ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百三十五話 気付き

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「何故……か。そのような問いかけを繰り返すという事は、お前たちは本当に我らが何者か理解せぬまま助けたというのか」
「さっきも言ったろう。儂らはこの土地の者ではない。貴族共のゴタゴタなど儂らの知った事ではないからな」
「それを信じろと?」
「そうじゃなぁ」

 ……信じろと? 等と言われても、他に本当に含む所は無いんだがなぁ。
 実際、俺達はこの国のごたごたについては何が起こっていたのは全く知らなかったのは本当だし、この国の人間ではないというのも本当の事だ。
 観光旅行ではないが、情報収集目的の探索だから、旅行と言うのもあながち間違いでないしな。

「では何故そんな見ず知らずの、興味のない相手を助けるような真似を? 我々に取り入ろうとしたか……なにがしか接触しようとしていたと考えるのが普通なのでは?」
「儂の同行者はどうも度を越えたお人よしの様でな。とりあえず助けたい等と抜かしおったのよ」
「それは……確かに度を越えたお人よしのようだ」

 うるせぇよ。後味悪くなるのが嫌なだけだっつの。

「そもそも、本当に儂らが敵対者であるならお前達を助ける理由は無かったじゃろう。取り入るなどと面倒なことをせずとも、獣に襲われている時に襲撃を仕掛けてしまえばそこでお前たちは終わりじゃ」
「む……」

 そりゃそうだよな。
 俺達が本当に敵対者なら、相手に取り入って内側からとか七面倒なことをせずとも、あの瞬間に全てを終わらせてしまうのが一番手っ取り早いというのは間違いない。
 敵対対象が消えてしまえば、任務はそれで終わりだからな。

「その無理やりな考察は終わりか? ならいい加減儂の質問に答えて欲しいのじゃがな?」
「ふむ……まぁ、半分監視目的とは言え成り行き上こうして雇っている以上、お前たちに隠す理由も無いか。目的地に着いてしまえば全て判ってしまう事だしな」

 多分目的地についても、この国の権力構造やごたついている要因の人物たちを全く知らない俺等には何も分からんと思うけどな。
 ……というか

「監視目的だったのかよ」
「そりゃそうじゃろ。これだけ装備を充実させた集団が、助けられたというだけで何故見ず知らずの他者の手を借りる必要があるというんじゃ」
「まあ、そういう事だな」

 あらー、二人してそういう事言うのかよ。
 考えなしと人でなしは別なんだよちくしょうめ!

「さて、それで理由だったな。想像の通り人目を忍んでこの先にあるティンガルに向かう必要があったから、あえてこの旧同を選んだのだ。確かに人目につかない道ではあったが、人足が遠のいていつの間にか獣の領域になってしまっていた所に我々が踏み込んでしまった所でお前たちが現れた……といった所だな。」
「それは状況から何となくわかる。知りたいのは……」
「先に言っておくが別に複雑な話は無いぞ? 簡単な話だ。我等の主は面倒ごとに巻き込まれたくない。だから王都から離れたかった。ただそれだけだ」
「ふむ……」

 確かに、獣に襲撃を受けてはいたが、それ以外は概ね堅実な行軍だったし、何かから身を潜めるだとか逃げるといった空気は感じなかったし、実際人間からの襲撃は一度も無かった。

「この権力闘争の中で、我等の主は本人が望もうと望むまいと無関係ではいられない立場。現在都は急進派が完全に支配を固めている状況だ。つまり敵対派閥である保守派が一掃された今、命の心配をせず行動を移せる絶好の機会だったという訳だ」
「その言い草では、お前たちの主は急進派という事なのだと思うが、勝利者がなぜこんな人目を忍ぶ形で離脱する必要がある?」

 だよな。
 一掃されたという保守派側の人間であればまだ納得できる。だが、勝ち組の人間がこんな人目を忍ぶような旧道を使った王都脱出なんてしているのかが判らない。

「勝利側の立場に居るからと言って、本人が政治的勝利を望んでいたという訳ではない……という訳だ」
「政治的立場というやつか。相変わらず貴族という生き物は下らん事に精を出しておるようじゃな」
「耳が痛いな。政治の内側から見られる立場である私をして、日々繰り返される政治闘争については心底下らぬと思わせられておる」

 なるほど、政治的な立場として急進派に身を置いてはいるが、別に急進的な考え方という訳でもない訳か。或いは急進的な考えは持っていても、今の主流派の考え方とは相いれない……という話か。

「良くある話だ。政治の世界などといっても、思い通りに行動できる者など、頂点にいるほんの一握りだけだ」
「そのくせ、甘い汁は啜りたくても責任は取りたくないから手下を増やして多数決の力で個人責任を分散する訳だ。実にくだらん」
「……どうやら、シア殿は政治という物をある程度理解しておられるようだ」
「別に知りたくて知った訳ではないがな」

 うわ、超絶面倒なクエストの予感がする。暇な時なら喜んで首を突っ込む所だが、今ははなぁ。
 俺にとっての第一目的はエリスやチェリーさんたちの所へ戻る事だ。その行動方針だけは絶対にブレない。
となると、彼らの件に巻き込まれることは『今の』俺にとってはただのリスクでしかない。
 俺の個人的な考えでこの騎士たちと主とやらを守るために首を突っ込んだが、どうやらここら辺が引き時みたいだな。

「まぁ、俺達はあくまで外様。旅先で困っていた相手を助けただけだ。これ以上そちらの事情を詮索したり首を突っ込むつもりはない。護衛として街までは同行するけど、その後は当初の目的通り旅を続けるよ」
「そうじゃな。予定とは少々代わってしもうたが、この街道とは違う新街道とやらも見てみたい。せっかく王都がらみの忠告も貰った事だしの。せいぜい物見遊山を楽しませてもらうとしよう」

 シアも俺の意見に賛成らしい。今度は文句の一つも挟まずに話を合わせてきた。

「うむ、そうだな。それが良かろう。他国の政治案件など首を突っ込んでも碌な事にはならんだろうよ」

 相手側も警戒していた様だし、この別れ方がお互いにとって最も波風立たない選択の筈。
 向こうもそれが判っているのか、すんなりと受け入れてきた。

 この地に流れ着いてから少々思ったのと違う展開になっているが、多少のゴタゴタと引き換えという形にはなるが、結果的に現在の情勢やら簡単な立地の情報が手に入ったのはまぁ収穫と言って差し支えないだろう。
 アレだけ渋っていたシアも、情勢や新街道の話が出てからは俺の方への『そら見た事か』と言わんばかりの抗議の視線は鳴りを潜めている。結果オーライとはまさにこの事だ。

 まぁ、そうは言ってもこんな状況でなければ……というかチェリーさんなら間違いなくクエスト報酬目当てに率先して首を突っ込んだであろう案件だよなぁ。
 ……アレ? 
 というか今更ながらに思い返してみると、今まで俺の関わったイベントと言える規模で発生したクエストの中で、完遂と言えるような物って実は一つも無いんじゃないだろうか?

 ハイナ村の襲撃事件では実質は王様の乱入でケリがついたような物だ。
 王都での動乱では俺達は伝令役みたいなもんだったし、その上で俺は途中リタイア喰らってる。
 クフタリアの闘技大会では決勝でキルシュに実力の差を見せつけられて完敗してるし、その後の遺跡調査に至っては途中退場喰らって、まさに今現在壮絶な迷子中と。

 おやぁ? 
 ゲーム好きが高じて、ゲームそのものを仕事にするような俺がクエスト達成率ゼロパーセントとか中々に笑えない状態になってないか?
 ゲームのクエストとして考えた場合、ただ完遂できてないの一言で済むけど、これって協会の仕事として考えると、依頼者側から見た場合の俺の信頼度駄々下がり案件なんじゃ……?
 これじゃもしチェリーさんたちの所に戻ったとしても、俺の評価のせいで協会の仕事とかに悪影響が出るんじゃ……?

 イカン、それはイカンよなぁ。
 これからは自分の評価もある程度は考えて行動しないといけない時期が来たのかもしれん。
 せめてゲームの中でくらいは少しは『出来る男』で居たいのですよ俺は。我ながら小さい男とは思うけどな!




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すいません、仕事の環境が変わったせいで色々手すきの時間が激減しており更新頻度が想定よりも落ちています。
状況が状況なのでこの状況がいつまで続くかこちらにも判断できません。
大変申し訳ありませんがご了承ください。
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