

「まぁいいや。どのみち仕事は受けるつもりだったから、ちょっと話を聞いてみるか」
「そうですわね。ではこちらへ」

 イブリスに連れて行かれたのは、個室ではなく組合の奥にある大テーブルだった。
 既に結構な人数が集まってるな。結構大きなテーブルで、椅子の数もかなりあるのに、それでも椅子が足りてない。腰掛けている人の後ろに数人控えてるみたいだし、席に付いてるのは多分傭兵団の団長とかなんだろうけど、それでも足りてないってことは、相当な数が集められてるみたいだな。よく見ると顔なじみも何人か居る。
 まぁ俺らはどうせ二人だけだし、隅っこで大人しくしていよう。

「さて、予定よりも早いが、今回声をかけた傭兵団全てが揃っているようなので、会議を始めたいと思う」

 取り仕切ってるのは、格好から見て組合の職員か。初めて見る顔だけど、普段は現場には降りてこない組合組織のお偉いさんって所かね。

「今回集まってもらったのは、南の峡谷に現れた魔物討伐の参加者を募るためだ」

 魔物が出たのか。
 そういえばコッチに来てから一度も出会ってないな。最後に見たのはクフタリアの地下で戦って以来になるか。

「先日の土砂崩れで一部崩落した峡谷の調査に出ていた白金の傭兵団二つが、魔物の襲撃によって壊滅した。恐らく崩落した峡谷の奥から出てきてしまったのだろう。調査用の装備であったとしても、白金クラスを二つも潰すだけの戦力だ。準備を整えたとしても白金単体で挑むべき相手ではないと組合は判断し、複数団による共闘討伐依頼を出すことに決まった」

 まぁ、妥当な判断だな。いくら調査目的だったとしても、街から離れた峡谷だ。獣の襲撃なんかにも備えていただろうし戦闘装備が無かったとは思えない。それが2団纏めて潰されたとなれば、慎重に動くのは当然のことだ。

「討伐目標は峡谷で発見された魔物。数は1。大型の奇形タイプで、不死型という情報を得ている」

 その言葉を聞いた途端、周囲の空気がハッキリと変わった。

「よりによって不死型の魔物だと……」
「討伐と言うが、不死型魔物の討伐なんて可能なのか?」

 不死型というとアンデッド……まぁようするにゾンビとかスケルトンとかそういうタイプの事だよな。
 そういやこのゲーム始めて、まだ一度もアンデッドには遭遇してないが、ここまで恐れられるような存在なのか?

『不死型の魔物は、躯屍蟲のような寄生群体等によって身体を食い荒らされ侵食されたモノのことを指しますわ。不死型は基本的に外傷によって死亡することが有りません。たとえ頭や心臓を吹き飛ばされても、群体によって形成されているためすぐに再生してしまいます。滅ぼすには群体が内包している養分を全て枯渇させるほどに殺し尽くすか、再生を許さぬほどの高火力によって一瞬で消し飛ばすくらいしか方法はありませんわ』

 流石イブえもん。俺の疑問に心を読んですかさず答えを提示してくれる。しかも気を利かせて脳内でこっそり答えてくれる心づくし。
 ってまぁ、それは良いんだが

『思ってた以上にエグそうだなそれ』
『あるじ様が思い浮かべるようなグールのような寄生型の屍肉喰らいは、脳に本体が寄生することが多いため、頭を潰せば倒すことが出来る分そこまで脅威では有りません。しかし不死型は全身の細胞一つ一つが何百万という躯屍蟲という小さな生き物で形作られた、集合体ですの。捕食した獲物に擬態して、別の獲物を襲うという厄介な危険生物なんですの』
『ファンタジーなホラーかと思ったら、バイオなハザードを起こしそうな化け物だった……』

 ようするに魔物の形をしてはいるが、実際は虫の群れが群がって魔物っぽい形に擬態してるって事だろう?
 想像するだけで気持ち悪そうで嫌になるんだが……

「むろん、討伐目標と呼称しているが、実際には封印を目標とする。討伐は不可能と思われるため可能な限り身体を切り分け、こちらの用意した鋼の檻に詰め込んで欲しい。後に本部から金剛製の封匣が届くので、到着次第そちらへ移し替え、首都で宮廷術士達が処理する手筈になっている」

 あぁ、一応対処法みたいなのは考えられてるのか。
 普通にやっても倒せないから、小さく切り分けて閉じ込めた後に火葬場までご案内って感じか。

「ここに集まってもらった者は全員ランクは金以上だ。つまりこの仕事は複数の白金の傭兵団を中心に金以上の傭兵団限定の合同依頼という訳だ。本隊を白金等級の傭兵団に、援護を金等級に頼む予定だ」

 既に白金等級の団が二つ潰されているという話だから、この割り振りは当然だろう。ただの援護だろうと、銀等級のような根無し草では信用の問題でも実力的な問題でも任せるには不安があると言うことだ。

「援護と言っても安全な仕事ではない。この辺りで魔物が現れたのはおおよそ30年ぶりだ。諸君の殆どが魔物と戦ったことがないだろう。だからコレは経験者として忠告になるが魔物に関わる依頼は後方支援も常に命の危険と隣り合わせだと思って欲しい。しかも今回は不死型だ。可能であれば霊銀等級も呼びたかったほどだ。白金の団が複数居るとはいえ、それでも大きな被害がでる可能性もある。依頼を受けるかどうかは十分考えて決めて欲しい」
「ま、ウチは迷うことなく参加だな。拠点の街の近くでそんな化け物をのさばらせておく訳にはいかんだろうよ」
「ウチは身軽な団だからね。拠点がどうとか気にするつもりはないけど、成功報酬が魅力的すぎるのよね」
「報酬が報酬だからな、無視できねぇわな。最近懐事情が良くなかったんだ。俺らも参加するぜ」

 色々理由があるようだが、皆殆ど迷った素振りもなく参加を決めていく。特に白金の連中は同格の団が潰された相手と正面切って戦おうという依頼にも関わらず、ほぼ迷いというものは見せなかった。こう言う判断の速さも団長に求められる要素の一つということか。
 しかし、やっぱり参加を決める要素の一つは報酬みたいだな。金等級の依頼報酬からしてみれば、この仕事一つの報酬が普段の仕事の10倍に匹敵する大金だ。しかも前線で戦うわけではなく、後方支援でそれだけの金が払われるのだから、リスクと報酬を天秤にかけるのは十分だと言うことだろう。
 白金等級の団の反応を見るに、今回の報酬は白金からしてみてもかなりの高額報酬だと見て取れる。
 逆に言うと、それだけ重要度の高い……危険な任務ということになるが、そんな事で尻込みするほど傭兵連中が小心者かと問われれば、答えはノーだろう。
 結局、この場にいる全ての傭兵団が参加を表明することになった。

 ちなみにウチもこっそりと挙手して参加側に表明しておいた。
 報酬は正直どうでも良かったが、不死型の魔物というのが気になったからだ。イブリスの話を聞くにかなり厄介な存在っぽいし、支援役という絶好の観戦席で不死型相手の戦い方なんかを確認できるというのが魅力的だったからな。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未
ファンタジー
 魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。  天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。  ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...