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四章

二百二十七話 島の外へⅠ

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「……んが?」

 ……む? まだ辺りは薄暗いが……朝か?
 なんか変な夢見てたような……ダメだ思い出せん。まぁ夢なんてそんなもんか。

「……いってぇ」

 起き上がろうとして腰がバキボキ音を鳴らす。野宿ってこれがあるからキツいんだよな。
 ハイナ村から祭りのために王都へ上った時にも野宿は何度かしたけど、あの時も背中が痛くてなかなか寝られなかったんだよな。それでもあの時は地面の上にとはいえ毛布にくるまれただけマシだった。
 一応木の枝とか葉っぱとかを敷いた上で寝たんだが、地面の凸凹は誤魔化せても、固さばかりはどうにもならんようだ。
 そのまま立ち上がって体中バキボキ鳴らしながら腰を伸ばす。幸い寝違えたりはして無いようだ。まだ体中の節々が痛むが、足の張りは収まっているようだ。
 その代わり、寝ている間に相当やられたようだ。足や腕が滅茶苦茶かゆい……! ゲーム内で迄虫刺されに悩まされるとか本気で勘弁してくれよ!
 今更ながらだが、チェリーさんとか一般プレイヤーはこんな虫刺されとか、森を歩いてる間引っ掛けた葉っぱで足を傷つけたりとか、そういう細かい部分を気にする必要なく冒険できるんだよなぁ。ちょっとうらやましい。
 どうせ、再現するにしてもスリップダメージでゲージが削られる程度だろう。俺のこの、足の小指の外側とか言うピンポイントできついところを刺されたこのかゆみよ。マジで勘弁してほしい。

「おお、起きておったか」

 どこか行ってたのか、丁度茂みの奥からシアが戻ってきた。

「特に何も持ってないから食料調達という訳でもなさそうだけど、こんな朝っぱらから何してたんだ?」
「水場を探しにな。目的の場所までたどり着ければ水は手に入るんじゃが、そこまでまだ暫く歩くからの。近場に水場があれば確保しておこうと思ったんじゃが、ざっと見まわった感じ無さそうじゃ」
「水なしでまた歩き通しになるのか……」

 洞窟からこっち、ずっと水なしで歩きっぱなしだったからかなりキツかったんだよなぁ。
 昨日の夜はシアが果物取ってきてくれたおかげで水分の補給はできたが、それなりにあった果物も水気欲しさに二人であっという間に食い尽くしちまったし……正直腹いっぱい水飲みてぇ。

「まぁ、ここは人の手が入っておらんから果物なんかは取り放題じゃ。道中見つけたら喰いながら進めば良いじゃろ」
「それが良いか……」

 無い物は仕方がない。
 以前なら……リアルの自分なら必要なものが無い事に愚痴り倒してテンション下げ下げになってたんだろうが、ゲームの世界だからだろうか、そういった場合もある物でやりくりしてどうやって打開するのかとクエスト感覚で考えられるようになった。
 そんな風に考えている内に、愚痴ってる暇があればやれる事からまずやると、体に染みついた気がする。

「日が昇ったら東に向かって山を下る。目的地は真っすぐ先、東の海岸の方じゃ」
「それはいいが、方角がはっきりわかるな」
「何のために早起きしてると思っておるんじゃ。昇っておる月と日の出から方角を確かめるのは旅をするうえで常識じゃぞ」

 確かに日の出で大まかな方向を確認するというのはハイナ村で教わっていたし、マッピングの練習の時にもそれを利用はしていた。だが、こうハッキリと地図も無く方角を断定するほどではなかった。俺やエリスがマッピングを正確に行えたのは、その地図と重ね合わせつつ、位置や方角の調整することが出来たからだ。
 シアは昇っている月と言っていたが、もしかしたら太陽だけでなく月の情報を加えることで、より正確な方角の割り出し方を知っているのかもしれないな。今度時間に余裕があるときに詳しく聞いてみるか。今聞いても、メモ出来るものが手元にないとこれ以上必要な情報が増えると覚えていられるか怪しい。
 自分で言うのも何だが俺はそんなに物覚えが良い方ではないからな。

「さて、目も覚めたようだし、出発の準備を進めるかの」
「朝飯は食べないのか?」
「ワシは食べても構わんが、お前さんは大丈夫なのかの? これから険しい森の中を結構なペースで歩き続けることになるが」
「む……」

 確かに、ハードな道程を踏破するとなると、下手に腹に入れても気持ち悪くなって吐いちまうかも……

「でも、何も喰わないというのもそれはそれで空腹で辛くなりそうなんだよな」
「ふーむ……体力的な意味でなら夕食で食い過ぎたくらいじゃし問題ない筈……ならコレでもしゃぶっておくか?」
「……これは?」
「昨日の猪のスジじゃよ。こいつは煮込まんと噛み切れんほど硬いんじゃが、口さみしいならコレを噛んでいれば味も出てくるじゃろうし空腹感もまぎれるじゃろ」

 スジっておでんとかに入ってるスジ肉か? あれって足の肉だったのか。てっきりモツだと思ってた……
 しかし、しゃぶるって……要するにガム替わりか。

「う……結構臭みが…………あ、でも確かに噛んでると肉の味が……」
「そうそう噛み切れるもんでもないし、暫くはそれで我慢せい」

 ちょっと……いやかなり臭みはあるが、この肉肉しい味はこれはこれで何かアリだ。

「さて話を戻すが、儂らの次の目的地は東の海岸じゃ。そこでまずは船の確保じゃな」
「え、何で船? 陸地歩いていっちゃいかんのか? 森の中は超危険地帯とか?」
「森の中が物騒なのは間違ってないが、そもそもの話ここは周りを海に覆われた孤島じゃぞ? 船が無ければ脱出できんじゃろう」
「なぬ?」

 聞いて無い……いやそりゃそうか。俺が何も聞いて無いか回答が無くても当然だ。
 でも何でそんな海のど真ん中の孤島で何て眠ってたんだ?

「忘れたか? 儂は数百年という単位での眠りに際して、そう簡単に眠りから覚まされぬよう、わざわざ人の目の届かぬところを選んだのだと言うたじゃろう? ならばヒトの街から歩いて迷い込めるような場所であるはずなかろうが」
「そう言われてみれば確かに……」
「この島は陸からは離れておって、そう簡単に目視される事は無い。それに海流も特殊で、そもそもが一般的に海路からは外れておるが、万一海路を外れた船であってもこの島に流れ着くこともまずないじゃろうよ」

 完全な絶海の孤島という訳か。

「あれ、そんな海域からどうやって脱出するんだ?」
「この島を孤立させている海流と言っても、別に隔離されているわけではない。潮の流れが特殊で、海面付近では島に向かって流れ込まず、海流同士がぶつかって海中に流れ込んでおる」
「えっと、……つまり?」
「海面付近の潮の流れは、島から遠ざかる流ればかりという訳じゃ。波に浮かぶ船では近づこうとしても追い返されるか海中に引きずり込まれるが、島から離れる場合は波によってすいすいと遠ざかることが出来るのじゃな」
「なるほど」

 要するに一方通行か。
 という事は、この島はファンタジー物によくある、普通の方法ではたどり着けない神秘の場所的なシチュエーションな訳だ。
 で、人里へ行くにはまずはこの島から脱出しないと話が始まらないと、つまりはそういう事か。

「その顔は納得できた様じゃな。であれば説明はこの辺にして、さっさと出発の準備じゃ」
「わかった。……ちなみに寝床はこのままでいいのか?」
「構わんじゃろ。誰かに追われている訳でも無し、むしろ残しておけば精霊共が遊び場所にするじゃろうよ」
「へぇー」

 なら、このままにしておいても良い……というかこのままにしておいた方が喜ばれるのか。

「さて、しっかり休んだし、今日は昨日よりも強行軍になる。覚悟せいよ?」
「マジでか!?」

 いや昨日までも相当な強行軍だと思ってたんですけど?
 あと半日とはいえ、目的地にたどり着くまで俺の身体は本当に持つんだろうか?
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