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四章

二百二十六話 空白

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 あれ?

 何処だここは?

 いや、というか何処かなのか?
 白い。ただひたすらに白い場所だった。上も下も、視界の果てまでもすべてが白い世界。
 真っ白ではあるが明るい訳ではないのか、足元を見ても俺の影すら見当たらない。どういう場所なんだここは。

 真っ白な空間に浮かんでいるのかと思ったら、どうやら水面のような足場があるらしい。あまりに白過ぎて全く気が付かなかった。
 しかしコレはどういうことだ? こんな場所に足を運んだような記憶は全くないぞ……

 そこでふと、今目を向けていた正面とは別、丁度視界の死角になってた位置に気配を感じた。何だ? 今の今まで気配なんて……そもそもこんななにも見当たらない場所で見落としてた?
 って、そんな事は今は良い。誰か、そこに――

「……!?」

 何だ、声が出ない? いや、声だけじゃない、手足も動かせない。どうなってるんだ一体?
 何かがそこに居るなら、早く確かめないと……!
 そう、強い焦りと共に考えた瞬間、視界が真横に向けられていた。
 なんだそりゃ!?
 相変わらず俺の身体は指一本動かせない。まるでリアルの俺の身体のようだ。意思があるのに身体がピクリとも反応しないあの感覚。
 ――なら何で今動くことが出来た?
 いや、それを考えるのは後でもできる。今は目の前のこの黒い靄だ。

 視界を動かすことが出来たおかげで、察知した気配の元を視界に収めることが出来た。
 相変わらず比較するべきモノがまるで存在しない為、あの靄が小さいのか遠くにあるのか判断が付きにくいが、もしアレが俺が立っているこの水面のような物の上に同じように立っていたと仮定すると、足元から広がる波紋と視線の先にある靄の高さから何となく遠くにあるというのは判る。
 ここからだと、ただ黒いガスのようなものがわだかまっているようにしか見えない。
 もう少し近づければアレが何なのか分かりそうなものなんだが……

「っ!?」

 そう思った瞬間、その黒い靄がハッキリと見える場所に立っていた。訳が分からない。まるで瞬間移動したような感覚だ。
 そういえば、さっき視界が変わった時もそうだった。横を向いたというよりも、唐突に視界が切り替わったような感じ。
 例えるなら、移動キーで自由に動き回れる最近のRPGではなく、大昔のダンジョンRPGの様に前に進むを選択すると1マス分シーン切り替えされるかのような……
 試しに、靄の反対側へ行きたいと強く思ってみる。すると――

 あ、ダメだ。なんか移動したような気はするが、靄以外に何もないせいで自分が移動したのか確かめられん。代わりにもう少し近づくように念じてみると、黒い靄のに近づくことに成功した。
 やっぱりだ。手足を動かそうとしてもまるで動かせないのに、そこへ行きたいと強く願うと身体ごとそこへ移動する事が出来るようだな。

 ……こんなのいくら何でもおかしいだろう。リアリティを異様なまでに追及するあのゲームとは根本から設計思想にずれがある。という事はつまりこれは夢か? それにしては認識がはっきりしすぎてる気がするんだが……いや、夢の中だからそういう風に不自然を自覚できてないだけとか?
 そもそもこれだけ夢という自覚を持っていてもまるで覚める気配がないという事は、コレが現実だろうが夢だろうが進むしかないって事か。おっかねぇなぁ。
 何にせよ、まずはこの黒い靄が一体何かを……

「……?」

 遠くから見た時は黒い靄の様にしか見えなかったのに、何か形を持った様に……いやこれは?
 意識して目を凝らしてみればまるであの黒い靄が晴れていくようにしてその姿が判るようになってきた。
 これは女の子……?
 いや背格好……それに身体つきからみても子供じゃぁねぇな。よくよく考えてみれば周りに比較するものが無いから身長も分からないのにどうして子供だと思ったんだ……?
 胸も出てるし手足もスラっとしている。冷静に見てみれば発育の良い十代後半から二十代ってところか? とても女の事言えるような年齢ではない。
 まだ顔を含めて靄が掛かっておりハッキリと見ることは出来ないが、チラリと見える口元の感じからもオバサンって感じでもないし、そもそも名も知らない訳だし便宜上ここは女の子という事で良いか。多分だが俺よりは年下っぽい感じがするし、何かその辺敏感そうな年ごろっぽく見えるしな。

「……、…………!」

 駄目だ、いくら出そうとしても声がまるで出ない。自由になるのは身体の位置だけか。
 視線の先に居る娘へと呼びかけることも、手を動かして触れることも出来ないらしい。

 まるで眠るように目を閉じた女の子は、こちらにまるで気が付いていないようで、ただじっとそこに佇んでいる。

 改めて周囲を確認してみる、やはり視界の続く限り何も見当たらない。ただ足元から広がる水面が、地平……いや水平の果てまで続くのみだ。
 であれば、水面以外何もないように見えるこの空間で、この女の娘は一人で何をしているんだ?
 そして何で俺はこんな所に連れてこられているんだ? いや、そもそもココはいったい何処なんだ?
 こんな場所、全く見覚えが無い……筈なんだが、何だこの既視感は。
 記憶にある限りこんな所へ来たことは一度もないはずなのに、どういう訳かこの場所を知っているという感覚がある。なんだこの記憶をつつかれる様なザワつく感じは?
 覚えてないだけで、俺はここに来たことがあるのか……?

 考えを巡らしていた所で、ふと視線に気づく。

「!?」

 うお、びっくりした!?
 眠るように目を閉じていた筈の女の子の目がいつの間にか開いていた。
 というか相手の方も驚いてる……というか、何か怯えてる感じだな。これは、この娘が俺を呼び出したのかとも思ってたんだがどうやら当てが外れたか?
 しかし、どうしたもんか。
 完全にこっちに気付いて……というかお互い対面状態なんだが、コミュニケ―ション方法が判らんぞ。口がきけないだけでなく、身振り手振りすら封じられてるとなると、どうやって意思疎通すればいいんだ?
 そう考えていた所……

『■%&■■!’@■■%’■$|¥-&■■’%』
「……っ!?」

 何だ、今のは!?
 脳味噌の中に直接、大音量で意味不明の音を叩き込まれたみたいな……

『■・■%■■■¥■■@&■?』

 ぐ、また……今度はさっきより小さいが、これは頭に響くな。
 目の前の女の子は顔をしかめる俺をみて何かオロオロしている感じが。というかこの娘は俺と違って普通に動けるのか。見るからに『焦ってます』といった感じでオタついている。

 もしかして今のはこの娘の言葉……なのか?
 脳味噌に響くような……つまりテレキネシス的な念話で会話を試みてる? まぁ意味はサッパリ分からないんだが……
 しかし、念話か。念じたら動くことが出来たこの世界だ。もしかして強くイメージする事が重要なのか……?
 試しにこっちも何か念話を送ってみるか? と言っても送り方はサッパリ分からんが、女の子の頭に強く念じるようにして……そうだな、まずは『こんにちは』からどうだ?

 むむむむむ………………!!

 どうだ!?

「!!!」

 おお、なんかめっちゃ驚いた感じが……つまりこれは念話が通じた……!?

『■■!■¥&@■=■■%&■■!>■’@■■%’■@|¥-■&■■!!!』

 ぐわああああああああああ!?
 頭が!? なんかめっちゃ凄い勢いで頭の中に爆音が!?

 あ、やばい、衝撃で意識が……

「……! …………!」

 なんか、女の子がめっちゃ焦ってるけど、ごめん、もう無理……意識がオチる…………

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