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四章
二百五十四話 御宅訪問Ⅲ
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「あれ、シア一人なのか?」
コソコソ隠れていた俺たちを呼び出したシアだったが、予想に反してそこには他に誰も居なかった。
「ああ、期待はずれじゃった。ここにはもう何も得るものが無さそうじゃ」
「お、おぅ、そうか」
珍しいな。あの門での兵士たちとのやり取りでも、殆ど表に出さなかった苛つきが声に出ている。言葉通りに期待した情報は何も手に入らなかったって事かな?
いや、怒りというよりも冷めたか諦めた……落胆という感じか。
ここまでハッキリとした感情を出すということは、結構期待していたという事か?
こういう時は空気を読んでこの話題は避けるべき……と言いたいところだが、これだけ巻き込まれて城への侵入までやらされたんだ。これで事情を聞かないと言うのは出来ない相談だ。
エレク達もそれじゃ納得できないだろう。
「お主は本当に顔に出やすいのう。そんな顔せんでもちゃんと事情は説明するわい」
「む……」
また顔に出てたか。
こう毎回いろいろな奴に指摘されると、流石にもう否定できねぇなぁ……そんなに顔に出やすいのか、俺は。
まぁ今は、それは良い。
「それで? 今回の件、一体どういう事だったんだ?」
「いや、あの兄貴? 何もこんな敵陣……どころか本拠のど真ん中でする話しっスか?」
「う……それもそうか」
これは確かに確かにエレクの言うとおりだ。
わざわざ危険地帯で話すような内容じゃなかったな。
さっさと撤退しよう、と促そうと思ったんだが……
「安心せい。ここへは誰も踏み込んでこんよ。というか踏み込んで来ることが出来んのだな」
「何でそんな事が解るんだ?」
「王が伝染型の壊疽に侵されておるからよ」
「……何だって?」
壊疽ってアレだろ? 指先が腐ったりする病気のやつ。
いや詳しい話はわからんけど、昔そんなような病気を題材にした本を読んだ覚えがある。
「折角捉えた王族を幽閉する訳じゃ。あそこまで強い腐臭が漂うのであれば、もはや手の施しようはあるまい」
「……つまり、せっかく捉えた王様に、連中も感染を恐れて近づくことが出来ないと?」
「ま、そのようじゃな」
そりゃ、旗頭に使えん訳だ。
エレク達も驚いていたって事は、世間一般には王様がそんなやばい病気にかかっているなんて知られていなかったはずだ。
それなのに、クーデターで負けて捕らえられた王様が姿を表してみれば壊疽なんてヤバい病気にかかっている。
民衆はクーデターに勝利した貴族達がやらかしたと疑うだろう。
折角勝利した貴族達が、わざわざ民衆を敵に回したがるとは思えん。仮にも反乱で国を取った連中だからこそ、反乱はなによりも恐れてるだろう。
となれば、王様の事を外に漏らさないためにも幽閉するしか無かったってわけだ。
「……それで、伝染型なんだろ? お前は大丈夫なのかよ?」
「儂が伝染病の類に侵されるようなヤワなからだだと思うてか?」
「あっ、ハイ……そっすね」
そうだよな。シアだもんな……
「……なんて納得できねぇよ! お前がどれだけ頑丈だろうが、そこから俺達に伝染したら結局ヤバいんだろうが」
「安心せい。病魔のような、目に見えないような小さな悪虫は儂に近づいただけで燃え尽きる。儂を媒介してお主らに病魔が飛び火するようなことはないよ」
「おう……そうなのか」
それはそれでなんかヤベー感じがするが、黙っとくか。
電磁波的ななにかを発して病原菌を焼き払ってるってかってにイメージしておこう。
って、そんな事話してても無駄に時間が過ぎていくだけだ。シアが話す気があるうちに、この場でさっさと聞けることは聞いちまったほうが早いなこれ。
「それで……? 結局お前の用事は何だったんだ?」
シアは目頭を揉み、一息。
「この城の王族の先祖が、儂の旧知でな。成り行きで救ってやったんじゃが、その後色々あってな。儂が眠りについた後の事を……要するに、儂の残した装備や情報伝達等を彼奴の一族に任せる事になったんじゃ。で、えらく真面目に取り組んでおったのでな。儂が目覚めた後、儂との盟約を果たした暁には一つ、儂の叶えられる範疇で願いを聞いてやろうという事になっておった。じゃが……」
それで期待はずれ、か。まぁ要するに
「盟約は果たされなんだ。彼奴は儂との約を引き継げなんだようじゃな」
エレク達は黙って聞いている。口を挟むつもりはないらしい。
となると質問役は自然と俺になるのか。
ちなみに、エレク達は既にシアが人間ではないことを知っている。
まぁ、アレだけスパルタ特訓で圧倒的な力の差を刻みつけられれば、ソレが人外の力だと気付くのに時間はかからんか。
シアが長い時を眠っていたという話も、思っていたよりすんなり受け入れているようだった。
……って今はそんな事よりもシアの話だ。
「せめて王族であれば何か有力な情報だけでも引き出せるかと思ったんじゃが……」
「ソレもなかったのか?」
「どうやらこの国の王権はあって無いようなモノのようじゃな。先代がどうだったかは知らぬが、当代の王は必要な情報を何一つ持っておらなんだ。というか何を聞いても『知らぬ』『判らぬ』しか帰って来んでな。実験が取り上げられていることにも気づいておらぬ愚王であった。実直を絵に書いたようなあの男の血からあのようなモノが生まれるとは、時の流れというのは無情じゃのう」
「本人がどれだけ優れていても、子がそうとは限らないもんだしな」
いくら実務に優れていようが、子育てまで優れているとは限らない。偉人や有名人の息子が跳ね返って逮捕されるなんてニュースは腐るほどあったしな。
「まぁ、彼奴が悪人だったとか間が抜けていたと言う訳ではない事は儂がよう知っておる。ドがつくほどの真面目な男じゃったからな。儂との盟約を軽視するような奴ではない。単純に子孫が顔も知らぬ儂との盟約を軽視しておったと言うだけの事じゃろう。儂の人の見る目がなかったというよりも、先見の明がなかったといった所か」
いつもより口数が多い。そして「彼奴」とやらを庇うような言動がめっちゃ多い。
これは、相当期待と落胆が激しかったんだろうな。それだけ信頼していたって事か。
「まぁ、ある意味お主にとってはそちらのほうが良かったやもしれんが」
「ん……? そりゃ一体どういう事だ?」
盟約とやらに従ってシアが情報を手に入れられたほうが、この後の旅について有利に働くんじゃないのか?
「彼奴との盟約とは、儂の残した武具の保管と目覚めた時の情報の提供、仲間たちの情報提供の三つ。引き換えに当代の王家の相談を一つ解決すると言うものじゃったからな」
「そういう事か。盟約通りであれば窮地に立っている王族のために何かしら手を貸す必要があったかも知れないと。だが、実際には盟約なんぞすっかり忘れ去られて居たわけで……」
盟約を違えたのは王家側、しかも一方的にだ。そんな連中には手を貸す必要もないって訳だ。
「ま、そういう事じゃな。連中、呆れたことに儂がこの国を救うという都合のいい所だけを引き継いでおったわ」
「あぁ、だからそんな失望してんのか」
「儂との約束をすっかり忘れ去っておるくせに、盟約に従って自分らを救い出せなどと命令してきおったのじゃぞ? いくら知人の子孫とはいえ失望もするわ」
「うわ……」
それは、流石になぁ……
「儂の託した装備も知らんらしい。まぁ、おそらく価値も判らず売り払ったんじゃろうな……全く。結局は何も得るものはなかったんじゃ。もはやこの国に残る理由はなにもないな」
「王家の連中は?」
「捨て置く。恩を仇で返すような者共にかける情けは無い」
「ご尤も」
シアにとってはあくまで知人の親戚でしか無い。
知人本人に思い入れがあったとしても、その親戚が恩知らずであれば気にかける理由も無いだろうな。正直他人と変わらんし。
「で、俺達まで後追いさせてまで城に忍び込ませた理由は?」
「それは経験積みの為じゃな。こういう時でなければめったに経験できまい?」
「マジっすか。勘弁してくださいよ師匠……」
黙って耳を傾けてたエレク達も、流石にコレにはツッコミを堪えきれんかったか。
ただまぁ、俺から言わせれば……やっぱりか。の一言なんだよな
修行的な意味以外は全く無い所なんてシアらしいといえばシアらしい。
まぁ、たしかにこんな事はよっぽどの理由がなければやろうと思わんしな。
ただ、この経験が今後生きる機会があるとは余り思えな………………いとも言えないのがゲーム世界の怖いところだが。
「何を言っておる。キョウは兎も角、お主らは国で名の知れるほどに売り出しておるのだろう? 遠くない将来、こういった技術が役に立つ機会が訪れると思うぞ」
「えぇ……マジっすか?」
「アタシら、傭兵みたいに戦争に首を突っ込む気なんて無いんですけど……」
「お前達に無くても……そうじゃな。例えば今のこのガタガタな国を周辺国が狙ったとして、その国で名の知られているお前たちのチームを、敵国が放っておくと思うかの?」
「う……それは、まぁ確かに」
「今のこの国に他国と交渉出来るだけの力があるとは思えん。しかし、プライドだけが先走る貴族共が属国化を受け入れると思うか? であれば、十中八九戦が起きて、結果侵略されるじゃろうな」
まぁ、自国を割ってのクーデターで辛勝した直後の革新派が、周辺国との連戦に耐えられるとは思えんよなぁ。
実質国力半減中なうえに、クーデター直後で兵力も疲弊してるだろうし、勝ったのがタカ派というのもな。ああいう連中って極論に走りやすくて、交渉事でろくな結果を産まないっていう印象があるんだわ。
「で、お前達にその気があろうが無かろうが、お前たちは狙われる。一国相手にたった4人のチームであるお主らに取れる手段は、せいぜい逃げるか相手の頭を潰すの二択くらいじゃろ」
「まぁ、たしかにそうなる可能性はありますね」
色と知恵の回るヴォックスは、シアの言葉に思うことがあったらしい。
「他国に逃げるにせよ、今回のように王城に忍び込んでの斬首作戦を取るにも、今回の潜入経験は役に立つ。そうは思わんか?」
「師匠……まさかそこまで考えて……」
いや、そこまで考えてはないと思うぞエレクよ……
元に、色々講釈たれていたシアの目線があっちこっち飛びまくってたしな。絶対今考えながら喋ってたぞアレは。
ただ、その場の思いつきであってもシアの言う未来が来る可能性は否定できないんだよな。国でトップクラスという名声を既に受けてしまっているんだ。兵器の性能が高い現代と違って、個人の力が戦局に与える影響の大きいこの世界の戦争では、敵からも味方からも間違いなく戦力として注目されるはず。
実際、名が売れてるわけでもない俺達も、以前ハティの機動力を買われて結構重要な伝令役任されたりした実績があるからな……
偉い連中に少しでも『あいつ便利』と思われたら、声がかかる可能性は高いと思ったほうが良いよな。
……やっぱり偉い連中と面識持つのはハイリスクハイリターンだよなぁ。
それにしても、王城のこんな奥深くまで忍び込んでおいて、潜入の経験以外何も得るものがなにもないってのも色々と思うところはあるな。
普通ゲームだとこういう所では良くも悪くも王様に顔を覚えられて、何か続くイベントへのフラグになるもんなんだがな。
もちろん、今はこの国に留まる気が全く無いので顔を覚えられても何も良いこと無いどころか、クーデター成功して追い落とされた王族に記憶されても厄介事しかなさそうだからな。会わずに住むならそれに越したことはないんだがな。
勿論そこに手を貸して、逆転勝利で国を取り戻すってのもRPGのお約束ではあるんだが、シアの話を聞いたあとじゃ手を貸す気にならんし、そもそも俺はさっさとエリスたちのところに帰りたいのが本音だからな。変なしがらみは作りたくない。
となれば、今まず俺達がするべきは
「よし、帰るか」
「ウム」
さっさとずらかることだな。
コソコソ隠れていた俺たちを呼び出したシアだったが、予想に反してそこには他に誰も居なかった。
「ああ、期待はずれじゃった。ここにはもう何も得るものが無さそうじゃ」
「お、おぅ、そうか」
珍しいな。あの門での兵士たちとのやり取りでも、殆ど表に出さなかった苛つきが声に出ている。言葉通りに期待した情報は何も手に入らなかったって事かな?
いや、怒りというよりも冷めたか諦めた……落胆という感じか。
ここまでハッキリとした感情を出すということは、結構期待していたという事か?
こういう時は空気を読んでこの話題は避けるべき……と言いたいところだが、これだけ巻き込まれて城への侵入までやらされたんだ。これで事情を聞かないと言うのは出来ない相談だ。
エレク達もそれじゃ納得できないだろう。
「お主は本当に顔に出やすいのう。そんな顔せんでもちゃんと事情は説明するわい」
「む……」
また顔に出てたか。
こう毎回いろいろな奴に指摘されると、流石にもう否定できねぇなぁ……そんなに顔に出やすいのか、俺は。
まぁ今は、それは良い。
「それで? 今回の件、一体どういう事だったんだ?」
「いや、あの兄貴? 何もこんな敵陣……どころか本拠のど真ん中でする話しっスか?」
「う……それもそうか」
これは確かに確かにエレクの言うとおりだ。
わざわざ危険地帯で話すような内容じゃなかったな。
さっさと撤退しよう、と促そうと思ったんだが……
「安心せい。ここへは誰も踏み込んでこんよ。というか踏み込んで来ることが出来んのだな」
「何でそんな事が解るんだ?」
「王が伝染型の壊疽に侵されておるからよ」
「……何だって?」
壊疽ってアレだろ? 指先が腐ったりする病気のやつ。
いや詳しい話はわからんけど、昔そんなような病気を題材にした本を読んだ覚えがある。
「折角捉えた王族を幽閉する訳じゃ。あそこまで強い腐臭が漂うのであれば、もはや手の施しようはあるまい」
「……つまり、せっかく捉えた王様に、連中も感染を恐れて近づくことが出来ないと?」
「ま、そのようじゃな」
そりゃ、旗頭に使えん訳だ。
エレク達も驚いていたって事は、世間一般には王様がそんなやばい病気にかかっているなんて知られていなかったはずだ。
それなのに、クーデターで負けて捕らえられた王様が姿を表してみれば壊疽なんてヤバい病気にかかっている。
民衆はクーデターに勝利した貴族達がやらかしたと疑うだろう。
折角勝利した貴族達が、わざわざ民衆を敵に回したがるとは思えん。仮にも反乱で国を取った連中だからこそ、反乱はなによりも恐れてるだろう。
となれば、王様の事を外に漏らさないためにも幽閉するしか無かったってわけだ。
「……それで、伝染型なんだろ? お前は大丈夫なのかよ?」
「儂が伝染病の類に侵されるようなヤワなからだだと思うてか?」
「あっ、ハイ……そっすね」
そうだよな。シアだもんな……
「……なんて納得できねぇよ! お前がどれだけ頑丈だろうが、そこから俺達に伝染したら結局ヤバいんだろうが」
「安心せい。病魔のような、目に見えないような小さな悪虫は儂に近づいただけで燃え尽きる。儂を媒介してお主らに病魔が飛び火するようなことはないよ」
「おう……そうなのか」
それはそれでなんかヤベー感じがするが、黙っとくか。
電磁波的ななにかを発して病原菌を焼き払ってるってかってにイメージしておこう。
って、そんな事話してても無駄に時間が過ぎていくだけだ。シアが話す気があるうちに、この場でさっさと聞けることは聞いちまったほうが早いなこれ。
「それで……? 結局お前の用事は何だったんだ?」
シアは目頭を揉み、一息。
「この城の王族の先祖が、儂の旧知でな。成り行きで救ってやったんじゃが、その後色々あってな。儂が眠りについた後の事を……要するに、儂の残した装備や情報伝達等を彼奴の一族に任せる事になったんじゃ。で、えらく真面目に取り組んでおったのでな。儂が目覚めた後、儂との盟約を果たした暁には一つ、儂の叶えられる範疇で願いを聞いてやろうという事になっておった。じゃが……」
それで期待はずれ、か。まぁ要するに
「盟約は果たされなんだ。彼奴は儂との約を引き継げなんだようじゃな」
エレク達は黙って聞いている。口を挟むつもりはないらしい。
となると質問役は自然と俺になるのか。
ちなみに、エレク達は既にシアが人間ではないことを知っている。
まぁ、アレだけスパルタ特訓で圧倒的な力の差を刻みつけられれば、ソレが人外の力だと気付くのに時間はかからんか。
シアが長い時を眠っていたという話も、思っていたよりすんなり受け入れているようだった。
……って今はそんな事よりもシアの話だ。
「せめて王族であれば何か有力な情報だけでも引き出せるかと思ったんじゃが……」
「ソレもなかったのか?」
「どうやらこの国の王権はあって無いようなモノのようじゃな。先代がどうだったかは知らぬが、当代の王は必要な情報を何一つ持っておらなんだ。というか何を聞いても『知らぬ』『判らぬ』しか帰って来んでな。実験が取り上げられていることにも気づいておらぬ愚王であった。実直を絵に書いたようなあの男の血からあのようなモノが生まれるとは、時の流れというのは無情じゃのう」
「本人がどれだけ優れていても、子がそうとは限らないもんだしな」
いくら実務に優れていようが、子育てまで優れているとは限らない。偉人や有名人の息子が跳ね返って逮捕されるなんてニュースは腐るほどあったしな。
「まぁ、彼奴が悪人だったとか間が抜けていたと言う訳ではない事は儂がよう知っておる。ドがつくほどの真面目な男じゃったからな。儂との盟約を軽視するような奴ではない。単純に子孫が顔も知らぬ儂との盟約を軽視しておったと言うだけの事じゃろう。儂の人の見る目がなかったというよりも、先見の明がなかったといった所か」
いつもより口数が多い。そして「彼奴」とやらを庇うような言動がめっちゃ多い。
これは、相当期待と落胆が激しかったんだろうな。それだけ信頼していたって事か。
「まぁ、ある意味お主にとってはそちらのほうが良かったやもしれんが」
「ん……? そりゃ一体どういう事だ?」
盟約とやらに従ってシアが情報を手に入れられたほうが、この後の旅について有利に働くんじゃないのか?
「彼奴との盟約とは、儂の残した武具の保管と目覚めた時の情報の提供、仲間たちの情報提供の三つ。引き換えに当代の王家の相談を一つ解決すると言うものじゃったからな」
「そういう事か。盟約通りであれば窮地に立っている王族のために何かしら手を貸す必要があったかも知れないと。だが、実際には盟約なんぞすっかり忘れ去られて居たわけで……」
盟約を違えたのは王家側、しかも一方的にだ。そんな連中には手を貸す必要もないって訳だ。
「ま、そういう事じゃな。連中、呆れたことに儂がこの国を救うという都合のいい所だけを引き継いでおったわ」
「あぁ、だからそんな失望してんのか」
「儂との約束をすっかり忘れ去っておるくせに、盟約に従って自分らを救い出せなどと命令してきおったのじゃぞ? いくら知人の子孫とはいえ失望もするわ」
「うわ……」
それは、流石になぁ……
「儂の託した装備も知らんらしい。まぁ、おそらく価値も判らず売り払ったんじゃろうな……全く。結局は何も得るものはなかったんじゃ。もはやこの国に残る理由はなにもないな」
「王家の連中は?」
「捨て置く。恩を仇で返すような者共にかける情けは無い」
「ご尤も」
シアにとってはあくまで知人の親戚でしか無い。
知人本人に思い入れがあったとしても、その親戚が恩知らずであれば気にかける理由も無いだろうな。正直他人と変わらんし。
「で、俺達まで後追いさせてまで城に忍び込ませた理由は?」
「それは経験積みの為じゃな。こういう時でなければめったに経験できまい?」
「マジっすか。勘弁してくださいよ師匠……」
黙って耳を傾けてたエレク達も、流石にコレにはツッコミを堪えきれんかったか。
ただまぁ、俺から言わせれば……やっぱりか。の一言なんだよな
修行的な意味以外は全く無い所なんてシアらしいといえばシアらしい。
まぁ、たしかにこんな事はよっぽどの理由がなければやろうと思わんしな。
ただ、この経験が今後生きる機会があるとは余り思えな………………いとも言えないのがゲーム世界の怖いところだが。
「何を言っておる。キョウは兎も角、お主らは国で名の知れるほどに売り出しておるのだろう? 遠くない将来、こういった技術が役に立つ機会が訪れると思うぞ」
「えぇ……マジっすか?」
「アタシら、傭兵みたいに戦争に首を突っ込む気なんて無いんですけど……」
「お前達に無くても……そうじゃな。例えば今のこのガタガタな国を周辺国が狙ったとして、その国で名の知られているお前たちのチームを、敵国が放っておくと思うかの?」
「う……それは、まぁ確かに」
「今のこの国に他国と交渉出来るだけの力があるとは思えん。しかし、プライドだけが先走る貴族共が属国化を受け入れると思うか? であれば、十中八九戦が起きて、結果侵略されるじゃろうな」
まぁ、自国を割ってのクーデターで辛勝した直後の革新派が、周辺国との連戦に耐えられるとは思えんよなぁ。
実質国力半減中なうえに、クーデター直後で兵力も疲弊してるだろうし、勝ったのがタカ派というのもな。ああいう連中って極論に走りやすくて、交渉事でろくな結果を産まないっていう印象があるんだわ。
「で、お前達にその気があろうが無かろうが、お前たちは狙われる。一国相手にたった4人のチームであるお主らに取れる手段は、せいぜい逃げるか相手の頭を潰すの二択くらいじゃろ」
「まぁ、たしかにそうなる可能性はありますね」
色と知恵の回るヴォックスは、シアの言葉に思うことがあったらしい。
「他国に逃げるにせよ、今回のように王城に忍び込んでの斬首作戦を取るにも、今回の潜入経験は役に立つ。そうは思わんか?」
「師匠……まさかそこまで考えて……」
いや、そこまで考えてはないと思うぞエレクよ……
元に、色々講釈たれていたシアの目線があっちこっち飛びまくってたしな。絶対今考えながら喋ってたぞアレは。
ただ、その場の思いつきであってもシアの言う未来が来る可能性は否定できないんだよな。国でトップクラスという名声を既に受けてしまっているんだ。兵器の性能が高い現代と違って、個人の力が戦局に与える影響の大きいこの世界の戦争では、敵からも味方からも間違いなく戦力として注目されるはず。
実際、名が売れてるわけでもない俺達も、以前ハティの機動力を買われて結構重要な伝令役任されたりした実績があるからな……
偉い連中に少しでも『あいつ便利』と思われたら、声がかかる可能性は高いと思ったほうが良いよな。
……やっぱり偉い連中と面識持つのはハイリスクハイリターンだよなぁ。
それにしても、王城のこんな奥深くまで忍び込んでおいて、潜入の経験以外何も得るものがなにもないってのも色々と思うところはあるな。
普通ゲームだとこういう所では良くも悪くも王様に顔を覚えられて、何か続くイベントへのフラグになるもんなんだがな。
もちろん、今はこの国に留まる気が全く無いので顔を覚えられても何も良いこと無いどころか、クーデター成功して追い落とされた王族に記憶されても厄介事しかなさそうだからな。会わずに住むならそれに越したことはないんだがな。
勿論そこに手を貸して、逆転勝利で国を取り戻すってのもRPGのお約束ではあるんだが、シアの話を聞いたあとじゃ手を貸す気にならんし、そもそも俺はさっさとエリスたちのところに帰りたいのが本音だからな。変なしがらみは作りたくない。
となれば、今まず俺達がするべきは
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「ウム」
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もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
生産職から始まる初めてのVRMMO
結城楓
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最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。
そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。
そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。
そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。
最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。
最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。
そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
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「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
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