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四章

二百三十二話 コーリングⅢ

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「あ、そうか。今回の敵の狙いは、開発データじゃなくて……」
「はい。キョウというアバターのデータの可能性が出てきた。実際バックドアなんて仕込まれましたからその可能性は非常に高い。それに……」

 中継点にある必要最低限のデータってぶっちゃけキョウくんのアバターデータの筈。だとすれば、相手の欲しがっている情報をあえて中継点に放り込んじゃったような状況よねこれ。
 しかも問題はそれ以外にもまだある。

「わざわざスマホ……じゃなかった別のサーバを経由して用心していたのにプログラムを仕込まれた」
「はい。そしてそれがどのように行われたのかが判らないんです。普通であれば不正なプログラムが仕込まれた場合、それが例え未知のプログラムであっても察知する事自体はそれほど難しくありません」
「そうなんですか? 最初のイベントの後、確かキョウくんってこっちで少しの間レベル上げしてましたよね? 本サーバで上げたレベルとかをALPHAサーバでも適応してたって事は、データの引継ぎはやってたんでしょう? バックドアプログラムって言うのが感染したデータを大本のデータに上書きしてしまう危険とかもあるんじゃないですか?」

 結局ネットを切断していても、マズイデータを物理的に流入させてしまう危険はあるんじゃないの?

「そこに関しては、今回の件が起きる前から最大限の注意を払ってきました。だからこそ分からないんです」
「……というと??」
「コピーしたデータと比較してやるだけで、不正データの有無はすぐにわかります。余分なデータがあれば不自然に容量が膨らみますし、偽装して容量を誤魔化そうとすれば、本当に最低限のデータでしかないので当然削れる容量などなく。そんな事をすればエラーを吐いて異常はすぐに察知できます」

 あー、なんとなく分かる。プログラムって何か余分な一文字混ざったり、数字一つ足りないだけでエラーが出てうんともすんとも動かなくなるのよね。昔プログラムの授業でイライラしたの覚えてるわ。
 素人が高校で習う程度の簡単なプログラムでアレだったのだから、体感型VRMMOを動かすなんてさぞや複雑なプログラムの筈。なら確かに一文字掛けただけでとんでもないエラーとか出しそうな気がする。
 でも、普通にプログラムが感染しただけだと余分に増えたデータを察知出来るって話しよね?

「今回の件が起きる前から……って事は最初のイベントの時もちゃんと確認していたんですよね?」
「ええ。むしろ、初めてのサーバ間のデータ移動という事で、あの時が最も注意していたと言えます」
「ですよねー」

 なるほど、確かにバックドアというのが仕込まれたのは確実にわかっているのに、いつ仕込まれたのかが判らないというのは不気味だわ。

「えっと、実は最初から仕込まれていたとかは……」
「それについても調査しましたが、問題なかったんです。正確には最初ではなく、ゲームを始めて間もないころのデータなんですけど、結城さんも体験して覚えているでしょう? あのライノス戦のデータです」
「あー、あの時の」
「あの戦いのデータは、検証の為にバックアップされていたので容易に調べることが出来ました。そしてあの時点ではバックドアは仕掛けられていなかったことは既に確認済みなんです」

 うわぁ、コレは確かにわからない。ゲーム開発のプロ集団が頭を悩ますはずだ。

「とまぁ、そんな訳で大変申し訳ないのですが、今キョウの位置を割り出すことは出来ません。前回はバックドアだけでしたが、次に相手がどんな手を打ってくるか判らない以上、立浪さんの身の安全の為にもシステムからキョウの居場所を特定する事だけは避けたい……という訳なんです」
「それは、私たちも探さない方が良い……という事なんでしょうか?」
「いえ、結城さん達はむしろ積極的に探していただいて結構です。ブログでも今回の件を先にオープンにしてしまった方が良いかもしれません。変に隠し立てして、後々変な風に犯人から状況を利用される恐れもありますし」

 確かに、そういう危険も考えられるわね。
 変に隠すよりもそういうトラブルの対策のために……って断言してしまった方が良いのは確かにその通りだと思う。

「なんなら公式から、人探しもテストの一環だと言われた事をぶっちゃけちゃってください。テストである以上変なクレームが入る事も無いでしょうから。むしろ、そういう事も考えてゲームが作られているというアピールにすらなります」

 実際、遠距離での個人チャットとか意図的に封じているってディレクターもイベントの時に言ってた。であればここまでマップの広いゲームで迷子対策は絶対必要だと思う。
 案外、アピールとか言い訳とかだけじゃなくて本当に参考データとして使っているかもしれないわね。それで快適になるならぜひデータを使って欲しいくらいだけど。

「うぁ、田辺さんって思った以上に強かだ……」
「まぁ、これくらいは考えられないと会社で管理職なんてできないもんですよ」

 ホントにそれだけだけかしら……

「あ、もしキョウくんを見つけられた場合、私たちはどうアクションするべきですか?」
「……恐らく、チェリーブロッサムとエリスは犯人から監視されていると思いますから、変に気を遣わず普通にしていてくれて大丈夫です。不自然な反応で犯人側を警戒させても仕方が無いので。もし発見した場合は普通に携帯で私に知らせてください。リアクションが無いというのもそれはそれで不自然ですから。ブログにもその件を載せて結構です」

 つまり、再開できたらそれを素直に喜んでしまって良い訳ね?
 ……あの広い世界でなんのヒントも無しに遭遇できるかはかなり怪しいところがあるけれど……

「それで、今後の情報のやり取りについてですが、後日仕事のやり取りという形で会社からそちらへ電話を入れます。ブログやイベント等のやり取りで隔週で打ち合わせをしようという内容です。これは良い訳とかではなく普通に仕事として依頼するものです」
「もしかしてお仕事の電話の中に何か暗号とかを入れてやり取りを!?」
「いえ、通話内容の中でそう言ったやり取りをするのは危険ですので、その週2の打ち合わせの時にしようかと」
「え、でも今まで打ち合わせって全て会社でやってますよね? 今回も自然にって事なら会社での打ち合わせになると思いますけど、大丈夫なんですか?」

 いくらコソコソしてもセキュリティの監視カメラとかから覗かれたりしそう……

「いえ、当然その面談で情報のやり取りをするわけではありません。そこでは今回の様に隠れてやり取りするための予定の確認をするだけに止めるつもりです。もちろんばれない様に工夫する必要がありますが……その際のやり取りの合図みたいなものは後程お教えします」
「おぉ……本格的にスパイじみてきた……」
「という訳で、くれぐれも今回の話は外では漏らさないようお願いします。メモの類も出来るだけ持ち出さない様に」
「わかりました」

 何か、予想していたよりかなり斜め上な展開になってる気がするけど、事情が分かったのは大きな収穫よね。裏事情がかなりヤバすぎる気がするけど、そっちは迂闊に触らないという事で……

「それでは今後のについてもう少し詰めましょう。まずは……」

 色々考えることが多いけど、流石に日和ってはいられない状況だよねぇ。
 でもこれ、エリスにどう伝えたもんだか……
 どうせならキョウくんってば、次ログインした時に何食わぬ顔でしれっと戻ってきてくれないかしら……
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