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四章

二百四十七話 首都アレスタンティアⅡ

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 シアが様子を見に行ったのを竜車の中から眺めること数分。
 エレクたちと合流したシアはといえば――

「……何やってんだアイツ」

 盛大に相手をキレさせていた。
 相変わらずこの位置からじゃ何を言ってるのか聞き取れないが、少なくとも相手がキレているのはここから見てもよく分かる。
 仲裁目的だったのか、ただの状況確認のためだったのか知らないが、状況を余計悪化させてどうするんだよ。
 思わず事情の確認のために駆けつけたくなるところだが、ここはじっと我慢だ。俺と街門との関係を考えると、ここで俺が関われば何かもっと良くない方へ話が転がるような気がしてならない。
 やり取りの内容が気になって仕方ないが、ここは待機一択だ。
 身を潜め、門や門兵とは極力接触を抑える…………つもりだったんだけどなぁ。

「おい! やはり一人中に隠れてるぞ!」
「!?」

 シア達の動きに気を取られ過ぎていた。
 気がついたときには竜車の入り口が押し開けられて、兵士が押し入って来ていた。
 というか、強引に他人の竜車に押し入るとか抜き打ちチェック的なやつか? この街の門兵はかなり強い権限を持ってるみたいだな。こんな強引なやり方だと、商品に機密性の高いものも扱うことがあるだろう商人とかが結構反発しそうだと思うんだが。

「おい、隠れていたお前! 外に出ろ! 抵抗すれば容赦はしない」
「あー……はいはい、わかりましたよ」

 正直かなり想定外の出来事だったが、慌てる必要は特にねぇわな。
 竜車の中に潜んではいたが、こちとら何も悪いことはしてないわけだしな。変に狼狽えずに堂々と受け答えしておけばいいだろう。
 正直、竜車の中で身柄確保しておいてくれたほうが良かったんだけどな。門の前に姿をさらさずに済むし。
 いや、この場合はもうトラブルに巻き込まれてるんだからもう今更か……
 身を隠そうが何しようが、門に関わればトラブルはもう避けられんのか俺は。冗談で言っていたが、これはもう本当に呪いか何かなんじゃねぇのか……?

「兄貴!」

 そのまま、兵士につれられてシアやエレク達のところへつれてこられてしまった。
 いきなり分断されて詰め所とかの取り調べ室に連れ込まれたらどうしようと、ちょっとだけ焦っていたのは内緒だが、どうやらその心配はないようだ。良かった。
 それにしても、そもそもエレク達と門兵達は一体何が原因で揉めていたんだ?
 ここまで来てしまった以上、そのへんの話は知っておきたいんだが。主に興味的な理由で。

「やはり匿っていたようだな。これをどう釈明するつもりだ?」
「兄貴は俺達にとって兄弟子だ! 貴族とは何の関係もないだろう!」
「ならば何故一人竜車の中に潜んでいたのだ? 大方返送するだけではボロが出るからと匿っていたんだろう」
「それは、説明しただろ! ジンクスが……」
「そんな苦しい出任せ、信じるとでも思っているのか?」

 なにか俺を置き去りにして激しく口論しているエレクと門兵だが、会話の内容を聞く限り、つまりはこういう事か?

 ・エレク達が誰ぞの貴族を匿っていると因縁をつけられた。
 ・強制捜査をしてみれば、竜車の中に隠れていた男(俺)が見つかった。
 ・事情を離してもまるで信じてもらえない。

 こうして事実だけを並べてみれば、怪しすぎるなんてもんじゃねーな。疑われても仕方がない。
 ただし――

「此奴は儂と一緒に旅をしていただけだ、ティンガルからそこの冒険者達と契約して同行して来ただけだというのに、何故そのような因縁をつけられねばならぬ」
「それが本当であればな。 もしお前たちの言うことが本当だと言い張るのであれば、その男が保守派の貴族でないと証明してみせろ」

 うわ、無茶なこと言いやがる。それっていわゆる悪魔の証明ってやつだろ。

「話にならぬな。疑いをかけるのであれば証明すべきは貴様らであろう。この男が貴族であるという確固たる証拠を示してみせろ」
「何だと!?」

 いや、何だとも何も、それが普通……なのは日本的な考え方なのか?
 しっかし、相変わらずというかなんというか、シアは部外者に対して言葉がキッツいな。言ってることは正論だが言い方が攻撃的すぎて煽っているようにしか聞こえんぞ。
 もしかしたら何か目的があって意図的に煽ってるのか?

「第一、貴様ら悪魔の証明も知らぬのか? 真実を証明することは出来ても、無かったことを証明する事は誰にも出来ん。そんな子供でも知っている常識であろうよ。そんな当たり前の常識すら持ち合わせず、出来もしない証明を矯正するような貴様らの言葉に従う理由が一体何処にある?」

 あ、やっぱりこの世界にも悪魔の証明って存在するのか。まぁ概念的な問題だしな、類義語があってもおかしくないか。
 それにしても、そんな無茶を押し付けるってことは相手も悪意があってゴリ押ししているってことか?

「貴様! 我らは貴族の方々の命を受けてここを守っておるのだ! 如何な理由があろうと、その我々に楯突こうというのであれば、それは貴族を敵に回すことと同義だと理解しているんだろうな!?」
「それは異なことを言う。おまえたちの言葉を信じるのであればこやつは貴族なのだろう? 貴族の使い走りごときが貴族を付け狙うとは一体どういう了見だ?」
「その貴族は保守派の貴族の子息であると情報提供があったのだ。我々革新派が捉えて何が悪い!」

 情報提供……? タレコミがあったってことか?
 いや、自作自演の線もあるが……何故俺に目をつける? この街には今初めて来たばかりだ。わざわざこんな真似をして捉えようとする意図がまるでわからない。
 アルヴァストの時のように頭がおかしくなっているようには見えないし……

「情報提供のう? その情報が正しいと何故断言できるのだ? 断言してもいいがこやつはこの国に訪れたのは初めてじゃぞ? 案内した儂とてもう覚えておらん程この国には戻ってきておらん。その情報、出どころがかなり怪しいと思うのじゃが……もし言いがかりでないというのなら、どこから仕入れた情報なのか開示できるのかの?」
「何故貴様らに証明する必要がある! 我々は……」
「証明できないと。にもかかわらず貴様らは他国の旅行客を捕まえると。此奴は母国であるアルヴァストでそれなりの地位の者と繋がりがある。それを問答無用で冤罪をかけようというのであれば、儂は一度帰国してこの事を伝えねばならんのだが、当然構わぬよな?」
「アルヴァ……何だその国は。聞いたこともないぞ。だが、そんな話をされて、お前を逃がすと思うのか?」
「ふむ……知らぬ、か」

 あ、今のは俺にも解ったぞ。キレてる相手へ唐突に俺の国の名前を出して情報を仕入れようとしたな。シアもこっちへ一瞬視線を向けてきたから俺の勘違いじゃないはずだ。
 でも、この騎士は聞いたこともないと即座に切り捨てた。つまり、本当に知らないってことだろう。首都ともなればもしかしたら何かしらの情報が手に入るんじゃないかと少し期待はしていたんだが……こんな大きな街でもアルヴァストの情報がないとなると、本格的に北の国境を越えた先へ行かないと帰るための手立てはなさそうだな……。

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