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四章

二百十四話 聖鎧Ⅱ

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「おい、キョウ!」
「何だ!? 今から忙しくなりそうなんだが!?」
「聖鎧は強力な反面、燃費が悪いと言われている。ここは地下に埋まっていたせいか瘴気が薄い。倒せないと見て取ったなら、とにかく逃げ回れ!」

 倒せないと見て取ったらって、それもう倒せないからさっさと諦めろって言ってるように聞こえるんだが……
 つか瘴気ってなんだ? 妖怪物の漫画でなんか聞いた覚えがあるが、何だっけ? 毒みたいなもんだったっけか。
 で、それが薄いのが良い事だって言うなら、あの聖鎧とやらの動力はその瘴気を取り込んで動いてるって事か?
 何にせよ、燃費が悪い上に補充出来ないというなら、その弱点は有難く突かせて貰おうか。

「分かった、それじゃあちょっと挑んでくるか!」
「ぉあぁっっ! かっ……く、この愚鈍なる……者めがぁぁぁああああ!」

 にしても、さっきからテンション高くなりすぎだろこのクソ坊主。超強い装備ゲットしてアドレナリンがドバドバ出まくってんのかね?

「ゴ、アァァァァアアアアアア!」

 俺が踏み込むのとほぼ同時、まるで何かで身体を発射したかのような馬鹿げた勢いで鎧が突っ込んできた。
確かにこの巨体でこの速度はとんでもないな。
 だが……

「飛んでたんじゃぁな」
「きっ、貴さっ……!」

 一歩横に逸れただけで、鎧は盛大に空振りして後ろの壁に突っ込んだ。
 当然だ、あんな勢いで空中に射出されて方向転換なんて出来るはずがない。たとえ手足を伸ばして地面に引っ掛けたとしても、あの速度で射出された質量をどうこうする事は出来ない。せいぜい勢いを多少和らげる程度で、方向を変える前に引っ掛けた部分がへし折れるて終わりだ。
 それにこの建物の床や壁は硬度が異常だ。ガラスや机が経年劣化で風化したように脆くなって崩れているし、廊下部分の一部には魔物が開けたと思われる大穴もみえる。にも拘らず、部屋の中はほぼ無傷。恐らく部屋を区切る壁や床、天井は特別頑丈に作られている。それが何を意味するのかはこの際置いておくとして、今の状況で意味があるのは、この部屋の頑丈さがこちらの味方をしているという事だ。

「ぐぅぉお、おのれ……」

 あの巨体、あの重量をあの速度で振り回しているんだ。ただ激突するだけでも相当な衝撃力があるのは、その手の小難しい計算の出来ない俺にだってわかる。
 普通の壁であれば激突してもその頑丈さで持ってぶち抜いていたかもしれないが、この部屋の壁はそんな生易しいものではないらしい。あれだけの勢いで激突したというのにヒビ一つ入っていない。
 そして、それは激突の衝撃がすべてクソ坊主に跳ね返ったという事だ。どれだけ鎧が頑丈であろうと、あんなぶつかり方をしては中に伝わった衝撃で坊主の方がえらい事になってる筈。実際ふらついているしダメージはあるはずだ。
 ……今ので気絶でもしてくれれば楽だったんだがな。
 まぁ、ダメだったものは仕方ない。体勢を崩しているその背後へ回り一気に距離を詰める。
 背中からこの鎧に乗り込んだのは見ていたが、この手のロボットって乗り込む所ほど強固に守られているイメージがある。背中を狙うのは無しだな。
 となると、やっぱり狙うはセオリー通りに関節部!

「ぐっ……!?」

 首関節部にフルスイングでミアリギスの横刃を叩き込んだ筈だが、手応えがおかしい。見た目は一見ゴム製の保護膜のような感じだが、鋭いピッケルのようなヘッド部分でフルスイングしたにもかかわらず、全く刺さったような感覚が無い。帰ってきた手応えはまるで昔に部活でやったハンマーでタイヤをぶん殴った時のような反動だ。
 一体どういう頑丈さだよ!?

「首がダメなら……!」

 比較的隙間の多い膝関節に腰関節、脇の下へと攻撃を叩き込むが……

「くそっ、硬ぇな」

 やっぱり駄目か。どんなコーティングされてんだ一体? カインが勝てない前提で話してた訳だ。弱点部位ですらあの頑丈さとなると、チェリーさんのチャージでも抜けない気がする。
 だったら浸透打撃……もダメか。手応えが無い。
 どうも衝撃が中で散らされてるような気がする。固い鎧部分はともかくとして、あのやたら頑丈なゴムシート部で衝撃を受け止められてしまっていると思われる。何にせよ今の俺の練度ではこいつにはまだ通用しないようだ。
 関節を覆ってるゴムシートみたいな素材、鎧の内側全体を覆ってると考えるべきか。これは本格的にダメージを与える方法が思い浮かばない。魔法があれば雷浴びせてやったりすればRPG的に効果てきめんな気がするんだが……残念ながらここに居るのはガチガチの肉体派ばかりだ。これは本気で倒すのは諦めた方が良いな。
 いや、ハティとあのクローならダメージを与えられるかも……いや、こいつは別に倒さなくても対処法が分かっているんだ。ハティに無理させる必要は無いか。
 ああ本当に残念だ。このクソ坊主、頭がおかしくなっているとはわかっていても、コイツ程倒してしまいたいと思った奴は……まぁ、3人くらいしかいない。これはもう、こういう時に自力で倒せるように強くなるしかないな。今の目標はハティか。目標遠いな。

「ぐ……ぎぉぉお、おのれ、おのれぇぇ……!」

 クソ、もう持ち直しやがった。もうしばらく時間を無駄にしてればいいものを。

「キョウくん!」
「駄目だ、チェリーさん。こいつは俺を狙ってる! 近づけば巻き込まれるぞ」
「ああ、もうっ!」
「キョウを挟み込むように立ち回るっス。背中を晒してくれるというのなら徹底的に背中側から嫌がらせをしてやるんスよ。幸い、こんなバカでかい声で話してんのまるで耳に入ってない様子。出会ったばかりのにわか仕込みでも連携取り放題っス」

 ……確かに、コイツ周りが何言っても一方的に俺だけをロックオンしてるけど、そういう身もふたもない事を堂々と言い放つのはどうかと思うぞ? 気が変わったらどうすんだ。
 というか、そもそもの話だが

「俺はロール的には生粋のアタッカーだぞ。タンクでもない、ヒーラーも居ないこの状況にタゲ固定とかどんな鬼畜だよ」
「……? よく判らないけど、上手い事引き付けてくれっす。聖鎧は俺達の手に余る。逃げ続けて行動不能にするしかないんスよ」

 いや、身をもって思い知ったから、手に余るって言うのは良く判るけどさ。それって結局俺に丸投げって事じゃね? 酷くね?

「神のぉ……神の愛をおぉぉぉおお!」
「あぁ、もううるせぇな! 愛の押し売りは間に合ってんだよ!」

 でかい図体に見合わない俊敏な動きで飛びかかってくる鎧をいなしながらなんとか時間を稼ぐ。速度自体はとんでもないが、動きが直線的かつ、連続した動きが無いお陰で避けるのはそれほど難しくない。
 一発当たればそれで終了っていうプレッシャーはあるが、予備動作を見てからでも回避が間に合うからそうそう捕まることは無いだろう。
 問題は、あとどれだけの間避け続ければいいかだ。
 なんて事を考えつつ、隙を探そうと鎧姿に視線を移してみたところ、凄まじい轟音と……

「ぐおぉっ!? 何ですか? 何があった? この聖鎧をよろめかせるなど……」

 遺跡で拾ってきたという鎧の腕パーツを装着したハティが、その馬鹿力であのあり得ないほどの頑丈さを持つ聖鎧をひしゃげさせていた。相変わらずとんでもねぇな、

「ほら、おチビちゃんに続くよ! アンタんところのリーダーが引き付けてる間、あたし達は兎に角攻撃し続けるんだ!」
「え? でも攻撃は通じないんでしょ? 下手に攻撃しても効果が無いなら、無理に攻撃してテンポを崩さない方が良いんじゃないの?」
「ダメージを与えられないかもしれないけど意味が無い訳じゃないんだよ! どういう訳か、攻撃を繰り返しても傷一つ付けられないけど、コイツの行動時間は減っていくんだ」
「え、そうなの?」

 傷つけられなくても行動時間が減る……? 何かのゲームの防御スキルにそんなのあったな。常時ダメージ軽減する代わりに攻撃食らうとMP減るやつ。それと同じでこの馬鹿げた防御力を維持するためにも動力を消費してるって事か?
 良いなそのスキル、俺も欲しい。魔法使わないからMPなんて常に余ってるしな。
 いや、使いたいんだけどな魔法。 使えるようになる機会に恵まれてないっていうか……
 でも、避け続ける時間が減るならそれは願ったりかなったりだ。

「そういう事ならガンガン攻撃仕掛けてくれ。こっちも気合入れて逃げるから」
「キョウくん……気合入れてやることがマラソン盾?」
「仕方ねーだろ、攻撃効かねぇんだから!」
「キョウ、かんばれー」
「がんばえー」

 応援してくれるのはちびっ子二人だけか。ホント大人は薄情だよな。
 まぁ、子供二人が応援してくれてるんだ。もうしばらくは気合を入れて……

「放て!」

 逃げ回ろうとしたところで鎧になんかもう色々と、すごい勢いで着弾していた。


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