上 下
189 / 330
三章

百七十九話 準決勝Ⅰ

しおりを挟む

「うおおおお!?」

 あぶねぇ! 無意識に仰け反った首元を槍が突き抜けていった。
 やべぇ、軽く記憶が飛んでる……!
 なんか気がついたら試合始まってるし!
 余計なことを考えすぎて、ステージに上ったことも、試合が始まったことも全く頭に入ってないとか……! アホか俺は!?

 確か、モンスターの弱点の突き方とか考えていたような気がするが、何でそんな事今考えようとしていたのかを全く覚えてない。
 昔からこうなんだよなぁ。いつもこういう訳じゃないんだけど、重要な考えるべき事があると、何故か全く別の方向に思考が伸びちまう時が多い。
 で、度合いがひどい時は間違った方向に集中しすぎて他に何も考えられなくなる。クフタリアの決勝後もそうだったか。
 ただまぁ、今の一撃は頭を冷やすには十分だった。
 というか、偶然避けれたけど、当たってたら試合終わってたかもしれん。
 これで試合終了とか流石に八百長を疑われかねんぞ。避けれてよかった……!

 なんて、頭を冷やしている間も槍は次々と打ち込まれてくる。余程殴りやすいサンドバッグだったのか、完全に相手が調子づいてるな。
 なら、頭も肝も冷やしてくれたお礼に、こっちも目覚めの挨拶くらいはしておくか。

 相手は防御極振りのせいで火力がないのを自覚しているからか、突きの一発一発にかなり気合を入れている。
 気合って言ったらアレだが、やる気の問題とかそういうフワフワしたもんじゃなくて、少しでも威力を上げるために踏み込みや重心かけをキッチリ入れて、一発一発を丁寧に本気で突いてきているという意味だ。
 まぁ何がいいたいかと言うと、反撃を意識してない。完全に舐められてるって事だ。
 まぁ悪いのは俺なんですケドネ。楽しみにしてた対戦で、試合前から腑抜けてたわけだし。
 だからまぁ、これは目を覚ましましたよっていうおはようの挨拶だ。

 突き込まれた槍に吸い付くように、身体を反転させつつ懐に転がり込む。
 目の前にある突き出された腕の脇の下に腕を挟み込むようにして差し込み、全力の踏み込みのために重心を前に傾けたそのタイミングで背中に当たる胸甲を支点に、一気に背負い込むようにして……

「くたばれ……!」

 そのまま地面に一本背負いっぽい感じに全力で叩きつけてやった。

 ガッシャーンという、鎧が鳴らすけたたましい音を無視して、追い打ちを狙うが、割と渾身の力で打ち込んだ攻撃は手甲に弾かれて止めには至らなかった。
 チッ……そう上手くは行かないか。
 俺の頭が回ってない間、好き勝手してくれたようだったから、俺も混乱している間に仕留めてやろうと思ったんだが、そうそう事が運ぶほどヌルい相手じゃないというわけだ。

「今までの無防備状態は、この攻撃の為の撒き餌って事か? えげつない事しやがる」
「いや、普通に腑抜けてただけなんだわコレが。さっきの突きで目が冷めたから、今の投げは俺からの目覚めのモーニングコールだな」
「嫌なコールもあったもんだ……」

 俺もそう思う。寝起きに背負投ぶっ放してくる奴とは友だちになれそうにない。

「……あれ? モーニングコールは起こす側のやることだろ。起こしたの俺なんだから、起こされた側のアンタの投げはモーニングコールにはならなくね?」

 ん……? 言われてみれば……あれ、そうか。

「まぁ細かいことは気にするなって」
「投げられた側としては、気にしたくなる案件なんだがなぁ」

 我ながら酷い話ではあるが、こういう時は深く考えずに喋ってるから、割と言ってることが適当なんだよ。

「それで、サンドバッグの夢は覚めたのか?」
「もうバッチリ。 目覚めは悪くない方なんだわ」
「なら良かった。前大会でアレだけ派手に勝った人が、やる気を出さずに終わるのかと思って、チョットがっかりしてたんだ」
「そりゃ悪かった。チョット悪癖で思考のお花畑に迷い込んでたんだわ」
「……? よく分からんが、やる気になってくれたんならそれでいい。それじゃぁ……」
「まぁ、仕切り直しってことで……」

 互いに武器を構え直す。
 体力は結構減っているが、半分は残っている。無意識なりに直撃しないように攻撃はさばいてたのか。我ながらよく動いたな、身体。
 そして肝心の残り時間を表す砂時計アイコンはすでに半分時間が経っている事を示している。
 腑抜けすぎだろ俺!? いやまじで。
 このままだと時間切れで俺の負けになる。多少強引にでも攻めなきゃ駄目か……
 相性最悪の防御特化型相手に、相手の得意なカウンター戦術に飛び込まなきゃならないとか、状況が悪すぎるが、今回は言い訳の余地なく自業自得だから仕方がない。
 ここ最近は対応戦ばかりだったけど、久々に攻めの姿勢で行かせてもらおうか!

「オラァ!」

 様子見無しの全力の突きで、身体ごと相手に突撃をかける!
 カウンター? 飛んでくるに決まってる。だから、織り込み済みの全力突貫だ!
 ミアリギスもどきの横刃で、俺の中心線を守りつつ、突きでのダメージよりも接近することを目的としたチャージだ。
 コレに対して、どう動く?

「時間を気にしたのか? 勝負を焦りすぎ……!」

 カウンターで突き出された槍に向かってミアリギスを少しだけ方向けて、そのまま突貫をかます。
 長物同士の激突の場合、ほんの少し先端の角度がそれるだけで、突きの軌道は身体からそれていく。キルシュはそれを最小限の動きで当たり前のように実践していたが、どうよ? 見様見真似でも上手くこなせるもんじゃないか。
 互いの穂先が逸れていれば、恐れる心配はなにもない。最初の目的から何一つ変わらず、一気に距離を詰めて激突の勢いのまま、相手の胸甲を蹴り飛ばす。

「せっかく詰めた距離を勢いに任せて……いや、これは」

 再び距離は開いたが、状況は悪くない。何故なら

「そうか、画面端……確かにSADが言ってたとおり、アンタこのゲームを3Dアクションじゃなくて格ゲーとして見立ててるんだな。そうかそうか、そういう所は確かキョウらしい」
「そうかい!」

 コレで退路はたった。下がっていなすという防御方法の一つは潰せたはずだ。
 こうやって場所取りだけでも相手の戦術を狭めることは可能だ。限られた時間の中で少しずつ、相手の守りを剥ぎ取って行くしか無い。
 退路のない事を確認した相手に、畳み掛けるよう鋭く踏み込み――

「強引なっ……いや、アンタはそうじゃなかったよな」

 チッ……流石に見抜かれたか。
 釣られて迎撃してくれれば差し返しをお見舞いしてやったのに、ここで残り少ない陣地をさらに下がるのか。冷静に見てやがる。

「っていうか、その口ぶりからすると、実は俺の知り合いだったりする?」
「……はぁ? SADから聞いてないのか? あいつには既に話してあるんだけど」
「いや、全然?」
「アイツ……」

 なにやら認識に齟齬があったようだ。
 まぁ、今はどうでもいいな。
 時間が惜しい。せっかく追い詰めたんだ、後は……

「……っ!?」

 不意打ち気味の直突きは当然ながらガードされた。まぁ、この相手なら反応するだろうよ。
 でも今回はそれでいい。
 当てることよりも、ガードの上からでも攻撃を当てるのが目的だったからな。こういう大盾は後ろに隠れるだけで大抵の攻撃はシャットアウト出来るが、隠れてしまったからには、反撃のためには隠れた盾から出てくる必要がある。一度安全圏に入った奴が、そうそう割り切って防御を捨てられるか?
 
「くっ……」

 まぁ、堅実な戦い方をするこういったタイプには難しい判断だよなぁ? 下手に反撃に出ようとして、防御しそこねた結果待ってるのはリングアウトだ。 勝負掛けの場面でもないともならば尚更、こんな場面では守りに入る。
 ここで格ゲーなら透かし投げ択とか挟みたくなるが、生憎と投げ技は専門外だ。長物で突き合ってるところに飛び込んで素手の投げなんて生兵法、とても成功する気がしない。というかあんな重そうな鎧ごと人一人投げれるとは到底思えないから当然却下だ。
 安易な拓を迫れないなら仕方がない。亀のように閉じこもってくれるなら、こちらはとにかく手数で持って、固めに固めて、削れるだけ削り取るだけだ!
 残り体力は心もとないが、ここで手を出さないと調子付かれる。散発的に反撃はあるだろうが、被弾はこの際ある程度は甘んじて目をつむって、その上でゴリ押しに押す。
 今のこの位置関係で、相手が一番警戒するのは体力無視で一発負けになるリングアウトのハズだ。
 その辺は2D格ゲーよりも3D格ゲーに近いか。下がれないだけでなく即死のエリアが背後にあるんだ、押し出し効果の強い打撃や衝突は踏ん張りを利かさざるをえない。つまり回避や受け流しを迂闊に行えないという事だ。
 実際俺もキルシュ相手に背水の陣やろうとして一瞬で倒されかけたから、リングアウトを背負って戦う事の不利さは身にしみている。
 相手の防御力と装備重量を考えて、半端な攻撃では突き落とすことは出来ないだろう。さっきの背負い投げの時も、相手の勢いを利用して投げたのに、危うく俺も潰されかけた。
 だからラッシュを開始したら、本気の攻撃を混ぜつつ、残り時間攻め続けるくらいの覚悟が必要だ。
 とはいえ、いくら身体能力が高くなっているとは言っても、スタミナは本体基準だ。今の俺の体力じゃ恐らく1分も全力ラッシュを続ければ息が続かなくなるだろう。
 とはいえ手を抜いた攻撃を見せれば、相手も反撃を躊躇しないはず……なんて躊躇っていても、時間が減って俺が不利になるだけか。
 ここはやや破れかぶれ感があるが、いっちょやるしか無いか。
 騙し騙しのエセ全力ラッシュを!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】マギアアームド・ファンタジア

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。  高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。  待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。  王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

処理中です...