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四章
二百七十九話 隠者の洞Ⅲ
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クソっ、今何された!?
追撃はなかったから咄嗟に転がって距離をとって頭を冷やす。
「ふむ。フェイントをきっちりと見て引っかかると言うことは、戦闘中に相手の攻撃を確認することが出来ているのか。大した集中と反応速度だ」
フェイントを見て引っかかる。
回し蹴りのフェイントを見抜いて裏拳を読み切った筈。それで踏み込んで……盛大に足を払われた。
「後ろ回し蹴りのフェイント動作から足払いに切り替えたのか」
「半分正解だ。切り替えたのではなく最初からそのつもりで仕掛けた。情けない話だが、運動不足の今の俺では頭の方で意識しても、身体の方が動きについてこないんでな」
「こっちが1つ目のフェイントに気付く前提での二段構えのフェイントか」
とことんまでにカウンターに特化した立ち回りなんだな。
しかも暴れ潰しといい、狙い撃つタイプじゃなく置きカウンターとでも言うのか、相手が反撃しようとすると勝手にカウンターになるような立ち回りを自然とやってやがる。
カウンターってのは言うほど簡単な技術じゃない。相手の攻撃に意識が流れた所を狙い撃つことで、意識の外から防御不能の一撃を返す。そこに相手が攻撃の為に前進した分の威力も上乗せするという高等技術だ。ただ攻撃に合わせればどこを攻撃しても良いわけじゃない。それを、鈍った身体でここまで自然に攻撃に組み込んでくるとか、運動不足になる前はとんでもない使い手だったんじゃ……
なるほど、確かにシアと肩を並べていただけの事はあるか。
「綺麗に刈り取ったからダメージは無い筈だ。もう暫く付き合ってもらうぞ」
「はいよ」
確かにダメージの方は殆どない。
ほぼ踏ん張りが効かないタイミングで足元を掬われたせいで、刈られた足の方にもまるで痛みが残っていないし、落ちたのも尻からだったから、頭を打つような事もなかった。ここまで全て想定通りだとしたら、こっちの動きが全部コントロールされていたということになる。
カウンター狙いというスタンスからも、コイツの戦い方は相手を思い通りに動かすタイプみたいだな。
圧倒的な反射神経によるものなのか、あるいは踏んできた場数からの経験則か、はたまた観察眼からの人読みか?
何にせよ迂闊に攻め込めばあっと言う間にカウンターの餌食。かと言って様子を見ようとしても……
「どうした、見ているだけでは何も起こらんぞ」
「チッ、本当に厄介だな、アンタの連携」
コレだ。
カウンターを織り交ぜた連続攻撃で押されてしまう。防御は論外だし、空振りさせてもモーション自体がコンパクトだから、当たらないと見るやすぐに次の攻撃へ繋げられてしまい、やはり迂闊な反撃は難しい。
いっそシアのように反撃する隙もないほどの連続技なら開き直って防御に徹することが出来るのに、明らかに意図的に連携に隙間を作ってるから手を出したくなって仕方がない。
あの奇妙な踏み込みを封印してくれているから、下がることで様子見程度の猶予は作ることが出来ている。それでも踏み込み自体は鋭いから見えてはいるが接近は止められない。そのうえ、あの踏み込みの代わりということなのか、速度の代わりに攻撃精度が突然跳ね上がった。今までのように回避し切るのは流石に無理だ。
どうしても避けきれない攻撃は、その後の連携に繋げられないよう、体勢を崩さないように受け流す。でもそれも繰り返せば相手に警戒されるのは当然で……
「む……」
「あっぶね!」
受け流しを嫌って織り交ぜてくるようになったフェイントにコチラが対処することで、一応まだ戦いは成立している。
「この短期間でフェイントを見切っているのか。大した観察眼と対応力だ」
「そいつはどうも」
……なんて返しはしたが、実際フェイントを見切れているわけじゃない。
最初から全て受け流すつもりで準備しておいて、避けきれない攻撃に対して向こうの攻撃が当たれば受け流し、そのタイミングで攻撃が当たらなければなりふり構わず後退するという動きを徹底しているだけだ。
昔やっていた格闘ゲームのガード技術を思いつきで実践してみただけなんだが、このアバターのフィジカル性能の高さでなんとか実現は可能らしい。
本命とフェイントの着弾差は、それこそ体感0.1秒くらい違いしかないから、普通に考えれば見てから反応してもまず間に合わないんだが、事前の受け流しからの対応という条件付があれば、受けと逃げに集中すれば思っていたよりはなんとかなるようだ。
受付猶予2フレームとかの特殊ガードを実践で成功させる連中に比べれば、0.1秒とかまだ難易度は低いだろ。多分。
「だが、下がるだけでは何も変わらんぞ」
「わーってるよ!」
距離を取るだけではまた詰められて終わりだ。だが、距離を詰めて放たれる最初の一撃までの短い間だけはコチラも自由に動くことが出来る。
そして、懐へ切り込んでくると判っていれば――
「む?」
コチラもカウンター狙いの一撃を『置いて』おくことくらいは出来る訳だ。
だが流石に素直に喰らってくれるほど甘くはないらしい。咄嗟の反応で踏み込みに合わせたフック気味の一撃を更にしゃがんで回避された。
まぁ、それも想定の範囲内だが。
流石に急激な踏み込みの途中バックステップのような無茶な動き取れないだろう。となれば、こちらの攻撃に対する行動は、素直に防御するか下に潜るかへ飛ぶ、或いは体制を崩してもスウェーするかのどれかだろう。だが、この男の踏み込みはコチラを逃さないよう、足元から潜り込むように踏み込んでくるから、超反応でも上へ飛ぶという選択肢はまずないだろう。となると、スウェーするか下へくぐるか、コチラの脇を抜けるか素直に防御の三択にまで行動を絞ることが出来る。
そしてスウェーも下への回避も基本的には下段への回避という点は変わらない。防御の場合も同様だ。ダメージを殆ど与えられないにしろ正面で相手を止められる。
ここまで相手の行動が絞れるなら、あとは正面と下方向に対応できる次の攻撃を用意すればいい。
「ビンゴ!」
予想通りフックをくぐって更に踏み込んでくるヤツのその顔へ右の膝を叩き込む!
「ぬっ!?」
だが、さすがの反応だ。読み勝った上で放ったはずのコチラの一撃もきっちりガードされてしまった。
正直今のは当たったと思ったんだけどな……
「ふむ……いまのは先程の俺の攻撃の模倣か」
「正解。良いカウンターだと思ったんだがけどな」
さっき俺が食らった回し蹴りとフックの二段フェイントからの足払いという一連の攻撃を真似て、二段フェイントとはいかないまでもフックからの狙い撃ちの膝蹴りだった訳だが……
「実際悪くなかった。実際大した応用力と対応速度だ。あの一瞬でコチラの動きを制限したな?」
「そこまで見切られんのか……」
「それだけ思考にゆらぎがありながら、その瞬間判断力はコチラの想定以上だ。俺の知る中でもそこまでの思考速度を持つ者は二人くらいしか思い当たらん」
「まぁその辺はたまに言われることもあるが、そこまで自覚はないんだけどな……」
これでも格ゲーで結果を出してきたんだ。それなりの反応速度を持ってる自負はある。ただ、それでも未だにネタとして使われる『小足見てから昇竜』とか、実践でそうそう成功させられる自信はないし、トップクラスではあっても、最速であるなんて自惚れもない。実際、コイツも俺程度の反応速度に二人も思い当たるらしいしな。
コイツにとって殆どの項目で劣ってる中、思考速度は俺を評価できる数少ない点だという事だろう。
「まだ続けるのか?」
「いや、おおよそのデータは取れた。今回はコレくらいで十分だろう」
「さよか」
なら良かった。
単純にそろそろ体力的にキツかったってのもあるが、あのまま続けても勝ちの目どころか次の手すら思い当たってなかったからな。本気で手が出し難くて戦い辛い。正直今のカウンターで倒せないまでも一発入れられると思ってたのに、あのタイミングで綺麗に防がれるとはなぁ。
流石あのシアの仲間ってだけの事はあるか。
ただ、実際に手合わせしてみて、その強さ以前に戦い方の質が全く違ったのは判った。
シアのアレは圧倒的な暴力に対してどう抗うかっていう稽古だった。当然シアはその圧倒的なフィジカルでこっちを圧倒してきた。だから、戦って感じるのは『辛い』という感情だ。
だけど、この男の場合はシアのような驚異的な身体能力を持っているようには見えない。もちろん、基礎パラメータは俺よりは遥かに高いだろうが、データ取りだからか要所要所で手を抜いてくれてたから普通に渡り合うことは出来た。その代わり、なんというか攻撃一つ一つが巧い。攻撃一つ一つに意味があるというか、技術的な物を感じる。
だからだろうか。コイツと戦って感じるのは『やり難い』というイメージだ。
だが、この手合わせ、やっておいてよかったという思いはある。
今回はお互い素手だからなんとかなった感がある。いざ実践でコイツのようなスタンスのやつと出会った場合、例えば相手が槍のようなリーチ武器だったり、短剣のような手数が多い武器だった場合だ。ミアリギスとは噛み合わないような間合いの相手に初見でこう言う立ち回りをされたら、苦戦どころの騒ぎではなかったはずだ。
だから、この手合わせは間違いなく俺にとってはプラスのやった甲斐のある戦いだった。
しかしまぁ同じ格上でも、こうも戦ってみて感じる感覚が違う。
恐らくはパーティ内の自分の役割によって戦いに対するスタンスが違っているんだろう。多分だけど、シアは多数の敵を引きつけるアタッカー型タンク、一方こいつは一対一での戦いに秀でた純ストライカー型だから、組み手でもそういう違いが出ていたんだろう。
立ち位置的には俺はどうなるんだろうか?
やっぱり格ゲー知識主体の1対1メインでやってる俺はストライカー役になるのか? チェリーさんはMMOのレベリング考慮してなのか何気に多対一向けの技多く持ってるしアタッカー型だよな。まぁ俺とチェリーさんがアタッカーとタンクを兼任って感じだ。エリスは明らかに後方支援と遊撃担当だな。ハティは……スペック高すぎて何でもやれそうな気がするけど、今までやってきたこと考えると遊撃って事にしとこう。
うちのパーティ、火力に偏ってんな……タンクもヒーラーも居ねぇぞ。
エルロイみたいなわかりやすいくらいに特化したタンクが居ないから、俺とチェリーさんがいかに早く相手を倒すかって感じだよな。ヒーラーに関しては……そういや国内有数っつってたエレクのパーティにも居なかったな。
というか俺が見たことあるのって、ハイナ村のおばばとアルヴァストの城くらいだ。もしかしたらヒーラーってのは超希少スキルだったりするのか?
……まぁ、ゲーム開始時にビルドを自由に決められるプレイヤーは例外だろうけどな。
追撃はなかったから咄嗟に転がって距離をとって頭を冷やす。
「ふむ。フェイントをきっちりと見て引っかかると言うことは、戦闘中に相手の攻撃を確認することが出来ているのか。大した集中と反応速度だ」
フェイントを見て引っかかる。
回し蹴りのフェイントを見抜いて裏拳を読み切った筈。それで踏み込んで……盛大に足を払われた。
「後ろ回し蹴りのフェイント動作から足払いに切り替えたのか」
「半分正解だ。切り替えたのではなく最初からそのつもりで仕掛けた。情けない話だが、運動不足の今の俺では頭の方で意識しても、身体の方が動きについてこないんでな」
「こっちが1つ目のフェイントに気付く前提での二段構えのフェイントか」
とことんまでにカウンターに特化した立ち回りなんだな。
しかも暴れ潰しといい、狙い撃つタイプじゃなく置きカウンターとでも言うのか、相手が反撃しようとすると勝手にカウンターになるような立ち回りを自然とやってやがる。
カウンターってのは言うほど簡単な技術じゃない。相手の攻撃に意識が流れた所を狙い撃つことで、意識の外から防御不能の一撃を返す。そこに相手が攻撃の為に前進した分の威力も上乗せするという高等技術だ。ただ攻撃に合わせればどこを攻撃しても良いわけじゃない。それを、鈍った身体でここまで自然に攻撃に組み込んでくるとか、運動不足になる前はとんでもない使い手だったんじゃ……
なるほど、確かにシアと肩を並べていただけの事はあるか。
「綺麗に刈り取ったからダメージは無い筈だ。もう暫く付き合ってもらうぞ」
「はいよ」
確かにダメージの方は殆どない。
ほぼ踏ん張りが効かないタイミングで足元を掬われたせいで、刈られた足の方にもまるで痛みが残っていないし、落ちたのも尻からだったから、頭を打つような事もなかった。ここまで全て想定通りだとしたら、こっちの動きが全部コントロールされていたということになる。
カウンター狙いというスタンスからも、コイツの戦い方は相手を思い通りに動かすタイプみたいだな。
圧倒的な反射神経によるものなのか、あるいは踏んできた場数からの経験則か、はたまた観察眼からの人読みか?
何にせよ迂闊に攻め込めばあっと言う間にカウンターの餌食。かと言って様子を見ようとしても……
「どうした、見ているだけでは何も起こらんぞ」
「チッ、本当に厄介だな、アンタの連携」
コレだ。
カウンターを織り交ぜた連続攻撃で押されてしまう。防御は論外だし、空振りさせてもモーション自体がコンパクトだから、当たらないと見るやすぐに次の攻撃へ繋げられてしまい、やはり迂闊な反撃は難しい。
いっそシアのように反撃する隙もないほどの連続技なら開き直って防御に徹することが出来るのに、明らかに意図的に連携に隙間を作ってるから手を出したくなって仕方がない。
あの奇妙な踏み込みを封印してくれているから、下がることで様子見程度の猶予は作ることが出来ている。それでも踏み込み自体は鋭いから見えてはいるが接近は止められない。そのうえ、あの踏み込みの代わりということなのか、速度の代わりに攻撃精度が突然跳ね上がった。今までのように回避し切るのは流石に無理だ。
どうしても避けきれない攻撃は、その後の連携に繋げられないよう、体勢を崩さないように受け流す。でもそれも繰り返せば相手に警戒されるのは当然で……
「む……」
「あっぶね!」
受け流しを嫌って織り交ぜてくるようになったフェイントにコチラが対処することで、一応まだ戦いは成立している。
「この短期間でフェイントを見切っているのか。大した観察眼と対応力だ」
「そいつはどうも」
……なんて返しはしたが、実際フェイントを見切れているわけじゃない。
最初から全て受け流すつもりで準備しておいて、避けきれない攻撃に対して向こうの攻撃が当たれば受け流し、そのタイミングで攻撃が当たらなければなりふり構わず後退するという動きを徹底しているだけだ。
昔やっていた格闘ゲームのガード技術を思いつきで実践してみただけなんだが、このアバターのフィジカル性能の高さでなんとか実現は可能らしい。
本命とフェイントの着弾差は、それこそ体感0.1秒くらい違いしかないから、普通に考えれば見てから反応してもまず間に合わないんだが、事前の受け流しからの対応という条件付があれば、受けと逃げに集中すれば思っていたよりはなんとかなるようだ。
受付猶予2フレームとかの特殊ガードを実践で成功させる連中に比べれば、0.1秒とかまだ難易度は低いだろ。多分。
「だが、下がるだけでは何も変わらんぞ」
「わーってるよ!」
距離を取るだけではまた詰められて終わりだ。だが、距離を詰めて放たれる最初の一撃までの短い間だけはコチラも自由に動くことが出来る。
そして、懐へ切り込んでくると判っていれば――
「む?」
コチラもカウンター狙いの一撃を『置いて』おくことくらいは出来る訳だ。
だが流石に素直に喰らってくれるほど甘くはないらしい。咄嗟の反応で踏み込みに合わせたフック気味の一撃を更にしゃがんで回避された。
まぁ、それも想定の範囲内だが。
流石に急激な踏み込みの途中バックステップのような無茶な動き取れないだろう。となれば、こちらの攻撃に対する行動は、素直に防御するか下に潜るかへ飛ぶ、或いは体制を崩してもスウェーするかのどれかだろう。だが、この男の踏み込みはコチラを逃さないよう、足元から潜り込むように踏み込んでくるから、超反応でも上へ飛ぶという選択肢はまずないだろう。となると、スウェーするか下へくぐるか、コチラの脇を抜けるか素直に防御の三択にまで行動を絞ることが出来る。
そしてスウェーも下への回避も基本的には下段への回避という点は変わらない。防御の場合も同様だ。ダメージを殆ど与えられないにしろ正面で相手を止められる。
ここまで相手の行動が絞れるなら、あとは正面と下方向に対応できる次の攻撃を用意すればいい。
「ビンゴ!」
予想通りフックをくぐって更に踏み込んでくるヤツのその顔へ右の膝を叩き込む!
「ぬっ!?」
だが、さすがの反応だ。読み勝った上で放ったはずのコチラの一撃もきっちりガードされてしまった。
正直今のは当たったと思ったんだけどな……
「ふむ……いまのは先程の俺の攻撃の模倣か」
「正解。良いカウンターだと思ったんだがけどな」
さっき俺が食らった回し蹴りとフックの二段フェイントからの足払いという一連の攻撃を真似て、二段フェイントとはいかないまでもフックからの狙い撃ちの膝蹴りだった訳だが……
「実際悪くなかった。実際大した応用力と対応速度だ。あの一瞬でコチラの動きを制限したな?」
「そこまで見切られんのか……」
「それだけ思考にゆらぎがありながら、その瞬間判断力はコチラの想定以上だ。俺の知る中でもそこまでの思考速度を持つ者は二人くらいしか思い当たらん」
「まぁその辺はたまに言われることもあるが、そこまで自覚はないんだけどな……」
これでも格ゲーで結果を出してきたんだ。それなりの反応速度を持ってる自負はある。ただ、それでも未だにネタとして使われる『小足見てから昇竜』とか、実践でそうそう成功させられる自信はないし、トップクラスではあっても、最速であるなんて自惚れもない。実際、コイツも俺程度の反応速度に二人も思い当たるらしいしな。
コイツにとって殆どの項目で劣ってる中、思考速度は俺を評価できる数少ない点だという事だろう。
「まだ続けるのか?」
「いや、おおよそのデータは取れた。今回はコレくらいで十分だろう」
「さよか」
なら良かった。
単純にそろそろ体力的にキツかったってのもあるが、あのまま続けても勝ちの目どころか次の手すら思い当たってなかったからな。本気で手が出し難くて戦い辛い。正直今のカウンターで倒せないまでも一発入れられると思ってたのに、あのタイミングで綺麗に防がれるとはなぁ。
流石あのシアの仲間ってだけの事はあるか。
ただ、実際に手合わせしてみて、その強さ以前に戦い方の質が全く違ったのは判った。
シアのアレは圧倒的な暴力に対してどう抗うかっていう稽古だった。当然シアはその圧倒的なフィジカルでこっちを圧倒してきた。だから、戦って感じるのは『辛い』という感情だ。
だけど、この男の場合はシアのような驚異的な身体能力を持っているようには見えない。もちろん、基礎パラメータは俺よりは遥かに高いだろうが、データ取りだからか要所要所で手を抜いてくれてたから普通に渡り合うことは出来た。その代わり、なんというか攻撃一つ一つが巧い。攻撃一つ一つに意味があるというか、技術的な物を感じる。
だからだろうか。コイツと戦って感じるのは『やり難い』というイメージだ。
だが、この手合わせ、やっておいてよかったという思いはある。
今回はお互い素手だからなんとかなった感がある。いざ実践でコイツのようなスタンスのやつと出会った場合、例えば相手が槍のようなリーチ武器だったり、短剣のような手数が多い武器だった場合だ。ミアリギスとは噛み合わないような間合いの相手に初見でこう言う立ち回りをされたら、苦戦どころの騒ぎではなかったはずだ。
だから、この手合わせは間違いなく俺にとってはプラスのやった甲斐のある戦いだった。
しかしまぁ同じ格上でも、こうも戦ってみて感じる感覚が違う。
恐らくはパーティ内の自分の役割によって戦いに対するスタンスが違っているんだろう。多分だけど、シアは多数の敵を引きつけるアタッカー型タンク、一方こいつは一対一での戦いに秀でた純ストライカー型だから、組み手でもそういう違いが出ていたんだろう。
立ち位置的には俺はどうなるんだろうか?
やっぱり格ゲー知識主体の1対1メインでやってる俺はストライカー役になるのか? チェリーさんはMMOのレベリング考慮してなのか何気に多対一向けの技多く持ってるしアタッカー型だよな。まぁ俺とチェリーさんがアタッカーとタンクを兼任って感じだ。エリスは明らかに後方支援と遊撃担当だな。ハティは……スペック高すぎて何でもやれそうな気がするけど、今までやってきたこと考えると遊撃って事にしとこう。
うちのパーティ、火力に偏ってんな……タンクもヒーラーも居ねぇぞ。
エルロイみたいなわかりやすいくらいに特化したタンクが居ないから、俺とチェリーさんがいかに早く相手を倒すかって感じだよな。ヒーラーに関しては……そういや国内有数っつってたエレクのパーティにも居なかったな。
というか俺が見たことあるのって、ハイナ村のおばばとアルヴァストの城くらいだ。もしかしたらヒーラーってのは超希少スキルだったりするのか?
……まぁ、ゲーム開始時にビルドを自由に決められるプレイヤーは例外だろうけどな。
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