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三章

百九十三話 気を取り直して

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「さて、では改めまして。貴方がたがここへ来たのは、依頼票についてですね?」

 おっと、坊主の印象が強烈過ぎてすっかり忘れてた。

「えぇ。数日後っていう曖昧な期限だったので、確認に来た感じですけど、どんな感じですか?」
「依頼票は出来上がってますよ。確認しますか?」
「え? 速くね?」
「そうですか?」

 ぶっちゃけ、出来上がっているとは思っていなかった。
 後何日くらいかかりそうですか? ってな感じで予定を聞きに来ただけだったんだが……

「あ、何かスイマセン。お役所仕事ってもっとこう、時間がかかる印象で……」
「他の都市の協会でなら、確かにもう少し掛かったかもしれませんが……この支部はご覧の通り、急ぎの仕事が無いもので」
「飛び入りの仕事もさっさと終わらせてしまった、と」
「そういう事です……では、確認をお願いします」

 そう言って渡された皮紙には、かなり細かく依頼についての内容が書かれていた。
 依頼の内容については問題ない。以前聞いたものと全く同じだ。
 探索者については、俺等とは別にお目付け役が付くようだ。依頼を任せた相手に目の届かない所で遺跡を荒らされたら堪ったものではないだろうし、まぁ妥当な判断だろう。
 よくあるRPGみたいに、どこの馬の骨ともわからない奴に、無条件で重要な案件を全部任せる方がおかしいんだ。
 報酬は……相場がわからんな。でも、協会を通してるならボッタクリはされてないだろう。
 実際、今俺たちが協会で受けられる仕事の報酬よりも遥かに割が良い。宿代や消耗品の値段から逆算しても結構な金額だ。しかも中途手当の加えて、お駄賃付きだ。
 一人一つ、法に触れない物に限り両手で抱えられる大きさの物に限るが持ち出し可能か。これも前言ってた通りだな。
 両手で抱えられる大きさってのは、遺跡に関するデッカイ装置なんかは持ち帰り禁止ってことだろう。
 これらも事前説明のときと変わりない。問題はないな。
 他に細かい内容、問題は……いや、ここで俺だけで判断しするのは駄目か。さっき爺の言葉からも真意を見落としてたばかりだしな。

「チェリーさんも確認してもらえるか?」
「え? 良いけど」
「俺だけじゃ見落としがあるかもしれんし頼む」
「ほいほいっと。どれどれ……」

 これで、少なくとも俺の見落としでパーティへ不利益を出すようなことへの予防にはなるだろう。
 決して、責任を分散させるためとか、そういう姑息な理由じゃない。

「一応エリスも見ておきな? 今後も色々仕事する時に、知っておくと便利だろ」
「わかったー」
「ハティも、見る」

 こういうのは、触りだけでも知っておけば、今後何かあったときに比較対象くらいにはなるだろうからな。
 まだ細かい意味とかまでは理解しきれないだろうけど、ただ見るだけでもいい勉強になるだろ。
 依頼票を確認している三人を眺めていた所で、シーマさんに腕を突付かれた。
 何事かと思いきや――

「キョウさん、あちらの女性は……?」
「あ、ちょっと別行動していた仲間です。先日合流しまして」
「なる程、以前仰ってた仲間というのは彼女のことですか」
「そういう事です。この依頼がなければ暫く彼女と一緒にここの仕事をこなそうと思ってたんですがね」

 コッチで仕事していた頃は、チェリーさんは槍の修理に必要な金を稼ぐために鉱山へ行ってたからな。
 顔を合わせるのが今日で初めてだったか。色々立て込んでたせいでそんな事も忘れてたな。

「それにしても驚きました。リーダーなのに貴方一人で決めないんですね」
「そんなにおかしいですか?」
「ええ、集団を率いるというのは統率力を求められます。でなければ周りがついてこない。だからパーティのリーダーは、決定権を自分に集中するものなんですが……」
「リーダーっつったって、俺は何か凄い力があるわけでもなし、流れでそうなってるだけなんですよ。それに俺は、細かい事に気がつける人間じゃねぇから、どれだけ注意したって見落とすことはある。だから、そうならないように手伝って貰ってるだけですよ」

 どうにも、ゲーム以外だと勘が働かないんだよな。興味が薄いからだろうか?
 いやまぁ、今やってるこれはまさにゲームなんだが、リアルすぎてなぁ。

「そもそも、せっかく仲間がいるのに、数の利点を使わないのはただの馬鹿なのでは?」

 何のために群れてるんだよっていうね。

「世の中にはそう考えない人が多いということですよ」
「仲間がいるのに仲間を頼らないとか、パーティ組む意味ないでしょ。ソロで良いんじゃね?」
「そう言えるのは、恐らくキョウさんが本当に信頼できる仲間だけを集められたからなんでしょうねぇ。基本パーティなんて相手の名前も知らない者達が、徒党を組んで目的の達成率を上げる為のものです。キョウさんのように同郷出身者でパーティ固める人も居ますけど、実力差や事故など様々な理由で、長続きするのはごく一部です」

 つまり、本来のパーティは現地調達の協力者的なものなのか。
 あ、でもそれってMMORPGのレベル上げそのまんまだな。アレも中身は人間だし、案外人間のコミニュケーションなんてゲームでもリアルでも対して変わらないってことか。

「このパーティでなら必要ないかもしれませんが、もし見ず知らずの人達とパーティを組む場合、絶対に主導権を渡さないように。例えキョウさんの性格的に厳しくてもです」
「その心は?」
「主導権を簡単に渡すようでは当然、舐められます。そして舐められれば、実際の強さと関係なく下に見られます。場合によっては身包み剥がれる可能性もあります。このパーティは女性が多いので、最初からソレ目的で狙われることもあるでしょう」
「ソレ、ただの野盗なのでは……」
「野盗の大半は食うに困った村人や、仕事を失った兵隊崩れです。では協会に登録するのは?」
「……なるほど」

 そうやって言われれば、確かに志望者の出自が被っている。
 当然、真面目に働いているのが殆だろうけど、ここまで注意するってことは、ただの印象だけでなく、実際に野盗まがいの荒くれが多いってことなんだろう。

「既に悪事に手を染めていれば、協会のリストから除外され指名手配を受けます。ですが、初犯ではどうにもなりませんし、そういった略奪を隠し通すのが上手い者もいます。実際、協会からも国からもバレずに、ひっそりと数十人を殺してみせた殺人鬼も過去には居ましたから」

 野盗どころじゃねぇよソレ!? シリアルキラーが潜んでるとか洒落にならんぞ、おい。

「まぁ、それは例外中の例外で、そんな相手にハッタリも何もあったもんじゃありませんが、少なくとも普段、何処かのパーティと合流する場合は出来るだけ気をつけてください。たとえ合流後のリーダーを相手のパーティに譲ったとしても、絶対にキョウさんのパーティの裁量までは与えないように。もし対等以下の立場を要求されたら、即座に解散することをお勧めします。例えそれで抗争になったとしてもです」
「わかりました。気をつけることにします」

 漫画とかでも、冒険者って荒くれ者が多いイメージだしな。
 冒険者ギルドに行ってみたら、酔っ払いの冒険者に絡まれて……なんてのは王道中の王道だ。
 場合によっては、逆恨みした冒険者に襲われるなんてのもな。
 こっちの教会員や野良の賞金稼ぎみたいなのに遭遇したら、ソレ基準で考えておいたほうが良いか。
 それにしても、下に見られるくらいなら争いになってでも解散しろとは、随分とまた穏やかじゃないが、冷静っぽいシーマさんにここまで言わせるとか、一体何があったのか。或いは口を酸っぱくする必要があるほど、そういった事案が頻発してるのか。どちらにせよ碌な話じゃねぇなぁ。

「ん~……っと。うん、特に問題ないと思うよ。事前にキョウくんに聞いてた内容とも一致してる」

 と、こっちが色々と指南を受けてる内に、チェリーさんのチェックは済んだみたいだな。
 問題なし。実にいい言葉だ。

「エリス達も、何か『おや?』って思ったところはないか?」
「特に無~し」
「なーし」

 ならパーティ全員異存成しということで――

「よし、それならこの内容で問題ありません。その依頼、受けます」
「はい、依頼の受理、確認しました」

 なんか、ついにRPGっぽい本格的なクエストを受けた気分になるな。
 やっぱり冒険ってこうあるべきだよなぁ。

「依頼人の方ではもう準備は済んでいるということで、訪ねて頂ければ、すぐにでも探索開始出来るとのことです」
「おぅ、もう準備万端だったか。ならこっちも消耗品なんかを買い込んですぐに向かうことにします」
「はい。遺跡の深度は明らかになっていません。明かりは松明ではなくカンテラにして、油も多めにしておくことをお勧めしますよ」
「あ、これは丁寧にご忠告どうも。そうさせてもらいます」

 こちとらダンジョンアタック経験皆無だからな。詳しい人の意見は大歓迎だ。
 万が一大した深さではなかったとしても、余った油なんていくらでも使い道があるから、無駄な出費にはならないしな。

「これでクエスト開始って感じかな?」
「だな。おし、それじゃ気合い入れて仕事を貰いに行きますかね」
「おー!」
「ワン!」
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