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四章
二百話 初めてのダンジョンⅠ
しおりを挟むさて、そういう訳で遺跡まで来たわけだが、これは予想していた以上の難所だな。
地面の裂け目の奥に遺跡の壁のようなものが見える。その壁も崩落しており、あそこからなら中には入れそうに見えるが……どう見ても正規の入り口じゃねぇな。
裂け目から続く道も、人が通るための物ではなく、単純に地割れの際に自然にできた凹凸というだけだなコレ。
目的の場所がはっきり見えているから、迷子になる心配がないのは助かる。
奥まで行って何もない行き止まりとかは流石に寂しすぎるからな。
「ここから先が未踏区画になる。何が起こるか分からん。くれぐれも注意してくれ」
「……確かに魔物の気配を感じるっスね」
気配……というよりは、痕跡?
白い……糸? 或いは体液か。そんなものが所々に壁から漂っている。激しく破損した骨は食い散らかした残骸か。今だにエリスの様に本当の気配だけで探し出すのは無理だが、これなら流石の俺にも何か良くないものが巣くっているというのはよく判る。
「まぁ、それ程数がいるようには見えないし、何とかなるでしょ」
「まぁ、数が居ないのはそれが魔物の特性っスからね。連中、たとえ見た目が似ていても獣と違って同族意識のようなものは無いっスから。まぁごく一部、そういう群れる魔物が居るという話も聞きたことはあるっスけど、まぁレアケースって奴っスね」
そうなのか。何か話を聞く感じ製品版の魔物カテゴリのモンスターのイメージとちょっと違うな。
あっちでもインプやデミガーゴイルといった魔物と何度か戦ったが、普通に種族名として通っていたと思ったが……実際同じやつと何度も戦ったしな。
「チェリーさん、どう思う?」
「ん~……なんかβの時とこっちとで大分違ってるみたいだね。でも、システムからして色々違いがあるからおかしくはないんじゃないかな」
「そう言われると、まぁそうだな」
魔物がすべて固有モンスターとなると、ボスキャラであれば兎も角雑魚まで一々ワンオフで作ってたらデータ量もとんでもない事になりそうだし、製品版で採用は出来なかったと考えるのが自然か?
どんなネトゲも大抵通信データ量が大きな問題になるからな。如何にデータ量を抑えてラグやロード短縮を行うかに腐心するという。
オブジェクトや画像解像度、3Dデータ量を如何に減らして、かつ綺麗に、派手に見せるのかがが開発の腕の見せ所だ。データの流れが膨大になる製品版ともなれば猶更だ。見えないところを可能な限り削りに削るだろう。
「まぁ、カテゴライズ化出来ないというのは多少対処に困るかもしれんが、結局はモンスターなんだろう。魔物相手の時は常に初見モンスターだと思えばいいってだけの話か」
「ま、そうだね。ゲームによっては見た目はまんま同じでパラメータがランダムなんてモードもあったりするし、そういう者だと思えばまぁ、ね」
ま、そんなもんだろうな。
どうせ雑魚モンスターのステータスとか後々になっても大して確認したりしないんだよな。
一度戦って、なんとなく弱点とかを把握して、間違えて耐性のついた属性で殴っても『あれ、そうだったっけ?』って程度でおしまい。
よくよく考えてみれば、あまり深く気にしても仕方ない問題なんだよな。
「さて、これで襲撃は確実となったわけだが、覚悟はできたか?」
「ういっス」
「ウチは魔物初体験なんで、どういう状況でもさして変わらないよ」
カインの確認に各々答え、準備を整ったことを知らせる。
「よし、なら前衛は侵入を開始してくれ。少し離れて俺達とポーターが、その後しんがり役が続く」
「了解。それじゃ行きますかね」
石喰いのイダが颯爽と突き進んでいくのを俺とエリスが追いかける。
今回の探索では前衛は石喰いからイダとリコが、ウチからは俺とエリスが担当する。
ちなみに殿役にはハルドとチェリーさんが、一番力持ちのハティは普段は狼の姿でポーターとして俺たちの荷物を運んでもらい、いざという時は遊撃として動いてもらうという形になった。
ハルドが殿に回ったのはリーダーとして状況を把握しやすい事と、前と後ろでスカウトを分散させてパーティの視野を確保したかったからだ。
前衛に戦力が大きく偏っているが、今回の探索地はライラール伯の管理地なので、背後から盗掘者等の襲撃を受ける心配が無いからという理由だ。なので、殿役の仕事は主に討ち漏らしの処理や、擬態などで背後から襲い掛かってくる魔物の処理という事になる。
チェリーさん的には前衛に行きたかったようだが、レベルを考慮すると少数精鋭を後ろに置きたいという状況でチェリーさんに真っ先に白羽の矢が立ったという訳だ。
「イダさん、ダンジョンに潜り慣れてる先輩として、この空気はどうなんです?」
「そうね、よくある……というのも変だけど、魔物の気配としては特別なものは感じないわね。こういう浅い場所で人を襲うような魔物は、実のところそこらの野獣とそこまでの違いはないのよ」
「そうなんです?」
「人里に被害を与えるような魔物というのは大抵は雑魚なのよ」
ん? 普通人里に被害を与えるほどの凶悪モンスター……みたいな表現するんじゃないのか?
「それは意外というか……凶悪な魔物ほど人を襲うもんだと思ってました」
「まぁ人を襲うのだから凶悪というのは間違ってはいないんだけどね? そういうのは食欲に忠実で考えなしに獲物を襲うだけの知能しかない奴が殆どなのさ。本当にヤバいのは人に気づかれないように、危機感を持たれないように餌場を確保するような頭の働くやつなのさ」
なるほど、そういわれてみれば確かに知恵の働くやつの方が危険な感じがする。だが……
「でも、それなら人に危害が出ないんだから特に恐れる必要が無いのでは……?」
「そう言う魔物が身をひそめるのは力が弱いうちだけなんだよ。周囲の街が力を合わせてもどうにもならないほどの力を蓄え、自分を止められるものが居なくなると確信してから満を持して出てくるのさ」
「それは本当に厄介だな……」
小狡いというのか、性格が悪いというか……いや、実に現実的な思考ではあるんだが、それを魔物がやってくるとなると流石に看過できないだろ。
そんなのを製品版で実装して、万が一にも暗殺まがいの方法で初心者狩りするようなモンスターが現れたら、運営はひどいバッシング受けそうだな。そりゃ実装出来ないわけだわ。
「もしそういう『面倒くさい』タイプの魔物が居れば、この崩落の後すぐにこの場を離れるか、あるいは奥に引きこもるでしょね」
「つまり、道中で出会う魔物は大したことが無いやつばかりと?」
「まぁ、基本通りであればね。本番は遺跡に踏み込んでから。それまではまぁ準備運動位の感じよ。それに、さっきうちのリーダーが言ってたように魔物は基本個々が別の生き物のようなものでまず群れないのよ。縄張りが重なると喰い合いになるからね。だから一匹仕留めれば、しばらく遭遇することは無いのよ。こういう閉鎖空間では特に……っと」
イダの視線につられて暗闇に目を凝らす。
前方、天井付近か。張り付くようにして何かが居る。蝙蝠……じゃねぇな。アレが魔物?
「エリス」
「見えてる」
エリスの目は完全に敵を捕らえている。
俺には暗闇と、ランタンの光が反射する奴の目しか見えてないが……
「リコ」
「出しゃばるつもりはねぇよ。戦闘は任せる」
その言葉と同時にマッピング担当のリコ下がる、その動きに反応したのか
「キィィヒイイイイイイイィィィィィ!!!」
金切声……というよりもまるで超音波か何かのような奇声を発しながらソレが飛びかかってきた。
翼はない。毛の生えていない長い人間のような四肢と、出張った腹にツルツルの顔、そして異様にデカイ目とバッタか何かのような顎。ぶっちゃけキモイ。
なるほど、どんな生き物かと聞かれてもぱっと似たような生き物の名前が思い浮かばない。これが魔物か。
空中を真っすぐ飛びかかってくる魔物に向かって
「良い的だな」
腰のダークを投擲する。……が
「えぇ、空中で避けるのかよ。二段ジャンプ? そんなんありかよ」
まるで空中でさらに跳ねるようにして放ったダークはあっさり避けられてしまった。
まぁ、柄尻を紐でくくってあるからすぐに引き戻せるんだけどな。
「キョウ、あいつ糸で向きを変えてる!」
「バッタじゃなくて蜘蛛だったか……俺は蜘蛛は嫌いなんだよなぁ」
「馬鹿な事言ってんじゃ無いわよ! 来るわよ!?」
まぁ、来るのは分かってるんだけどね。
「糸を出してるのは尻から。という事は急な方向転換はあらかじめ糸を伸ばしていないと出来ない訳だ。で、今の奴の糸は……」
ランタンの光できらきら光ってよーく見える。さっきの方向転換で壁に貼り付けた糸と繋がったままだ。
つまり、今は再度の方向転換は同じ方向に戻る事しかできない。別方向に移動するには一度糸を外して新しい場所へ糸を飛ばす必要がある。
そんな時間を与える理由はねぇわな。
「そら!」
再びダークを投げつけ、同時に前へ飛び出す。
「エリス、カバー!」
「ん!」
念のため邪魔が入らないようにエリスに周囲を警戒させて一気に走り込む。
ダークに気が付いた蜘蛛っぽい魔物が無理やり糸を手繰って再度軌道をずらすが、糸の位置は変わっていない。向きはバレバレだ。
「ほい、おしまい」
軌道を読んで移動したこちらに飛び込んでくるような軌道で来る魔物をミアリギスでフルスイング。
「ギュイイイイイイイイィィィィイイ!?」
とっさに間に挟んだであろう腕ごと胴を両断してやった。
念のためきっちりと頭をつぶして止めを刺すのを忘れない。基本に忠実に、だ。
「エリスの方はどうだ?」
「新しいのは来なかった。音も匂いも無いかなー」
「なら良かった」
よし、初めての魔物狩りだったが危なげなく倒すことが出来たな。
見た目も動きも滅茶苦茶だが、普通の野獣狩りと変わらない感覚でやれそうだ。
強さ的にもバジリコックやライノスみたいな無理ゲー感は感じなかったし、案外何とかなりそうだな。
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