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四章

二百一話 初めてのダンジョンⅡ

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「アンタ等、本当に魔物狩りは初めてなの?」
「うん?」

 今回は討伐モンスターの部位を持ち帰る必要が無いから、念入りに止めを刺して道端に死体を除けているとそんな事を聞かれた。

「確かに魔物を見たのは初めてだけど、何か?」
「いや、随分と手慣れてる感じがしたから気になってね」
「手慣れてる……と言われてもなぁ? 魔物は初めてでも野獣狩りとかはやってきたから、同じ感覚でやってるだけなんですけど」
「普通、初めて魔物を見たヒヨっ子はあの見た目の異常さや動きの奇怪さにビビッて実力を出し切れないもんなんだけどね」

 まぁ、あの見た目は気持ち悪いからなぁ。いきなり何の準備もなく目の前にあんなのが現れたら確かに驚いてもおかしくない。今回は最初から魔物と戦うっていう心構えがあったら大して驚くことも無かったが……

「気持ち悪いのは確かですけど、まぁ今まで戦った奴らに比べて強さ的には大したことは無かったんで、思いのほか落ち着いて対処できたってのはあるかも」
「コイツでも十分危険だと思うんだけど、アンタの田舎は一体どんな魔境なんだい……」

 サイや鶏の化け物や鎧竜に襲われる牧歌的な田舎です。
 というかこの街に来る前に通った森だって大概だったと思うけどな。あの狒々の親玉とかどう考えても今の魔物よりも遥かに強かったぞ。
 
「流石だな、実力は分かってはいたが、初めての魔物までこうもあっさり倒すとはな。せっかく援護させようと思っていたんだが無駄になっちまった」

 後ろから追いついてきたカインと共に来た取り巻きの何人かから、妙な力の流れを感じる。
 援護とは言うが武器は見当たらないという事は、攻撃型の魔術師か。
 てっきり調査の為の学者先生かと思ってたが、案外頼りに出来る戦力だったりするのか……?

「こっちとしては援護の準備があるのは普通に助かるけどな。何が起こるか分からんし」
「あっさり撃退して見せた割には随分と控えめな意見だな。普通もっと自分を売り込むところなんじゃねぇのか? ……まぁ、油断が無いのは良い事だが」

 その辺はまぁ……日本人気質的な?

「でも、まぁイダさんの言葉通りなら暫くは魔物の襲撃の可能性が少ないだろうから、多少はやりやすくなりますね」
「暫くはね。遺跡の中に入ればまた別の魔物が出る可能性があるわよ。この断崖とあの壁の向こうで明らかに領域が分断されてるからね」
「居ない可能性は?」
「当然その可能性もあるけど、どう考えてもあの遺跡の奥の方が住み心地が良さそうだと思わない?」
「それは……まぁ、確かに」

 巣を作るなら安全を確保できる奥まったところの方が当然良いだろう。

「だがあの魔物は……」

 見上げた天井には糸で形作られた巣が様々な獲物の残骸とともに残っている。
 獲物を確保しやすいからという理由もあるだろう。だが、こんな表層にわざわざ巣を作るという事は、恐らく奥には……という事なんだろう。

「エリス、周りの様子はどうだ?」
「近くに気配はないよ。獣も、魔物も」
「そっか、なら暫くは進行速度を上げられるな」
「ずいぶんその子の感覚を信用してるわね」

 あー……ここはハルドの意見も聞いておくべきだったか。これじゃ向こうのパーティからしたら色々言いたいことも出るわな。
 とはいえもう口に出しちまったし……ここは建前上でもそれらしい言い訳をしておいた方が良いか。

「感覚的なものもあるんですけど、純粋に眼も耳も良いんですよコイツ。うちのパーティの信頼できる目ってやつで」
「へぇ? 実績あり?」
「身内びいきを差し置いてもこの子のレンジャーとしての技能はかなりのモノですよ」

 これは嘘偽りない俺の本心だ。前衛職とはいえ高レベルのチェリーさんよりも遥かに遠い索敵範囲をもっているのは間違いない。
 というか、あの森でのスパルタレベリングの最中に気づいたんだが、化け物じみたステータスを持っているハティとモンスターに気付くタイミングがほぼ同じだったことから索敵範囲がほぼ同じという事だと想像できる。
 野生の、しかも高レベルボスの獣並みの索敵範囲とか、どう考えても俺達のレベル帯のスカウトの能力よりも高い……はず?
 あれ、でもよくよく考えるとハルド以外スカウトって一緒になったことないから普通がよく判らんのだよな。すごい事は分かってるんだが……
 最近は闘技上に参加したおかげである程度の戦闘職の平均的な強さみたいなのは把握したつもりだけど、他の職種の基準値はサッパリわからないんだよな。
 遺跡に入ったら配置換えしていろいろ見せてもらうべきか……? いやでも、口実はどうするか?

「さて、記録も済んだしそろそろ進もうか」

 よく見てみればリコのマッピングと、カインの取り巻きが倒した魔物の記録をしているようだった。
 こうやって倒すたびに記録していくから倒した魔物の一部を切り取る必要ないんだな。

 カインの言葉に従い探索を再開。
 エリスの感覚通り、そこからは魔物にも野獣にも出会わなかった。生き物という生き物は魔物に食い散らかされたのだろうという事だった。
 これでは自身も飢えてしまうのではないかとも思うのだが、話によると魔物は何も喰わなくても餓死するという事が無いらしい。喰うという行為は自身を強くするための行為であって、人間や獣の様に生きるために必要な行為ではないという事だ。にも拘らず魔物が餓え喰らうのは、己の力を増すことが魔物の本能だからだそうだ。
 だから獲物を喰い潰したダンジョンの奥でも餓えず巣を張り待ち続けられる。空腹になんて幾らでも耐えられるくせに一目獲物を目にすれば本能に従って貪欲に獲物を狙う。
 聞けば聞くほど本当に厄介な生き物だな。

 だが、場合によっては今回の様に早々に魔物を倒すことで、危険な生き物の枯れはてたダンジョンを安全に探索することが出来るというメリットもある。
 状況と考え方次第という訳だ。
 実際、あの後遺跡の入り口まで一切の外敵と遭遇することなくたどり着くことが出来た。
 正直な話ダンジョンでの魔物退治なんていったら、真っ暗な洞窟の中ですごい数のインプみたいなのと戦い続けるイメージだったから、拍子抜けといった感じではある。
 楽なことに越した事はないんだけどな。

 とはいえ、ここまで何もないのはそれはそれで少々寂しいというのが本音だ。
 ダンジョン入り口でボス戦があるものの、ダンジョン内でエンカウント一切しないRPGとか、流石にどうなんだっていう話だ。
 目の前の、この裂け目の向こう側に足を踏み入れば状況も変わるかもしれないが、入り口に魔物が巣を張っていたという事は、この中にも魔物がいる可能性が高い訳で、さらに言えばこの中に魔物がいるという事はやはりその魔物以外のエンカウントは無しという事になる。
 それってなーんかRPGってイメージじゃないんだよなぁ。
 エンカウント過多のRPGは雑魚戦がうざくて仕方なく思うけど、雑魚戦が一切ないというのはそれはそれで何か違うと感じてしまうのだ。やっぱり雑魚戦が無いとボス戦が締まらないというか……贅沢病だろうか?

「よし、それでは遺跡内の探索を開始する。頼むぞお前ら」
「あいよ。それじゃ気を引き締めていこうか」
「ういっす」

 って、あぁっ隊列変更の話し忘れた!
 流石に突入開始の今更になってこの話は持ち出せないな。しくじった……

「んん? どうかしたかい?」
「いや、何でもないっす。行きましょう」

 まぁ、動き出しちまった物は仕方ない。この仕事が終わった後にいろいろ教えてもらうか。
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