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三章

百九十七話 仕事のお話

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「さて、駄弁っていても仕方ないから仕事の話を進めようか」

 おっと、協会の話が色々聞けるからってついまた脱線しちまったか。
 皆カインの方に注意を向ける。

「では、今回の依頼の再確認だ」

 そう言って取り出したのは大きな皮紙だ。
 書かれているのは……どうやら依頼票の内容のようだな。
 ……ん? 何でチェリーさんはあんな難しそうな顔してるんだ? ざっと見た感じ内容的にはおかしな事は無いように思えるが……

「今回の目的は未踏遺跡の調査の為のマッピングだ。基本的には探索震度に応じて報酬を上乗せしていく形だな。だがそれとは別に危険排除も目的の一つだ。学者共が安全に調査するための下準備だと思ってもらうと良い」
「当然それらも追加報酬に入るんスよね?」
「もちろんだ。今回はお前達とは別に俺も手勢を連れて同行する。その中の一人に中の状況を逐一記録させるから、残骸の持ち帰り等は考えなくても良いぞ」
「そりゃ助かるっス。獣の残骸は匂いを出すからあまり好き好んで持ち運びたくはない……まぁただ働きはもっと御免っスけどね」

 カインとハルドの二人でとんとん拍子に話が進んでいく。
 正直俺が口をはさむ間もない……とはいえ、内容的にはただの確認だ。口を出すも何も、今の所その必要が無いような内容ばかりだから大人しく話を聞いている。
 ……のだが、どうやらその態度が気になる人もいるようだ。

「さっきからずっと黙ってるっスけど、俺達が居るから遠慮してるんスか? 先輩として忠告なんスけど、こういう時は図々しくても言いたいことは言っておいた方がいいっスよ?」

 どうやら、7等級のパーティ相手に、9等級俺が遠慮しているように見えたらしい。

「あぁ、いえ別に遠慮してとかそういうつもりは無いです。気になることがあればその都度聞くつもりです。今回は特に口をはさむような内容が無かったんで変に喋るよりは黙っていた方が説明がスムーズに終わるかな……と」
「それなら良いんスけど……」

 こういうので気になったことは、話の最後に確認する方が効率がいいんだよな。
 口を挟めば応答分時間がかかるし、話の途中で「おや?」と思う内容があっても、最後まで話を聞いてみると「ああ、あれはそういう事か」と納得できる内容だったりもする。だから話は一応最後まで、それでなくてもせめて一区切りするまでは聞いておいて、その後で気になったことを確認するというのが一番スムーズに話が進むと、昔上司に教えられた。
 そして、働いていたころは実際その通りだったので、今もそういう風にしているというだけの話だ。

「ハルド、こいつは遠慮とかそういうのとは無縁の男だ。気にするだけ無駄だぞ?」
「そうなんスか?」
「その言い方は酷くねぇか?」
「こんなナリで修羅場で騎士団に囲まれた状況で、陛下相手にサシで意見通すような男だぞ?」
「なんでそれをアンタが知ってるんだよ……」

 それって、『鬼』に襲撃されたときの城門での内側での話だよな?
 それを知ってるのは、現場に居た騎士達か王様か、あるいは城に残っていた一部の貴族か……どちらにしろ、そう簡単に手に入る情報じゃないと思うんだが……

「ま、王宮内にもそれなりの情報網は握ってるって話だ」

 コエぇ話だなぁオイ。
 いったいどれほどの情報強者なんだコイツ。

「まぁいい。では話を進めるぞ。現状での事前調査で探索できたのは遺跡に続く洞窟のほんの400m前後。まだ遺跡の内側にすら到達できていない。そこで魔物の襲撃を受け撤退した。つまり、この遺跡には確実に魔物がいるという事だ」

 ……おや?

「400って事は殆ど探索できてないに等しいっすね。入口の規模から想定する遺跡のサイズに目星なんかはついてるんスか?」
「一応学者共の話であれば、過去見つかった遺跡と見比べるに、2キロ規模の大型遺跡だろうという話だ。だが、それを確かめるためにも遺跡その物に到達できなければ話にならん。地割れの裂け目からは遺跡自体は確認できているが、流石に入り組んでいて正確な距離は出せていないが、目算でおおよそ1キロと見積もっている」
「そいつはまた大物っスね。遺跡まで1キロ、遺跡に到達してからさらに2キロ。ウチ等も幾つか遺跡探索は行ってきたけど、そこまでの規模となると初めてっス。それにしても魔物っスか……それで準優勝者に声をかけたって事っスね?」
「あぁそうだ。可能なら優勝者にも手伝ってもらいたかったが……まぁ奴を引き留めるのは無理があるからな」
「なるほどっス」

 なんか向こうは向こうで納得してるようだが、こっちはこっちで気になることが。
 当たり前のように会話は400mと翻訳されたが、耳では単位はメルドと聞き取っていた。つまり長さの単位はメルドだという事だが、数字はそのままだったという事は1メートル=1メルドという事だろうか? であれば、距離の確認が非常に楽になるな。
 田舎だと長さの単位なんて殆ど使わなかった。北に何刻とか南に何日とか、フワッとした言い方でしかなかったから、実は初めて手に入れる情報なんだよなコレ。
 単位ってのは何かと重要で、こっちに来てから単位で言い表せないことで色々と細かいところでやりにくさを感じていたから、凄く助かる。
 日常会話であれば勝手に翻訳してくれるから、実はそこまで困らないんだが、問題は書き起こすときなどだ。
 大会申し込みの時もそうだったが、この世界での翻訳は、当たり前といえば当たり前なんだがあくまでデジタルで変換できるもの……要するに声だけにしか通用しない。
 自分で文字を書いても、それが相手に翻訳される訳ではないので、読み書きに関しては自力で覚える必要がある。
 義務教育があるわけでもないこの国では文字が読めないことは珍しくないし、困ったときは「コレなんて書いてあるんですか」と聞けばいいだけなんだが……やっぱり書けるに越したことは無いし、嘘をつかれて詐欺にあったりという可能性も考えられる。だから、こちらの世界での生活がいつまで続くか分からない以上、生きるために必要な技術の一つとして村のおばちゃん達に頼み込んで読み書きを覚えた訳なんだが……
 って、そうか。チェリーさんが難しい顔してるの、広げられた書面が読めないからか。
 会話ベースだから内容は理解できていると思うが、提示された資料の意味が分からないから難しそうというか困った顔してたんだな。
 
「さて、こちらが事前に伝えられる情報はこの程度だが、何か確認したいことはあるか?」

 おっと、よそ事に気を取られているうちに話がひと段落したようだ。
 まぁ、気を取られていたとはいっても話の内容自体は聞いていたから今のところ特に問題は無いな。トラブルになりそうな金銭関係の取り分何かも協会通した依頼として保障されてるし、仕事内容や事前情報にもこれといって不備がある訳でもない。魔物の襲撃に関しても状況を見て撤退が許されてるし……特に何か口を出す理由は無いな。

「……無いようだな。では探索開始についてだが、正直こちらはもう準備が済んでいるから行けるなら今からでも行きたいんだが、お前たちはどうだ?」
「ウチ等も問題ないっスよ」

 準備万端って訳か。まぁ話を持ってきた側だしな。俺達が協会で以来として受けるよりも前から準備はしてただろうし当然か。

「チェリーさんたちは? 何かこれから追加で用意したい物とかある?」
「うーん、特にないかな」
「だいじょうぶ」

 ハティは……エリスの隣でコクコクうなずいてるからまぁ大丈夫だろう。まぁこいつに関しては元々準備とか何も必要ないとは思うけどな。

「……という訳で、俺達も問題ありません。ただ荷物が宿屋にあるんで、一度戻る必要はありますけど」
「ふむ……なら、二刻後にこの屋敷の前に集合という事で良いか?」
「ウイっス」

 二刻……大体一時間か。この屋敷まで一五分程度だったから、それだけあれば十分余裕はあるな。

「了解。それじゃさっさと荷物を取りに戻るわ」
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