ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百三十六話 港町ティンガル

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「ここが目的地か。確かティンガルとか言ったかの」

 一団と出会って二日、アレから特にこれといった襲撃も無く、護衛とは名ばかりのただの同行状態で暇を持て余していたがようやく目的の街に到着したようだ。
 港町という話だったが、街の入り口だというのに海が全く見えない。門の奥に山が見えるという事は、街の規模が山一つ越える程という事なんだろう。ゲームで言う港町というと、海沿いにだけあるイメージだったが、どうやらここは中々大きな街のようだ。

「そうだ。護衛任務感謝する。報酬は貨幣と等価の宝石、どちらが良い?」
「……そう問いかけるという事は、最初から分かっておるのだろう? 意地の悪い事をしおって」
「いや、念のためにな」

 ん?
 今なんか複雑な話あったか?

「旅人で、騙されて古い地図を売り付けられ、この地の情勢すら知らない儂らがこの国の貨幣を欲しがっておることくらいすぐわかるじゃろうに」
「まぁ、そうだろうな。だが、持ち運び易い宝石類を望む者も多いからな。さっきも言ったが念のためだ」

 あ、なるほど。
 確かにこの国の金の見た目や価値を知らない訳だから、下手するとぼったくられまくるという事か。
 その点、体面を気にする貴族様が、報酬をケチったなんて家名に泥を塗る様な噂を流されるような真似をするとは思えんし、護衛の報酬としてもらい受けるのであればある程度は信頼も出来ると。
 しかし貨幣か……これは覚えとかんとなぁ。
 RPG感覚だと全世界共通貨幣が殆どだったから、完全に意識から外れてた。クフタリアもアルヴァストの都市の一つだから使用する通貨は気にする必要は無かったけど、アルヴァストから離れるとなるとこういった事にも気を配らないといけないのか。
 海外の大会に行ったときに両替とかは確かにやったけど、まさかゲームの中で迄そんな事を気にすることになるとは全く思いもよらなかった……

「そうかぇ。まぁ、そこの考え無しはそういう事に頭が回らん未熟者じゃから、儂がしっかりしとかんとな」
「その様だな」

 む……もしかしてさっきのやたら説明的なやり取りは俺に聞かせる為か?
 これは勉強……ではなく、嫌味だなぁ絶対。これくらい気付けっていう判りやすい煽りだ。
 そう言われても仕方がないくらい見落としまくってるから自業自得ってもんだが、冒険初心者にはもうちょっと優しくしてほしい……

「少し良いだろうか?」
「ん?」

 唐突な声掛けに振り向いてみれば、立派な鎧に高そうな服を着た少年が。見た感じ、少々頼りない感じはあるが貴族出身のふんわりイケメンの『騎士でーす』といった風貌……まさか、シアと騎士がタッグで俺をいじめているところに、騎士側から新たな参入者が!?

「これは若!?」
「此度は我らの道中を守ってもらい感謝する。挨拶が遅れてすまない。私はアット・アル・グナイゼナー。この者達は私の家臣なのだ」

 ……どうやら参入者では無いようだった。そうか、コイツが騎士たちの言う『主』様か。
 何かもっとこう、如何にもな感じの貴族のオッサンを想像してたんだが、また随分若いな。これ成人してないんじゃ……いや、この国の成人年齢が判らんうちは迂闊な事を口にしない方が良いか。
 流石の俺も、迂闊な言動がろくでもない結果を引き寄せるというのは学んだのだ。

「見ず知らずの我らに救いの手を差し伸べてくれた事、心から感謝する。そなた達が通りかからねば、我々にも少なくない被害が出ていた事だろう」
「気にしないでくれ……っと、雑な言葉づかいで申し訳ない。敬語はどうも苦手で、変に使うと余計失礼な感じになりそうなんだ。……で、アレは単に見過ごせば俺の後味が悪かったから手を出しただけだから、変に恩に感じる必要は無いよ」
「む……そうか。だがここで礼の一つも返さない様では貴人の名折れ。そちらがそう言うのであればこちらの事も通過儀礼だとでも思って欲しい」
「まぁ、そういう事なら」

 なんか、思ったより気さくだった。
 王様といい、クフタリアのライラール伯といい、俺と面識を持つ貴族ってどうしてこう考えが柔軟なのか……いや、漫画みたいに無礼な口をきいたら即キレとかの反応こそが幻想だったとか? 統治者なんだから実はこういう柔軟な思考の持ち主と言うのが貴族の基礎スキルだったりするのか? ……と思ったけど、よく考えたら王都について早々ろくでもない貴族に絡まれもしたんだった。
 何というか、出会った貴族が両極端なんだよな。ライラール伯は貴族の怖さみたいなのもしっかり持っていたけど、その上で軽く接する度量持ってたし、王様は王様なんてやりたくなかったとか言い放つ変人だが、それでも国をまとめ上げてあのクーデター騒ぎも乗り越えて見せた。つまり出来る貴人というやつだ。
 そして俺達と敵対する事になったクーデター側の貴族。ヤバい薬か何かで思考がかなりおかしな事になっていたそうだが、真っ当に会話が出来た初対面の時点で、もう色々と『子悪党』という言葉が似あうダメ人間だったから、薬の件が無かろうが結局破滅してたんじゃないかと思っている。まぁ、つまりはこっちは駄目な貴人。この手の悪性腫瘍の様な貴族は王様が色々理由を付けて粛清や放逐を断行したみたいだが、それでもあんなクーデターを起こすのだから、粛清前の王都がどんな場所だったか、考えたくも無くなるというもんだ。
 そういう意味では、俺達と一緒に城からの伝令を街へ伝えるときに同道したアルマさんなんかは、こういっては悪いがすごく『普通な』貴族だったと思う。騎士爵というのがどれくらいの地位なのかはよく分からんが、爵位を貰えるって事は貴族だよな……?
 まぁ、あの人自体はすごく仕事のできる人オーラがビシバシ出てたんだけど、上と下が極端すぎて何か普通の人って感じがしたんだよなぁ。失礼過ぎて本人の前じゃ絶対言えないけどな。

「どうかしたか? 何か考え込んでいるようだが」
「ああいえ何でも。そちらの礼は受け取らせてもらいます。俺達はこれからこの国を見て回るつもりなので、この街へ再び訪れるかどうかは分かりませんけど、もし何かあったら仕事として引き受けますんで」
「うむ、機会があれば頼らせてもらおう」

 その言葉を最後に、さっさとでっかい家へ入って行ってしまった。
 本当に礼だけが目的だったらしい。
 でもまぁ、これくらいの関係がまぁ妥当だよな?
 どうやらゴタゴタに関しては勝ち組側に居るみたいだけど、そもそもゴタゴタになんぞ巻き込まれたくない俺等としては、ビジネス以上の付き合いは無い方が良い筈だ。
 それに、アルヴァストを目指している俺が、この街で身を潜めるというグナウゼナー……何だっけ? そういえば爵位とかは聞いて無かったな。まぁアットで良いか。本人相手に話すわけでもないし。
 アットと今後関わる事も無いだろうし、波風立てない別れ方としてはこれで良かった筈。
 シアからも変なツッコミが無い事からもきっと正解。

「それでは我々もこれで失礼させてもらおう。我らの主もお疲れの様で、早々に休ませて差し上げたいのでな」
「うむ。それでは息災でな」
「ゴタゴタ、上手くやり過ごすことが出来ることを祈ってるよ」
「お前達も、良くない時に来てしまったのは残念な事だが、この国を楽しんでいってくれ」

 クソまじめで、お堅い印象だが、何だかんだで人当たりは良いんだよなこの騎士。
 結局最後まで名前を聞くことが無かったが、騎士団のリーダーみたいな感じだったし、もしかしたら結構な実力者だったりしたのかな。
 ま、今考えてもしょうがない事か。
 それよりも……

「さて、400年の間にこの国もシアの認識とはだいぶズレたるみたいだが、この後どう動く?」
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