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四章
二百七十八話 隠者の洞Ⅱ
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「なるほど。何となく気になってることは大体わかった。それで、俺は何をすれば良いんだ?」
「お前のデータを取らせてもらう必要があるわけだが……そうだな。俺と少し手合わせしてもらおうか」
手合わせ? 手合わせって戦いの……だよな?
「何故?」
データって、俺のアカウント……というかアバターの基本データじゃなかったのか?
戦闘データなんて取って何の意味があるんだ? バトルは好きだが無駄な戦いに付き合うのは御免だぞ。
「データを取るのに一番手っ取り早いのはフィジカルの数値の変動だ。実験薬でダメージを受けたり状態異常を引き起こしてデータを取るよりは、身体を動かして戦闘訓練の体で行ったほうがお前も気が楽なんじゃないか?」
「よし、それで行こう」
前言撤回。
人体実験なんぞまっぴらごめんだ。それなら戦闘訓練のほうが遥かにいい。
俺の身にもなるかもしれんしな。
こいつ、見た目は学者っぽい感じだけど、シアの仲間だっていうなら見た目は当てになんて出来ないだろう。
「どこでやるんだ?」
「データ取得だと言っただろう? その部屋でやる。機材は引っ込めるからお前はそこで待っていてくれ」
「ここで? 大事な実験施設なんだろ? 色々傷つけちまったりしないのか?」
「何を言うかと思えば。重要な実験施設だから、そこが一番頑丈なんだ」
おいおい、一体ここで普段どんな実験してるんだよ……
なんて考えている間に、機材はどんどん壁の中に消えていった。壁はあるけど自由に開閉できて隣の部屋とつながってるのか。
気がつけばアレだけ機材だらけだった実験室が、あっと言う間になにもない白い部屋と化していた。
「さて、それでは、準備は良いか?」
うお!? いつの間に部屋に入ってきてたんだ!? 全く気が付かなかった。
「準備の方はいつでも。……にしても学者肌だとおもったら随分と良い身体してるんじゃねぇか」
運動用にだろう、上着を脱いだその下から出てきたのは、学者とは思えないほどに引き締まった筋肉質な身体だ。
歴戦の戦士的なゴツい体つきというわけじゃないが、かなり鍛えてないとこうはならないだろう。
「あぁ、コレでも俺は昔はそれなりに前線に出張って戦ってたこともあるんだ。経験値という意味ではお前よりも遥かに上だと言うことを理解しておけ。まぁ、運動はそれなりに欠かさないようにはしてきたが、ご覧の通り最近はあまり鍛えるようなことはなかったから随分衰えちまってはいるがな」
いや、衰えてこれって、引きこもる前はどんな体型だったんだよ。
「言われなくても、シアの昔の仲間って時点で俺にとっては要注意人物リスト入りしてるんだよ!」
「ならば結構!」
言った途端、懐に潜り込まれていた。
マジかよ!? もう始まってんのか!
「ぐっ!?」
首をひねるようにして仰け反った俺の頬を回し蹴りの爪先がかすめていった。
とっさに体が動いてくれたが、少しでも反応が遅れていたらいまので終わってたぞ!?
それに……
「反応は悪くない」
蹴りの振り抜きの思い切りが良すぎる。こう言うときは――
「やっぱり、そうくるよな」
回し蹴りの反動のまま身体を回して、その反動を利用した背面蹴り気味に付きこむような蹴り。
格ゲーの蹴りの必殺技で良くあるんだよな、回し蹴り経由の連続技って。
「対応力も良い。初見の技でもきっちり避けるか」
技のモーションが止まらない時は次の技が来る前提で備えろってな。もうほとんど身にこびりついた癖みたいなもんだ。
このゲームは格ゲーと違って、相手に攻撃を当てれば動きが止まる訳じゃない。勢いがついていれば不完全であってもそのまま攻撃は飛んでくるってのは以前学んだからな。ガード中に攻撃に割り込むには、相手の完全に攻撃を躱しつつ一方的に反撃を当てる確実な方法がなければ挑戦すべきじゃない。
見切って受け流せればベストだが、初見の技を受け流せるほど達人じゃないからな、俺は。相手の動きを把握するまでは、無理な反撃を狙わず凌ぎきって距離をとって仕切り直すのが良い。
まぁ、今はそれどころじゃないんだがな。
「ではコレはどうだ?」
「!?」
くそっ、またか!? 目の前にいるのに気がついた瞬間には間合いに入り込まれている。
目で全く追えないほどこいつのAGIが高いのか? だが、そんな感じがしない。なんというかまるで歩くような気楽な動きで目の前に飛び込まれている。
なんかこの感覚、最近も感じた覚えがあるな。何処でだったっけか……いや、それよりも今は対処法だ。一体どういうからくりなんだコレは?
「クソ、しかも連携タイプか。やっかいな!」
蹴りの連携から今度は拳での連続攻撃。手数というよりは攻撃を繋げて反撃を封じて押すタイプらしい。
対応はできないわけじゃない。攻撃は鋭いけど、シアの攻撃とは違って見てから回避はなんとか間に合う。
シアとの組手では回避なんて殆どできないまま、その圧倒的な速度と手数で防御の上からボコられて固められてしまっていたからな。まぁその御蔭で受け流しの技術がかなり上達したから悪い事ばかりではないんだが。
で、コイツの攻撃はシアのような速度や制圧力が無い代わりに、一つ一つの行動のモーションがコンパクトで、一つの攻撃を躱しても次々技を繋げてくる。
ただ、素手での殴り合いだ。互いにリーチが短い分、避けに徹する分にはそこまで難しいものじゃあない。問題は……
「チッ……やっぱり鈍ってるな。思うように体が動かん。重い」
「そう言いながら、その踏み込みは反則だろう!?」
攻撃は捌けるが、距離をとっても一瞬で話した距離を詰められちまうこの機動力だ。ホント一体どうなってやがるんだ? 目を離してる訳でもないのに気がつくと潜り込まれている。
それに、引きこもって研究やってるようなやつが運動不足で体が重いとか言いながら放つ攻撃じゃねぇぞこれ。対応できるからと言って、決してヌルい攻撃じゃない。
一つ一つの攻撃は現実的な速度と威力なんだが、その技同士の継ぎ目が小さい。
……そう。厄介なことに小さいが明確に攻撃と攻撃の間に隙間がある。息継ぎというには微妙な隙間。ただ、一呼吸分は確保できる……そんないやらしい隙間だ。コレでは攻められてる方はいつ反撃をするべきかが解らない。
そして、判断を誤って迂闊に手を出そうものなら、続く攻撃がその反撃を潰すように待ち構えている。
いわゆる暴れ潰しという、相手の攻撃を見てからではなく、相手に隙を見せて反撃を誘い、その反撃を狙い撃ちにして潰す技を予め出しておく、事故狙いの特殊なカウンタースタイルだ。
コレの厄介な所は、ガードを続ければ攻撃継続、迂闊な反撃はカウンターという相手有利の状況が継続する、かなり息苦しい状況に追い詰められるところだ。
格闘ゲームとは違ってガードによるノックバックや無敵対空技なんてものが存在しないこのゲームでは、暴れ潰しを読んだカウンター返しというのは困難だ。なにせコチラの体勢は相手の攻撃で崩された上で、繰り出されているのは反撃を前提とした潰し技だ。たとえ読み勝ったとしても後出しの技では相手に届く前に潰されてしまう。
それこそシアのような後出しでも返せるような驚異的なスピードがあるなら話は別だが、残念ながら俺はそんな超人じゃない。
たとえ速度に全振りしたカウンター返しを放っても、良くて相打ち。しかも待ち構えて万全の体制の相手に対して、こっちは攻撃を受けてバランスを欠いた状態からの威力を捨てた大した威力のない速度特化の反撃だ。それで相打ちとか割に合わなすぎる。
さて、であればどうするべきか。
こう言う手合は触られた時点で圧倒的に不利だ。もしそれでもカウンター返しを狙うというなら、現実的には触られる前、最初の一発に対してのカウンターくらいだろう。或いは危険を承知で受け流しを狙って、先に相手の体勢を崩してしまうか。攻撃を重ねて固めに入れば相手は当然こちらの受け流しを警戒して技を選んでくるだろうから、狙うならどのみち最初の一撃だ。
どちらにせよまずは距離をとって、挿し合いで動きを見たいところだが……
「チョロチョロと。逃げているだけではデータが取りきれんぞ。それともその逃げがお前の基本戦術なのか?」
「ちっげぇよ!」
距離を開けても一瞬で詰められる。どうやら相手は逃げを許してくれないらしい。
インファイトで動きを読めってか? 無茶言いやがる。
「心配せんでもちゃんと手は抜いている。瘴術や道具のたぐいは一切使わんから、普通に殴りかかってこい」
「それが出来ないくらいに踏み込みが厄介なんだよ!」
「む?……そうか。無意識にやってたか」
「何が?」
「いや、コチラの話だ。それならコレでどうだ?」
上段蹴り!
突然放たれた蹴りをギリギリながら回避できた俺は偉い! だけど今の一撃は?
「コレなら文句あるまい」
今のは凄まじく鋭い踏み込みではあったけど、今までのと違ってちゃんと動きを目で追うことが出来た。
どうやら今まで使っていた謎の踏み込みを封印したらしい。っていうか、あれって技術かなにかだったのか。
封印したのは俺の愚痴が原因だよな。ハンデ追加ってことだな。俺ダッセぇ……
「我ながら情けない限りだけど、コレなら多少はやりようが出てきたよ」
「それでいい。コレは戦いではなく、あくまでデータ集めのための組手だ。対象者に合わせるのが研究する側の礼儀というものだ」
程度を下げて釣り合うレベルまで降りてきてくれたと。有り難くて涙が出るが、流す涙は血涙だな。
だが、その精神的な血の涙の代わりに、踏み込みが見えることで攻撃が多少は見やすくなった。
右のボディ狙いのフックを躱し、当然のように繰り出してくるであろう次の攻撃の起こりを観察できる程度には余裕が増えた。
だから、フックの勢いのまま右足を軸に身体を回し、その勢いで左足を上げる動きをしつつ、上半身を鋭くひねっているのを確認することが出来た。
後ろ回し蹴りはフェイク。本命は左のバックハンドブローか!
いくら攻撃の継ぎ目に反撃が難しいと言っても、空振る攻撃を把握しているなら話は別だ。
空振りの最中であればコチラが逆にカウンターを狙える。
振り上げるようにして動いていた足が、途中で降ろされるのを確認しつつ、身をかがめて懐へ潜り込むようにして距離を詰める。
狙うは裏拳を振り抜いた時に晒すその脇腹!
「ぬぁ!?」
そして、目論見通り踏み込みに成功した俺は、見事に足元を刈られて盛大にすっ転ばされた。
「お前のデータを取らせてもらう必要があるわけだが……そうだな。俺と少し手合わせしてもらおうか」
手合わせ? 手合わせって戦いの……だよな?
「何故?」
データって、俺のアカウント……というかアバターの基本データじゃなかったのか?
戦闘データなんて取って何の意味があるんだ? バトルは好きだが無駄な戦いに付き合うのは御免だぞ。
「データを取るのに一番手っ取り早いのはフィジカルの数値の変動だ。実験薬でダメージを受けたり状態異常を引き起こしてデータを取るよりは、身体を動かして戦闘訓練の体で行ったほうがお前も気が楽なんじゃないか?」
「よし、それで行こう」
前言撤回。
人体実験なんぞまっぴらごめんだ。それなら戦闘訓練のほうが遥かにいい。
俺の身にもなるかもしれんしな。
こいつ、見た目は学者っぽい感じだけど、シアの仲間だっていうなら見た目は当てになんて出来ないだろう。
「どこでやるんだ?」
「データ取得だと言っただろう? その部屋でやる。機材は引っ込めるからお前はそこで待っていてくれ」
「ここで? 大事な実験施設なんだろ? 色々傷つけちまったりしないのか?」
「何を言うかと思えば。重要な実験施設だから、そこが一番頑丈なんだ」
おいおい、一体ここで普段どんな実験してるんだよ……
なんて考えている間に、機材はどんどん壁の中に消えていった。壁はあるけど自由に開閉できて隣の部屋とつながってるのか。
気がつけばアレだけ機材だらけだった実験室が、あっと言う間になにもない白い部屋と化していた。
「さて、それでは、準備は良いか?」
うお!? いつの間に部屋に入ってきてたんだ!? 全く気が付かなかった。
「準備の方はいつでも。……にしても学者肌だとおもったら随分と良い身体してるんじゃねぇか」
運動用にだろう、上着を脱いだその下から出てきたのは、学者とは思えないほどに引き締まった筋肉質な身体だ。
歴戦の戦士的なゴツい体つきというわけじゃないが、かなり鍛えてないとこうはならないだろう。
「あぁ、コレでも俺は昔はそれなりに前線に出張って戦ってたこともあるんだ。経験値という意味ではお前よりも遥かに上だと言うことを理解しておけ。まぁ、運動はそれなりに欠かさないようにはしてきたが、ご覧の通り最近はあまり鍛えるようなことはなかったから随分衰えちまってはいるがな」
いや、衰えてこれって、引きこもる前はどんな体型だったんだよ。
「言われなくても、シアの昔の仲間って時点で俺にとっては要注意人物リスト入りしてるんだよ!」
「ならば結構!」
言った途端、懐に潜り込まれていた。
マジかよ!? もう始まってんのか!
「ぐっ!?」
首をひねるようにして仰け反った俺の頬を回し蹴りの爪先がかすめていった。
とっさに体が動いてくれたが、少しでも反応が遅れていたらいまので終わってたぞ!?
それに……
「反応は悪くない」
蹴りの振り抜きの思い切りが良すぎる。こう言うときは――
「やっぱり、そうくるよな」
回し蹴りの反動のまま身体を回して、その反動を利用した背面蹴り気味に付きこむような蹴り。
格ゲーの蹴りの必殺技で良くあるんだよな、回し蹴り経由の連続技って。
「対応力も良い。初見の技でもきっちり避けるか」
技のモーションが止まらない時は次の技が来る前提で備えろってな。もうほとんど身にこびりついた癖みたいなもんだ。
このゲームは格ゲーと違って、相手に攻撃を当てれば動きが止まる訳じゃない。勢いがついていれば不完全であってもそのまま攻撃は飛んでくるってのは以前学んだからな。ガード中に攻撃に割り込むには、相手の完全に攻撃を躱しつつ一方的に反撃を当てる確実な方法がなければ挑戦すべきじゃない。
見切って受け流せればベストだが、初見の技を受け流せるほど達人じゃないからな、俺は。相手の動きを把握するまでは、無理な反撃を狙わず凌ぎきって距離をとって仕切り直すのが良い。
まぁ、今はそれどころじゃないんだがな。
「ではコレはどうだ?」
「!?」
くそっ、またか!? 目の前にいるのに気がついた瞬間には間合いに入り込まれている。
目で全く追えないほどこいつのAGIが高いのか? だが、そんな感じがしない。なんというかまるで歩くような気楽な動きで目の前に飛び込まれている。
なんかこの感覚、最近も感じた覚えがあるな。何処でだったっけか……いや、それよりも今は対処法だ。一体どういうからくりなんだコレは?
「クソ、しかも連携タイプか。やっかいな!」
蹴りの連携から今度は拳での連続攻撃。手数というよりは攻撃を繋げて反撃を封じて押すタイプらしい。
対応はできないわけじゃない。攻撃は鋭いけど、シアの攻撃とは違って見てから回避はなんとか間に合う。
シアとの組手では回避なんて殆どできないまま、その圧倒的な速度と手数で防御の上からボコられて固められてしまっていたからな。まぁその御蔭で受け流しの技術がかなり上達したから悪い事ばかりではないんだが。
で、コイツの攻撃はシアのような速度や制圧力が無い代わりに、一つ一つの行動のモーションがコンパクトで、一つの攻撃を躱しても次々技を繋げてくる。
ただ、素手での殴り合いだ。互いにリーチが短い分、避けに徹する分にはそこまで難しいものじゃあない。問題は……
「チッ……やっぱり鈍ってるな。思うように体が動かん。重い」
「そう言いながら、その踏み込みは反則だろう!?」
攻撃は捌けるが、距離をとっても一瞬で話した距離を詰められちまうこの機動力だ。ホント一体どうなってやがるんだ? 目を離してる訳でもないのに気がつくと潜り込まれている。
それに、引きこもって研究やってるようなやつが運動不足で体が重いとか言いながら放つ攻撃じゃねぇぞこれ。対応できるからと言って、決してヌルい攻撃じゃない。
一つ一つの攻撃は現実的な速度と威力なんだが、その技同士の継ぎ目が小さい。
……そう。厄介なことに小さいが明確に攻撃と攻撃の間に隙間がある。息継ぎというには微妙な隙間。ただ、一呼吸分は確保できる……そんないやらしい隙間だ。コレでは攻められてる方はいつ反撃をするべきかが解らない。
そして、判断を誤って迂闊に手を出そうものなら、続く攻撃がその反撃を潰すように待ち構えている。
いわゆる暴れ潰しという、相手の攻撃を見てからではなく、相手に隙を見せて反撃を誘い、その反撃を狙い撃ちにして潰す技を予め出しておく、事故狙いの特殊なカウンタースタイルだ。
コレの厄介な所は、ガードを続ければ攻撃継続、迂闊な反撃はカウンターという相手有利の状況が継続する、かなり息苦しい状況に追い詰められるところだ。
格闘ゲームとは違ってガードによるノックバックや無敵対空技なんてものが存在しないこのゲームでは、暴れ潰しを読んだカウンター返しというのは困難だ。なにせコチラの体勢は相手の攻撃で崩された上で、繰り出されているのは反撃を前提とした潰し技だ。たとえ読み勝ったとしても後出しの技では相手に届く前に潰されてしまう。
それこそシアのような後出しでも返せるような驚異的なスピードがあるなら話は別だが、残念ながら俺はそんな超人じゃない。
たとえ速度に全振りしたカウンター返しを放っても、良くて相打ち。しかも待ち構えて万全の体制の相手に対して、こっちは攻撃を受けてバランスを欠いた状態からの威力を捨てた大した威力のない速度特化の反撃だ。それで相打ちとか割に合わなすぎる。
さて、であればどうするべきか。
こう言う手合は触られた時点で圧倒的に不利だ。もしそれでもカウンター返しを狙うというなら、現実的には触られる前、最初の一発に対してのカウンターくらいだろう。或いは危険を承知で受け流しを狙って、先に相手の体勢を崩してしまうか。攻撃を重ねて固めに入れば相手は当然こちらの受け流しを警戒して技を選んでくるだろうから、狙うならどのみち最初の一撃だ。
どちらにせよまずは距離をとって、挿し合いで動きを見たいところだが……
「チョロチョロと。逃げているだけではデータが取りきれんぞ。それともその逃げがお前の基本戦術なのか?」
「ちっげぇよ!」
距離を開けても一瞬で詰められる。どうやら相手は逃げを許してくれないらしい。
インファイトで動きを読めってか? 無茶言いやがる。
「心配せんでもちゃんと手は抜いている。瘴術や道具のたぐいは一切使わんから、普通に殴りかかってこい」
「それが出来ないくらいに踏み込みが厄介なんだよ!」
「む?……そうか。無意識にやってたか」
「何が?」
「いや、コチラの話だ。それならコレでどうだ?」
上段蹴り!
突然放たれた蹴りをギリギリながら回避できた俺は偉い! だけど今の一撃は?
「コレなら文句あるまい」
今のは凄まじく鋭い踏み込みではあったけど、今までのと違ってちゃんと動きを目で追うことが出来た。
どうやら今まで使っていた謎の踏み込みを封印したらしい。っていうか、あれって技術かなにかだったのか。
封印したのは俺の愚痴が原因だよな。ハンデ追加ってことだな。俺ダッセぇ……
「我ながら情けない限りだけど、コレなら多少はやりようが出てきたよ」
「それでいい。コレは戦いではなく、あくまでデータ集めのための組手だ。対象者に合わせるのが研究する側の礼儀というものだ」
程度を下げて釣り合うレベルまで降りてきてくれたと。有り難くて涙が出るが、流す涙は血涙だな。
だが、その精神的な血の涙の代わりに、踏み込みが見えることで攻撃が多少は見やすくなった。
右のボディ狙いのフックを躱し、当然のように繰り出してくるであろう次の攻撃の起こりを観察できる程度には余裕が増えた。
だから、フックの勢いのまま右足を軸に身体を回し、その勢いで左足を上げる動きをしつつ、上半身を鋭くひねっているのを確認することが出来た。
後ろ回し蹴りはフェイク。本命は左のバックハンドブローか!
いくら攻撃の継ぎ目に反撃が難しいと言っても、空振る攻撃を把握しているなら話は別だ。
空振りの最中であればコチラが逆にカウンターを狙える。
振り上げるようにして動いていた足が、途中で降ろされるのを確認しつつ、身をかがめて懐へ潜り込むようにして距離を詰める。
狙うは裏拳を振り抜いた時に晒すその脇腹!
「ぬぁ!?」
そして、目論見通り踏み込みに成功した俺は、見事に足元を刈られて盛大にすっ転ばされた。
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