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四章

二百十五話 聖鎧Ⅲ

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「何だぁ?」

 矢弾だけじゃない。石礫やら氷片やらほんとに色んなものが鎧に激突している。飽和攻撃というやつか。

「カイン、無事か!」
「エルヴィン!? なぜお前がここに居る!?」

 いや、ホントに。何で領主様直々にこんなところまで出向いてるんだ? だめだろ、こんな危険な所にホイホイ出て来ちゃ。

「無事のようだな。 ……なに、少々宜しくない情報提供があってな。協力要請に従って訪れたのだが、どうやら兵を率いて来て正解だった様だ」
「その口ぶり、それに遠距離攻撃に特化した陣容……聖鎧の事を知っていたのか?」
「ああ、聖鎧の事も、今回の事情についても全て把握しておる。それと……」
「こうなっていなければと思っておったのですが……嫌な予感ばかり当たるものですな」

 伯爵の後ろから出てきたのは……協会で坊主と一緒にいた爺さん?

「この者から、様子のおかしくなった部下が聖鎧を持ち出して行方をくらませたと情報提供があってな。協会での揉め事の際の言動からこの遺跡を狙っている可能性があると」

 そういや、協会でなんか揉めてた時の理由は遺跡の権利だの管理だのがどうこうって話だったか。その時は確かにあの爺さんも一緒に居たから事情は知っていてもおかしくないか。
 でも、あの爺さん、やり取りからしてあのクソ坊主の上司なんじゃ? 何で情報提供なんてしてるんだ? 遺跡の管理権とか奪いたいならむしろ後押しとかしてもおかしくないと思うんだが……何かあるのか?
 まぁ、何にせよ敵じゃないなら今はそれでいい。
 それにしても……

「あああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

 すんごい集中攻撃だ。あの強靭無比の鎧が一歩も動けず釘付けにされている。
 法国と戦争になったらあんな無敵の装甲纏った大物が戦場で暴れて、一体どう対処するのかと思ったが、コレが答えか。
 どれだけ無敵の防御で攻撃を無効化したとしても、一撃するごとに動力が削られていくというのなら、こうやって集中攻撃を浴びせかけることで一気に動力削りきって行動不能を狙う訳だ。
 なるほどな、強力過ぎるせいで周辺国からは当然警戒されて対策もガッツリ組まれていると。
 アレは戦場での蹂躙戦で特に威力を発揮する装備だ。だからこそ一人の超人に依存するのではなく、兵士がたくさんいる戦場で最も効果の発揮する人海戦術で持って安定して脅威を封殺できる、対聖鎧戦術が確立されているという訳だな。
 ただまぁ、俺等みたいな単独パーティで実行するとしたら、随分と長い間我慢比べを強いられることになりそうだがな。どこかで遭遇してもこんな戦術はとれる手ではない。

「ハインリヒ……どうしてしまったというのだ。この行動に何の意味があったというのだ。お前の信仰は本物だった筈。何故法国の益を損なうような真似をする……?」
「おい、アンタの差し金じゃなかったのか?」
「貴方は……そうか、協会で出会った」

 数度、言葉を交わした程度だったが覚えていたのか。

「ああ、協会でアンタに言いくるめられかけた間抜けだよ。それで?」
「我々は確かに遺跡の探索に同行するため、幾つか手を打っておりました。協会での無理押しもその為の一手であることは間違いありません。ですが、そもそもが交渉を強気に進める為の手段でしかありません。このような強硬手段をとる理由がないのです」
「宗教家お得意の人の言う事をまるで聞かない、一方的で自分勝手な理屈で戦争を吹っ掛けたかったんじゃないのか?」
「耳の痛い話ですな。そういった輩ばかりではないのですがね。それで、戦争を……との話ですが、現在の安定した世情で戦争をすれば、たとえ勝利したとしても損失が上回ります。工作を仕掛ける意味がありません。そもそも我々が欲しいのは歴史的な知識ですよ? それで国家間の信用を損なっては貿易利益の損失、周辺国との外交バランスなどを考えれば損得の天秤がまるで釣り合わない」

 ……理屈は通っているな。喋り方も落ち着いてるし、この爺さんは頭がパーになっているわけではないって事か。

「こちらでも裏取りは進めている。今のところはこの御仁の言葉を信じてもよいだろう」
「ライラール伯……クライアントがこんな危険な真似しちゃダメでしょう」
「何、外交問題も関わるのでな。今回の件に関していえば同行せざるをえまいよ」

 そういった情報戦的なのは俺よりもよっぽど得意だろう伯爵がこう言うのなら、まぁ信用しとくか。何も知らずに疑心暗鬼になるよりはよっぽど建設的だしな。

「それでアンタ、アレを止められんのか?」
「貴方は……ライラール伯の右腕と呼ばれるカイン殿ですな?」
「ああ、今回の探索の責任者でもある。今回の襲撃の件はキッチリ追及させてもらうぞ。……まぁそれはさて置いて、どうなんだ?」
「……ダメでしょうな。協会で彼はやりすぎたので謹慎させていたにも拘らず、あんなものまで持ち出して脱走をしでかした。とても正気を保っているとは思えません」
「正気じゃないってのは同意するがな」
「それに、これほどの集中攻撃を受けては聖鎧の神気も持ちますまい。そもそもあの聖鎧はこの国で教会を建てた際に、もし何かがあった時に緊急時の脱出用として国元から運び込まれたものです。神気は本国でしか満たせませんから、本来よりも稼働時間は短い筈」

 正気を失った部下を説得するよりも、聖鎧を行動不能にする方が手っ取り早い訳か。
 情け容赦ない答えだが、もう情を掛けられるような状況はとっくに過ぎてるんだろうな。もう二国の権力者が現場を押さえてしまっている。ここに来る前に外交的に一戦やらかしていてもおかしくない状況だ。あの坊主、今後生き延びたとしても、たとえどちらの国で裁かれても碌な終わり方はしないだろうな。
 と、爺さんたちと話している内に、神気とやらが尽きたのか、鎧の表面を攻撃が削り始めた。ホントにバリア張られてたのか。あの防御バリア、魔法とかスキルとかで再現できねぇかなぁ。

「撃ち方、辞めい!」

 ライラール伯の号令で、まるで屋根を打つ雨音の様に連なり響き渡っていた轟音が鳴りを潜める。
 音の止んだ部屋の奥、壁に縫い付けられるようにして聖鎧は蹲っていた。
 新品の様に輝いていた装甲部は抉れ、削れ、ひしゃげて見る影もない。両足は繋がっているが、身体をかばっていた両腕は肘から先が千切れていなくなっている。これが数の暴力というやつか。

「どうやら、片付いたようであるな」

 あのバリアが切れた時点で、聖鎧を動かす神気も使い果たされているんだろう。もはやピクリとも動かず、膝立ちで固まっている。
 というかあのザマではもう動力とかあってもまともに動けんだろうな。

「あれは貴国の兵器であろう? 中の者は引っ張り出せるか?」
「可能ではありますが、何分我が国の機密でもあるので開け方等はお見せする事は出来ませんが、よろしいか?」
「その様な事を言える立場にあるとお思いか?」
「こればかりは国防にも関わる為、私一人の判断で勝手に……という訳にも行かないのですよ。事情を本国へ伝え回答を待たなければ」
「それまで待てと? 無理な話であるな」

 そりゃそうだ。そんなのを待っていたらいつまで掛かるかわかったもんじゃないし、相手国が素直に首を縦に振るとは思えない。
 というか協会での立ち回り方を見るに、この爺さんなら平気でそうやって無駄に時間を引き延ばした後適当な事言って聖鎧を取り戻そうとしてもおかしくない。
 なら多少強引にでもこじ開けて中のクソ坊主をさっさと引きずり出した方が良い気がするな。
 となれば……

「開け方が機密だというなら無理やり開けちまえば良いんじゃないんですかね?」
「アレの鉄壁さは直接戦った君が誰よりも理解していると思うのだがね?」
「まぁそうなんですけど、今はアレを無敵たらしめていた動力は切れてるようですし」

 最初は無傷で受けきっていた攻撃が、神気とやらが切れた瞬間、一斉射にさらされて今では見る影もない程ズタボロになっている。
 つまり、さっきと違い今なら強引にこじ開けることが出来る可能性はあるように見える。もちろん、こんなメカメカしいプレートメイルも真っ青の極厚装甲、人の力でどうこう出来る様には思えない。だが……

「爺さん。他国で犯罪に使われた機体の接収と分解くらいは構わんよな?」
「……そうですね。そこまでゴネては流石に道理を通せますまい。私の持つ機密はあくまで聖鎧の緊急動作方法です。それを用いずに聖鎧を開放できると申されるのであれば、私がどうこう言う事でもないでしょうな」

 その言葉が聞きたかったんだよなぁ。
 よし、これで言質は取った。あとで文句言われても幾らでも突っぱねられる。

「それで、君はあの聖鎧をこじ開けるだけの手段を持っているのかね?」
「ええ。と言っても俺がやる訳じゃないんですけどね。アレをこじ開ける事が出来るやつが身近に一人いるというだけで。」
「ふむ……ではこの遺跡を荒らし、我が領民を手にかけた重罪人と参考資料……という扱いであの聖鎧はライラール伯軍が接収する。状況確認の為無理やりにでも良い。こじ開けて見せたまえ」
「ええ、それじゃ」

 エリスと座り込んでキャッキャしているそいつを俺は呼び出す。

「おぅい……ハティ。ちょっとコレこじ開けてもらえるか?」
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