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四章

二百八十六話 傭兵稼業Ⅱ

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「なぁ、お前らはそれだけの実力があるってのに白金を目指したりしないのか?」
「うん……?」
「今回の依頼も、お前は相方の手すら借りずに一人で楽勝でこなしてただろう? 絶対金ランクで留まってるべき強さじゃないだろ」

 あれから討伐依頼を繰り返していると、ときおり大規模な依頼が回ってくることも時折ある訳だが、そういう依頼では複数の傭兵団との共同作戦になることもあった。
 正直依頼の達成だけなら俺達だけでもなんとかなるんだが、依頼主の方からそういう指定で依頼が出ている場合はどうしようもない。そしてこう言う大きな依頼のほうが実入りが良いからどうしても受けることが増えていく。
 すると、一つの街に滞在する金ランクの傭兵団なんて数限られてるもんだから、依頼での団ごとの方針や役割分担なんかを話している内に、団長格の中にはこうやって依頼の帰りに世間話をするような常連……というか顔なじみも出てくるわけだ。

「お前達なら頭数揃えるだけですぐに白金に上がれるだろう?」
「確かに、白筋に上がろうと思えば多分すぐ上がることは出来るんだろうなぁ」

 実際、俺とイブリスの二人で金ランクの傭兵団として活動しているが、最近は討伐依頼の難易度の低さから、二人別々に依頼をこなすことも少なくない。ここまで楽に依頼をこなして行けるのなら、白金でも多分やっていけるだろう。恐らく白金ランクに昇格するのに足らないのは傭兵団の規模だけだと思う。
 とはいえ、白金に上がる理由が思い当たらんのよなぁ。
 
「確かに、白金に上がれば稼ぎは増えるかもしれないけど、団を大きくしようとは思ってないからなぁ」
「何でだ? それだけの力があるのに上を目指そうとしないのか? 頭数を揃えるだけだろう?」
「いや、俺らの目下の目標は別の国にいる仲間と合流することなんだよ。そのための旅の資金のために金を稼いでるし、稼ぎ終わっていざ旅を始めるときに団の規模が大きくなっていたら旅の足が落ちるだろう?」
「なるほどなぁ。それにしても勿体ねぇ話しだぜ」

 まぁ、大規模傭兵団を夢見る連中からすると、勿体なく感じるかもしれねぇな。
 緋爪のような超大型傭兵団ともなれば国とも渡り合える。それだけの大仕事となると莫大な報酬も期待できるし、国からの依頼の遂行となればネームバリューだって凄いことになるだろう。ランクを上げて成り上がりを目指すなら団の拡大は最優先事項だろう。

「お前も、お前の相棒もたった一人で俺ら一団と同じだけの働きができるんだ、それなのに確実に手に入る地位よりも今手元に居ない仲間を優先するとか、俺にしたらお前の考えは理解不能なんだけどな」
「もしかしたら、いずれ団を大きくする事があるかもしれん。だが、それは仲間と合流してからだ。多分優先順位が俺とお前じゃ違うから、この話は平行線にしかならんと思うぞ」
「みたいだな。ホントわっかんねーぜ。力を持っていて、しかもあんなべっぴんで強い女まで引き連れて、それで野心がねぇとか」
「いや、無いわけじゃねぇと思うが……というかアイツは精霊だぞ」

 確かに人と同じような形をしてはいるけどさ……

「人だろうが精霊だろうがいい女なのは変わらねぇだろ。実際精霊や妖精とくっつく奴はたまに居るぞ」
「え、マジ?」
「人間サイズの精霊なんて俺は生まれて始めてみたけど、精霊や妖精は男も女も見た目が整ってる奴多いからな。契約で繋がると一体感も上がるっていうか……まぁそんな感じで、体のサイズや種族差なんて関係ないってくっつく奴らってのはそこまで珍しいわけじゃァねぇ。俺ぁてっきりお前らもそういう関係だと思ってたぜ」
「いや、そういうわけじゃァねぇな。まぁ一心同体ってのは間違いないが」

 精神的に同化してるみたいだしな。どういう仕組なのかコッチの考え読めるし。まぁその設定のおかげか、念話……というかこのゲームでは何故か制限されている直通のボイチャが使えるのは結構なメリットだと思う。

「というか人間と精霊で子供作れるのか?」
「別にくっついたってガキこしらえるのが義務ってわけじゃねぇだろ? というかサイズ差を考えろ。どう考えても子供なんて……お前達は例外みたいだが」
「結婚って子供作って育てるもんじゃねぇのか?」
「まぁ、一般的にはそうかもしれんけどよ。というか傭兵なんてやってたらガキなんて作っても弱点増やすだけだろうが。」
「それはまぁ……たしかにそうかもしれんが」

 結婚って家庭を作るためにするんじゃないのか? 子供作らないなら恋人止まりで良いような気もするんだが……まぁこの辺も平和な日本育ちの俺とこの世界の住人とだと考え方が根本的に違うんかな?

「力も女も持ってるのに、金や地位にだけ興味を持たない意味が分からんぜ」
「いやだから、全く興味ないわけじゃなくて、今そんな物があっても邪魔なだけだっていうな……」

 俺だってちゃんと腰を据えて落ち着ける家を手に入れたら、地位はまぁ面倒くさそうだから要らんけど、金貯めたりしたいと思ってるんだよ。まぁその前にエリスたちと合流して修業の旅が待ってるから、もっと先の話になるんだが。
 ……そういや、ハイナで習った建築技術も野宿くらいでしか役に立ってないし、いつかちゃんとした一戸建てを自力で建ててみてぇなぁ。

「だから、普通は邪魔だなんて……って本当に平行線だな。まぁそれは置いといてだ。白金は確かに10人以上って縛りがあるが、メリットが依頼料だけってわけじゃないんだぜ?」
「へぇ? 例えば?」
「一番単純なのは発言力だな。金と白金じゃ発言力に大きく差がある。仕事とかで意見を通しやすいってのは結構大きいんだぜ?」
「ふむ」

 確かに、自分の意見を通しやすいってのは、今回のような複数の傭兵団が集まってする仕事の時なんかには色々と優位に働くだろうな。変な役割を押し付けられる事もなくなるし、逆に自分のやりたい事を選びやすくなる。
 ……でも、それは背負う責任も大きくなるわけで、面倒の種にもなりかねんのだよなぁ。

「後は身分証としての信頼度。白金のタグは、いろいろな所で身分証明としてかなりの力がある。小さな関なんかだと何か事件とかが起きて検問掛けられたりしない限り、タグを提示するだけで素通りできるところも少なくないぜ?」
「金だと駄目なのか?」
「駄目ってわけじゃないが、田舎とか人の少ないところでない限りは、身分証としての力は弱いだろうな。ちょっとした街なんかに行くと流石に顔パス……というわけには行かないだろうな」

 白金以上のタグだと警察手帳並み、金なら免許証代わり程度には身分証明書としては有効ってところか。
 検問のたびにいちいち証明書類を作る必要がないってのは、旅ををする上でかなりおいしいのは間違いないな。

「まぁ、後は純粋に箔付けになるな。情報収集する時なんかに、そういう箔ってのは結構効いてくるもんだ」
「箔付けなぁ……まぁ、確かに仕事以外でもそういうのは役には立つか。とはいえなぁ」
「何だよ?」

 確かに、傭兵になろうとしたのは活動費を稼ぐためってのもあるが、あの男からこの国が傭兵で成り立っている以上、傭兵になっておいたほうが良いというアドバイスによるものだ。それはつまり箔付けの為に傭兵になったようなものだ。だから言ってる意味はよく分かる。ただし、だが俺の場合はそれ以前に大目的が存在するからな。

「何度も言うが、俺の今の最大の目的は仲間との合流なんだよ。傭兵団としての規模が大きくなると、足が重くなる以外にも、団の維持費が掛かるってことだろ? 宿泊費だって人数分必要だし、食費だってそうだ。薬なんかの消耗品の量も増えるし、なにより団員を食わすためにも支払う金が必要だ。団を維持しながら旅をするってのはそれだけ金が溶けていく訳で、常に金を稼いでいかなきゃならん。結果、目的地への到着はどんどん遠ざかっていく訳だ」
「どんだけ大事な仲間ならそうなるんだよ。血を分けた兄弟かなんかか?」

 血は分けては居ないが、まぁ兄妹みたいなもんだよな。対外的にも実情的にも。ほっとくことなんて出来ねぇよ。

「大型の傭兵団なら拠点を持ってるだろうし、そういう裏方の金勘定をする専門家だって雇ってるだろうけど、俺らはそうじゃないからな。身軽だからこそ優位に働くことだって多い。身分証としての力は正直魅力的だとは思うけどな。地位だの名誉だのなんてのは、仲間と合流してから好きにすりゃ良い」
「流石出来るやつは違うな。地位や名誉を好きにすりゃいいなんて普通言えねぇぞ?」
「まぁさっきも言ったが、俺はそっちに特に興味はねぇからな。仲間内に欲しい奴が居たらそいつが頑張ればいいって話だよ」
「へぇへぇ、無欲なこって。傭兵なんだからお高く止まらず、もっとギラギラと力を求めたほうが良いと思うがね、俺は」

 ゲームのジャンルによっては、地位とか名声上げにせいを出すんだろうけどな。俺もネトゲとかでもクエストは見つけ次第全部こなすタイプだったし。
 ただ、アルヴァストで権力者の暮らしを断片でも見ちまうと、あまりお近づきにはなりたくないと思っちまうんだよな。あの王様もかなりしんどそうだったし。
 でも、エリスやチェリーさんと合流した後なら、白金を目指すのは有りかもしれないな。合流したらその時点で5人になるし、旅をするのに上位のタグは色々有利っぽいしな。霊銀まで挙げなければ妙な義務も発生しないみたいだし、選択肢としては有りだと思う。
 ……まぁ、それも五人が集まったらの話だけどな。
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