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四章
二百十八話 一方置いて行かれた側
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「どういうことなの?」
光が収まった時、そこに居たはずのキョウくんの姿は影も形もなく消え、狂ったように笑う神官がいるだけ。
爆発の衝撃や熱が無かったから、少なくともマジックアイテムによる攻撃では無かったはず。実際床とかに焦げ跡とかは全く残っていない。
明らかに無茶な動きをしていたけど、流石に力尽きたみたい。というか、壊れちゃったのかしら? 慌てて殺到した兵士たちに押さえつけられても笑い続けるだけだ。
「キョウ?」
隣ではエリスが呆然と立ち尽くしている。キョウくんがこのサーバでプレイはじめて、これまでずっと一緒だったって話だし、それは不安でしょうね。
高レベルのスカウトスキル持ちのエリスにも察知できないという事は、この辺りには居ないという事だと思うけど、なら何処へ?
「ちょっとお爺さん? 何か知ってそうな感じだったけど、さっきのは一体何なの?」
さっき、キョウくんが消える直前、あの爺さんはキョウくんに向かって離れるように叫んでいた。アレが何か知ってるはず。
「あの水晶は、発動段階の術式を封じ込める特殊な道具です。あの水晶に力を込めて破壊することで封じ込められた術を解き放つことが出来るものです」
「アレ自体はそこまで珍しいものではない。既に発動している術式が入ってるだけだから対象を指定できないせいで高度で複雑な術は使えない。戦場では爆弾代わりに使われることが多いな」
カインさんの説明で大体把握できた。インスタントで魔法が発動できるアイテム……つまり水晶の形をしていたけどマジックスクロールみたいなものだと思えば良いのかしら。
「それで、実際何が発動してキョウくんはどうなったの?」
「遠目に見ただけなので確信できるわけではありませんが、転移系……それもあの解放された術式の複雑さから見るに、恐らくは長距離移動系の術でしょう」
「テレポート系か。攻撃だったわけじゃないのね?」
「確証はありませんが、移動系の術は独特ですからそうそう見間違いはしない筈です」
「そう……飛ばされた先は?」
「わかりません。カイン殿がおっしゃられた通り、あの道具に込められた術は対象を指定しません。そのうえ術式が焼き付けられた水晶は発動の時点で砕けて蒸発します。追跡は不可能かと……」
そんな、不可能って……
「戦場ではたくさん使われてるんでしょ? 何か対策法とか練られてないの?」
「爆弾のような使い方と例えられていましたが、アレはまさにそのように使われる物です。そもそもあの道具は瞬間発動の術式によって特定の状況で火力を強引に引き出す為の物で、その最大の利点は何時でも誰でも十全の威力を発揮するという所にあります。現状アレの対処法といえば、例えば術式を起動させるためのマナを周囲一帯から枯渇させる……といった乱暴な方法で、そもそも起動させないという事以外に存在しないのですよ」
なるほど、それで爆弾。止めたきゃ導火線に火を近づけさせない以外に手が無いと。
「貴族なんかが追い詰められた際の最後の手段として自身すらわからぬ何処かへと逃がすという目的で、転移を込めて使うこともあるという。だが、ヨアヒム殿の言う通り、術を開放した時点で追跡は出来ぬ。そもそもが追っ手を撒く為、どこに移動させられるかは作ったものすらも分からないのが普通だな。飛んだ先の無事も保証されておらん。死ぬかどうかという時の賭けとしてしか使えん危険な手段だ」
流石現役の貴族様。いろいろご存じで。
一か八かなんて普段なら絶対使う気にならないけど、もはや死を逃れられないような状況であれば、そういう使い方もある……というか多分それが唯一の正しい使い方という事ね。
そういう事なら、むしろ対策されない為の工夫の方が発達してそう。
「つまり、キョウくんが何処に行ったのか確認する方法は無いと」
「そうです」
「そうですって……」
何を……何を他人事のように!!
「アンタの部下がしでかした事でしょう!? 上司なら責任はキッチリ取りなさいよ!!」
「落ち着きたまえ。今ここで喚き散らしたところで事態が好転する訳ではなかろう」
「ふざけんじゃないわよ。仲間をどこかに飛ばされて、冷静でいられるほど枯れてないのよ私は……!」
普通のネトゲなら別に良い。スキップトラベルなり死に戻りなりで戻って来いと一言言って終わりだ。でもこのサーバーでは……キョウくんの場合はそういう訳にはいかない。連絡を取る方法もないしキョウくんにも戻ってくる方法が無い。
信じられないほど広いこのゲーム世界のどこかに? それだけでも合流は絶望的なのに、飛ばされる先はランダムとか……
それこそ絶海の孤島や、この遺跡みたいな地下遺跡に何て飛ばされたらその時点でアウトだ。発見のしようがない。
「怒るなとは言わぬ。私とて部下を殺されているのだ。ただで済ませるつもりはない。あの狂った司祭だけではない。ヨアヒム殿も理解はしておるな?」
「えぇ……この期に及んで更に罪を重ねるなど、本当に……やってくれましたね。聖職者が感情に走るなど良くない話ではありますがどうやら私もまだ精進が足らない様です。流石の私も今回ばかりは、はらわたが煮えくり返る思いですよ」
まぁ、協会でのやり取りや、街の支配者とパイプをキッチリ繋いでるのを見る当たり、裏で色々お膳立てして物事を動かすタイプみたいだし、部下の暴走でこんな直接的かつ無意味に場を荒らした挙句、自分の立場まで危うくした上、さらに外交的な大義名分を相手に与えるだけ与えておいて、得た物は部外者の一人を退場したのみとか、そりゃ怒り狂いたくもなるでしょうよ。私の知った事ではないけれど。
勝手に因縁つけられた挙句、相棒を行方不明にされた私の方が今はハラワタ煮えくり返ってるっつーの!
「諦められよ。監督不行き届きというやつだ。クフタリアの教会における最高責任者は着任司教だ。盗み程度の軽犯罪ならば本人を謹慎処分にでもすれば話はすんだかもしれないが、未踏遺跡という国家の財産へ手を出した挙句、すでに何人も人死にが出ている。教会の者の不手際の責任は貴方が取らなければならぬ。いや貴方だけではなく国元へも責任の追及をする必要がある」
「よもや、よもやこのような……!」
「腹が立ってるかどうか知らないけど、貴族様相手とは別に、ウチのパーティのリーダーに対してこんなふざけた真似やらした責任、当然取ってもらうわよ!」
「……我々に出来る事であれば」
あら迂闊、そんな事をあっさりと口にするなんて。
そういう名言は絶対しないタイプだと思うんだけど、この人なりに混乱して頭が回ってないのかしら? まぁ、容赦するつもりはないけど。
「言質は取ったわよ。ライラール伯爵様もその辺の交渉はお願いしますよ。依頼票の約款にその手の内容、確かありましたよね」
「普通の協会員であれば読み飛ばすような内容もよく見ているようであるな。何、言われずとも対応する予定だ。約定はたがえぬ」
「それを聞けて安心しました。捜索隊の結成とか散々吹っ掛けてやってください」
「ははは、容赦のない事だ。まぁ気持ちはわかるがな。今回は事が事だけにそれなりの譲歩を引き出せる筈だ。確証は出来んがね」
「よろしくお願いします」
ここまで言ってくれるんだし、ここはこの貴族様を信じて任せてみよう。
腹立たしい事に、私の力じゃ今は何も出来ないしね。
「エリス姉、キョウは……?」
「探してくれるように交渉してくれるって」
「見つかる……?」
「わからないわ。やれる事はやってくれるみたい。でも私たちは私たちで別を探しましょ。そっちの方が早く見つかるかもしれないでしょ?」
「うん」
これ、ちょっと開発側に確認とった方が良さそうね……システムの側からならキョウくんのアバターの位置情報は判るはず。
個人情報……に当たるかはともかく、教えてもらえるかどうかは判らないけど、テストサーバ内のトラブルという事であれば、製品版の本サーバよりは色々融通が利くはず。
今回の件が落ち着いたら、一度田辺さんに連絡を取らないと……
◇◇◇
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