ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
上 下
266 / 330
四章

二百五十四話  御宅訪問Ⅲ

しおりを挟む
「あれ、シア一人なのか?」

 コソコソ隠れていた俺たちを呼び出したシアだったが、予想に反してそこには他に誰も居なかった。

「ああ、期待はずれじゃった。ここにはもう何も得るものが無さそうじゃ」
「お、おぅ、そうか」

 珍しいな。あの門での兵士たちとのやり取りでも、殆ど表に出さなかった苛つきが声に出ている。言葉通りに期待した情報は何も手に入らなかったって事かな?
 いや、怒りというよりも冷めたか諦めた……落胆という感じか。

 ここまでハッキリとした感情を出すということは、結構期待していたという事か?

 こういう時は空気を読んでこの話題は避けるべき……と言いたいところだが、これだけ巻き込まれて城への侵入までやらされたんだ。これで事情を聞かないと言うのは出来ない相談だ。
 エレク達もそれじゃ納得できないだろう。

「お主は本当に顔に出やすいのう。そんな顔せんでもちゃんと事情は説明するわい」
「む……」

 また顔に出てたか。
 こう毎回いろいろな奴に指摘されると、流石にもう否定できねぇなぁ……そんなに顔に出やすいのか、俺は。
 まぁ今は、それは良い。

「それで? 今回の件、一体どういう事だったんだ?」
「いや、あの兄貴? 何もこんな敵陣……どころか本拠のど真ん中でする話しっスか?」
「う……それもそうか」

 これは確かに確かにエレクの言うとおりだ。
 わざわざ危険地帯で話すような内容じゃなかったな。
 さっさと撤退しよう、と促そうと思ったんだが……

「安心せい。ここへは誰も踏み込んでこんよ。というか踏み込んで来ることが出来んのだな」
「何でそんな事が解るんだ?」
「王が伝染型の壊疽に侵されておるからよ」
「……何だって?」

 壊疽ってアレだろ? 指先が腐ったりする病気のやつ。
 いや詳しい話はわからんけど、昔そんなような病気を題材にした本を読んだ覚えがある。

「折角捉えた王族を幽閉する訳じゃ。あそこまで強い腐臭が漂うのであれば、もはや手の施しようはあるまい」
「……つまり、せっかく捉えた王様に、連中も感染を恐れて近づくことが出来ないと?」
「ま、そのようじゃな」

 そりゃ、旗頭に使えん訳だ。
 エレク達も驚いていたって事は、世間一般には王様がそんなやばい病気にかかっているなんて知られていなかったはずだ。
 それなのに、クーデターで負けて捕らえられた王様が姿を表してみれば壊疽なんてヤバい病気にかかっている。
 民衆はクーデターに勝利した貴族達がやらかしたと疑うだろう。
 折角勝利した貴族達が、わざわざ民衆を敵に回したがるとは思えん。仮にも反乱で国を取った連中だからこそ、反乱はなによりも恐れてるだろう。
 となれば、王様の事を外に漏らさないためにも幽閉するしか無かったってわけだ。
 
「……それで、伝染型なんだろ? お前は大丈夫なのかよ?」
「儂が伝染病の類に侵されるようなヤワなからだだと思うてか?」
「あっ、ハイ……そっすね」

 そうだよな。シアだもんな……

「……なんて納得できねぇよ! お前がどれだけ頑丈だろうが、そこから俺達に伝染したら結局ヤバいんだろうが」
「安心せい。病魔のような、目に見えないような小さな悪虫は儂に近づいただけで燃え尽きる。儂を媒介してお主らに病魔が飛び火するようなことはないよ」
「おう……そうなのか」

 それはそれでなんかヤベー感じがするが、黙っとくか。
 電磁波的ななにかを発して病原菌を焼き払ってるってかってにイメージしておこう。
 って、そんな事話してても無駄に時間が過ぎていくだけだ。シアが話す気があるうちに、この場でさっさと聞けることは聞いちまったほうが早いなこれ。

「それで……? 結局お前の用事は何だったんだ?」

 シアは目頭を揉み、一息。

「この城の王族の先祖が、儂の旧知でな。成り行きで救ってやったんじゃが、その後色々あってな。儂が眠りについた後の事を……要するに、儂の残した装備や情報伝達等を彼奴の一族に任せる事になったんじゃ。で、えらく真面目に取り組んでおったのでな。儂が目覚めた後、儂との盟約を果たした暁には一つ、儂の叶えられる範疇で願いを聞いてやろうという事になっておった。じゃが……」

 それで期待はずれ、か。まぁ要するに

「盟約は果たされなんだ。彼奴は儂との約を引き継げなんだようじゃな」

 エレク達は黙って聞いている。口を挟むつもりはないらしい。
 となると質問役は自然と俺になるのか。
 ちなみに、エレク達は既にシアが人間ではないことを知っている。
 まぁ、アレだけスパルタ特訓で圧倒的な力の差を刻みつけられれば、ソレが人外の力だと気付くのに時間はかからんか。
 シアが長い時を眠っていたという話も、思っていたよりすんなり受け入れているようだった。
 ……って今はそんな事よりもシアの話だ。

「せめて王族であれば何か有力な情報だけでも引き出せるかと思ったんじゃが……」
「ソレもなかったのか?」
「どうやらこの国の王権はあって無いようなモノのようじゃな。先代がどうだったかは知らぬが、当代の王は必要な情報を何一つ持っておらなんだ。というか何を聞いても『知らぬ』『判らぬ』しか帰って来んでな。実験が取り上げられていることにも気づいておらぬ愚王であった。実直を絵に書いたようなあの男の血からあのようなモノが生まれるとは、時の流れというのは無情じゃのう」
「本人がどれだけ優れていても、子がそうとは限らないもんだしな」

 いくら実務に優れていようが、子育てまで優れているとは限らない。偉人や有名人の息子が跳ね返って逮捕されるなんてニュースは腐るほどあったしな。

「まぁ、彼奴が悪人だったとか間が抜けていたと言う訳ではない事は儂がよう知っておる。ドがつくほどの真面目な男じゃったからな。儂との盟約を軽視するような奴ではない。単純に子孫が顔も知らぬ儂との盟約を軽視しておったと言うだけの事じゃろう。儂の人の見る目がなかったというよりも、先見の明がなかったといった所か」

 いつもより口数が多い。そして「彼奴」とやらを庇うような言動がめっちゃ多い。
 これは、相当期待と落胆が激しかったんだろうな。それだけ信頼していたって事か。

「まぁ、ある意味お主にとってはそちらのほうが良かったやもしれんが」
「ん……? そりゃ一体どういう事だ?」

 盟約とやらに従ってシアが情報を手に入れられたほうが、この後の旅について有利に働くんじゃないのか?

「彼奴との盟約とは、儂の残した武具の保管と目覚めた時の情報の提供、仲間たちの情報提供の三つ。引き換えに当代の王家の相談を一つ解決すると言うものじゃったからな」
「そういう事か。盟約通りであれば窮地に立っている王族のために何かしら手を貸す必要があったかも知れないと。だが、実際には盟約なんぞすっかり忘れ去られて居たわけで……」

 盟約を違えたのは王家側、しかも一方的にだ。そんな連中には手を貸す必要もないって訳だ。

「ま、そういう事じゃな。連中、呆れたことに儂がこの国を救うという都合のいい所だけを引き継いでおったわ」
「あぁ、だからそんな失望してんのか」
「儂との約束をすっかり忘れ去っておるくせに、盟約に従って自分らを救い出せなどと命令してきおったのじゃぞ? いくら知人の子孫とはいえ失望もするわ」
「うわ……」

 それは、流石になぁ……

「儂の託した装備も知らんらしい。まぁ、おそらく価値も判らず売り払ったんじゃろうな……全く。結局は何も得るものはなかったんじゃ。もはやこの国に残る理由はなにもないな」
「王家の連中は?」
「捨て置く。恩を仇で返すような者共にかける情けは無い」
「ご尤も」

 シアにとってはあくまで知人の親戚でしか無い。
 知人本人に思い入れがあったとしても、その親戚が恩知らずであれば気にかける理由も無いだろうな。正直他人と変わらんし。

「で、俺達まで後追いさせてまで城に忍び込ませた理由は?」
「それは経験積みの為じゃな。こういう時でなければめったに経験できまい?」
「マジっすか。勘弁してくださいよ師匠……」

 黙って耳を傾けてたエレク達も、流石にコレにはツッコミを堪えきれんかったか。
 ただまぁ、俺から言わせれば……やっぱりか。の一言なんだよな

 修行的な意味以外は全く無い所なんてシアらしいといえばシアらしい。
 まぁ、たしかにこんな事はよっぽどの理由がなければやろうと思わんしな。
 ただ、この経験が今後生きる機会があるとは余り思えな………………いとも言えないのがゲーム世界の怖いところだが。

「何を言っておる。キョウは兎も角、お主らは国で名の知れるほどに売り出しておるのだろう? 遠くない将来、こういった技術が役に立つ機会が訪れると思うぞ」
「えぇ……マジっすか?」
「アタシら、傭兵みたいに戦争に首を突っ込む気なんて無いんですけど……」
「お前達に無くても……そうじゃな。例えば今のこのガタガタな国を周辺国が狙ったとして、その国で名の知られているお前たちのチームを、敵国が放っておくと思うかの?」
「う……それは、まぁ確かに」
「今のこの国に他国と交渉出来るだけの力があるとは思えん。しかし、プライドだけが先走る貴族共が属国化を受け入れると思うか? であれば、十中八九戦が起きて、結果侵略されるじゃろうな」

 まぁ、自国を割ってのクーデターで辛勝した直後の革新派が、周辺国との連戦に耐えられるとは思えんよなぁ。
 実質国力半減中なうえに、クーデター直後で兵力も疲弊してるだろうし、勝ったのがタカ派というのもな。ああいう連中って極論に走りやすくて、交渉事でろくな結果を産まないっていう印象があるんだわ。

「で、お前達にその気があろうが無かろうが、お前たちは狙われる。一国相手にたった4人のチームであるお主らに取れる手段は、せいぜい逃げるか相手の頭を潰すの二択くらいじゃろ」
「まぁ、たしかにそうなる可能性はありますね」

 色と知恵の回るヴォックスは、シアの言葉に思うことがあったらしい。

「他国に逃げるにせよ、今回のように王城に忍び込んでの斬首作戦を取るにも、今回の潜入経験は役に立つ。そうは思わんか?」
「師匠……まさかそこまで考えて……」

 いや、そこまで考えてはないと思うぞエレクよ……
 元に、色々講釈たれていたシアの目線があっちこっち飛びまくってたしな。絶対今考えながら喋ってたぞアレは。
 ただ、その場の思いつきであってもシアの言う未来が来る可能性は否定できないんだよな。国でトップクラスという名声を既に受けてしまっているんだ。兵器の性能が高い現代と違って、個人の力が戦局に与える影響の大きいこの世界の戦争では、敵からも味方からも間違いなく戦力として注目されるはず。

 実際、名が売れてるわけでもない俺達も、以前ハティの機動力を買われて結構重要な伝令役任されたりした実績があるからな……
 偉い連中に少しでも『あいつ便利』と思われたら、声がかかる可能性は高いと思ったほうが良いよな。
 ……やっぱり偉い連中と面識持つのはハイリスクハイリターンだよなぁ。

 それにしても、王城のこんな奥深くまで忍び込んでおいて、潜入の経験以外何も得るものがなにもないってのも色々と思うところはあるな。
 普通ゲームだとこういう所では良くも悪くも王様に顔を覚えられて、何か続くイベントへのフラグになるもんなんだがな。
 もちろん、今はこの国に留まる気が全く無いので顔を覚えられても何も良いこと無いどころか、クーデター成功して追い落とされた王族に記憶されても厄介事しかなさそうだからな。会わずに住むならそれに越したことはないんだがな。
 勿論そこに手を貸して、逆転勝利で国を取り戻すってのもRPGのお約束ではあるんだが、シアの話を聞いたあとじゃ手を貸す気にならんし、そもそも俺はさっさとエリスたちのところに帰りたいのが本音だからな。変なしがらみは作りたくない。

 となれば、今まず俺達がするべきは

「よし、帰るか」
「ウム」

 さっさとずらかることだな。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。 怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。 最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。 その要因は手に持つ箱。 ゲーム、Anotherfantasia 体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。 「このゲームがなんぼのもんよ!!!」 怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。 「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」 ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。 それは、翠の想像を上回った。 「これが………ゲーム………?」 現実離れした世界観。 でも、確かに感じるのは現実だった。 初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。 楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。 【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】 翠は、柔らかく笑うのだった。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

処理中です...