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四章

二百十一話 招かれざる客Ⅱ

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「畜生、何なんだこの状況は!」
「キチ〇イが意味不明な事を言いながら銃乱射してる状況だな」
「畜生、何なんだその状況は!?」

 そう言いたくなる気持ちはわかるけどな。
 俺も王都ではなんどもキレそうになったし。話の通じない相手ってホント相手にしたくねぇわ。

「カインさんよ。俺、あの坊主のネジの外れた反応に心覚えがあるんだが、アドバイスは居るか?」
「お前……あんな頭のおかしい奴が他にも知り合い居るのかよ……それなら是非ご意見伺いたいんだが?」
「俺に突っかかってきた王都の貴族や暗殺者があんな感じだったんだよ。俺の所に降りてきた報告では薬か何かで理性が吹っ飛んでて超絶自己中心的な思考になってるんだとよ」
「……情報は回ってきてはいたが、聞くのと見るのとではまるで違うな。ここまで頭がおかしくなるモノなのか」

 その感覚はよく判る。メールとかで受け取った説明と、実際現場で状況確認するとでヤバさが十倍くらい違った事は何度もあるからな。他人の言葉を介して伝わる内容って、得てして重要な内容程重要度が削ぎ落されていくし、どうでもいい内容程尾びれがついて面白半分に過剰な内容に偏っていくんだよな。

「現場に顔を出して現実を自分の目で見た感想は?」
「最悪だ、クソッタレ。本気で今後の情報確認のやり方を考えちまう程度にはな。それで、アドバイスってのは何だ?」
「対話しない。こっちが何を言っても向こうは自分に都合のいい言葉を吐くだけだ。会話にならないし頭がぶっ飛んでるからろくな情報も引き出せないし、聞いても腹が立つだけだから基本的に聞き流す。そうすりゃ少なくとも理解不能な言葉に頭が煩わされることもないし、腹も立たなくて精神的にハッピーだ」
「なるほど、そいつは確かに素敵なアドバイスだ」

 しかし……さっきからビームしか飛んでこないな。
 壁後ろに隠れてるのはバレてるんだから、手りゅう弾は無いにしろ、投擲武器か魔法なんかが飛んでくるんじゃないかと思ってたが、その気配が無い。一撃必殺の破壊力が無いにしろ、障害物から追い出すには有効なはず。
 にも拘らず、この期に及んでそれを使ってこないって事は、あのクソ坊主の武器はアレ一丁のみ……少なくとも飛び道具はそういう事なのか?

「キョウ。誰かこっちに向かってくる」
「ああ、判ってる」

 ここは足音が響くからな。流石に俺でもこの部屋の中の人間が動けば聞き逃さない。

「無事か旦那!?」

 俺たちの隠れる間仕切りの反対側に転がり込んできたのは……この声からするとハルドやイダ達か。暗くてよく見通せないから確認できないが、この場に居る人員は少ないからな。如何に俺が人の顔や名前、ましてや声なんて物を覚えるのが苦手といっても流石に聞き間違えは無い。

「怪我はしてねぇ。そっちはどうだ?」
「こっちも損害は無いっス。にしても何なんスかアレは」
「俺が聞きてぇよ。こいつらの話では、以前見たヤバイ薬で頭がトンだ奴に似ているって話だ」

 本当に薬で頭おかしくなっているかどうかは判らないんだけどな。魔法的な痕跡が無いからおそらく薬だろう……ってだけで、知られてる薬の痕跡みたいなのも見つかってないって話だしな。
 まぁ、こうして物陰に隠れてコソコソしている間も、なんかデカい声で神の愛だの慈悲だのを説きながら、こっちは隠れっぱなしにも拘らず派手にぶっ放しまくってる坊主の姿を見れば、クスリの一つもやってるって思っても仕方ないがな。

「聖職者がクスリ漬けっスか? 世も末とはこの事っスね。……それで、どうするんスか?」
「可能なら捕縛、出来なきゃ最悪潰す。生死は問わずだ」
「了解っス。……イダ、リコ、聞いていたな?」
「了解だよ」
「俺は……出番は無さそうだがな」
「さて、それじゃどうするか……って、こんな音の響くところで作戦会議も糞もないっスね」

 足音だけであれだけ響くんだ。明かりが無いから紙に書いて伝えるのも難しいし、声を潜めても丸聞こえ。悪だくみなんて到底できねぇな。

「頭のおかしい坊主一人相手に作戦も糞もねぇ、両パーティ共に臨機応変にやれ」
「了解っス」
「はいよ」

 まぁ、キルシュみたいな本物の化け物相手ならまだしも、確かに一人を相手にやる事なんて囲ってボコるのが最善手だろうしな。

「それで、どうする? あの坊主は法国の人間みたいだが、殺しちまったら不味いとかそういうのあるのか?」
「……出来るだけ生かして捕まえたい。が、ここまでやらかしたんだ。死んでしまっても言い訳はいくらでもつく」
「生死不問。楽で良いっスね」

 生きて捉えるのって難易度高いって言うしな。

「とりあえず、無勢の飛び道具持ち相手への多勢側んp対策としては、固まらずに一斉に突撃ってのが一番単純かつ効果的か」
「そっスね。変に捻らずに地味に効果的なその方法が今回はベストっス。聞かれても対処法はないっスし」
「じゃあそれで行こう。タイミングはそっちに任せる。誰が撃たれても恨みっこ無しで」
「分かったっス。ならカウント5で良くっスよ」

 そう言いつつ、壁の陰に隠す形でランタンの明かりで示した指は3本。なかなかに意地が悪い。

「カウント! 5……!」

 エリスやチェリーさんに目配せする。大丈夫だとは思うがこの暗さだ。もしかしたら意図が伝わっていない可能性もある。一応3人にも見えるように指折りでカウントを伝える。

「4!」

 直撃を受けても仲間を爆破範囲に巻き込まない程度に距離を開ける。
 7人同時の包囲突撃。狙われる確率はおおよそ15%。はずれを引かない確率的にはまぁまぁだ。
 銃口を向けられていない6人は最短ルートで坊主を目指す。狙われた奴は……まぁ頑張れ。

「3!!」
「突っ込め!」

 一気に散開突貫。
 障害物から飛び出して見えたのは、俺の方に向けられた銃口。クソッタレが! 大当たりじゃねーか!

「こ、の、篤信者等めがぁぁああああ!」

 レーザー光なんて見てから回避なんぞ不可能だ。銃口を向けられたと認識した瞬間、身体をひねって無理やりにでも被弾面積を少なくする。
 瞬間、脇の下を抉るようにレーザー弾が突き抜けて行った。
 直撃弾じゃない。ふざけた弾速でちょうど腕と胸の間をすり抜けただけだ。しかし、それだけで脇の下周辺の肉をゴッソリ持っていかれた。レーザー熱で焼かれたわけではなく、至近距離を打ち抜かれた衝撃で皮膚が吹っ飛ばされたような感じだ。噴き出すような出血と共に身体が地面に投げ出される羽目になったが、今は構っている余裕が無い。
 ここで、狙いを変えてくれれば良かったものの、自分に迫る6人を無視してでも俺から銃口を外していない。
 協会でのやり取りでそんなにヘイト稼いでたのか!?

「我が愛を知れぇぇぇいい!」

 二発目が着弾する瞬間、地に伏した身体を無理やり転がして机の陰に飛び込む。
 着弾の衝撃で、デスクとかがまとめてひしゃげる。大げさに避けて良かった。ギリギリで避ければ爆発に巻き込まれてミンチだった。
 つか威力スゲェじゃねぇか。何で大したことないなんて錯覚したんだ?
 ……と思って着弾点を確認してみると、床や背後の間仕切りは焼けたような跡があるだけで殆ど無傷である事に気付いた。
 一方、机や散らばっていた残骸は粉微塵だ。つまり、この建物の建材が馬鹿みたいに頑丈なだけで、あのレザライの威力は見た目通りの高威力だったって訳だ。とすると……

「やべっ……」

 隠れていた机から飛び出した瞬間、その机ごと貫通する一撃が今まで隠れていた場所を吹き飛ばしていた。
 あっぶねぇ……あのまま隠れていたら死んでたぞ。いくら何でもあんなのに殺られるのは許容できんわ。
 だが、俺を狙って3射。つまり6秒。
 それだけ時間があれば、残り6人があの坊主に殺到するには十分すぎる時間だ。

「私たちを無視してまでぶっ放した3発でキョウくんを仕留められなかったのは失敗だったねぇ!」
「貴様らあああああ!!!」
「よそ見は良くないっスよ!」
「ぐっ……! 神弓が!?」

 よし、チェリーさんのチャージに気を取られた隙にハルドが武器を奪った。アレなら生け捕りもいけるか。
 終わってみれば呆気なかったな。まぁ今回は味方側の人数が人数だし、こんなもんだろう。

「おい、生きてるか?」

 壁から顔を出したカインに手を振ってとりあえず無事を伝える。

「生きてる生きっ……痛たったたたた!」

 やっべ、抉られた方の腕を振っちまった。
 特別深い傷という訳ではないが、脇の下を抉られたというのが良くなかったか。

「うっわ、大出血じゃねぇか。ちゃんと止血しとけよ」
「止血したくても薬とかが入ったカバンはあの坊主の後ろなんだよ!」

 これだけ傷の範囲が広いと、上着を破ってどうこうしてもたかが知れてるっていうか、上着に血がしみこむだけでむしろ出血増えそうな勢いだしな。
 まぁ、失血死とか笑えない。あのキチ〇イ坊主もチェリーさんたちが抑えたし、さっさと止血しとくか。

「まずは、さっさと鞄を回収して……」

 ゴォォッッッ!!!!

 荷物の入ったカバンを回収するために、チェリーさんたちと合流しようとしたところで、突然殴りつけるような強烈な衝撃が部屋全体を突き抜けた。
 
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