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四章

二百六十六話 神輿の苦悩Ⅱ

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「悪ぃな。呼び出しちまってよ」
「いえ、ソレは別に構わないのだけど……」

 ファルス達による情報収集の結果を待つまで、この街を離れるわけにもいかず、小銭稼ぎをしつつ旅の準備を整えていた所で、唐突にお呼びがかかった。相手はヘイオス。勇者の卵と呼ばれている彼だ。
 クエストのお誘いだろうか? 今はお金はいくらあっても助かるから丁度いいなと顔を出してみれば……

「色々ゴタツイていて、マトモに話をする機会がなかったからな。まぁ座ってくれ」

 呼び出されたのは酒屋の二階の小さな部屋。他に人が居ないことから貸し切りなんでしょうね。

「えぇ、まぁ……ソレは良いのだけど」
「……ハァ」
「こいつか? まぁ、酒でも入れればすぐに喋るようになるから今は放っておいてやってくれ」

 テーブルに居たのはヘイオスとファルスの二人だけだった。
 というか、ファルスは随分とぐったりしている。相当お疲れの様子だけど、一体何があったのやら。
 どちらも従者や仲間が居ないってことは、完全に個人的な……或いは外に漏らしたくない内容のおしゃべりって事かしら?

「あぁ、別に警戒する必要はねぇぞ。ただの懇親会と、こいつに愚痴を吐かせる為の場を兼ねただけの場だ」
「なるほど?」

 こちらの懸念なんてお見通しとばかりに、釘を打ってきた。でも、そういう話ならこちらも変に気を張らなくていいので助かるわね。
 なんか現場だと、雰囲気的にお互い牽制し合ってたように感じたいのだけど、こんな場を作るってことは案外この二人中が良いのかしら?

「ここの代金は俺持ちだ、気にせずじゃんじゃんやってくれ。そっちの娘用に、ちゃんと酒以外も頼めるようにしてある」
「あら、ソレは助かるわね。まだこの子にお酒は早いし」

 エリスに酒なんて飲ませたと知られたら、過保護なキョウくんに後で何言われるかわからないしね。

 既に頼んであったのか、3人分のエールと、果実のジュースで乾杯すると、近況報告を兼ねた雑談を挟みながら暫くは腹を満たすことに集中した。いや、普通に個々の料理が美味いので手が止まらないんだけど。
 一見だとごく普通の酒場って感じだったんだけど、この国で今まで食べた料理の中でも一番味が良い。隠れた名店ってやつかしら? この筐体、試作品なだけあっていろいろなコードだらけでプレイするには何気に鬱陶しいんだけど、ゲーム内の料理を擬似味覚で味わえるのがやっぱり大きいわよねぇ。商品化されたときに買うかと言われると、多分買わないけど。コードの数や重さが3分のになれば考えなくもないけどね。
 それにしても試作型の特殊な筐体使ってるとは言え、ゲーム内で美食楽しめるとか、随分未来になったわよねぇ。子供の頃アニメの中で見た21世紀みたい。車は空を飛んでいないけどね。

 話は他愛ない挨拶や、ここ数日の話から始まり、全員が武闘派ゆえに戦い方の話や過去どんな苦戦をしたかと言った実にゲーマーっぽい話になっていったので、特に気を使うことなく話を合わせることが出来た。

「俺達と同世代で、アンタみたいな奴が腕の立つやつが埋もれていたとはな」
「埋もれていたって言うけど、クフタリアの闘技場ではそれなりの結果は残したわよ」
「それだって、つい最近の話だろ? ソレだけの腕があるならもっと早く名が売れてても良かったって話だよ。俺みたいにな」


「まぁ、田舎から出てきたばかりで、協会に登録したのもクフタリアで入賞した後の話だったからね」
「まぁ正直な話、アンタよりもそっちの嬢ちゃんの方が強いだとか、その二人より強い仲間だとか、ソレすら寄せ付けなかった闘技大会の優勝者の話とか興味がありすぎて、どうしてその場に居合わせられなかったんだって後悔するぜ」

 まぁ、エリスはクフタリアの大会には出てないんだけど、PvP大会の戦績では私より上の四位だから、嘘はいってない。
 キョウくんは今の私よりも確実に上だし、ハティちゃんに至っては相手にもならない筈。レベル10とかって話だったしね……一対一でハティちゃんに勝てそうな存在というと、あの『鬼』くらいしか見ていない。
 キョウくんを一蹴したキルシュくんでも、ハティちゃんは多分無理だろうしね。

「なぁ、アンタ達さえ良ければ、行方不明になったっていう仲間が見つかった後で良いから、一緒に組まないか? こっちはお目付け役を除いて壊滅しちまって、暫くは活動出来そうにねぇんだ」

 あー、かなり人数少なかったけど、お仲間壊滅状態だったか。
 お目付け役ってのはアルヴァストから派遣されてる人かな? 勇者の卵ってブランドはアルヴァスト出身の冒険者として売り出してるみたいだったし。となると、実質の仲間はヘイオスを除いて全滅か。確かにそれじゃ活動はできないわよね。

「う~ん……どうかしら。一応私達のリーダーは行方不明になってるキョウくんだから、私の一存ではなんとも言えないんだけど、キョウくんの目下の目的は強くなることだったから、一緒にいることで強くなれるって思えればOK出すんじゃないかしら?」
「なるほど。単純だが難しい話だな。そう簡単に強くなれるなら苦労はしねぇ。とはいえアンタ達より弱いままじゃ興味を引けないってのはまぁ解る」
「まぁ、なんだかんだでキョウくん人が良いから、やる気を見せればあっさり受け入れるかも知れないんだけどね。具体的な目標としては、クフタリアで負けたキルシュくんよりも強くなるって話だったけど、そのためにどうするかってのは特に明確な目的地だとかは決めてなかったから」
「貪欲なのに適当なのか。いまいち人物像が掴めんな」
「割と普通の人よ。彼は」

 普通なんだけど、変な事に巻き込まれやすいのよね、何故か。

「なんですか、こんな所でスカウトですかぁ?」
「いや、スカウトと言うよりも、状況的には売り込みだけどな。っていうかようやく口を開くきになったか?」

 今まで一人黙って黙々と食べていたファルスが今日はじめて口を開いた……というか、顔赤っ!?

「しゃべる元気もなかったんれすよ! ソレくらいあなたも判ってんれしょ!」
「おうおう、そうだな」

 完全に酔っ払ってるわね。
 ……あぁ、さっきヘイオスがすぐに喋るようになるって言ってたのはこういう事ね。

「従者達の頭の硬さと言ったらもう! わたしがどれだけ裏でフォローに回っていると思ってるんですかねぇ!? 彼ら、自分が神の使徒だからって、神の名のもとに何をしても良いと勘違いしてるんれすよ! そんな訳ないれしょうに!」
「そうだなー」
「ちょっと! ほんとにわかってんれすか?!」
「もうその話は十回以上聞いたから判ってるって」
「十回ぃ? わたしが従者たちに考えを改めろと言ったのは十回やそこらじゃないんれすよ!? なのに彼らは全く理解しようとしない! 何なんれしょうね全く!」
「そうだな、彼奴等物分りが悪いんだな」

 随分と手慣れた感じね。
 十回以上同じ話を聞いてるってことは、もしかして定期的にこうやってガス抜きしてるのかしら? 
 だとしたらなんというか付き合いが良いと言うか、面倒見が良いと言うか……

「チェリーさんのように物の道理が判っている方はぜひウチに入って欲しいんれすよ!」
「おいおい、こんな所で宗教の勧誘はやめてくれ」
「いえ! サルヴァの教えなんてどうれもいいんれす! ただ仲間としてれすねぇ!?」
「オイコラ、サルヴァの神子が教えをどうでもいいとか言ってるんじゃねぇよ」
「おっと……コレは失敬……」

 座り直そうとして椅子に深く腰掛けたら、収まりが良かったのかそのまま寝落ちてしまった。
 また随分と派手に酔っ払ったと言うか……

「随分ストレスたまってるみたいねぇ」
「アンタもこいつの従者がどういう奴らか見てきただろ。教国の人間が全てああだとは言わないが、神官やそれに類する人間は皆ああだと思っていい。サルヴァ至上主義と言うか教徒にあらずんば人にあらずと本気で考えているような連中に囲まれてるんだ、コイツは」
「そんな環境にいて、よくこれだけ一般的な考えを行け入れられるわね。ソッチのほうが驚異的なんだけど」
「コイツは頭が良いからな。客観的に物事を考えられちまうから、巡礼や遠征で他国の人間と接するうちに、自分たちがどれだけ理不尽な事を標榜しているか、すぐに気がついちまったのさ。そして神子として物心ついたときから常に正しくあれと育てられ続けた結果、育てられた正義感がサルヴァ教にとっての都合のいい解釈や、教団員の暴走を見ぬ振りすることを許さねぇ」
「ソレは……確かにキッツいわね。自家中毒みたいなもんじゃない」
「そんなだから、誰かがこうやってガス抜きしてやらねぇと壊れちまうんだよ。コイツは」

 ファルスが教国に踊らされて狂信者になる程度であればこんなに苦しむことはなかったのに、優秀であるがゆえに苦しむことになってるとか、ホント救われないわね。
 それにしても、わたしが想像している以上に、この二人の関係は深いみたいね……
 ラノベとかだと、こういう立場の違う同年代の有名人キャラって大抵仲が悪いものだけど、ヘイオスが言ったように逆にお互いにシンパシーを感じて仲が良くなったのね。もしかしたらファルスだけじゃなくヘイオスの方も色々心労が溜まってるのかも。
 ここまでだと、もう親友と言っても良いんじゃないのかしら。国や立場は違うけど、同年代で担ぎ上げられたっていう境遇がお互いに感じるところがあったということかしら。

「しかし、アンタ見た目によらず随分といける口みたいだな。さっきから強い酒をカパカパと開けやがる」
「あら、そう?」

 強いもなにも、味は楽しめても酩酊機能は流石に無いからね。
 いや、一応アルコール取りすぎると演出として視界がぼやけたり揺れたりするんだけど、実際に酔っ払ってるわけじゃないから、純粋に味だけで飲んじゃうのよね。味はしても腹は膨れないからいくらでも食べられるし。

「ま、味はいいが特別高いと言うわけではないから、好きなだけ飲んでくれて構わんぞ」
「これで値が張らないってのは良いわね。エリスもちゃんと食べてる?」
「うん。美味しい」

 まぁ、この子がまずいって言ってるの見たことないんだけどね。
 それにしても、相変わらず人が居ると静かよねぇ。サリちゃんが居た時は食事中も仲良く喋っていたんだけど、やっぱり同い年くらいの友達が重要なのかしら。
 ……でもヘイオス達くらいならまだしも、エリスと同年代の子の旅人となると、途端にレア度が上がるのよねぇ。難民かそれこそ傭兵でもなければ、この歳で旅に出るような理由が思い浮かばないし。
 ハティちゃんがそのレア枠だったんだけど、どっか行っちゃったのはやっぱり痛いわねぇ。まぁハティちゃんに関しては存在自体がレアどころか激レア枠だから、代価なんて出来ようもないんだけど。

「ま、さっきの話は前向きに考えてもらえると助かる。俺も強くなりたいからな。同世代で、同じくらいのつよさのパーティってなかなか組めるもんじゃないから、出来ればこうやって知り合った幸運は逃したくねぇ」
「えぇ。多分キョウくんの性格的に理由なく拒否とかはしないと思うから、話だけはするつもりよ」
「そいつは助かる!」

 付き合いは短いけど、悪いやつには見えないし、キョウくんもきっと断らないでしょ。
 というかまずはそのキョウくんを見つけなければ、話も何も無いんだけどね。

 その後、エリスが眠くなるまで食事を楽しみつつ、最終的に愚痴交換会と化した食事会は幕を閉じた。
 たまにはこういうのも悪くないわね。口に出すだけで、結構ストレス発散になった。
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