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三章
百八十三話 決勝直前
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結局アイツ、あの後一度も戻ってこなかったな。
実況からの入場コールに従ってステージに上るためにスタンバってるが、どうも落ち着かねぇ。
俺みたいに、緊急の仕事が入って上司になにか呼び出されでもしてたか?
準決勝直前のアイツの言葉を思い出すに、これで決勝から居なくなるというのは考えにくいが、本当に緊急の案件だった場合、何方が優先されるか……
こっちの入場口からではステージの高さが邪魔をして、反対側のSADの入場口を見ることは出来ない。
本当に来てるんだろうな? 残り時間も殆どないが……
お、BGM。
音が入ったってことは、そろそろ決勝が始まるか? ……なんて思った矢先にチェリーさんの声が。
『さぁ、皆さんお待たせいたしました! ついにやってまいりましたNew World第一回公式PvP大会【戦狂い】決勝戦!です。実況は引き続き私チェリーブロッサムと、秋元ディレクターでお届けします!』
『現在決勝戦のための決勝戦用ステージの最終準備中ですので、もう少々お待ち下さい』
へぇ、決勝戦用ステージなんて用意してあるのか。
まぁ、そういう要素があったほうが見てる側も盛り上がるか。
『ところで秋元D。決勝に残ったのは下馬評通りといいますか、公式プレイヤーのお二人ですが、これ本当に良かったんでしょうか?』
『コレばかりは実力ですからねぇ、問題ないと思いますよ?』
『テスターとして一般プレイヤーよりも長い時間プレイしてきたアドバンテージは結構大きいんじゃないですか? その辺、一般プレイヤーとの不公平感なんかもあるんじゃないでしょうか?』
『確かにSAD選手はテスターとしてはここに居る誰よりも長くこのタイトルをプレイしているかもしれませんが、それも開発の初期の話。現在のしっかり遊べる形になったのは割と最近の話です。彼は他の仕事との兼ね合いもあって、一日のプレイ時間で言えば一般プレイヤー程長い時間をプレイできるわけではありません。なので時間的なハンデはそこまで大きくないと考えてますね』
ま、そりゃそうだよな。俺も社員として働いてた時に色々とテストプレイはしてた。入社はテストプレイヤーとしてだったけどそれだけを延々とやっていられる訳じゃない。色んな仕事が差し込まれるし、テストするべきゲームだって、フィードバックの適応だったり何なりで24時間常にテストできるわけじゃない。テストプレイなんて一日多くて3~4時間程度ってところだった。
正式サービス開始時点ではSAD達のレベルは周囲をぶっちぎってはいたが、今では一般プレイヤーの中にもレベル4がちらほら居るし、そう遠くない先に追い越されるだろうな。
『一方のキョウ選手に至ってはテスターとして参加したのはβテスト最終盤の時期です。プレイ期間で言えばβ初期から参加している一般プレイヤーの4分の1程度しかまだ経っていません。なので二人共一般プレイヤーと比べてもプレイ時間によるハンデは無いようなものだと考えていいでしょう。というか、プレイ期間によるハンデなんて付けたら唯でさえ既に強いキョウ選手が手を付けられない領域に行ってしまいますよ』
『あぁ、それは確かに!』
それは流石に言いすぎだろ。変にハードル上げるんじゃねぇよ……
今は操作方法が特殊なせいで、偶然相性の良かった俺が一歩先んじてるかもしれないが、ゲーマーの順応度はヤバいからな。絶対化け物みたいなセンスを持ったやつが出てくるのはわかりきってる。というか、ゲームなんだから俺でも出来るってことは誰でも出来るってことだろうに。
ゲーム発売直後では『何だこのクソ強いボスは!?』とか思ってても、1ヶ月もすると操作が脊椎反射的なものになり、必要な行動が無意識に取れるようになっていて、苦労したはずのボスが『周回余裕っすわ』ってなるのがネトゲの常識だ。結局慣れだ。慣れれば誰だって強くなる。
そうやってプレイヤースキルが全体的に底上げされた頃にこの煽り映像出回ってたら、間違いなく『この程度でイキれる時代があったのか』とか比較される黒歴史的なやつじゃね―かこれ。まじで勘弁してくれよ
『そもそも、プレイ時間差による最大の恩恵であるステータス値は平等に設定されていますからね。勝負を分けるのは時間ではなくプレイヤースキルと言うわけです』
『バトルスキルの有無も結構響くのでは?』
『確かにバトルスキルの有無によってプレイの幅は大きく広がりますね。このゲームは非常に複雑で、力押しだけではどうにもならない場面が必ず出てきます。そんな時にスキルの存在は、行動の可能性を大きく広げてくれるでしょう』
『あ~わかります。私もテスターとして色々な場面に出会しましたが、レベルによる高パラメータだけではどうにもならない事も結構ありましたねぇ』
『しかし、当然ながらこのPvP大会ではそれが全てではありません。例えば本大会のルールでは、本来高レベルにならなければ取得できないようなバトルスキルを、ルールによるレベル制限後も使用することが出来ます。これらの有無は、戦術を建てる際の自由度という意味では確かに強力です。ただし強力なスキルは相応に消費SPもまた大量となりますが、PvPバランスでは当然Lv2相当の威力しか出せません。スキルの威力は基本肉体系や使用武器のスキルレベルに依存しますからね』
『つまり、消費はバカ高いのに威力は控えめになっていると』
『そういうことですね。強力なスキルの取得条件は、様々な身体制御スキルやパッシブスキルの取得を前提としています。それらの相乗作業によって高威力になるのですが、レベルが下がるということは、パラメータの制限にほかなりません。つまりそのパラメータ底上げの基礎となるスキルのレベルも下がってしまいますから。』
そういやこの大会はレベル偏重気味な雰囲気からスキルに目を向けさせる為の大会だったか。
それでもスキル推しで押し切らないのは、あからさまにならないようにっていう工夫か?
でも今の説明だとプレイヤースキル万歳的に受け取られかねないんじゃ……
『あれ? では、レベルが下がってしまうとスキルを使用してもファンブルになるんじゃないですか?』
『それがこのゲームのスキルの特殊な所です。このゲームのバトルスキルというのは有り体に言ってしまうとSPを消費して必殺技の【型】をアバターボディで再生するという仕組みになっています。なのでプレイヤーのスキルレベルなどが足りなくても、その再生機能を手に入れていれば【型】をなぞった動きだけは出来るんです。当然低ステータスでいくら再現しても威力は伴いません。習得に前提スキルが必要なのは、想定された威力を発揮する為には最低限それ等が必要だからという事ですね』
『あ、そういう仕組だったんですね』
『先程の試合でキョウ選手の最後の一撃はスキルエフェクトが出ていなかったでしょう? あれは自動再生機能に頼らずにスキルと同じ威力の技を再現したと言うことです。だから、SP無しで最後の一撃を放てたと言うことですね。あのような強力な技はそう簡単に真似することは出来ないと思いますが、ピアースやスラスト、ブレイクと行った基本技をSP無しで再現するというのはSP節約以上に戦いの幅を広げられるでしょう』
あ、やっぱり自力で完全再現すればSP無しでスキル発動可能なのな。
という事はあの打点ずらしも習得可能スキルの中に存在するんだろうか?
しかしそうか、スキルの仕組みはSPを支払ってのアバターの自動操縦って事かぁ。確かにどんなに疲れてても意図的に加減せずにピアース発動すると問答無用で全力突きが出るものなぁ。なんか納得したわ。
『実はこの話、今回のPvPイベントのラストに公式テスターですら知らないとっておき情報として皆さんにお伝えするつもりだったんですが、まさか大会中にもっと高度なことを実践する人が現れるとはほんとに驚きましたよ。デタラメですね』
『まぁ……キョウ選手ですからねぇ』
オイ何だその反応は。
まるで俺が問題児みたいな言い方じゃねぇか。
こう言っちゃ何だが、わりかし真っ当にバーチャル生活を満喫してた筈だぞ俺は。少年漫画的なハチャメチャが押し寄せるような修行もしてないし、超存在と接触して世界を変革するような力を授かったわけでもない。
俺の生活サイクルなんて基本的に村での狩りとトレーニング、それと裁縫と日曜大工くらいなものだ。
王都訪問の後は裁縫と日曜大工がレベリング目的の少々無茶な狩りになったが、それだって高レベルのチェリーさんに依存したパワーレベリングに近いという程度の無茶だ。おかしな事はしてない……よな?
『さて、そうこうしているうちに会場の準備が整ったようです』
『その様ですね。それではコールの方お願いします』
『わかりました。それでは……』
お、ようやく始まるか。
こういう始まる前の時間ってなんかソワソワして落ち着かないから、さっさと試合始まってほしかったんだよな。
『東方、龍門よりはSAD選手の入場です!』
ステージが暗くなり、スポットライトに照らされながらSADがステージ上に上がってきた。良かった、ちゃんと居たか。
って、ちょっとまって。メチャクチャ目立ってるんですけど? こんなの聞いてねぇぞ。 あんな舞台役者みたいな真似すんのか? メチャクチャ恥ずかしいだろ!
ぐ……あの野郎、平然な顔してステージ上りやがって。
口には出してないが、あのニヤケ顔だ。確実に煽ってきてやがるな? 畜生いい度胸だ。やってやろうじゃねぇのさ。
『西方、虎門より、キョウ選手の入場です!』
スポットライトに照らされて、無表情を意識しつつ、殺してやるつもりで視線はSADに集中、集中だ。
たった2~30メートルの距離がやたら長く感じたが、なんとか表情も変えず、躓きもせずたどり着けた。ここまでは大丈夫だ。
『えぇ~、段取りではここで両者から試合前コメントを戴く所だったのですが、どうやらお二人共準備万端といった様子ですし、ここで口を挟むのも野暮というものでしょう。会場も盛り上がっていますし、この熱を維持するためにも早速決勝戦を開始したいと思います』
あー、正直助かる。人前でしゃべるのとかホント苦手だし、そっちに気を取られて色々仕込んできたのが頭から飛びかねんしな。
リアクションとかも特に気の利いたのは取れないから、今後ずっと俺の対応はそうしてほしいくらいだわ。
『それでは改めまして、第一回公式PvP大会決勝戦! 試合開始!!』
実況からの入場コールに従ってステージに上るためにスタンバってるが、どうも落ち着かねぇ。
俺みたいに、緊急の仕事が入って上司になにか呼び出されでもしてたか?
準決勝直前のアイツの言葉を思い出すに、これで決勝から居なくなるというのは考えにくいが、本当に緊急の案件だった場合、何方が優先されるか……
こっちの入場口からではステージの高さが邪魔をして、反対側のSADの入場口を見ることは出来ない。
本当に来てるんだろうな? 残り時間も殆どないが……
お、BGM。
音が入ったってことは、そろそろ決勝が始まるか? ……なんて思った矢先にチェリーさんの声が。
『さぁ、皆さんお待たせいたしました! ついにやってまいりましたNew World第一回公式PvP大会【戦狂い】決勝戦!です。実況は引き続き私チェリーブロッサムと、秋元ディレクターでお届けします!』
『現在決勝戦のための決勝戦用ステージの最終準備中ですので、もう少々お待ち下さい』
へぇ、決勝戦用ステージなんて用意してあるのか。
まぁ、そういう要素があったほうが見てる側も盛り上がるか。
『ところで秋元D。決勝に残ったのは下馬評通りといいますか、公式プレイヤーのお二人ですが、これ本当に良かったんでしょうか?』
『コレばかりは実力ですからねぇ、問題ないと思いますよ?』
『テスターとして一般プレイヤーよりも長い時間プレイしてきたアドバンテージは結構大きいんじゃないですか? その辺、一般プレイヤーとの不公平感なんかもあるんじゃないでしょうか?』
『確かにSAD選手はテスターとしてはここに居る誰よりも長くこのタイトルをプレイしているかもしれませんが、それも開発の初期の話。現在のしっかり遊べる形になったのは割と最近の話です。彼は他の仕事との兼ね合いもあって、一日のプレイ時間で言えば一般プレイヤー程長い時間をプレイできるわけではありません。なので時間的なハンデはそこまで大きくないと考えてますね』
ま、そりゃそうだよな。俺も社員として働いてた時に色々とテストプレイはしてた。入社はテストプレイヤーとしてだったけどそれだけを延々とやっていられる訳じゃない。色んな仕事が差し込まれるし、テストするべきゲームだって、フィードバックの適応だったり何なりで24時間常にテストできるわけじゃない。テストプレイなんて一日多くて3~4時間程度ってところだった。
正式サービス開始時点ではSAD達のレベルは周囲をぶっちぎってはいたが、今では一般プレイヤーの中にもレベル4がちらほら居るし、そう遠くない先に追い越されるだろうな。
『一方のキョウ選手に至ってはテスターとして参加したのはβテスト最終盤の時期です。プレイ期間で言えばβ初期から参加している一般プレイヤーの4分の1程度しかまだ経っていません。なので二人共一般プレイヤーと比べてもプレイ時間によるハンデは無いようなものだと考えていいでしょう。というか、プレイ期間によるハンデなんて付けたら唯でさえ既に強いキョウ選手が手を付けられない領域に行ってしまいますよ』
『あぁ、それは確かに!』
それは流石に言いすぎだろ。変にハードル上げるんじゃねぇよ……
今は操作方法が特殊なせいで、偶然相性の良かった俺が一歩先んじてるかもしれないが、ゲーマーの順応度はヤバいからな。絶対化け物みたいなセンスを持ったやつが出てくるのはわかりきってる。というか、ゲームなんだから俺でも出来るってことは誰でも出来るってことだろうに。
ゲーム発売直後では『何だこのクソ強いボスは!?』とか思ってても、1ヶ月もすると操作が脊椎反射的なものになり、必要な行動が無意識に取れるようになっていて、苦労したはずのボスが『周回余裕っすわ』ってなるのがネトゲの常識だ。結局慣れだ。慣れれば誰だって強くなる。
そうやってプレイヤースキルが全体的に底上げされた頃にこの煽り映像出回ってたら、間違いなく『この程度でイキれる時代があったのか』とか比較される黒歴史的なやつじゃね―かこれ。まじで勘弁してくれよ
『そもそも、プレイ時間差による最大の恩恵であるステータス値は平等に設定されていますからね。勝負を分けるのは時間ではなくプレイヤースキルと言うわけです』
『バトルスキルの有無も結構響くのでは?』
『確かにバトルスキルの有無によってプレイの幅は大きく広がりますね。このゲームは非常に複雑で、力押しだけではどうにもならない場面が必ず出てきます。そんな時にスキルの存在は、行動の可能性を大きく広げてくれるでしょう』
『あ~わかります。私もテスターとして色々な場面に出会しましたが、レベルによる高パラメータだけではどうにもならない事も結構ありましたねぇ』
『しかし、当然ながらこのPvP大会ではそれが全てではありません。例えば本大会のルールでは、本来高レベルにならなければ取得できないようなバトルスキルを、ルールによるレベル制限後も使用することが出来ます。これらの有無は、戦術を建てる際の自由度という意味では確かに強力です。ただし強力なスキルは相応に消費SPもまた大量となりますが、PvPバランスでは当然Lv2相当の威力しか出せません。スキルの威力は基本肉体系や使用武器のスキルレベルに依存しますからね』
『つまり、消費はバカ高いのに威力は控えめになっていると』
『そういうことですね。強力なスキルの取得条件は、様々な身体制御スキルやパッシブスキルの取得を前提としています。それらの相乗作業によって高威力になるのですが、レベルが下がるということは、パラメータの制限にほかなりません。つまりそのパラメータ底上げの基礎となるスキルのレベルも下がってしまいますから。』
そういやこの大会はレベル偏重気味な雰囲気からスキルに目を向けさせる為の大会だったか。
それでもスキル推しで押し切らないのは、あからさまにならないようにっていう工夫か?
でも今の説明だとプレイヤースキル万歳的に受け取られかねないんじゃ……
『あれ? では、レベルが下がってしまうとスキルを使用してもファンブルになるんじゃないですか?』
『それがこのゲームのスキルの特殊な所です。このゲームのバトルスキルというのは有り体に言ってしまうとSPを消費して必殺技の【型】をアバターボディで再生するという仕組みになっています。なのでプレイヤーのスキルレベルなどが足りなくても、その再生機能を手に入れていれば【型】をなぞった動きだけは出来るんです。当然低ステータスでいくら再現しても威力は伴いません。習得に前提スキルが必要なのは、想定された威力を発揮する為には最低限それ等が必要だからという事ですね』
『あ、そういう仕組だったんですね』
『先程の試合でキョウ選手の最後の一撃はスキルエフェクトが出ていなかったでしょう? あれは自動再生機能に頼らずにスキルと同じ威力の技を再現したと言うことです。だから、SP無しで最後の一撃を放てたと言うことですね。あのような強力な技はそう簡単に真似することは出来ないと思いますが、ピアースやスラスト、ブレイクと行った基本技をSP無しで再現するというのはSP節約以上に戦いの幅を広げられるでしょう』
あ、やっぱり自力で完全再現すればSP無しでスキル発動可能なのな。
という事はあの打点ずらしも習得可能スキルの中に存在するんだろうか?
しかしそうか、スキルの仕組みはSPを支払ってのアバターの自動操縦って事かぁ。確かにどんなに疲れてても意図的に加減せずにピアース発動すると問答無用で全力突きが出るものなぁ。なんか納得したわ。
『実はこの話、今回のPvPイベントのラストに公式テスターですら知らないとっておき情報として皆さんにお伝えするつもりだったんですが、まさか大会中にもっと高度なことを実践する人が現れるとはほんとに驚きましたよ。デタラメですね』
『まぁ……キョウ選手ですからねぇ』
オイ何だその反応は。
まるで俺が問題児みたいな言い方じゃねぇか。
こう言っちゃ何だが、わりかし真っ当にバーチャル生活を満喫してた筈だぞ俺は。少年漫画的なハチャメチャが押し寄せるような修行もしてないし、超存在と接触して世界を変革するような力を授かったわけでもない。
俺の生活サイクルなんて基本的に村での狩りとトレーニング、それと裁縫と日曜大工くらいなものだ。
王都訪問の後は裁縫と日曜大工がレベリング目的の少々無茶な狩りになったが、それだって高レベルのチェリーさんに依存したパワーレベリングに近いという程度の無茶だ。おかしな事はしてない……よな?
『さて、そうこうしているうちに会場の準備が整ったようです』
『その様ですね。それではコールの方お願いします』
『わかりました。それでは……』
お、ようやく始まるか。
こういう始まる前の時間ってなんかソワソワして落ち着かないから、さっさと試合始まってほしかったんだよな。
『東方、龍門よりはSAD選手の入場です!』
ステージが暗くなり、スポットライトに照らされながらSADがステージ上に上がってきた。良かった、ちゃんと居たか。
って、ちょっとまって。メチャクチャ目立ってるんですけど? こんなの聞いてねぇぞ。 あんな舞台役者みたいな真似すんのか? メチャクチャ恥ずかしいだろ!
ぐ……あの野郎、平然な顔してステージ上りやがって。
口には出してないが、あのニヤケ顔だ。確実に煽ってきてやがるな? 畜生いい度胸だ。やってやろうじゃねぇのさ。
『西方、虎門より、キョウ選手の入場です!』
スポットライトに照らされて、無表情を意識しつつ、殺してやるつもりで視線はSADに集中、集中だ。
たった2~30メートルの距離がやたら長く感じたが、なんとか表情も変えず、躓きもせずたどり着けた。ここまでは大丈夫だ。
『えぇ~、段取りではここで両者から試合前コメントを戴く所だったのですが、どうやらお二人共準備万端といった様子ですし、ここで口を挟むのも野暮というものでしょう。会場も盛り上がっていますし、この熱を維持するためにも早速決勝戦を開始したいと思います』
あー、正直助かる。人前でしゃべるのとかホント苦手だし、そっちに気を取られて色々仕込んできたのが頭から飛びかねんしな。
リアクションとかも特に気の利いたのは取れないから、今後ずっと俺の対応はそうしてほしいくらいだわ。
『それでは改めまして、第一回公式PvP大会決勝戦! 試合開始!!』
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