ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百五十九話 砂漠の遺跡Ⅰ

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 ……どうしてこうなった、のかしら?

「おい! 岩ミミズ! 二匹抜けたぞ!」

 叫びの通り、石畳を割り膨らませながら地中からの痕跡が二条。そのうち一本がこっちへ向かってくるのが見えた。
 もう一匹が向かったのは10人ぐらいの団体。多分2チームか3チームの混成……というよりもただ近くに居ただけの集団かな? 餌がほしいなら二匹とも向こうに行けばいいのに、こっちは私とエリスの二人だけなのに何でこっちに来んのよ。
 そんな事を考えながら、砕かれ膨らんだ瞬間の地面へ槍を突き入れる。種類は違うと思うが、オープンベータテストの砂漠エリアで砂ミミズとは戦ったことがあるので、とりあえず同じ対処法を試みたわけなんだけど、どうやら間違ってなかったらしい。
 確かな手応えと共に、こちらの地割れが止まった。どうやらもう一匹の方も倒されたらしい。地中に半分身体をのぞかせているけど、かなりグロい……こんな巨体で、土を掻く腕もないミミズが何で土中の、しかも石畳を砕きながらこんな速度出せるんだろう?

「おい、お前ら無事か!? もう一匹はどこへ行った!?」
「それなら足元で死んでるよ」
「何!?」

 別の……身なりから見るに、雇い主の一派かしら? が私の言葉を聞いて持っていたハルバードの柄で地割れを掘り返しはじめた。ミミズの死骸を確認しているのかしら。
 そんな事いちいち……と思わなくないが、彼らにとっては報酬の支払いとかにも関わるのかも知れないし、仕事としてみると何もおかしなことではないのかしら。

「エリス、他になにか居そう?」
「………………ううん。この辺りには危険そうなのはいないと思う。天井に何か張り付いてるけど、寝てるみたいだから起こさなければ平気かな?」

 それは平気といって良いものなのかしら……?
 まぁ、これまでエリスの索敵ではこれと行ったトラブルが起きたことがないし、ここはエリスの直感を信じますか。
 
 それにしても……
 かなり大きい洞窟の中なので、外からの光はほとんど届いてこない。松明が立てられ、通ってきた所は一応明かりが確保されて入るけど、天井までは見通せない。かなり大きな洞窟だ。
 そういえばキョウくんと離れ離れになったあの遺跡も洞窟の中にあったんだっけ。
 RPGといえばと言えるほど、遺跡っていうのはお約束のシチュエーションではあるんだけど、つい最近ああいう事があったばかりだから、どうしても……ね。
 
「あの、あの。すいません! 始まっていきなり予定にない戦闘を……」
「ん……いいよ。未踏遺跡の探索なんだから予期しない出来事くらいおこるでしょ。あとで報酬に色つけてくれればいいよ」
「あ、あの。ハイ! それは必ず!」

 どうしてこうなった……のかといえば、原因はこの子……ノルドと出会ってしまったからから……よね。
 あの日、宿の前で神子様とやらの仲間であるこの子と出会い、このクエストに誘われた。最初から参加するつもりだったわけじゃない。
 私達の探索が、ハティちゃんの情報捜索が行き詰まったから私達が関わろうとしなかった方面……つまり、あえて関わろうとしなかった神子様だの勇者の卵だのの重要っぽいNPCへ手を伸ばしただけだ。
 あの時、この子が私の前に現れたのは偶然……ではないらしい。あの日、協会で私達のことを見ていたらしいんだけど、正直その話を聞いた時の感想は「マジか」の一言だった。だって、私達は目立たないように、ただ普通に列に並んでいただけなんだから。
 様子を見ようとして顔を出したとかでも、偶然目があったとかでもない。一方的にあれだけ人が並んでいたあの協会の支店の中で、私を狙い撃ちしてきたというのだから、そりゃ驚くのも無理はないでしょ。
 立ち居振る舞いから、私の目をつけたと言っていたけど、正直レベルや装備からすれば、この子のリーダーのほうが遥かに上だろうに。仲間だって、神子なんて大層なお役目の仲間になるくらいだからきっと強者が付き従ってるはず。
 一体何を基準に私を選んだのやら。直接聞いても「何となく立ち居振る舞いからピンときた」とか言ってはぐらかされちゃうのよね。もしそれがはぐらかす為じゃ無かったのだとしたら、それはそれでこちらの実力を正確に見抜いた上での勧誘って可能性も出てくるのだけど。もしそうだとすれば、なかなかに油断のならない子という事になるのよね。見た目ただの気弱そうな男の子なのだけど。

「それで、私達は予定通りここを守っていれば良いのよね?」
「あの、はい。そうです。この辺りは攻撃的な蟲が多く、アレ等は穴蔵を好みますから、本体が裏から襲われないよう、ここに入り込んでくる蟲を駆除していただければと思います」

 ま、大規模レイドで後詰だなんて、普通に考えたら損な役回り以外の何物でもないのだけれど、今回は報酬が報酬だからね。
 金品もそうだけど、私達にとっての最大の報酬は、神子様のもつ情報網だ。
 このクエストの報酬として私が希望した報酬が、ハティちゃんに関する彼らの知り得る情報の開示なのだから。
 ハティちゃんの機動力は高い。時間が立てば立つほど後を追うのは厳しくなるだろうし、多少長期の仕事で時間を奪われてしまうとしても、仕事の報酬として即日に情報を提供すると請け負ってくれるのであれば、依頼を受ける理由としては十分だということね。
 10日のロスは確かに痛いけど、その10日間の足取りが掴めるというのなら、レイド報酬なんて今は度外視で構わない。
 むしろ、下手に討伐組に加わってしまうと、クエスト功労だの何だので拘束されかねないから、私達としてもいまの役割が一番美味しいとまでいえる。

「チッ……シケた仕事してやるんだ。報酬はきっちり払ってもらうからな」
「は、はい。あの、報酬は事前に話し合った通りの金額を既に用意させていただいていますので、安心していただければとおもいます……」
「なら良いんだがよ」

 まぁ、参加者がみんなうち等みたいな事情を持っているわけでもなく、純粋に報酬目当てで参加した人たちにとってはこんな手柄からは遠い任務はさぞかし不満なんだろうなぁ。
 ゲーム感覚なら特別報酬貰えればそれでいいやって思えるけど、命を張った仕事として考えるなら、先の仕事のことを考えると名声や実績はやっぱ欲しいもんね。
 まぁ、それを黙らせるだけの報酬を用意できる神子様の財力とか権力マジパネーって感じなんですけど。
 クルドくん曰く、今回初めて協会を頼るらしいんだけど、初めて頼るのにいきなり複数パーティを雇い入れるなんてよっぽど財力があるんでしょうねぇ。
 その財力が彼個人のものなのか、彼の主人のものなのかは知らないけれど。

「そういえば、今回の探索って結局何が目的なの? 街からはそれなりに距離があるとはいえ、隠されていた訳でもないんでしょ? この遺跡って。ならなにか理由があって未踏遺跡になってたと思うんだけど……」
「あの、祖国の……サルヴァの文献に、立ち入りを禁ずるものがあったため、今回の探索まで手つかずになっていたんです」
「ふぅん?」

 サルヴァ……サルヴァ法国か。
 この子が何したってわけじゃないんだけど、最初に出会った二人が、胡散臭くて油断のならないお爺さんとキョウくんを行方不明にした張本人でもある狂信者の神官だったからなぁ。正直今のところ良い印象がないのよねぇ。

 遺跡からはかなり重要な遺物とかも見つかる可能性があるから、大規模な未踏遺跡の探索は都市事業だとか、下手すると国家事業なみの大事らしいんだけど。実際、クフタリア時は街側が取り仕切ってたし、詳しい内容はわからないけど、あの時の出来事は外交的な切り札にすらなるとか言ってたから認識は間違ってないと思う。
 それなのに、他国の一言で探索をしていなかったっていうのは、サルヴァの影響力の強さの現れよね。
 立地的には今いるカラクルムとは地続きの隣国だって話だし、この国でもサルヴァ教の影響はかなり大きいみたいだから、法国から立入禁止と言われてしまうとカラクルムは手を出せなかったって感じかしら?

「で、禁止されていたのに今回突然探索することになったのは?」
「あの、その、ここに立ち入った盗掘者が壊滅する事件があり、生き残りの証言からこの遺跡に魔物が、しかも複数巣食っている可能性が高いと判断されたからです」
「あぁ、魔物ねぇ」

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