ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百九十四話 待ち人

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 で、伯爵様のお屋敷に来たわけなんだが……

 そうだった。前回はパーティってことで素通りできたからほとんど気にしてなかったが、ここは貴族様のお屋敷なわけで、当然ながら立派な門があるわけだ。前に来た時通ったから間違いない。で……だ。
 門があれば当然居るわけだわな。

 門番が。

 なんで今の今までこんな単純なことが抜け落ちていたのか。
 この世界で俺にとって一番の鬼門だというのに。
 門に関するものが鬼門とか、何の冗談だって話だが実際門兵の尽くとトラブルに発展しているんだから仕方がない。しかも大抵が一方的な決めつけとか、正直対処の仕様のない問題でだ。
 というか、この街に入る時もそれで揉めてるんだよなぁ。

「キョウくん?」

 門の前に来たところでで固まってる俺を不審に感じてるんだろう。名前を呼ばれるが、どう反応したものか……
 門兵怖いです……は、流石に情けなさすぎるが、他に言いようがなぁ。

「あ~……なる程、二回立て続けだったもんねぇ」

 そして、俺がどう伝えようか迷っている内に、視線で察せられてしまったらしい。
 だって仕方ねぇじゃん? 面倒くさいやつに絡まれるのって想像以上にストレスたまるんだもんよ?
 迂闊に手だせば……この世界に公務執行妨害があるのかは判らんが、まぁ似たような理由で相手に口実与えることになるし、かといって下手に出ても妙に付け上がる感じだし、何よりコッチの話をまるで聞こうとしないで、一方的に悪人認定を押し付けてくし。
 正直ね、軽く受け流すにはイライラの貯まり方が半端ないんすよ。自分でも気が短い方だって自覚はあるくらいだしな。ちょっとした事でも、状況によっては結構イラッと来ちまうからなぁ。出来るだけ表に出さないようには心がけてはいるが、その分ストレス溜まるんだよなぁ。

「ま、今回は私が対応するから、そう不安そうにしなさんなって」

 何だこの人。もしかして神か!?

「ぅおぉ……頼りになるなぁ。さすがコミュ力上級者」
「ふふん、プロの営業スキルを見せてあげましょう」

 やべぇ、チェリーさんと一緒に行動するようになって、今が一番輝いて見える。後光が指しているかのように神々しい。
 尻込みしている俺をよそに、さっさと門兵のところへ行き何やら話をつけているチェリーさんに尊敬の眼差しを向けざるを獲ない。
 よく判ってないちびっ子二人と一緒に待つこと数分。何をそんなに離しているのかと思えば、どうやら中の人を呼んでいたらしい。身分確認かな?
 ……と思ったら、この街の裏ボスだった。
 チェリーさんが頭の上で○を作ったので、いそいそと合流。
 客観的に見て今の自分、すごく格好悪い。

「なんだぁ? コソコソしやがって。もちっと堂々としやがれ」
「色々あるんだよ、コッチにも」
「あぁん? ……まぁいい、付いてこい。話は中でだ」
「ウス」

 誰にだって苦手なものはあると思うんだ。それが俺は門兵だっていうだけで。
 トラウマとは言わんが、進んで関わり合いになりたくない程度には嫌な思いしたんだから仕方ないだろ。
 俺の顔を見て、何を考えたのか察したんだろう、チェリーさんが横に並ぶと背中をぽんと叩いてきた。
 わぁ、すげぇ慰められてる。
 
「まぁ、今までのが偶然、酷いのに当たっただけよね。さっきの門番さん、すごく丁寧に受け答えしてくれたよ?」
「それが普通だと判っちゃいるんだけどな」

 直近二回がひどすぎた。
 ただまぁ、あんな酷いのとはそれこそ何度も当たることはないだろうってのも分かる。
 これから旅をしようって考えてるやつが、門兵怖いとかいってたらいろんな街に入ろうとするたびに足踏みする事になるしな。

「まぁ、次からはちゃんとするよ」
「うい、よろしい」

 チェリーさんに任せっきりというのも悪いし、次からはちゃんと割り切ろう。そうしよう。

「おっと、そうだ。仕事の話の前に、その件についても詫びとかねぇとな」
「詫び?」

 案内のついでといった感じで、妙なことを言われた。何かこいつに侘びられるような事ってあったっけか?
 というか、その件ってどの件だ?

「おう、お前等、この街に入る時に衛兵と揉めた件についてだよ」
「あぁ、それか」

 予想以上にタイムリーなネタだった。

「お前らについて色々と調べているうちに、門兵と揉めた件も出てきてな。治安関連は俺の所に情報が集まる様になっているんだが、それについての報告が全くこっちに上がってきてないモンだから、ちと探りを入れてみたんだが……」
「何か良くない事でも動いてたとか?」
「いや、なんて事は無い、ただの不正隠しだった。どうも、その衛兵の上司がもみ消そうとしたらしくてな、こちらが動く前に事情を知っていた別の衛兵から直接俺の所に話が来てな。で、まぁ色々と実態を調べてみれば、やたら小さな不正が出てくる出てくる……ってな感じでなぁ」

 事情を知っていた別の衛兵って、多分頭悪い方を止めてくれた人だろうなぁ。
 そういえば、時間が出来たら門を尋ねるって話だったのをすっかり忘れていたな。
 忘れていたというか、思い出さないようにしていたという方が正しいが。……しかし、そういう事なら顔を出さなくて正解だったな。これでもみ消し工作とかに巻き込まれたら堪ったもんじゃない。

「王からのお触れについてもちゃんと伝わっている。そこの犬っ子も、もうデカイ姿になっても平気だ」
「そりゃ何よりだ。あの時は本当にヒデェ言いがかりだったからな」
「スマンな。俺等の押さえがヌルかったらしい。最近はどうにも忙しくてな、ニラミを効かせているつもりで足りなかったようだ。何、今後あんなナメた真似が出来ないよう、見せしめも兼ねてキッチリとシメておくからよ」

 ああ、こりゃその上司とかいうやつ、相当おっかないお仕置きされてますわ。
 伯爵側からしてみれば、顔に泥を塗られたようなもんだからな。その上で証拠隠滅だ。言い逃れ出来るような状況じゃないし、さてギャングのお仕置きとかどんな悲惨なことになるやら。
 まぁ、俺等をハメようとしたような奴がどうなろうが知ったことじゃないが。

「再発がないように祈ってるよ。マジで酷かったからな」
「そうねぇ。ちょっと異常なくらいコッチを目の敵にしていたし」
「らしいな。まぁ、お前等に絡んだ衛兵も10日ほど独房の中だ。そう顔を合わせることもないだろうよ」
「それは良かった」

 いや、マジで。
 この依頼の後、協会であと2~3仕事をこなしたらこの街を去るつもりからな。
 この街離れる時に門で再会とかマジで勘弁してほしかったから、本気で安心したわ。

「その件に関する侘びも今回の報酬に追加ということで勘弁してくれや」
「ちゃんと対処してくれるならそれでいいよ」
「オウ。なら、これでこの話はこれで終わりだ」

 そういって開いた扉に招き入れられる。どうやら話している内に目的の部屋にたどり着いていたらしい。
 促されるまま部屋に入ってみれば、既に先客が……って

「やぁ、来てくれたね。では掛けてくれたまえ」

 何で伯爵が居んの!?

「えっと、はい、それでは……」

 何でお貴族様が探索の打ち合わせの席に当たり前のように座ってるんだ?
 こういうのって普通下っ端に任せるもんじゃないのか? いや、実際の貴族の実務とか全然しらんけどさ。


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年末年始にかけてまごたつく為、多少更新速度が下がる事になると思います。
年明け5日くらいから普段のペースに戻る予定です。
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