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四章

二百十九話 未知との遭遇Ⅰ

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「おぉ……マジか……」

 もうかれこれ何時間歩き回ったか。いい加減足が痛くなってきてどうしようかと思っていたところで、ついに視界の先、廊下の突き当りに強い光が見えた。
 これでようやく外に出られそうだ。
 日の届く場所に出たら一休みしよう、そうしよう。
 我ながら、誘蛾灯に誘われる蛾のようにふらふらと光の下に歩み出る。やっぱり光って安心するんだよなぁ。
 そうして、光に目が慣れ、周囲の様子が分かるようになってみれば……

「……は?」

 てっきり、この遺跡のエントランスか、或いは大きな窓のある部屋だと思ったのに、実際はシャンデリアの様に天井付近に部屋全体を照らせるほど光量の強い例の水晶があるだけの密室だった。
 何だよ期待させやがって……いや勝手に俺が外に出れると思い込んでただけなんだが。

 それで、この部屋は一体何なんだ? 今までの部屋に比べて二回りはデカイし、明確に意味のあるものが幾つも残っている部屋というのは初めてだ。
 部屋の入り口はここしかない。という事はここが一番奥なのか? 出口に向かってるつもりで奥に向かってたという事なのかこれは。階段があったから取りあえず下へと向かったのが間違いだったか。たとえ地下にある施設であっても入り口は下の方にあるものだと思い込んでたが、コレはやらかしてしまったみたいだな。

 奥には祭壇みたいなのがあって、ゲーム宜しく何かが納められた透明な筒のような物がある。……ゲーム宜しくというか、ゲームなんだけど。
 近寄ってみれば、納められて……というか浮いているのは槍だと見て取れた。
 アレだよな、RPGで伝説の装備とかが封印されてる場面とかまさにこんな感じだった。という事はあの槍は激レア装備とかそういうやつか? テレポートで飛ばされたせいで色々なフラグを飛び越えて隠し場所に入っちまったとか? ……あり得ない話じゃねぇな。
 とはいえコレ、手に入れちまっていいのか? ちょっとだけ後ろめたいんだが……

「うっ!?」

 透明な円筒はてっきりガラスのような何かなのかと思ったけど、触れてみたらあっさりと手が呑み込まれた。どうやら水がこういう形に固定されてるらしい。
 こんな所にあるのに腐った様子もなくきれいに透けてるって事は普通の水という訳ではないだろう。
 急いで手を引いたが、特に手の方に異常はない。武器を餌にした酸や毒薬を使ったトラップという訳でもなさそうだが、いくら何でもちょっと迂闊だった。状況が突飛すぎて頭が回ってなかったな。
 再度指先だけ差し込んで様子を見るが、やはり異常はない。この水自体は何か害がある物ではないという事だ。安全を確かめた上で武器に手を伸ばす。選ばれた者にしか抜けないというお約束でもあるのかと思ったが、普通に引っ張り出すことが出来た。こういう所はフラグ管理されてないらしい。
 そうして水から引っ張り出した瞬間――

「うわっ!?」

 水の円筒から穂先が出た瞬間、その穂先が燃え上がった。そしてその槍を持っている手もだ。

「熱っつ!?」

 いやまぁ、実際には熱いと感じる間もなく反射的に槍ごと水の円筒に突っ込んだんだが。
 どうもこの水の筒はこの槍の炎を抑え込む為の物みたいだな。手に入れるには相当高い炎耐性みたいなのを身に着けるか、炎を抑え込むマジックアイテムか何かが必要という訳か。残念ながら今の俺には手が出せないようだ。レアアイテムっぽいから欲しかったんだがな。チェリーさんへのお土産になりそうだし。

「おや、これは一体どういう事じゃ?」
「!?」

 突然後ろから聞こえた声にびっくりして振り返ってみれば、いつの間にかそこには小柄な女性が立っていた。
 こんな静かな場所で、足音一つ立てずここまで近づかれた? アサシン系の隠匿スキルでも持っているのか?

「ん……どうやら何か……そこな小僧、今の暦は何年なのじゃ?」
「のじゃ?」

 のじゃロリ?
 いや、ロリって言うほど幼くはねぇか。せいぜい女子高生とかそれ位だ。多分。

「……のじゃ?」
「あぁ、いや、ええと……暦? 年号なんて……」

 あ、いや、確か時計に現実時間とゲーム内時間を別々に表示できる機能があったはず。
 相変わらずステータス画面はローディングアイコンがグルグルしている。応答しないオプションウィンドウの事も考えるとフリーズしている可能性もあるし、細かい数字は当てに出来んと考えた方が良いな。
 ――ええと?

「407年の4月……だな」
「ふむ……予定より随分早く目が覚めてしまったようじゃな。小僧、その槍、引き抜いて……はおらん様じゃな。ならば何故じゃ?」
「えぇと、その言い口だとその槍を抜くと目が覚めるようになってた?」
「うむ、そうじゃな」

 マジかー……でも、一体どこで寝てたんだ? 槍を抜いてから声を掛けられるまで、数えるほどしか経って無かった筈。

「あー、すまん、ちょっとだけ抜いちまったんだ。いきなり燃え出したからすぐに戻したんだが」
「なんじゃ、やっぱり抜いておったのか。にしてはよく無事じゃったな」
「ああ、いきなり槍が燃え出して、びっくりして元に戻したんだ。」 
「それで間に合ったのは運が良かったの。普通の者がアレを抜けば瞬く間に消し炭じゃろうに」
 
 驚いて咄嗟の行動だったんだが、そんなヤバい火力だったのかよ。訳判らん事で死にかけるとか勘弁してほしいわ。
 というか、あの柱の水の中にある内は燃えないようになってるみたいだが、もしかして手が濡れている内に戻せたから命拾いした? 炎の熱で水が蒸発してたら俺も消し炭だったとか?
 ……こえぇぇ……! だとしたら本当に紙一重じゃねぇか!?

「危ねぇよ! つか、あの槍が目覚ましになってるって張り紙か何か残しといてくれれば触ったりしなかったのに」
「本当か? 人間、触るなと言われると、余計触りたくなるモノじゃないかの?」

 う、それは否定できない……

「確かにそういうお約束的な物はあるけど、きっちり理由が添えられていれば手出しなんかしやしないって」

 流石にギャグマンガじゃあるまいし、たとえボタンがそこにあっても、その横にバイオハザードマークが添えられていれば好き好んで押したりはしない。

「ふむ……そうは言っても、そもそもここに余人が立ち入る事など想定しておらなんだしの。……というかお主、何でこんな所におるんじゃ? ここには入り口なんぞなかった筈じゃが」
「うぅん……何でと言われると困るんだが、戦闘中に敵が使った何か魔法のアイテムで適当に飛ばされたっぽいんだよな」
「意図せぬ転移でこんな辺鄙な場所に飛ばされたのか? また、とんでもない確率じゃな。この世の陸地が占める割合なぞたかが知れた物なのじゃぞ?」
「自分でもそう思うよ。海の中とか空の上に飛ばされてもおかしくなかったのを考えると足で立てる場所に出ただけでも十分儲けもんだ」

 流石に宇宙だとか星の中心部まで飛ばされるようなことは無いだろうけど、地底ダンジョンがあればそれと同じ深度の地中に飛ばされる可能性はあるし、この世界の山の標高がどれ程なのかはわからないが、3000mの山があればそれと同じ高さの3000mの場所に転移する可能性もあったはずだ。いくらステータスの上がったこのアバターが頑丈だと言っても草原や町の上空、それこそ10分の1の300m程度の高さに放り出されるだけで、魔法の使えない俺にとっては死んだのと変わらない。
 そう考えれば本当に運が良い。軌跡と言っても良い程だ。

「それにしても、儂を起こしたのは偶然とはいえ良い判断じゃったな。まぁ儂にとってはいい迷惑なんじゃが」
「それはどういう意味で?」
「この封印場には普通に歩いて脱出できるような出口は無いからの。儂が居なければここを彷徨い続けて、いずれ朽ち果てる運命であったろうよ」
「怖っ!? 何その理不尽!」
「……まぁ、腹が減って朽ち果てるようなタマでもないか」

 いや、何言ってんの? いくら何でも餓えたら朽ちるよ!?
 しかし間違ってこの部屋にたどり着いたわけじゃなく、むしろここに来たのが正しかったって事か。逆に進んでいれば何もない行き止まりにぶつかっただけとかヒデェ話だ。

「まぁ、起きてしまったものは仕方ない。儂がお前を送ってやっても良いぞ?」
「え? 二度寝しなくてもいいのか?」
「ただぐーたら寝ておった訳ではないわい。自力では再封印なんて器用な真似はできんでな」

 封印されてたんかい!
 でも、話の感じだと、何か悪い事してというよりも自主的なコールドスリープみたいな感じっぽいな。

「約束の時までここで時間を潰すのは流石に苦痛過ぎるでな。暇つぶしもかねて付き合ってやろう」
「良いのか? 助かる! 俺はここが何処なのかすらサッパリ分らないからな。地理のある人に案内してもらえるのはマジで助かる」
「うむうむ、任せるがよいぞ。ま、いつか見返りは求めるがな」
「えぇ……今の俺にはこの武器が全財産だぞ? 何か吹っ掛けられても返せんぞ」
「出世払いで良いぞ? なに、高額な物や無理な願いを要求するつもりはないから安心するが良い。ちょっとしたお願いというやつじゃ」

 そう言うと、少女は祭壇の槍を当たり前のように引き抜いた。
 正気か!? と思ったが、燃え盛る槍の炎を当たり前のように抑え込んでみせた。何か分からんがスゲェ!

「そういえばお主の名前を聞いておらんかったな」
「え? あぁ……」

 ここはお約束的には『人に名前を聞くときは~』とかやるべきだろうか? でもこれから助けてもらう立場だし、のじゃロリキャラってこういうのに過剰反応しそうだしなぁ。それはただの俺の印象だけど。
 まぁこの場は普通に答えておこう。

「キョウだ。ハイナ村のキョウ」
「そうか。儂の名前はシーシアマータ。長いからシアと呼ぶがいい」
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