ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百三十三話 街道のお約束

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「なぁ、石畳が引かれてるって事は、ここって結構立派な街道なんだよな?」
「かつては大きな都市を結ぶ大街道だった筈じゃな」
「その割には随分と荒れ果ててねぇ?」

 立派な石畳の筈なのに、その石はところどころ割れてしまっているし、隙間から雑草は伸び放題。まさに荒れ地といった感じだ。
 古代の遺跡ダンジョンの道とか言われたら素直に納得できるくらいの荒れっぷりである。

「見た感じ、相当長い間人が使っていない様じゃな。一年や二年ではここまで荒れ果てはせんじゃろう」
「だよなぁ」

 という事はつまりだ。この先にあるという街も残っているかはかなり怪しくなってきたな。
 なんせ400年だ。国に何かがあって街が滅ぶには十分な時間といっていい。

「おや……」
「ん?」

 唐突に、シアが遠くある一点を見つめる。つられて俺もそちらに目を凝らすが、特に何かあるようには見えない。
 ……が、俺はこの反応を良く知ってる。
 これはエリスが馬鹿みたいに遠くで何かを見つけた時の反応と非常によく似ている。という事は、俺に見えないだけで……

「どうやら、この道も全く誰もが使わないという訳ではない様じゃぞ?」

 ほらな?
 超感覚の持ち主の反応は、俺は良く知ってるんだ。
 まぁ、反応を知ってるだけで、何が起きているのかはやっぱり判らないんだけどな。エリスと言いシアと言いどういう目をしてるんだ一体。

「それで、一体何があったんだ? 俺にはさっぱり見えないから教えて欲しいんだが」
「どうやら、この先で誰ぞが野良の畜生に襲われている様じゃな」
「え、それ助けないとヤバいんじゃ?」
「ヤバかろうなぁ」

 そう言いつつも、シアの歩調は変わらない。
 気が付く前と全く同じ速度で歩き続けるのみだった。

「駆けつけないのか?」
「何故?」
「いや、何故と言われても……」

 獣に襲われてるって、結構な一大事だと思うんだが……

「顔見知りでもない相手、しかもこんな朽ちた街道を人知れず行く相手へ手を差し伸べるのか?相手の素性も知らずに?」
「それはまぁ、お前等にとっては俺の考えとかはお人よし的に感じるかもしれんが……」

 自分でも実際そう思うが、こればかりは性分だからどうしようもない。
 知っちまった以上は動かないと、寝覚めが悪すぎて嫌になるんだよ。

「正直言えば、今の儂らはこの地域の情勢どころか、自分たちの置かれている状況すらも定かではないのじゃぞ? 現に、今向かっている街が存続しているのかすら判らんのじゃ。そんな状況で他人に構っているような余裕は無いと思うがの」
「助けるついでに色々と情報を聞けるかもしれないだろ?」
「なるほど、確かにそれは儂らにとって喉から手が出るほど欲しい報酬じゃ……助けた相手が真っ当であればな。このような朽ちた道を人知れず進む連中じゃぞ。襲われている相手が善人だとは限らんじゃろう? 獣は善人も悪人も分け隔てなく襲うのじゃぞ。最悪いいように利用されて捨てられる危険もある」
「それも、『かもしれない』に過ぎないだろ? なら善人『かもしれない』じゃないか」
「……そこまで言うならこれ以上儂は止めんが、厄介事はゴメンじゃぞ」

 最初しつこく止めた割には、あっさり引き下がったな。あくまで危険性の注意だったって事か?
 実際シアの言っていた事は何一つ間違ってない。何せシアと違って俺にはだれがどのように何に襲われているのかすら全く見えていない。そんな相手を助けようというのだから、シアの懸念も当然だ。
 だから、まずは駆けつけて、カタギではないような相手なら場合によっては見捨てることも考えてはいる。後になって『あの時助けておけば』という後悔が嫌なだけだからな。

 なんだかんだ言いながらも、俺を先導してくれるシアを追って現場へ急行した俺達を待ち受けていたのは、犬の様な獣の群れに襲われていた騎士団といった感じの風体の連中だった。
 身なりからは、野党やゴロツキといった感じは見受けられない。鎧も着慣れている感じだ。とりあえずは加勢に入るべきかこれは。

「助は必要かの?」
「頼む! 私一人の手には余る!」
「……だそうだ。手を貸してやると良い」
「お前が助けるんじゃねーのかよ!? まぁ、元々手を貸すつもりだったけどさ!」

 ……と思案していた所、アレだけ警告していた筈のシアが勝手に話を付けていた。何でだよ!?
 まぁ、実際俺も助けるつもりにはなっていたから構わないんだけどさ!

「すまない、助かる! 我々は竜車から離れられん。できれば獣共をつついて連携を邪魔してほしい。こいつ等は狡猾で頭が良い。我々を食い散らかすよりも被害の方が大きいと分かれば逃げ出すはずだ!」
「わかった!」

 竜車? と思い、騎士たちが守っていた馬車のようなものをよく見てみれば、車を引いているのは馬ではなく四足歩行の大型のトカゲのような姿。ドレイクとか言う奴だろうか。こいつらが引いてるから馬車ではなく竜車か。
 そして、それを守るって事はこの騎士達の護衛対象がこの車の中に居ると。だから防戦に徹せざるを得ないところで俺達が来たという訳だな。大体状況は把握できた。
 ……この状況でないとは思うが、演技とかも一応警戒はしておくが、何にせよまずは獣共を撃退するしようか。

「ん……?」

 そうして勢い込んで切り込んでみた物の、どうにも手応えがおかしい。
 確かに獣とは思えないほど統制が取れてて、集団戦闘が凄く上手いんだが、寄せが手ぬるいというか、噛みつくぞ!……という威嚇はするものの、一定距離を保って中々襲い掛かってこない。こちらから仕掛けるとサッと身を引いてしまう。飛び入りで乱入した俺の動きを見られているのか……?
 とすれば確かにこいつ等相当知恵が回るみたいだな。
 ハイナ村の周りにもいた野犬共とはワケが違うらしい。というか、何か犬というよりも見た目ハイエナのような感じだな。ここはサバンナという感じではないし、ハイエナよりも一回りデカいが。

 結局、こちらが数分ほど追い回している間にアレだけいた獣の群は、まさに波が引くように居なくなっていた。なかなか見事な引き際の良さだ。とはいえ、実質乱入したのは俺一人だけだ。戦力差はそれほど変わっていない筈だが、何故あの獣たちは引いて行ったのか、少々引っかかる所もあるな。
 相手が引け腰だったってのもあるが、俺のやった事と言えばせいぜい獣を追いかけて逃げられる程度のものだった。 とても戦力増加とは思われるような要因は無かったはずだが。

「すまない。本当に助かった」
「何、気にするほどの事ではない」
「何でお前がそんな偉そうな態度なんだよ……シアは何もしてねぇだろ」
「馬鹿を言うな。儂が睨みを利かせていたからこそ、他の獣共が寄ってこなかったのじゃぞ」
「む……?」

 もしかして獣達の腰が引けてたのってシアがガン飛ばしていたからか? 普段なら『何を馬鹿な』と笑い飛ばすところだけど、コイツの強さはよーく知ってるしなぁ。野生の勘でコイツのヤバさに気が付いて、迂闊に手を出せなかったとしてもおかしくはない所が恐ろしい。

「……? よく分からんが何にせよ助力感謝する。よもやこのような人里離れた場所で救援を受けられるとは思いもしなかった」
「ふむ。お主ら、何故その人里離れた道を行くような真似を? 見たところこの街道跡は相当の長い間人が使っていないように思われるが……」

 いや、いきなりそんなどストレートに核心突くか普通?

「……その反応を見るに、貴殿等はこの辺りの住人ではないのか?」
「うむ。海の向こうから来た旅行者といった所じゃ。この国の地図を手に入れてのう。ここに大きな街道があり、大きな街へと延びておるようだったのじゃが、いざ訪れてみるとこのような有様で困って負った所よ」

 よくそんな咄嗟に出まかせが出てくるな……いやまぁ情報収集という意味ではこれが正しいんだろうけど、こんな表情も変えずにスラスラと言葉を出すのは俺には無理そうだ。

「ははは、いや済まない。それはまた随分と古い地図を掴まされたようだな。この街道が使われていたのは300年も前の話だ。お前たちが手に入れたのはその頃の地図なのだろう」
「ふむ、この道の荒れ様を見れば、そんな所じゃろうと察してはおったが……ではこの先にあるという都も?」
「いや、そちらは今も健在だぞ? この旧街道とは別に大陸の中央を貫く新街道が出来た事で、海岸沿いを大きく迂回するこちらの道を使う意味が無くなったというだけだ」

 なるほど、利便性の問題でわざわざ遠回りの道を使う人がいなくなって荒れてしまったという訳か。
 現代でだと、自動車の普及のせいで、混雑や信号の多い国道を嫌って裏の山道を使う人と言うのは結構多いが、こっちではこんな立派な竜車だの馬車だのを使える人は限られている。というか車であってもサスペンションの無い車では多少の衝撃吸収の工夫があってもやっぱり疲れるもんだ。王都へ向かうまで俺もドナドナを経験したが、かなりキツイものがあった。近道があるのに好き好んで遠回りの裏道を使う人は居ない訳か。

「ほうほう、ではわざわざ海を越えての無駄足というオチはつかずに済む訳じゃな」
「そうなのだが、今のあの街には近づかぬことをお勧めするぞ?」
「何故じゃ?」
「今、あの街では政治的な面倒ごとが起こっておって、何かとピリピリしておるのだ。我々もそれに巻き込まれぬよう隣街を目指しているところでな」
「それは……確かに面倒ごとの香りがプンプンするのう」

 そういって俺の方に目配せしてくるが、流石の俺もそんな面倒ごとにまで首を突っ込むつもりはない。
 政治云々なんて完全に俺の専門外だし、ちょっと人助け……といったレベルを大きく超え過ぎだ。こういう時は触らぬ神に祟りなしだ。

「観光が目的と言うのであれば、良ければ我々と同行しないか? むろん護衛として賃金も出す。我々の目指す街は王都程ではないが海産物の豊富ないい街だぞ?」
「そうじゃな……こ奴らを助けると決めたのはお前じゃ。お前はどうしたい?」

 どうする……ねぇ。都がメンドクサイって話を聞いた直後で選択肢なんてあってないようなもんだろうに。

「良いんじゃないか? 今はこれと言って目的がある訳じゃない。良い街があるというなら寄り道するのもアリだろ」
「……という訳じゃ。儂らも同行させてもらうとしようか」

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