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三章

百九十六話 他所のパーティ

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「では、遺跡探索の件よろしく頼むぞ」
「えぇまぁ。ハイ。やれる範囲内のことはやってみますよ」
「フフ……随分と控えめな答えだが実力の程は既に見せてもらっているからな。せいぜい期待させてもらうとしよう」

 そういった根拠の薄い期待を受けないように、消極的な対応にしたつもりなんだがなぁ。
 こういう時は闘技大会準優勝という肩書がちょっと邪魔だ。
 そしていくつか伯爵との情報交換といくつかのアドバイスと忠告をもらった後、特に何があったという訳でもなく、そろそろ仕事に戻るという事で伯爵との対談はお開きになった。

 伯爵自ら出てきたという事は、何かとんでもない話が飛び出てくるのかと内心警戒していたが、どうやら本当に気分転換のための会話に来ていた様だ。
 それだけ息抜きできるような時間も無いっていう事か。何だかんだで、やはりあの人も伯爵なんてものをやっている以上、仕事が山のようにあるんだろう。

 で、俺たちはといえば、再びこのギャングに連れられて屋敷の中を歩いている訳だが、どうやら早速もう一つのパーティとやらに合流させてもらうようだ。
 仕事上のパートナーとなる相手だしな。どういう相手か知れるというのなら早いに越したことは無い。
 そうして案内されたのは、客室……には見えないな。置いてある物が実用的すぎる。この屋敷の景観とは全く相いれない、使い古されたモノばかり。という事はそのパーティ専用の部屋を宛がわれてるのか?

「よし、全員居るようだな」

 カインの視界の先には3人組の冒険者風の人達。これが今回の仕事上のパートナーか。

「遅いっスよカインさん。どんだけ待たせるんスか?」
「悪いな。ライラール伯がどうしても話しておきたいという事で少々遅れた。で、コイツ等が今回一緒に同行する者達だ。大会準優勝者と準決勝進出者だからな。戦力としては折り紙付きだ」
「ああ、俺達も大会見てたっスよ。これなら安心して組めるってモンっスね。そんじゃま、軽く自己紹介でも」


「俺はハルド。協会では石喰いの名前で登録している7等級のパーティ……まぁここに居る三人なんスけど、一応俺がリーダー兼スカウトをしているっス」
「俺はリコ。担当はマッピングと調査だ」
「アタシはイダ。この二人と違って細かい仕事は苦手でね。もっぱら荒事担当さ。よろしく」

 7等級……って事は、俺等より二つ上か。
 たしか7等級からは結構きつめの昇級審査が入るようになって、途端に数が減るとシーマさんから聞いた気がする。
 つまりこの人達は、壁を越えた側の上級パーティという訳だ。

「あ、ハイ。こちらからもよろしく。えっと、俺は一応この4人のリーダーをやってるキョウです。最近協会に登録したばかりで、等級は9でパーティの名前とかはまだないです。俺の担当は前衛です」
「私はチェリーブロッサム。長いからチェリーで良いです。私の担当も前衛。基本的に私が敵を引き付けて、キョウくんが止めを刺すといった戦い方でやってきました」
「後ろの二人は金髪がエリス、銀髪の方はハティ。エリスはスカウトを、ハティは……まぁ遊撃みたいな感じです」

 異常に目や耳が良く、第六感が飛びぬけてるんじゃないかと思えるほど勘の良いエリスは、索敵能力ではうちのエースだ。
 ハティはハティで、基礎スペックがあまりに高すぎて、どこに置いても戦力的に結果を約束してくれる。変に役割を固定するよりも好きに動いてもらった方が良いようになる。

「え……この二人も戦うのかい? またずいぶん小さいけど、闘奴なのかい?」
「え、いや俺の妹とその友達ですけど……」

 エリスは最初からそう言い合わせてあったから良いがハティの扱いをどうしようという事になって、いろいろ悩んだ結果、結局エリスの友達というのが一番無難だろうという事になった。
 それにしても闘奴って、戦わせる為の奴隷って事だよな? そんなの雇えるほど金に余裕ねぇって。
 というか、武者修行的な意味が強いんだから、自分で戦わないと意味が無い……なんて事情をこの人たちが知ってる訳がないんだけど。

「えぇと、その大丈夫なんスか? お二人の強さは理解してますけど、そっちのお嬢ちゃん達は流石に危険なんじゃ……?」

 まぁ、やっぱり初見だとそう思うよなぁ。すごく常識的な反応だと思う。

「あ、その辺は大丈夫です。エリスはこれでスカウトとしての資質はかなりのものを持ってますし、戦闘の実力もかなりのものですから」
「何気に今の私より強いからねぇ……エリスちゃん」
「え゙!?」

 チェリーさんの呟きに、3人組の動きが止まった。
 まぁ、この人たち大会でチェリーさんの戦いぶりは見てるだろうから、そのチェリーさんより強いっていうのが見た目と認識で一致しないんだろうな。

「ちなみに、こと戦闘能力でいえば、俺等の中ではそこのハティが一番強いです」
「マジっスか? ジョークとかそういうのではなく?」
「マジっすよ」

 見た目は女の子でも中身は北の山脈の王者とか言われる存在だしな。
 アーマードレイクを単騎でシバき倒せるのなんて、俺等の中ではハティだけだ。

「基本的にウチのパーティは純粋に『今よりもっと強くなりたい』って感じなんで、戦闘方面は任せてください。逆に遺跡探索なんかはそちらの方が離れしているみたいだし、お任せしたいと思うんですけど大丈夫ですかね?」
「あ、あぁ、そこはもちろん任せてくれっス」

 探索担当って言ってたリコ氏が二つ返事で受けてくれたようだし、役割分担は割と簡単に済みそうだ。
 といっても、ウチのパーティはエリス以外三人とも戦闘特化だし、エリスだって索敵得意ってだけでぶっちゃけ前線で戦うタイプだからな。今更だがキャスターもヒーラーも実際に居るこの世界でアタッカー4人編成とか、どんだけ偏ってんだウチのパーティは。

「しかし、準優勝とはいえ9等級か……」
「等級が低いと、やっぱ同行は不安ですかね?」
「いや、強さ自体で言えばあの大会で準優勝できるって時点で俺達より上なのは確信してるよ。ただ、等級が低いという事は、今回みたいな調査依頼なんかは未経験なんじゃないか?」

「はい、遺跡探索なんていうのは今回が初めてです」
「となると、連携何かに綻びが出る可能性もあるって事だ」

「なら、戦闘指揮はアタシがとろうと思うけど、それで構わないかい?」
「え、まぁそれならそれで……」

 いや待て、さっきシーマさんにこういうケースの時どうするべきかってアドバイス貰ったよな。
 えぇと、確か……

「あっ……と、すいません。俺達まだ別パーティと連携とか組んだことなくて、今回は試しにイダさんは俺に指示を出してください。そしたら俺が三人へ指示を回すので……」
「ふぅん? まぁ、何事にも初めてってのはあるもんだしね、良いよ。今回はそれでやってみようか」
「ありがとうございます」

 要するに、こうすればいいって事だろう?
 うちのパーティを使役する裁量権までは渡さず、そのうえでイダさんの意見を通す。イダさん側への妥協点としてはそれなりに整ったラインを引けたはずだ。

「なら、大号令は等級の高いウチのリーダーが、戦闘に関してはアタシが指揮を執るから、それを基にキョウは仲間たちへ細かい指示を出す……って事で良いね?」
「はい、それで構いません」
「なら結構。いやぁ、今回は話が早くて助かるわ」

 今回は、か。つまりシーマさんが言っていた通り普段は……

「やっぱり揉めるんですか? こういう時って」
「揉めるわねぇ。複数パーティでの行動の時、この手の決め事で毎回ね」
「今回みたいに等級に差があるときは、押し切れるんスけど、同等のパーティ同士だったりするとどうしても荒れるんスよねぇ。こういう時に主導権握りたいのはどこも同じって事っス。複数パーティを率いての依頼達成ってのはそれだけで昇進の為の箔付けになるっスから」

 ああ、なるほど。周りを率いて任務達成できるリーダーシップ的なものをアピールできるって事か。

「協会で等級を上げると、やっぱり色々有利だったりするんです?」
「そりゃぁそうっス。7等級以上になると、結構大きなところからも指名依頼が舞い込んだりするし、単純に協会から任される仕事も難易度が上がって、それに伴って収入も増えるっス」

 それもそうか。ゲームとかでも冒険者ランク的なやつ上げると、報酬額が一気に跳ね上がったりするもんな。

「ここで雇われてるのも、その恩恵って奴ですか?」
「いや、この街では協会の力は特に弱いからな。俺たちはたまたま閣下の目に留まったというだけで、単純に運が良かっただけさ」
「他の地域でなら、俺たちの階位にもそれなりの箔が付くんだけどな」

 やっぱりこの街では協会の影響力は微々たるものという訳か。
 まぁ、あれだけ本部が廃れてりゃしょうがないよなぁ。

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